岩手県立総合教育センター教育研究(1999)
「総合的な学習の時間」に関する研究
−導入のための要件や手順の検討−(第2報)
目 次
[はじめに]
T 第1年次の研究概要
1 「総合的な学習の時間」に関する調査の実施
2 「総合的な学習の時間」導入に関する基本構想の立案
U 第2年次の研究内容
1 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案の作成
試案1−「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構想に向けた推進試案
試案2−「総合的な学習の時間」の学習活動の創造に向けた推進試案
試案3−「総合的な学習の時間」の組織体制・環境整備等に向けた推進試案
2 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる実態調査の実施
(1) 調査の目的
(2) 調査の観点及び内容
(3) 調査結果の分析と考察
3 「総合的な学習の時間」導入のための推進試案にかかわる具体的構想の視点及び観点の作成
(1) 作成の意図について
(2) 内容の構成について
(3) 内容の具体例
V 研究のまとめと今後の課題
1 研究のまとめ
2 今後の課題
[おわりに]
【主な参考文献】
試案1 「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構想に向けた推進試案
試案2 「総合的な学習の時間」の学習活動の創造に向けた推進試案
@ 願いや実態の把握の方法 【表−1】は,願いや実態の把握についての調査結果をまとめたものです。
ほとんどの学校が,「子ども」及び「学校,教職員」の願いや実態をとらえようとしていることがわかります。それに比べて,「家庭,地域」及び「現代(社会)課題」にかかわる実態をとらえようとしている学校は少ないようです。
具体的な内容としては,「子どもの資質や能力」にかかわるものが多くあげられています。
これらのことから,「総合的な学習の時間」の出発点が子どもであることを再確認し,子どもの学習活動の内容や展開にかかわるどのような実態をとらえていくべきかについて,検討していく必要があると考えます。
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A 現行の教育課程の見直しの内容
【表−2】は,教育課程の見直しについての調査結果をまとめたものです。
「教科等の年間指導計画」や「時間割作成,日課表」という,学習指導要領の改訂や日々の指導に直接かかわる内容の見直しを取り上げた学校が多いです。また,小学校で7校,中学校で8校が「子ども像の見直し」まで考えています。
具体的な内容では,学習指導要領の改訂のねらいにそって,多様な教育課程の編成や運営にかかわる見直しが記述されています。
これらのことから,「総合的な学習の時間」だけに着目するのではなく,教育目標の見直しも含め,教育活動全体の相互の関連を明確にしながら,具体的な見直しを進めていくことが重要であるといえます。
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B 具体的なテーマの設定の方法
【表−3】は,テーマの設定について調査した結果をまとめたものです。
テーマの設定にあたっては,「教師が決める」「教師が想定したものから…」という教師側の想定にそった方法を考えている学校がほとんどであり,「子どもと話し合って」「子どもが」という学校は少ないようです。
また,テーマ設定上の問題点としては,「教師の願いと子どもの願いのずれの解消」が最も多く,「多様な子どもの願いに応ずる環境や条件の整備」「子どものテーマ設定能力を育てる手だて」などがあげられています。
これらのことから,テーマ設定に関する子どもの実態を的確に把握することはもちろん,日常の教科等の指導の中でも,テーマの設定能力を育てるという視点をもつことが大切であると考えます。
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@ 学習活動の構想の内容
【表−4】は,テーマ及び学習活動の構想についての調査結果をまとめたものです ほぼ,すべての項目が,構想の視点として,取り上げられていることがわかります。特に,校種にかかわらず「子どもの興味・関心」と「地域の特色」を取り上げた学校が多いです。また,視点として,小学校では,「教科等の関連や発展」を取り上げているのに対し,中学校では,「現行の教育実践」を取り上げている学校が多いです。
中・高等学校においては,校種の特性からか,「教科等の関連や発展」を生かしたテーマや学習活動の構想が少ないことがわかります。
これらのことから,校種の特性をふまえ,学校や地域等を包括的にとらえながら,子どもの興味・関心を大切にしたテーマ・学習活動を構想していくことが重要であるといえます。
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A 学習活動の単位
【表−5】は,主な活動の単位について調査した結果をまとめたものです。
ほとんどの学校で「学校テーマをもとに」と答えたうえで,半数以上の学校が「学年・学級で活動」と回答しており,特に小学校で多いことがわかります。
また,小学校における小規模の特性を生かした学習や中学校におけるテーマ別・コース別学習等において,異年齢集団での活動を考えているという回答もありました。
このことから,学校規模やテーマの内容,学習の形態等に応じ,効果的に学習活動を展開していける活動単位を考えていくことが重要であるといえます。
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B 弾力的な時間の運用の内容と方法
【表−6】は,時間の弾力的な運用について調査した結果をまとめたものです。
ほとんどの学校が,何らかの形で,時間の弾力的な運用を考えていることがわかります。
小学校では,モジュール制やノーチャイム制の導入をあげており,中学校,高等学校では,時間のまとめ取りが目立っています。学校における主な指導が,学級担任の小学校と教科担任制である中学校・高等学校の違いによるものと考えられます。
これらのことから,学校の規模や実態,校種の特性を考慮しながら,テーマや活動内容に応じて,効果的な時間の取り方を工夫する等,時間の弾力的な運用を進めていくことが求められるといえます。
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○ カリキュラムの評価の方法
次頁の【表−7】は,カリキュラムの評価について調査した結果をまとめたものです。
評価の時期について,「一つのテーマや単元」終了ごとに行う学校が多いことがわかります。
評価の内容については,具体的な記述が少なく明確な内容項目の設定がなされているかどうかの判断はできません。
評価の方法では,様々な場面での活動の記録(評価情報)を独自の方法で蓄積し,活用を図っていこうとする傾向が全体的にうかがえます。ただし,評価の内容及び方法の記述に,学習活動の評価にかかわるものとの混在がみえます。
これらのことから,まずカリキュラムの評価そのものの理解を確かなものにしながら,各学校が評価の内容や項目を定め,それに沿って評価情報を収集し,適切な時期に評価を行うシステムを確立していくことが必要といえます。
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@ 問題解決的な学習の展開にかかわる取り組み内容
【表−8】は,問題解決的な学習の展開に向けて,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
25校中17校と3分の2の学校が「体験活動の見直し」を考えており,具体的な内容の記述から,特に,特別活動との関連で見直しを図っていることがわかります。また,約半数の学校で「問題解決的な学習の実施」を重点としており,特に小学校での取り組みの割合が高くなっています。
また,問題意識を高める手だてや主体的・発展的な活動の実施,自ら学習する場面の設定は半数近くの学校で取り組もうとしていること,問題解決的な学習の部分的な取り入れや,課題提示などの導入部分で意識を高める工夫などに重点的に取り組んでいることがわかります。
これらのことから,「総合的な学習の時間」の導入に向けては,体験活動の在り方や内容を見直すとともに,子どもの問題意識を高め主体的な学習にするための問題解決的な学習を,部分的なものからでも取り入れていくことが求められるといえます。
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A 学習形態及び集団編成にかかわる取り組み内容
【表−9】は,学習活動の展開にあたっての学習形態や学習集団などについて,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
学習形態については,「興味・関心別や課題別」に小集団を編成し取り組ませる記述が,指導形態では「TT指導」などの複数による指導体制が多くあげられています。
また,ここでは詳細を示していませんが,活動形態の記述では,課題別小集団や異年齢集団の想定が多くあげられていました。
学習・活動場所の拡大については,小学校の約半数は校内施設の活用も考えていますが,ほとんどの学校が学校外に活動場所を拡大して取り組もうとしていることがわかります。
これらのことから,各学校では様々な形態を考えており,多様な形態を弾力的に編成していくことが,「総合的な学習の時間」の展開で重要であると考えます。
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B 学び方の習得にかかわる取り組み内容
【表−10】は,「総合的な学習の時間」での学び方について,重点的に取り組んでいることを調査した結果をまとめたものです。
「情報収集活動」や「表現活動」についての学び方については,多くの学校で重点的に取り組んで習得させようとしていうことがわかります。
しかし,討議方法や子ども同士の学び合いを記述した学校は多くなく,子ども同士がかかわり合いながら学び方を習得させようすることについては,まだ重点的な取り組みまでは至っていないようです。
これらのことから,技能の習得の場や子ども同士の学び合いの場などの設定は,問題解決の過程と関連づけ,子どもの主体的な活動の中で学び方を習得できるようにすることが重要であると考えます。
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○ 学習活動の評価にかかわる考え方及び具体的な方法
次頁の【表−11】は,評価の具体的な方法等についての調査結果をまとめたものです。
各学校とも「活動の記録」「数値的評価をしない」「学習課程とよさの評価」という「総合的な学習の時間」の評価の基本といわれる事項についての共通理解を図っていることがわかります。具体的な評価方法としては,ポートフォリオなどの「評価情報の収集・蓄積」と,“観察法”“自己評価,相互評価”といった個を大切にしようとする評価方法の模索がなされていることがわかります。
また,評価を行う際の問題点としては,「客観性」や「個への対応」など,子どもの個々をとらえていくことにかかわる内容が多くあげられています。
これらのことから,今まで以上に一人一人の個に目を向け,「よさ」を見いだしていく「総合的な学習の時間」の学習活動における評価の在り方について,より一層の理解を深めていくとともに,多様な評価方法を工夫,開発し,試行を積み上げることによって学校独自の評価方法を確立していく必要があると考えます。
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@ 教員研修の内容と方法
【表−12】は,教員研修の中の理解を深める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
「総合的な学習の時間」の基本的な理論についてはすべての学校が考えていることがわかります。また,先行研究や先進校の実践にかかわる研修についてもほとんどの学校で考えており,新しく導入される「総合的な学習の時間」をまず実践例をもとに理解しようとする姿がうかがえます。
次頁の【表−13】は,教員研修の中の指導力の向上を高める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
技能や授業展開にかかわる研修も多くの学校で考えていますが,それ以上に子どもの実態把握や児童・生徒理解にかかわる研修をほとんどの学校で考えていることがわかります。
これは,「総合的な学習の時間」が子どもの興味・関心や主体的な学習を前提としており,変容の様子を把握するために必要なものとして,取り上げたと考えられます。
【表−14】は,教員研修の中の専門性や独自性を高める研修の実施について調査した結果をまとめたものです。
(1)や(2)の調査結果と比較しますと,回答数が少ないことがわかります。これは,取り組みの1年目に調査したもので具体的な内容が未定であることから,実践と深くかかわる研修内容については,まだ十分な見通しが立てられない状態であるためと考えられます。
(1)から(3)の結果から,多くの学校が基本的な内容の理解段階であることがわかります。具体的な授業展開や技能面の研修,専門性や独自性にかかわる研修は,今後,より具体的な取り組みがなされてくると思われます。その時には,先進校の様々な実践を学ぶことがあっても模倣するのではなく,その学校らしいその学校ならではの実践が求められます。
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A 指導組織・支援体制の整備の内容
【表−15】は,学習活動の展開にあたり,
指導組織や支援体制の整備について調査した結果をまとめたものです。
「TT等全職員の協力体制」「地域・外部との協力体制や人材リスト」「推進組織」をあげた学校が多いです。
その他としては,小学校と中学校の連携,打ち合わせ,専門的知識・技能,時間割の工夫,見通しをもつ等をあげています。
このことから,学校では「総合的な学習の時間」の推進にあたり,担任一人ではなく,複数の教員,或いは,地域・外部の協力が大切と考えているといえます。
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@ コンピュータの活用環境の整備の内容
次頁の【表−16】は,「総合的な学習の時間」におけるコンピュータの活用環境について調査した結果をまとめたものです。
どの校種においても,「活用推進策の検討」や「手引き書の作成」などの基本的なことから行おうとしていることがわかります。
また,中学校では特に「配置場所」や「ネットワーク」などの利用環境の改善・整備が多いようです。さらに,小学校と中学校の半数が,「機器にかかわる整備」をあげています。
これらのことから,コンピュータ活用環境の整備は,取り組みが緒についたばかりと思われ,ソフトウェア面,ハードウェア面での充実と併せ,コンピュータの機能を発揮できる活用環境の整備を急ぐ必要があると考えます。
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@ 地域の素材,人材の活用の在り方
【表−17】は,地域の素材や人材の発掘・活用について調査した結果をまとめたものです。
小学校,中学校の全部の学校が「保護者や地域との協力」をあげています。さらに,中学校が「教職員による調査」や「公的機関の利用」を多くあげているのに対して,小学校が,学習活動の展開の中で「子ども自らに発掘・活用」させようとしていることがわかります。
これらのことから,地域の素材や人材の発掘・活用にあたっては,保護者や地域への協力依頼や教職員による実際の調査活動などにとどまることなく,多くの小学校があげているように,学習活動の展開の中での「子ども自らが」という視点をもった取組みが大切であると考えます。
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A 家庭・地域との協力体制の在り方
【表−18】は家庭や地域への啓発,連携の手だてについて調査した結果をまとめたものです。
ほとんどの学校が「通信等の活用」,「PTAの会合」などの,学校が主体として実施する機会に行うことを考えているようです。その他としては,「総合的な学習の時間」の名称を地域の人々に募集する中で,その趣旨を理解してもらう等の方策をとっているところもありました。これらのことから,学校が機をとらえ,情報を発信していくことが大切ですが,外部からの情報の受信も含め,啓発や連携のための手だてについて,さらに工夫していくことが必要と考えます。
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