岩手県立総合教育センター教育研究(1999)


「総合的な学習の時間」に関する研究

−導入のための要件や手順の検討−(第2報)


目   次

[はじめに]
T 第1年次の研究概要
 1 「総合的な学習の時間」に関する調査の実施
 2 「総合的な学習の時間」導入に関する基本構想の立案
U 第2年次の研究内容
 1 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案の作成
   試案1−「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構想に向けた推進試案
   試案2−「総合的な学習の時間」の学習活動の創造に向けた推進試案
   試案3−「総合的な学習の時間」の組織体制・環境整備等に向けた推進試案
 2 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる実態調査の実施
  (1) 調査の目的
  (2) 調査の観点及び内容
  (3) 調査結果の分析と考察
 3 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる具体的構想の視点及び観点の作成
  (1) 作成の意図について
  (2) 内容の構成について
  (3) 内容の具体例
V 研究のまとめと今後の課題
 1 研究のまとめ
 2 今後の課題
[おわりに]

【主な参考文献】

[はじめに]
 「総合的な学習の時間」の完全実施に向けて,各学校ではその試行,準備が進められています。平成8年,第15期中央教育審議会の第1次答申で「総合的な学習の時間」の創設が提起されて以来,教育の仕組みの大きな変革として,学校をはじめとする教育界はもとよりマスコミ等も巻き込んだその波紋の大きさと広がりの速さは,私たちの予想をはるかに上回るものでした。
 「総合的な学習の時間」は,単に既存の教科の組み合わせを変えて内容を編成するものではなく,子どもたち自身が各教科にわたる知識や技能を総合化し,自ら学んでいく力と方法,態度を身につけていくことをねらいとするものです。したがって,子どもや地域,学校の実態に応じて各学校が特色ある教育課程を編成することが,今まで以上に強く求められることになります。
 しかし,学校においては教科等を関連づけた横断的な指導の実践が決して多くはないのに加え,従来の教科とは異なり,指導目標や指導内容が明示されず教科書もない中で,学校の創意工夫によって計画・実施することへの戸惑いや不安があるのも事実です。教科等の枠を超えた「時間」として新しく導入・実施するための課題は決して少なくありません。
 これらの課題を解決するためには,「総合的な学習の時間」を創設する趣旨の共通認識を図り,学習内容や学習方法の多様化,指導計画の作成・整備,人員配置を含む協力体制づくりなどの弾力的なカリキュラム編成を中心とした,「総合的な学習の時間」を導入するための要件や手順等について究明する必要があると考えました。
 そこで,この研究は,「総合的な学習の時間」を導入するうえでの問題点と課題を把握するとともに,具備すべき要件や手順等を明らかにし,学校における円滑な導入,推進に役立てようとするものです。
 
T 第1年次の研究概要
 
 1 「総合的な学習の時間」に関する調査の実施
 本研究は,平成10年度から11年度にわたる2年次研究です。第1年次である昨年度は,県内のすべての公立小・中・高等学校を対象に「総合的な学習の時間」に関する教員の意識,及び各学校における横断的・総合的な学習の実施の実態から,「総合的な学習の時間」を導入するうえでの問題点や課題を把握するために,次のような調査仮説に基づき,次頁に示す観点と内容により調査を実施しました。(なお,調査の結果と分析の詳細は,「教育研究」平成10年度版に掲載してありますので,併せてご覧ください。)         
  (1) 学校においては,「総合的な学習の時間」についての関心があまり高くなく,ねらいや内容などの理解も不十分なのではないか。 
  (2) 学校での横断的・総合的な学習の実践は多くなく,「総合的な学習の時間」を実施するための経験が足りないのではないか。
  (3) 学校においては,「総合的な学習の時間」を導入・推進するための基盤が整っていないのではないか。   
 
 この実態調査の分析から明らかになった問題を解決し,「総合的な学習の時間」の円滑な導入・推進を図るための視点を,以下のとおりとらえました。
@ 「総合的な学習の時間」のカリキュラム編成の在り方を検討する必要があること
A 現行実践等を「総合的な学習の時間」へ移行させる観点を明らかにする必要があること
B 「総合的な学習の時間」の学習活動や評価の在り方を明らかにする必要があること
C 「総合的な学習の時間」を導入・推進するための組織体制づくりをする必要があること
D 「総合的な学習の時間」の学習活動を進めていくための校内施設・設備等の環境整備の在り方を検討する必要があること
E 「総合的な学習の時間」を推進するための地域・人材の協力や活用の在り方を検討する必要があること

2 「総合的な学習の時間」導入に関する基本構想の立案
  「総合的な学習の時間」の円滑な導入・推進を図るための視点をもとに,「総合的な学習の時間」 を導入・推進するための要件や手順を検討し,基本構想図を【図−1】のように作成しました。
 
  【図−1】「総合的な学習の時間」に関する基本構想図
 
U 第2年次の研究内容
1 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案の作成
 次頁の試案1から試案3は,基本構想及び「総合的な学習の時間」導入のための視点をもとに,「カリキュラムの構想」「学習活動の創造」「組織体制・環境整備等」について具体的な要件を検討し,「総合的な学習の時間」を導入・推進する手順として項目的にまとめたものです。
 表の「具体的な視点」の左の欄は,主として実施段階における「総合的な学習の時間」の在り方,右の欄は,主として実施に向かうための準備や移行の在り方についてまとめたものです。

試案1 「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構想に向けた推進試案

試案2 「総合的な学習の時間」の学習活動の創造に向けた推進試案

試案3 「総合的な学習の時間」の組織体制・環境整備等に向けた推進試案

  2 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる実態調査の実施
(1) 調査の目的
  この調査は,ここまで述べた「『総合的な学習の時間』の導入のための推進試案」の内容項目にかかわって,岩手県教育委員会の指定する「総合的な学習の時間」調査研究協力校(3年委託)の構想及び推進状況を把握することにより,その有意・有用性を検討するとともに,補充・改善を加えながら推進試案の完成を目的に実施したものです。
  なお,調査は試案の内容項目すべてを網羅することができず,項目を統合,削減して実施しています。
(2) 調査の観点及び内容
 調査の観点及び内容は次のとおりです。
【調査期日】  〈小・中学校〉 平成11年11月26日〜12月2日 〈高等学校〉 平成11年11月22日〜11月26日

(3) 調査結果の分析と考察
  調査校は,小学校11校,中学校11校,高等学校3校の合計25校です。集計は,選択肢の設問については回答数で示し,記述式の設問については,くくられるものは数字で,くくられないものは回答内容を簡潔に記しました。なお,回答は質問6以外は複数回答です。

ア 「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構想にかかわる状況
(ア) 「総合的な学習の時間」のテーマ設定の手順及び方法

@ 願いや実態の把握の方法
  【表−1】は,願いや実態の把握についての調査結果をまとめたものです。
 ほとんどの学校が,「子ども」及び「学校,教職員」の願いや実態をとらえようとしていることがわかります。それに比べて,「家庭,地域」及び「現代(社会)課題」にかかわる実態をとらえようとしている学校は少ないようです。
 具体的な内容としては,「子どもの資質や能力」にかかわるものが多くあげられています。
 これらのことから,「総合的な学習の時間」の出発点が子どもであることを再確認し,子どもの学習活動の内容や展開にかかわるどのような実態をとらえていくべきかについて,検討していく必要があると考えます。
 
A 現行の教育課程の見直しの内容
 【表−2】は,教育課程の見直しについての調査結果をまとめたものです。  「教科等の年間指導計画」や「時間割作成,日課表」という,学習指導要領の改訂や日々の指導に直接かかわる内容の見直しを取り上げた学校が多いです。また,小学校で7校,中学校で8校が「子ども像の見直し」まで考えています。
 具体的な内容では,学習指導要領の改訂のねらいにそって,多様な教育課程の編成や運営にかかわる見直しが記述されています。
 これらのことから,「総合的な学習の時間」だけに着目するのではなく,教育目標の見直しも含め,教育活動全体の相互の関連を明確にしながら,具体的な見直しを進めていくことが重要であるといえます。
B 具体的なテーマの設定の方法
 【表−3】は,テーマの設定について調査した結果をまとめたものです。
 テーマの設定にあたっては,「教師が決める」「教師が想定したものから…」という教師側の想定にそった方法を考えている学校がほとんどであり,「子どもと話し合って」「子どもが」という学校は少ないようです。
 また,テーマ設定上の問題点としては,「教師の願いと子どもの願いのずれの解消」が最も多く,「多様な子どもの願いに応ずる環境や条件の整備」「子どものテーマ設定能力を育てる手だて」などがあげられています。
 これらのことから,テーマ設定に関する子どもの実態を的確に把握することはもちろん,日常の教科等の指導の中でも,テーマの設定能力を育てるという視点をもつことが大切であると考えます。
(イ) 「総合的な学習の時間」の活動計画作成の手順及び方法
@ 学習活動の構想の内容
 【表−4】は,テーマ及び学習活動の構想についての調査結果をまとめたものです ほぼ,すべての項目が,構想の視点として,取り上げられていることがわかります。特に,校種にかかわらず「子どもの興味・関心」と「地域の特色」を取り上げた学校が多いです。また,視点として,小学校では,「教科等の関連や発展」を取り上げているのに対し,中学校では,「現行の教育実践」を取り上げている学校が多いです。
 中・高等学校においては,校種の特性からか,「教科等の関連や発展」を生かしたテーマや学習活動の構想が少ないことがわかります。
 これらのことから,校種の特性をふまえ,学校や地域等を包括的にとらえながら,子どもの興味・関心を大切にしたテーマ・学習活動を構想していくことが重要であるといえます。
A 学習活動の単位
 【表−5】は,主な活動の単位について調査した結果をまとめたものです。
 ほとんどの学校で「学校テーマをもとに」と答えたうえで,半数以上の学校が「学年・学級で活動」と回答しており,特に小学校で多いことがわかります。
 また,小学校における小規模の特性を生かした学習や中学校におけるテーマ別・コース別学習等において,異年齢集団での活動を考えているという回答もありました。
 このことから,学校規模やテーマの内容,学習の形態等に応じ,効果的に学習活動を展開していける活動単位を考えていくことが重要であるといえます。
 
B 弾力的な時間の運用の内容と方法
 【表−6】は,時間の弾力的な運用について調査した結果をまとめたものです。
 ほとんどの学校が,何らかの形で,時間の弾力的な運用を考えていることがわかります。
 小学校では,モジュール制やノーチャイム制の導入をあげており,中学校,高等学校では,時間のまとめ取りが目立っています。学校における主な指導が,学級担任の小学校と教科担任制である中学校・高等学校の違いによるものと考えられます。
 これらのことから,学校の規模や実態,校種の特性を考慮しながら,テーマや活動内容に応じて,効果的な時間の取り方を工夫する等,時間の弾力的な運用を進めていくことが求められるといえます。
(ウ) 「総合的な学習の時間」のカリキュラムの評価・改善の手順及び方法
○ カリキュラムの評価の方法
 次頁の【表−7】は,カリキュラムの評価について調査した結果をまとめたものです。
 評価の時期について,「一つのテーマや単元」終了ごとに行う学校が多いことがわかります。
 評価の内容については,具体的な記述が少なく明確な内容項目の設定がなされているかどうかの判断はできません。
 評価の方法では,様々な場面での活動の記録(評価情報)を独自の方法で蓄積し,活用を図っていこうとする傾向が全体的にうかがえます。ただし,評価の内容及び方法の記述に,学習活動の評価にかかわるものとの混在がみえます。
 これらのことから,まずカリキュラムの評価そのものの理解を確かなものにしながら,各学校が評価の内容や項目を定め,それに沿って評価情報を収集し,適切な時期に評価を行うシステムを確立していくことが必要といえます。
イ 「総合的な学習の時間」の学習活動の創造にかかわる状況
(ア) 学習活動の改善・創造の手順及び方法
@ 問題解決的な学習の展開にかかわる取り組み内容
 【表−8】は,問題解決的な学習の展開に向けて,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
 25校中17校と3分の2の学校が「体験活動の見直し」を考えており,具体的な内容の記述から,特に,特別活動との関連で見直しを図っていることがわかります。また,約半数の学校で「問題解決的な学習の実施」を重点としており,特に小学校での取り組みの割合が高くなっています。
 また,問題意識を高める手だてや主体的・発展的な活動の実施,自ら学習する場面の設定は半数近くの学校で取り組もうとしていること,問題解決的な学習の部分的な取り入れや,課題提示などの導入部分で意識を高める工夫などに重点的に取り組んでいることがわかります。
 これらのことから,「総合的な学習の時間」の導入に向けては,体験活動の在り方や内容を見直すとともに,子どもの問題意識を高め主体的な学習にするための問題解決的な学習を,部分的なものからでも取り入れていくことが求められるといえます。
A 学習形態及び集団編成にかかわる取り組み内容
 【表−9】は,学習活動の展開にあたっての学習形態や学習集団などについて,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
 学習形態については,「興味・関心別や課題別」に小集団を編成し取り組ませる記述が,指導形態では「TT指導」などの複数による指導体制が多くあげられています。
 また,ここでは詳細を示していませんが,活動形態の記述では,課題別小集団や異年齢集団の想定が多くあげられていました。
 学習・活動場所の拡大については,小学校の約半数は校内施設の活用も考えていますが,ほとんどの学校が学校外に活動場所を拡大して取り組もうとしていることがわかります。
 これらのことから,各学校では様々な形態を考えており,多様な形態を弾力的に編成していくことが,「総合的な学習の時間」の展開で重要であると考えます。
B 学び方の習得にかかわる取り組み内容
 【表−10】は,「総合的な学習の時間」での学び方について,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
 「情報収集活動」や「表現活動」についての学び方については,多くの学校で重点的に取り組んで習得させようとしていうことがわかります。
 しかし,討議方法や子ども同士の学び合いを記述した学校は多くなく,子ども同士がかかわり合いながら学び方を習得させようすることについては,まだ重点的な取り組みまでは至っていないようです。
 これらのことから,技能の習得の場や子ども同士の学び合いの場などの設定は,問題解決の過程と関連づけ,子どもの主体的な活動の中で学び方を習得できるようにすることが重要であると考えます。
(イ) 学習活動の評価・改善の手順及び方法
○ 学習活動の評価にかかわる考え方及び具体的な方法
 次頁の【表−11】は,評価の具体的な方法等についての調査結果をまとめたものです。
 各学校とも「活動の記録」「数値的評価をしない」「学習課程とよさの評価」という「総合的な学習の時間」の評価の基本といわれる事項についての共通理解を図っていることがわかります。具体的な評価方法としては,ポートフォリオなどの「評価情報の収集・蓄積」と,“観察法”“自己評価,相互評価”といった個を大切にしようとする評価方法の模索がなされていることがわかります。
 また,評価を行う際の問題点としては,「客観性」や「個への対応」など,子どもの個々をとらえていくことにかかわる内容が多くあげられています。
 これらのことから,今まで以上に一人一人の個に目を向け,「よさ」を見いだしていく「総合的な学習の時間」の学習活動における評価の在り方について,より一層の理解を深めていくとともに,多様な評価方法を工夫,開発し,試行を積み上げることによって学校独自の評価方法を確立していく必要があると考えます。
 
ウ 「総合的な学習の時間」の組織体制・環境の整備にかかわる状況
(ア) 組織体制整備の手順及び方法
@ 教員研修の内容と方法
 【表−12】は,教員研修の中の理解を深める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
 「総合的な学習の時間」の基本的な理論についてはすべての学校が考えていることがわかります。また,先行研究や先進校の実践にかかわる研修についてもほとんどの学校で考えており,新しく導入される「総合的な学習の時間」をまず実践例をもとに理解しようとする姿がうかがえます。
 
 次頁の【表−13】は,教員研修の中の指導力の向上を高める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
 技能や授業展開にかかわる研修も多くの学校で考えていますが,それ以上に子どもの実態把握や児童・生徒理解にかかわる研修をほとんどの学校で考えていることがわかります。
 これは,「総合的な学習の時間」が子どもの興味・関心や主体的な学習を前提としており,変容の様子を把握するために必要なものとして,取り上げたと考えられます。
 
 【表−14】は,教員研修の中の専門性や独自性を高める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
 (1)や(2)の調査結果と比較しますと,回答数が少ないことがわかります。これは,取り組みの1年目に調査したもので具体的な内容が未定であることから,実践と深くかかわる研修内容については,まだ十分な見通しが立てられない状態であるためと考えられます。
 (1)から(3)の結果から,多くの学校が基本的な内容の理解段階であることがわかります。具体的な授業展開や技能面の研修,専門性や独自性にかかわる研修は,今後,より具体的な取り組みがなされてくると思われます。その時には,先進校の様々な実践を学ぶことがあっても模倣するのではなく,その学校らしいその学校ならではの実践が求められます。
A 指導組織・支援体制の整備の内容
 【表−15】は,学習活動の展開にあたり,
指導組織や支援体制の整備について調査した結果をまとめたものです。
 「TT等全職員の協力体制」「地域・外部との協力体制や人材リスト」「推進組織」をあげた学校が多いです。
 その他としては,小学校と中学校の連携,打ち合わせ,専門的知識・技能,時間割の工夫,見通しをもつ等をあげています。
 このことから,学校では「総合的な学習の時間」の推進にあたり,担任一人ではなく,複数の教員,或いは,地域・外部の協力が大切と考えているといえます。
(イ) 学習環境整備の手順及び方法
@ コンピュータの活用環境の整備の内容
 次頁の【表−16】は,「総合的な学習の時間」におけるコンピュータの活用環境について調査した結果をまとめたものです。
 どの校種においても,「活用推進策の検討」や「手引き書の作成」などの基本的なことから行おうとしていることがわかります。
 また,中学校では特に「配置場所」や「ネットワーク」などの利用環境の改善・整備が多いようです。さらに,小学校と中学校の半数が,「機器にかかわる整備」をあげています。 
 これらのことから,コンピュータ活用環境の整備は,取り組みが緒についたばかりと思われ,ソフトウェア面,ハードウェア面での充実と併せ,コンピュータの機能を発揮できる活用環境の整備を急ぐ必要があると考えます。
(ウ) 地域・人材の活用の手順及び方法
@ 地域の素材,人材の活用の在り方
 【表−17】は,地域の素材や人材の発掘・活用について調査した結果をまとめたものです。
 小学校,中学校の全部の学校が「保護者や地域との協力」をあげています。さらに,中学校が「教職員による調査」や「公的機関の利用」を多くあげているのに対して,小学校が,学習活動の展開の中で「子ども自らに発掘・活用」させようとしていることがわかります。
 これらのことから,地域の素材や人材の発掘・活用にあたっては,保護者や地域への協力依頼や教職員による実際の調査活動などにとどまることなく,多くの小学校があげているように,学習活動の展開の中での「子ども自らが」という視点をもった取組みが大切であると考えます。
 
A 家庭・地域との協力体制の在り方
 【表−18】は家庭や地域への啓発,連携の手だてについて調査した結果をまとめたものです。
 ほとんどの学校が「通信等の活用」,「PTAの会合」などの,学校が主体として実施する機会に行うことを考えているようです。その他としては,「総合的な学習の時間」の名称を地域の人々に募集する中で,その趣旨を理解してもらう等の方策をとっているところもありました。これらのことから,学校が機をとらえ,情報を発信していくことが大切ですが,外部からの情報の受信も含め,啓発や連携のための手だてについて,さらに工夫していくことが必要と考えます。
3 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる具体的構想の視点及び観点の作成
  基本的な考え方及び基本構想をもとに,県教育委員会の委託を受けた「総合的な学習の時間」調査研究協力校における研究の構想及び推進状況を把握するとともに,補充・改善を加えて,「総合的な学習の時間」導入のための試案を作成しました。さらに次の(1)(2)に示すような試案にかかわる具体的構想の視点及び観点をまとめた「『総合的な学習の時間』の導入・推進に向けて」を作成しました。
(1) 作成の意図について
 作成の意図は,推進試案としてまとめた「カリキュラムの構想」「学習活動の創造」「組織体制・環境整備等」の実施段階及び準備・移行段階における在り方の主なものについて,その計画を進める際の基本的な考え方や構想の視点及び観点などの説明を加えることによって,各学校での円滑な導入・推進に役立てようとするものです。
 「総合的な学習の時間」の創設の趣旨やねらいを考える時,その計画の構想及び実施にあたっては,各学校が子どもの実態や学校,地域の特色をとらえ,全教職員が英知を結集し,試行錯誤を積み重ねながら,その学校独自の特色ある計画を構築していくことにこそ,大きな意義を見いだすことができます。
 そこで,具体的な実践に踏み込んだ「マニュアル的」な内容は極力除外し,基本的な考え方や,構想の際の視点及び観点の例を示すことにとどめました。また,同様の意図から,試案に示す項目すべてにわたって網羅するものではなく,各学校が導入・推進していくにあたって,特に必要と思われる基本的な内容に限定して示すこととしました。
(2) 内容の構成について
 試案1「カリキュラムの構想」にかかわっては,実態調査の結果や当センターへの資料請求の状況などから,必要度が高いと思われる「願いや実態調査の把握」及び「テーマの設定」を,また,理解が十分に浸透しているとは言い難い「カリキュラムの評価」について,内容の重点化を図りました。
 試案2「学習活動の創造」にかかわっては,実態調査の結果,小学校を中心に問題解決的な学習を意識した取り組みが始められている状況があり,「問題解決的な学習の展開」を重点的に取り上げ,特にも,問題解決的な学習につなげる「授業改善の進め方」を示しました。
 試案3「組織体制・環境整備等」にかかわっては,実態調査の結果や社会や時代のニーズ等も勘案し,「協働意識を基盤とした組織体制」や「コンピュータの活用環境の整備」などを重点的に取り上げました。また,大きな教育の変革期にあって,教員そのものが問われていることから,「教員研修」の在り方を示しました。
 また,記述内容にかかわって,実態調査の結果及び「『総合的な学習の時間』Q&A」(岩手県教育委員会が平成11年10月に刊行・配布)の調査結果を併記しました。これは,試行・実践が緒についた段階の各学校にとって,先進校の取り組み状況を知ることは,構想や計画の際の着眼点を得るということからも大きな意味をもつと考えたものです。
(3) 内容の具体例
 具体的構想の視点及び観点「『総合的な学習の時間』の導入・推進に向けて」から,前項で述べた重点内容のいくつかを抜粋し,紹介することとします。
V 研究のまとめと今後の課題
 1 研究のまとめ
  この研究は,平成10年度から平成11年度にわたる2年次研究であり,今年度はその完結年度として,昨年度作成した基本構想をもとに,研究協力校及び調査協力校の協力を得て,「総合的な学習の時間」導入のための推進試案を作成することでした。ここでは,研究内容について,概括的にまとめることとします。
(1) 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案の作成
 基本構想に基づいて,学校における「総合的な学習の時間」の円滑な導入・推進に向けて,各研究協力校及び調査協力校の協力を得ながら検討を加え,三つの推進試案をそれぞれの視点から作成することができました。
(2) 「総合的な学習の時間」に関する研究のまとめ
 「総合的な学習の時間」の円滑な導入・推進にかかわり,研究並びに調査協力校の協力の下に,三つの推進試案を作成するとともに,その活用を図るため,具体的構想の視点及び観点を作成し,「『総合的な学習の時間』の導入・推進に向けて」としてまとめることができました。
2 今後の課題
(1) 研究を推進するにあたり,校種への考慮が十分とは言えず,小・中学校を想定した内容に偏りすぎました。今後,高等学校及び盲・聾・養護学校なども含めた,校種の特徴をとらえた内容の充実を図っていくことが必要だと考えます。
(2) 「総合的な学習の時間」の本格実施に向けて,今回の研究の成果をもとに,学校との連携及び情報交流を密にし,より実践的な研究に移行,発展させていくことが必要だと考えます。

[おわりに]
 「総合的な学習の時間」の創設の理由として,「生きる力」の育成と現代社会の要請があげられています。しかし,生きる力は全人的なものであり,けっして「総合的な学習の時間」だけで育て得るものではありません。現在の状況は,「総合的な学習の時間」だけが突出しているような印象があります。「総合的な学習の時間」だけを“ひとり歩き”させることなく,教育課程全体の中にしっかりと位置づけながら,着実に,大切に育てていきたいものです。そして,「総合的な学習の時間」を一つの契機として,「子どもが変わった」「学校が変わった」となりたいものです。
 最後に,この研究を進めるにあたって,ご協力いただいた研究協力校の花巻市立花巻小学校,花巻北中学校並びに調査協力校の校長先生をはじめ諸先生方,また,研究協力員として貴重な資料やご意見を提供していただいた2名の先生方に心から感謝申し上げ,結びといたします。

【主な参考文献】
・村川雅弘/小林毅夫編著 「小学校学習指導要領の展開−総合的学習編」      明治図書 1999
・高浦勝義 著 「総合学習の理論・実践・評価」                 黎明書房 1998
・中野重人/廣島憲一郎 編著 「自ら学ぶ『総合的な学習の時間』のつくり方」  東洋館出版社 1999
・有園格/小島宏 編著 「総合的な学習」の展開@〜C              ぎょうせい 1999
・「総合的な学習の時間の実施に向けた学校・学年経営の在り方」      東京都立教育研究所 1999
・開発的研究報告書「『総合的な学習』の考え方と実際」        東京都立多摩教育研究所 1999
・「総合的な学習の時間」指導資料T「総合的な学習の時間−考え方・進め方−」千葉県教育委員会 1999



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