印刷用紙:B4縦 1ページの行数:82 1行の文字数(半角文字で):100 音楽科学習指導案 指導者 福士 幸雄 1.日時 平成7年7月7日(金) 第1校時 2.学級 3年1組 男子 22名、女子 16名、計 38名 北校舎2階 第1音楽室 3.題材 歌舞伎「勧進帳」の魅力 使用する主教材 常磐津節「乗合船恵方万歳」 長唄「勧進帳」、歌舞伎「勧進帳」 関連教材 雅楽「平調の越天楽」 箏曲「六段の調」 能「安宅」 4.題材について 学習指導要領の第2 各学年の目標及び内容・2内容・B鑑賞アによると、鑑賞教材には次に示すものを取り 扱うように書かれている。「我が国及び諸外国の古典から現代までの作品、郷土の音楽及び諸外国の民族音楽と すること」(第1学年〜第2・3学年)また、教育課程審議会の答申の中に「国際理解を深め、我が国の文化と 伝統を尊重する態度を重視すること」とある。これは、明治期からの日本の音楽教育界が、近代西洋音楽を普遍 的な芸術とみなし西洋音楽中心にめざましい発展を遂げてきたが、その反面日本の伝統音楽を含む民俗的音楽が 急速に私達の心の中から消え去っていこうとしていることへの反省と受けとめることができる。また、比較音楽 学という言葉が生まれた根源には、やはり西洋音楽中心の考えが根底にあり、そのような意識への反省とも受け とめられる。国際化が進む中で、これからの学校教育は、諸外国の人々の生活や文化を理解し尊重するとともに 我が国の文化と伝統を大切にする態度の育成を重視していく必要がある。我が国の身近な文化や伝統に対する関 心を深め理解するとともに、諸外国の文化に対する理解を深め、世界と日本とのかかわりに関心をもって生きて いく自覚と責任を持てる教育が望まれている。広く世界の音楽を見つめることは、日本の音楽を見つめ直すこと につながる。現在まで伝承されてきた身近にありながら普段の生活の中で接する機会が少なく、私達の心の中か ら忘れ去られようとしている日本の音楽を大切にしていける生徒の育成を願って、この題材を設定したものであ る。 長唄は、前述のような音楽教育界の歴史の中で、昭和33年に共通教材として第2学年に「越後獅子」が取り 上げられ、昭和44年には第2学年に「小鍛冶」が鑑賞共通教材として取り上げられた。長唄「勧進帳」が学習 指導要領に顔を出したのは昭和52年であり、この時は第2学年の扱いであった。その後の改訂で現在長唄「勧 進帳」は第3学年の扱いとなっている。長唄とは、三味線音楽の一つで、もとは上方の盲人音楽家の伝承音楽で ある地歌の中の長歌が起源である。この長歌が上方の歌舞伎音楽に取り入れられ、さらに江戸の歌舞伎音楽にも 影響を与えて、これが長唄とよばれるようになったものである。歌舞伎の音楽は、唄い物の三味線音楽(長唄) と語り物の三味線音楽(浄瑠璃)と囃子(鳴物)の3つに大別される。浄瑠璃のひとつである常磐津節や清元節 なども歌舞伎に取り入れられており、歌舞伎は様々な当時の芸術を総合して発展してきた。 生徒の日常の音楽体験は、歌うことと聴くことが中心になっている。普段歌っている音楽や日常的に聴いてい る音楽については関心を示すが、普段触れる機会の少ない音楽に対しては興味をあまり示さない傾向がある。つ まり、「知らない」=「嫌い」の構図が出来上がっており、生徒を取り巻くメディアの拡大とは裏腹に、生徒が 接している音楽の世界は非常にせまくなりつつある。(※2)しかし、生徒たちは、新しく触れる音楽に対して 何らかの方法でその魅力に迫ることができれば、自分にとって価値のある音楽として受け入れてくれる。これま で「多声的な音楽」の題材の中で扱ったポリフォニックな合唱曲や選択音楽の中での郷土の民謡の取り組みなど が、生徒の音楽の世界を広げた良い例であろう。音楽の中に新しい価値や魅力を見いだし、音楽に対する見方や 考え方が広がったとき、また主体的に音楽に関わったときに生徒は本当の喜びや充実感を感じることであろう。 これまで日本の音楽の特徴をとらえる視点として「口唱歌」を扱ってきた。生徒にはまず「平調の越天楽」や 「六段の調」の復習を兼ねて、これら既習曲の「口唱歌」を学習させたい。そして長唄「勧進帳」では三味線の 唱歌である口三味線を取り上げ、口唱歌そのものの系統性や発展性をとらえさせるとともに、それら日本の音楽 の微妙なニュアンスを感じ取らせたい。長唄「勧進帳」の口三味線の導入としては、歌舞伎や歌舞伎音楽にも用 いられている常磐津節の「乗合船恵方万歳」の三味線の前弾きの「佃の手」を取り上げてその特徴を感じ取らせ たい。この曲の場面は「春のすみだ川」であり、登場人物は「七福神」をもじった設定になっている。また、音 楽の共通教材である滝廉太郎の「花」や国語の教科書の古文「伊勢物語」との関連もあり、生徒にとって親しみ のもてる教材であると考える。「乗合船恵方万歳」の「佃の手」から、さらに長唄「勧進帳」の寄せ合方に焦点 をあてて、その旋律やリズム及び三味線の奏法の特徴をとらえさせたい。その特徴を端的にまとめ確認する方法 として「口唱歌」を用い「口三味線」の音節をあてさせたい。このような流れで指導することにより、三味線音 楽の特徴を感じ取らせるとともに、さらに三味線が物語の情景や心情描写なども表現している重要な楽器である ことを理解させたい。その上で音楽的な効果を生かした歌舞伎を鑑賞して、その雰囲気を感じ取らせたい。 ※1 音楽科実技実践講座第15巻 音楽科教育の動向 ※2 メディア時代の音楽と社会(小川博司著 音楽之友社) 5.指導計画 (1)既習曲である雅楽「平調の越天楽」や箏曲「六段の調」及び常磐津節「乗合船」の 口唱歌を考え表現することができる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間 (2)「勧進帳」の大まかな物語の内容を説明することができる。・・・・・・・・・1時間 (3)長唄「勧進帳」の寄せの合方の三味線の口唱歌を表現することができる。・・・1時間(本時) (4)歌舞伎「勧進帳」を鑑賞しその特徴を感じ取ることができる。・・・・・・・・1時間 6.本時の達成目標 (1)三味線音楽への関心を深め、進んで表現や鑑賞の活動に取り組もうとしている。 (2)長唄「勧進帳」の「寄せの合方」の口三味線を表現することができる。 7.本時の下位行動目標 a.「寄せの合方」の口三味線を表現することにより、三味線音楽の表現の豊さを味わう手がかりをつかむ ことができる。 (音楽的な感受と表現の工夫)(表現の技能) b.他の発表のよさを生かして、自分の口三味線をさらに工夫することができる。 (音楽的な感受と表現の工夫) c.「寄せの合方」の三味線の旋律に「口三味線」の音節をあてはめることができる。 (音楽的な感受と表現の工夫)(表現の技能) d.「寄せの合方」の特徴的な部分を聴き、口三味線の音節を考えることができる。 (音楽的な感受と表現の工夫)(鑑賞の能力) e.「寄せの合方」の三味線の奏法の特徴を感じ取りながら、旋律を聴き取ることができる。(鑑賞の能力) f.「佃の手」の「チラリチラリ」の奏法の特徴を説明することができる。(鑑賞の能力) g.なぜ「口三味線」に様々な音節が使われているのか説明することができる。 (音楽的な感受と表現の工夫) h.「乗合船恵方万歳」の「佃の手」を表現し、口三味線で表現することのおもしろさを感じ取ることができ る。 (音楽に対する関心・意欲・態度)(表現の技能) 8.本時の評価の観点 (1)三味線音楽への関心を深め、進んで表現や鑑賞の活動に取り組もうとしていたか。 (2)長唄「勧進帳」の「寄せの合方」の口三味線を表現することができたか。 9.本時の展開 <個に対する配慮> <A>達成度 <B>学習速度 <C>取り組み方(意欲・態度) <D>見方・考え方<E>興味・関心 <F>生活経験 <S>学習形態 +−+−+−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+ |段|過|時| | 個 人 差 に 対 す る 配 慮 |資料 | | | | | 学 習 活 動 +−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+ | |階|程|間| |評価の観点・方法| 配 慮 事 項 | 教具等| +−+−+−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+ |導|既| |1.常磐津節「乗合船恵方万| |1.<C> | | |入|習| | 歳」の三味線の前弾き「佃| | 歌うことが望ましいが、語り| | | |内| | の手」を表現することがで| |のような発表でもよいこととす| | | |容| | きる。 | |る。 | | | |の| |2.三味線の唱歌である「口|+−−−−−−+|2.<D> |ビデオ | | |確| | 三味線」に様々な音節が使||口三味線に様|| 同じ音程でも違う音節があて| | |認| | われているのはなぜか考え||々な音節が使||られていることに注目させ、音| | | | | | 発表することができる。 ||われているの||程などの外的要因ではなく、楽| | | | | | ||はなぜか発表||器自体の内的要因に目を向けさ| | | | | | ||することがで||せたい。 | | | | | | ||きたか。 || | | | | | | |+−−−−−−+| | | | | | | |<発言と挙手によるチェック> | | | | | | |P・M:リズムに| | | | | | | |着目して発表する| | | | | | |ことができる。 | | | | | | | |G:楽器の奏法に| | | | | | | |着目して発表する| | | | | | | |ことができる。 | | | | | | |3.「チラリチラリ」の部分| | |ビデオ | | | | | を取り出し、三味線の奏法| | | | | | | | の特徴を説明することがで| | | | | | | | きる。 | | | | | | | |4.本時の学習課題を確認す| | | | | | | | る。 | | | | | |課| |+−本時の学習課題−−−+| | | | | |題| || 「寄せの合方」の旋律|| | | | | |確| ||を口三味線で表現してみ|| | | | | |認|10||よう。 || | | | | |分|+−−−−−−−−−−−+| | | | +−+−+−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+ |展| | |4.長唄「勧進帳」の「寄せ| | |LD | |開| | | の合方」を聴き、メロディ| | | | | |課| | やリズム及び三味線の奏法| | | | | | | | の特徴を感じ取ることがで| | | | | | | | きる。 | | | | | | | |5.「寄せの合方」の特徴的| | |三味線の| | | | | な部分を聴き、その奏法と| | |実演 | | | | | それに対応する口三味線を| | | | |題| | 考えることができる。 | | | | | | | | | | | | | | | |6.学習シートの楽譜をもと|+−6−−−−+|6.<D> |学習シー| | | | | にして「寄せの合方」の口||「寄せの合方」|| 使っている弦と奏法を観察さ|ト | | | | | 三味線をあてはめて発表す||の口三味線を||せながら書かせたい。周囲の者| | | | | | るとができる。 ||あてはめて発||とお互いの口三味線を比較させ| | | | | | ||表することが||お互いの口三味線をもとに学び| | | | | | ||できたか。 ||合い修正を加えさせる。また口| | | | | | |+−−−−−−+|三味線を書けない生徒も出てく| | | | | | |P・M:使ってい|ることが考えられるので教え合| | | |追| | | る弦と奏法をも|い、学び合いの場としたい。 | | | | | | | とに口三味線を| | | | | | | | 考え発表するこ| | | | | | | | とができたか。| | | | | | | |G:使っている弦| | | | | | | | と奏法のみなら| | | | | | | | ず、三味線の機| | | | | | | | 能性や場面の様| | | | | | | | 子を考えて発表| | | | |求| | | することができ| | | | | | | | たか。 | | | | | | |7.お互いの発表を生かして| | | | | | | | 自分の口三味線をさらに工| | | | | | | | 夫することができる。 | | | | | | | | | | | | | | | |8.お互いの発表を通してで| | | | | | |35| きた口三味線歌を表現する| | | | | |分| ことができる。 | | | | +−+−+−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+ |終|ま| |9.次時の学習内容を確認す| | | | |結|と| | ることができる。 | | | | | |め| | 歌舞伎「勧進帳」を鑑賞し| | | | | | |5| その特徴を感じ取ることが| | | | | | |分| できる。 | | | | +−+−+−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+