印刷用紙:B4縦 1ページの行数:63 1行の文字数(半角で):90       第6学年  道 徳  指 導 案                                指導者    紺 野 好 弘 T.主題名    青の洞門 U.主題について  ○ 子どもたちの行動を見ると,優れた絵画や音楽,芸術作品などの素晴らしさを感じたり,文学   作品に登場する人物の清らかな心に感動したりするようになってきており,心情面での成長をう   かがい知ることができる。                   しかし,美しいものや崇高なものに触れたときには,「すばらしいな」「いい話だ」という思   いを持つことはできるが,なぜそれに美を感じたり感動を覚えたりできたのかと自分の内面で深   化させたり,その思いをずっと持ち続けたりすることはまだ十分とは言えないようである。      その原因としては,現代のように物質中心に目まぐるしく変動する社会の中で,子どもたち自   身も急激な変動の波に押されて,美しいものや崇高なものに心ゆくまでひたる機会や,善さを深   く味わう精神的なゆとりをもてなくなってきているということなどが考えられる。   こうした子どもたちに,人間の行為の美しさ,崇高さ,清らかさに数多く触れさせることで,    どんなところが素晴らしいのかを考えさせ,行為を支えたものを真摯に見つめる心を育てていき   たい。また,そのような生き方を学ばせ,自分自身の生き方として深めさせていきたい。    本時の授業では,美しいものや神秘,奇跡に対して深い感動にひたることのできる「Aタイプ」   美しいものや神秘,奇跡に対する感動経験の少ない「Dタイプ」との見方,考え方の交流を通し   て意識の変容を見守っていく。  ○ 高学年の指導項目3−(3)は,「美しいものに感動する心や人間の力を超えたものに対する   畏敬の念をもつ。」となっている。    われわれには,審美的な心情があり,利害打算にとらわれない純粋で無償の素晴らしい行為や   心に接した時,そこに,美しく崇高な人間の姿を見い出し,強く心を揺り動かされる。崇高なも   の,美しいもの,人間の力を超えたものに接することによって,卑俗な自己の心が潔白にあらわ   れ,より善なるものに目覚めていく。かつて,アリストテレスが人間の本質を「人間は超越的な   存在にかかわりあえる存在である。」と定義したように,人間がその存在を有限なものとして素   直に見つめる時,「人間の力を超えたもの」に対する目が開かれてくる。更に,人間や自己を超   えた超越者への畏敬の念が強くなればなるほど,人間の弱さ,脆さが見え,自己に対して謙虚に   なり,他者に対する優しさ,温かさが生まれてくると言えるだろう。    美しいものを美しいと感じ,喜びや悲しみを鋭く,深く感じ取る心を持つ子どもたちが多く育   っていったなら,人間社会はどんなに潤いのあるものになるだろう。子どもたちに,人間の理性   の及ぶ範囲や限界を超えたものに気づかせ,畏敬の念を持たせること,更には,人間存在そのも   のに目を向けさせ,人間としてのよりよい生き方を考えさせることは意義深いことである。    本主題のもとに,美しいものや崇高なものを尊び,よりよい生き方を志向しようとする心情を   養っていきたいと考える。  ○ 資料「青の洞門」は,主人殺しの大罪を犯した了海が,罪の償いに岩壁を掘り抜き,途中,仇   討ちにきた実之助も了海の姿に心をうたれ,ともに洞門を掘り進め完成させるという話である。    自分の悪罪を償うきっかけであると同時に困っている人々を救うため,ただひたすら岩壁を掘   り続ける了海の孤高にして鬼気迫る姿に,子どもたちは,人間の弱さや苦しさを乗り越えた崇高   な生きざまを見ることができるであろう。    自分のすべてをかけて洞門を掘り続けた了海の生きざまは,同じようにすべてを捨てて親の仇   を捜し回った実之助の憎しみをも超越するものであったということをしっかりとつかませること   が大切である。    恩讐を超えて手を取り合い,感激の涙にむせび合う了海と実之助の姿を通して,人間の力を超   越したところにある美や崇高さに気づかせていくとともに,人間には誰にでも清らかに生きよう   とする心があるのだということを感得させていきたい。                                               V.指導の構想   子どもの価値意識のちがいを@日常の観察,A資料状況に対する感想の2つの観点からとらえて  おく。ねらいにかかわっての子どもの価値意識を次の4つのタイプに分けて把握し,個人差に応じ  た話し合いの広め合いや深め合いのよりどころにしていく。   Aタイプ------美しいものや神秘,奇跡に対して深い感動にひたる。   Bタイプ------美しいものや神秘,奇跡に対して深い感動を覚える。   Cタイプ------美しいものや神秘,奇跡に対する感じ方が弱い。   Dタイプ------美しいものや神秘,奇跡に対する感動経験が少ない。  《個に応ずる手だて》  ○多様な価値意識の表出と交流の場の設定  ・実之助が了海を斬らなかった理由を,C・Dタイプには感動的な心の交流の姿として理解するに   とどまる子どももいるであろう。そこで,純粋な一念が岩をも貫き,人間の弱さ,脆さを超越し   た了海の偉大さに気づき心が浄化されたからととらえているAタイプの見方・考え方に触れさせ   る。その感じ方の交流を通して,崇高な生き方に感動し,心が清められていく実之助の姿からね   らいに迫っていきたい。  《自己評価の手だて》  ○自己の振り返りをうながす場の設定           ・了海を斬らなかった実之助の心情を考えさせる場面では,実之助のより深まった心情をとらえさ   せるために自分の考えをノートに書かせてから発表させる。実之助の,了海に対する憎しみが浄   化されていく様子を一人一人,自分の価値意識とかかわらせながらとらえさせていきたい。  ・授業の中で印象に深く残った他の人の発言を振り返らせ,学習に対してのそれぞれの成果を更に   広めていきたい。  《話し合いの流れ》  岩をくりぬこうと 村人を助けたい   苦難の中で穴を掘   自分で始めたことだ  決意する了海の気  罪を償いたい      り続ける了海の気   一人でもやらなけれ  持ち        命をかけてでも     持ち          完成までは死ねない                                                洞門が完成した時  これで思い残すことはない  実之助が了海を斬 了海を許そうと思っ  の了海の気持ち   死んでもいい       れなかった理由   罪を償った人を切る訳          自分の生き方を全うできた         にはいかない   了海の心の清らかさに気づいた  W.ねらい   人間の弱さや苦しさを乗り越えた崇高な生き方を尊び,清らかな心を持とうとする心情を養う。   X.展開の大要 +---+---------------------+-------------------------+------------------------------+ |  |   学 習 活 動  |  予想される児童の反応  |  指 導 上 の 留 意 点 | +---+---------------------+-------------------------+------------------------------+ |  |   「青の洞門」につい|              | ・写真を示しながら「青の洞門」| | 問|  ての説明を聞く。  |              |  が実在するものであることを押| |  |            |              |  さえ,本時の資料への導入を図| |  |            |              |  る。(資料は事前読み)   | | 題|            |              |                | |  |   心を打たれた場面に|              | ・場面の状況を紙板書によって把| |  |  ついて話し合う。  |              |  握させてから,話し合いに入っ| | の| ○了海や実之助の行為や| ・21年間もかかって洞門を|  ていく。          | |  | 考えたことについて深 |  完成させた了海の素晴らし| ・一人一人の感動を大切にするた| |  |  く心に残ったのはどん|  さ。          |  め,一番心に残った場面を自由| | 把|  なことですか。   | ・敵同士の了海と実之助が手|  に発表させる。またその中から| |  |            |  を取り合って涙を流しなが|  了海や実之助の素晴らしさを浮| |  |            |  ら感激したこと。    |  き彫りにしていく。     | | 握|            | ・了海を目の前にしながら洞|                | |  |            |  門が完成するまで待った実|                | |  |            |  之助の立派さ。     |                | |  |            |              |                | | 問|   岩をくりぬこうと決|              | ・自分のすべてをかけてやりぬこ| |  |  意する了海の気持ちに|              |  うとする了海の使命感を分から| |  |  ついて話し合う。  |              |  せる。           | | 題| ○「この岩をくりぬいて| ・何とか村人たちを助けてや|  自分の罪を償い,悪業から立ち| |  |  道を作ろう。」と決意|  りたい。        |  直るために機会を求めていたこ| |  |  したのは,了海の心の| ・自分の犯した罪を償うため|  とと困っている人々を難儀から| | の|  中にどんな考えがあっ|  にがんばりたい。    |  救いたいという純粋な気持ちが| |  |  たからですか。   | ・これこそ自分が探し求めて|  了海の決意を揺るぎないものに| |  |            |  いた,命をかけられる仕事|  したということに気づかせてい| | 分|            |  にちがいない。     |  きたい。          | |  |            |              |                | |  |   苦難の中で穴を掘り|              | ・困難であればあるほど,自分の| | 析|  続ける了海の気持ちに|              |  意志をさらに強くする了海の超| |  |  ついて話し合う。  |              |  人的な姿をとらえさせる。  | |  | ○石工たちが立ち去り,| ・苦しいががんばらねば-- 。| ・気が遠くなるほど困難な工事で| | ・|  また一人になった了海| ・自分で始めたことだ。一人|  あることに気づき,次々と立ち| |  |  の心の中はどのような|  でもやらなければならない|  去っていく石工たちの姿を通し| |  |  ものだったでしょう。|  のだ。         |  て人間の心の弱さ,脆さにも気| | 追|            | ・大絶壁をつらぬくまでは死|  づかせていきたい。     | |  |            |  ねない。        |                | |  |            |              |                | | 求|   了海に巡り合えた実|              | ・20年も探し回った末にようや| |  |  之助の気持ちについて|              |  く巡り合えた実之助の喜びが了| |  |  話し合う。     |              |  海の無残な姿を見て,次第に薄| |  | ○ついに親の仇である了| ・これでやっと,恨みを晴ら|  らいでいく心境の変化に気づか| |  |  海に巡り合えた実之助|  せる。         |  せていきたい。       | |  |  はどんな気持ちでいる| ・なんと無残な姿だ。   |                | |  |  のでしょう。    | ・せめて掘り終わる日まで待|                | |  |            |  とう。         |                | |  |            |              |                | | 価|   すべてを忘れて涙に|              | ・了海に対する憎しみを浄化させ| |  |  むせぶ,了海と実之助|              |  た実之助の心の変化,恩讐を超| |  |  の心の結びつきについ|              |  えた了海と実之助の心の結びつ| | 値|  て話し合う。    |              |  きを深く掘り下げていく。  | |  | ○「実之助どの,さあ,| ・これでもう思い残すことは| ・21年かけて自分の大願を成就| |  |  お切りなされ。」と言|  ない。死んでもいい。  |  させた了海の無私無欲な心境を| | の|  った了海はどんな気持| ・自分の生き方をまっとうで|  つかませたい。       | |  |  ちだったのでしょう。|  きた。         |                | |  |            |              |                | | 感| ○なぜ,実之助は仇討ち| ・洞門が完成したうれしさで| ・実之助の心情についてより深く| |  |  をしないで了海の手を|  了海を許そうと思ったから|  考えさせるため,ノートに書か| |  |  にぎったのでしょう。| ・自分の欲を一切捨てて罪を|  せてから発表させる。    | | 得|            |  償った人を斬るわけにはい| ・純粋な一念が岩をも貫き,人間| | ・|            |  かないと感じたから。  |  の弱さ,脆さを超越した了海の| | 理|            | ・自分の命を顧みず,罪のた|  偉大さに気づいた実之助の驚き| |  |            |  め,人を救うため岩壁を掘|  や感激から,感動を深め,ねら| |  |            |  り続けた了海の心の清らか|  いに迫っていきたい。    | | 解|            |  さに気づいたから。   |                | |  |            |              |                | | 価|   心を強く打たれた経| (人の心の素晴らしさや偉大| ・いろいろな生活場面からの経験| | 値|  験について話し合う。|  さに触れて,心が揺り動か|  を発表させ,崇高な生き方に触| | の| ○人の心の素晴らしさや|  されたこと)      |  れた感動を大切にさせ,余韻を| | 主|  偉大さに触れて,心が|              |  残しながら純粋なものへの憧れ| | 体|  はっとしたことはあり|              |  をふくらませていきたい。  | | 化|  ますか。      |              |                | +--+---------------------+-------------------------+------------------------------+