岩手県立総合教育センター教育研究(1999)


児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する研究 【第1報】


目  次

1 はじめに
2 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方についての基本的な考え方
 (1)児童生徒の社会性をはぐくむことの重要性
 (2)学校において児童生徒にはぐくまれる社会性のとらえ方
3 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての問題点と課題
 (1)実態調査について
 (2)児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての実態
 (3)児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての問題点と課題の把握
4 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本構想と推進試案
 (1)児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本構想
 (2)児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する推進試案
5 研究のまとめと今後の課題
 (1)研究のまとめ
 (2)今後の課題
6 おわりに

主な参考文献

1 はじめに

 生徒指導では、教師と児童生徒や児童生徒どうしの好ましい人間関係を育てたり、児童生徒が集団のなかで積極的に自己を生かすことができるような指導が大切です。
 しかし、児童生徒のなかには自分の気持ちをおさえながら他人と協調して行動することができなかったり、好ましい人間関係を作れないでいる状況が多く見られるようになってきました。このことは、子どもを取り巻く環境が大きく変化して、望ましい対人関係や集団活動ができにくくなっていることや社会性を育てる指導が十分とは言い難い状況であることなどによるものと考えました。
 このような状況を改善していくためには、社会性をはぐくむ生徒指導の観点を基にしながら、児童生徒の問題行動や非行などの対応に追われがちなこれまでの指導体制を見直すとともに、集団のなかで積極的に自己を生かして生き生きと活動に取り組むような活動の工夫をしていくことが必要です。
 そこでこの研究では、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導上の問題点や課題を把握し、社会性をはぐくむ生徒指導の在り方を明らかにすることにより、学校における生徒指導の改善と充実に役立てることをねらいとしました。

2 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方についての基本的な考え方

(1)児童生徒の社会性をはぐくむことの重要性
 今日、児童生徒を取り巻く社会環境は大きく変化し、家族の少子化や核家族化が進み、家族のなかで多様な人間関係や生活体験が少なくなっていると指摘されています。また、地域社会においても異年齢や異世代の人たちとの交流の機会が減ってきて、児童生徒の円滑な人間関係を営むなどの社会性をはぐくむ体験の機会が減少してきているように思われます。
 そのため、人間関係が希薄になり、相手の気持ちに立って考える思いやりに欠け、相手の気持ちを傷つけたり、自分本位の行動のため集団活動ができにくくなったりする状況が多く見られるようになってきたと考えます。
 このような状況を考えるとき、問題行動の対応に追われがちな生徒指導だけでなく、次のような生徒指導が大切であり、その充実を図ることが今後一層求められています。それは、集団生活のなかで積極的に自己を生かしていき、児童生徒の社会性をはぐくむような積極的な生徒指導です。また、中央教育審議会での第一次答申では、「生きる力」の重要な要素を次のように説明しています。それは、「いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性 」、そして、「たくましく生きるための健康や体力」です。
 ここでは、個人として自立していくことと、社会の成員として共に生きていくことの大切さが述べられており、「個の確立」と「他との調和」をもとめる社会性の資質と深い関連があります。このように社会性をはぐくんでいくことは、生きる力をはぐくむことからも求められています。

(2)学校において児童生徒にはぐくまれる社会性のとらえ方
 一般に、社会性については、「人間が人間社会のなかで安全にしかも適応的に生きていくためのあらゆる能力や特性のこと」と言われています。これには、個人が所属してる社会が支持する生活習慣や価値規範などを習得し、それにそった行動をするためのあらゆる能力や特性が含まれています。そしてこのときの行動には、所属する社会にただ順応することだけではなく、自分を確立し、社会をよりよい方向に変えようとする積極的な態度も含んでいます。
 以上のようなことから、広義の社会性の定義を「個人が自己を確立しつつ、人間社会のなかで適応的に生きていく上で必要な資質や能力・態度のこと」ととらえたいと思います。
 また、この社会性は、生まれつき人間に備わっているものではなく、両親との愛着を基盤とし、その結びつきがやがて地域、社会へと広がりながら後天的にはぐくまれていくものです。つまり、この社会性は、家庭をはじめとし学校や地域社会など、社会全体ではぐくまれていくものととらえます。
 このように、児童生徒の社会性をはぐくむことについては、学校だけではなく、地域社会や家庭との密接なかかわり合いが大切なことですが、本研究は、そのなかでも集団生活を行う学校教育に焦点をあて、児童生徒の社会性をはぐくむ指導にはどのような視点が必要なのかを生徒指導の側面から明らかにしていきたいと考えます。
 またこの研究は、これまでの学校における様々な教育活動が、児童生徒の社会性をはぐくんでいくことに結びつくという漫然としたとらえから、今年度は、どのような視点や要因が社会性をはぐくんでいくことに結びつくのかを明らかにし、今後の生徒指導に生かしていこうとするものです。

3 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての問題点と課題

(1)実態調査について
 以上のような考え方に従って、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方についての基本構想や推進試案を立案するために、以下の要領で実態調査を行うことにしました。

ア 調査の目的
 この調査は、岩手県内公立小学校及び中学校における社会性をはぐくむ生徒指導の在り方にかかわる問題点と課題を把握し、学校における生徒指導の改善と充実を図るための基礎資料を得るために実施しました。
イ 調査期間
 平成11年11月4日(木)〜11月8日(月)
ウ 調査方法・調査対象
 調査依頼校は、県内公立小学校及び中学校から小学校100校、中学校50校を地域と規模を 勘案して抽出し、各校の生徒指導主事に対して質問紙法で行いました。
エ 調査観点と調査項目
 調査内容としての調査観点と調査項目は次頁の【表−1】のとおりです。

(2) 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての実態

ア 児童生徒の社会性を育成するための指導に関する実態
 【図−1】に示したように、「児童生徒の社会性をはぐくむための指導が十分に行われていますか」の問いに対しては、「十分行われている」と「どちらかというと行 われている」を合わせると小学校が93%、 中学校が88%で、小学校、中学校ともに約9割が行われていると回答しています。
イ 児童生徒の社会性の育成状況に関する意識
 【図−2】に示したように、「 児童生徒に社会性が十分はぐくまれていると思いますか」の問いに対しては、「十分はぐくまれている」と「どちらかというとはぐくまれている」を合わせると小学校では58%、中学校では64%で、小学校、中学校ともに約6割がはぐくまれていると回答しています。
 また、【図−1】と【図−2】の結果から、次のことがわかります。社会性をはぐくむ指導が小学校、中学校で約9割が行われているという実態に対して社会性がはぐくまれていると感 じている割合が約3割減って6割となっています。このことから、社会性をはぐくむ指導は行わ れているものの、その指導が効果的に行われていなかったり、さらに効果的な指導をしなければならないととらえていることがわかります。
ウ 思いやりの態度を育成するための指導に関する実態
 【図−3】に示したように、社会性の内容の中核をなす「思いやりの態度を培う指導を意識して指導していますか」の問いに「いつも意識して指導している」と「ときどき意識して指導している」を合わせると小学校が98%、中学校は94%で、小学校、中学校とも約9割以上の高い割合で、意識して指導をしている実態がみられます。
 なお、「思いやりの態度」を培う指導の在り方については、中学校においては十分に共通理解が図られてなされているとは言い難い実態が見られました。
エ 児童生徒の社会性の不足の実態に関する意識
 【図−4】に示したように、「児童生徒の社会性が欠けてきていることに関して、あなたが感じている内容はどれか」という問いに対しては、「ときどき感じることがあり、何とかしなければならない」と「積極的に取り組むべき大きな問題である」を合せると小学校が85%、中学校が82%であり、社会性の欠けている児童生徒に何とか指導をしなければならないと考えている割合が、小学校、中学校とも合わせて約8割を 越えています。
 【図−1】で示されているように、社会性をはぐぐくむ指導が9割以上行われているという実態があるにもかかわらず、【図−4】の結果のように、「何とかしなければならない」、「積極的に取り組むべきである」と考えている割合が8割を越えています。このことは、社会性をはぐくむ指導を意識して行っているものの、教師が期待するほど児童生徒に社会性がはぐくまれておらず、指導の充実を今後図っていかなければならないという意識があると考えられます。

オ 社会性がはぐくまれない原因(ア)、社会性をはぐくむ指導が行われない原因(イ)、思いやりの指導が行われてこない理由(ウ)
 (自分の学校において、児童生徒に社会性がはぐくまれていないととらえている小学校の生徒指導主事に対して行ったものを例として示します。)

(ア) 社会性がはぐくまれない原因について
 次頁の【図−5】に示したように、「どういうことが原因で社会性がはぐくまれていないと思うか」の問いに対しては、学校における児童生徒の認知、情意面や教師の指導や意識に原因を求めています。さらに、地域・家庭・社会全般にも、それぞれの原因のよりどころがあるととらえていることがわかります。
(イ) 社会性をはぐくむ指導が行われない原因について
 次頁の【図−5】に示したように、「どういうことが原因で、児童生徒に社会性をはぐくむための指導が行われていないのだと思うか」の問いに対しては、教師の指導体制に原因を見いだしています。その中でも、「指導内容・指導方法の共通理解不足」、「職員間の指導意識の温度差」「対症療法的な指導に追われる」があげられています。この問いに対しては、中学校でも同じような結果がみられました。
 このことから、「社会性が十分はぐくまれていない」と考える教師側の意識において社会性をはぐくむ指導を阻害している要因として、指導体制に不備を感じていることがわかります。
(ウ) 思いやりの指導が行われてこない原因について
 次頁の【図−5】に示したように、「学校の日常生活で、児童生徒に思いやりの態度を培うための指導を意識して行うことができないでいるのはなぜか」の問いに対しては、「指導の必要性を感じない」、「互いに励まし合う活動や指導を日常的にしているから」と記述しています。なお、中学校においては「指導方法の理解不足」「学校体制での取り組みの欠如」があげられていました。
 このことから、指導を行うことができないと考える教師の意識として、指導ができない要因を、教師の意識に温度差があることや学校体制の不備に見いだしていることがわかります。

カ  学校生活での社会性を育成する指導体制に関する実態
 生徒指導上、共通理解を必要とする内容についての認識
 7頁の【図−6】で示したように、「教師の共通理解を図ることで特に必要なことはどれですか」の問いに対しては、小学校・中学校とも「はぐくまれた姿」、「指導内容」、「指導方法」 などについて共通理解を図らなければならないという意識があることがわかります。

 では、はぐくまれた姿、社会性をはぐくむ指導方法等どのように考えているかについての実態を示します。

キ 社会性の育成された児童生徒のとらえ方に関する認識(中学校を例にして)
 次の【図−7】のように、「社会性のはぐくまれた児童生徒の姿を、どのようにイメージしていますか」の問いに対して、中学校のものを例にしますと、「社会的スキルがある」、「思いやりの態度がある」、「集団、社会への順応性がある」、「基本的生活習慣の確立」、「規範意識がある」が多くあげられています。小学校においても同様の傾向がみられました。
 これらのことから、教師がとらえている児童生徒の社会性がはぐくまれた姿に、「個の確立」、「他との調和」の二つの側面を見いだすことができます。

ク 生徒指導の機能を生かした指導の工夫の実態
 【図−8】、【図−9】に示したように、「学校において生徒指導の機能を生かした指導で工夫していることは何か」の問いに対しては、小学校では、「教師の共通理解と指導の徹底」、「話し合い活動の重視」、「異年齢集団活動の充実」が多くあげられています。また、中学校では、「話し合い活動の重視」、「教育相談活動の充実」、「勤労体験活動の充実」、「ボランティア奉仕体験」が多くあげられています。このことから、児童生徒の発達段階をおさえて、小学校では、教師による指導が前面に出された活動に重点が置かれていることがわかります。一方、中学校では、生徒自身に話し合わせて考えさせる活動に重点を置いていることがわかります。
 また、小学校、中学校共通していることとして、「自己決定の場の設定」、「共感的人間関係の育成」、「自己存在感の感得」という生徒指導の三機能をふまえた活動を行っています。また、その三機能が総合的に生かされやすい活動としてボランティア、奉仕、福祉、勤労の分野の体験活動が多く行われていることがわかります。

ケ 児童生徒の社会性を育成するための指導方法の実態(小学校を例にして)
 次の【図−10】に示したように、「児童生徒の社会性をはぐくむ指導として行っていることは、どのようなことですか」の問いに対しては、「日常の生活指導」、「異年齢集団活動」、「地域との交流活動」、「児童会活動全般」、「ボランティア活動」が多くあげられています。「特別活動」のなかでの活動が多いですが、福祉、ボランティアの体験活動の割合よりも異年齢集団活動や児童会活動が目立っています。また、地域とのかかわりを重視した活動が数多く行われていることや、総合的な学習の時間にむけての活動が比較的多いことが特徴としてあげられます。中学校においても、総合的な学習の時間にむけての活動を除けば、共通した傾向がみられました。
 これらのことから、特別活動をはじめとして、日常活動をふくめ、学校の教育活動全般と家庭や地域とのかかわりにおいて社会性をはぐくむ指導をしていることがわかります。

(3)児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての問題点と課題の把握
 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての実態調査の結果から、課題を次のようにとらえました。

@ 生徒指導の機能を生かした児童生徒の社会性をはぐくむ活動の取り組みが必要であること
A 社会性をはぐくむための生徒指導の視点を明らかにする必要があること
B 社会性をはぐくむための共通理解の内容を中心とした生徒指導の指導体制の視点を明らかにすること

以上のような実態調査の課題をふまえて、基本構想を次のように考えていくものとします。

4 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方についての基本構想と推進試案

(1) 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本構想
ア 児童生徒にはぐくまれる社会性と生徒指導の在り方とのかかわりについて
 本研究では、学校における児童生徒にはぐくまれる社会性については、生徒指導とのかかわりで、次の観点を基に考えていくものとします。
 1点目は、共感的人間関係の育成です。これは、社会生活や学校における児童生徒の集団生活は、他者との人間関係の形成と維持との連続です。したがって、他者への共感性を高め、思いやりの気持ちをもって他者とかかわることが好ましい人間関係を築く基盤になるものと考えました。
 2点目は、自己決定の場の設定です。本研究では、個人が自分の行動を社会的価値に照らし合わせて行動を促進したり抑制する力を自己調整力ととらえました。そしてこの自己調整力を身につけていく過程では、その集団の社会的価値に照らし合わせ、自分の行動を受け入れられるものか、どうかを考え、どのような行動が適切か、自己決定していく積み重ねが自己調整力の発達を促すものと考えました。この自己決定の積み重ねを基にした自己調整力の発達を図ることは、さらに児童生徒の社会性を伸ばすことにつながるものと考えました。
 3点目は、自己存在感の感得です。集団生活で、何らかの役割を期待され、その期待を受け止め、期待に応えて行動し責任を果たすことで、周囲からも認められ、集団の一員として役立つことができたという自己有用感を感じて、社会的役割を自分のものとして担うことを学んでいくと言われています。自己有用感を感じていくのは、積極的な生徒指導で大切にされている自己存在感を自覚していくことに結びつくものと考えました。
 以上のような考え方を基に、本研究でめざす児童生徒に社会性のはぐくまれた姿を次のようにとらえました。

『他との調和を図りながら、自己のよさを、自己や他のために発揮しようとする児童生徒』

イ 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方の視点
 児童生徒の社会性をはぐくんでいくためには、次の(ア)〜(カ)の6つの視点から行うことが必要であると考えました。
(ア) 共感性

 相手の抱く感情に気づき、相手の立場にたって考えようとする資質である。この共感性が起点となって、役割取得から思いやりの態度、向社会的行動へと続き、社会性のはぐくまれた姿へ近づいていくものである。

(イ) 役割取得

 相手はどんな行動をしようとしているのか、自分にどんなことをしてもらいたいのか、相手にとっての自分の役割を考えようとする態度である。後に述べる自己調整力や自己有用感の起点になりやすく、それらとの結びつきが強いものである。

(ウ) 思いやりの態度

 相手が喜ぶようなことをしてあげようとする心構えがある状態ととらえる。この態度は 役割取得やそれから派生した自己調整力や自己有用感と結びつきが強いものである。また、社会性のはぐくまれた姿に近づくために必要な向社会的行動を引き起こす中核となるものである。

(エ) 向社会的行動

 相手のためになるだろうと予想した行動をとることである。この行動は、その傾向が強まってくると、特定の相手にとどまらずより広い他者に対する行動として、相手のためになろうと発展していくものと考えられている。また、社会的スキルとともに社会性を構成するものとして位置づけられている。

(オ) 自己調整力

 相手に対する自分の役割を予想した後、相手のためになると判断したときは、その行動を促進し、ためにならないと判断したときは抑制して自分の行動を調整する力である。また、この能力は、役割取得から引き出されやすく、思いやりの態度への起点になりやすい。

(カ) 自己有用感

 相手にとって自分の役割がわかり、自分のやることが相手のためになるという意味を見いだしたときに感じるものである。これは、役割取得をした後に派生しやすいものである。また、相手にとって役立つことをしてあげようという思いやりの態度に結びつくものである。

ウ 社会性をはぐくむための指導体制の見直しを図ることの意義
 児童生徒に社会性をはぐくむための指導体制を見なおすことは次のことから重要なことだと思われます。
 指導内容や指導方法について共通理解を図った後、指導内容や指導方法を具現化していく際に、人とかかわる多くの場面で、継続的に、意図的に指導していくことになります。また、従来あまり社会性をはぐくむ視点を意識せずに行われてきた児童生徒の活動の指導の在り方を再確認することで、意図的な指導が行われ、より社会性がはぐくまれることにつながると考えました。
 これらのことから、児童生徒に社会性をはぐくむ視点を教育活動のなかでより焦点化することにつながり、はぐくむ社会性の資質や能力・態度のより効果的な育成につながるものと考えました。

エ 集団のなかで自己を生かす活動を取り入れることの意義
 この活動には、自己のよさを見いだし、そのよさを自分の向上のために生かすという「個の確立」の側面と、他の向上のために生かすという「他との調和」の側面があるととらえます。
 このことをふまえると集団のなかで自己を生かす活動を取り入れることは次のことから重要なことだと思われます。
 第一には、生徒指導のねらいである自己指導能力の育成も、社会的な資質や能力・態度を体得しながら自己実現を図っていくことなので、「個の確立」と「他との調和」の側面を育成することになります。このことから、自己を生かす活動は自己指導能力の育成を目標とする生徒指導のねらいにつながります。
 第二には、右の【図−11】に示されている社会性の構造につながります。社会性は、【図−11】のように向社会的行動や社会的スキル、社会性の資質・能力・態度から構成され、相互にかかわりをもち、社会性のはぐくまれた姿に近づいていくと考えます。中でも向社会的行動は、自分のもっているよいところ(「個の確立」の側面)を相手のためになるように考えて行うこと(「他との調和」の側面)なので、集団のなかで自己を生かす活動は、社会性を構成している向社会的行動の育成につながると考えます。
 第三には、集団のなかで自己を生かす活動は、具体的で体験的な活動であるため、集団への所属感や満足感など集団のよさを実感させることにつながります。

オ 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本構想図
 これまで述べてきた児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本的な考え方及び基本構想に基づき、基本構想図を【図−12】のように作成しました。

(2) 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方についての推進試案
 これまで述べてきた基本構想をもとに、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する推進試案を以下のように示すこととします。
ア 教師の共通理解を中心とした、指導体制の見直しに結びつく社会性をはぐくむ生徒指導の項目及び観点と、社会性のはぐくまれた児童生徒の主な姿を明らかにした推進試案を、次の 【表−2】のようにまとめました。
イ 社会性をはぐくむ生徒指導における、他に対する「思いやりの態度」を中核とする向社会的行動を培う集団のなかで自己を生かす推進試案を次頁の【図−13】のようにまとめました。

5 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ
 本年度は、2年次研究の第1年次として、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する実態調査を実施し、問題点と課題を把握するとともに、その解決のための基本構想を立案し、基本構想に基づく推進試案を作成しました。
 ここでは、それらの研究について概括的にまとめます。

ア 児童生徒に社会性をはぐくむことの今日的課題とその重要性、学校において児童生徒にはぐくまれる社会性のとらえと生徒指導とのかかわりについての基本的な考え方を明らかにしました。
イ 児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導についての実態調査とその分析及び検討を行い、これまでの学校における児童生徒の社会性をはぐくむための指導体制の見直しと、集団のなかで自己を生かす活動の必要性を明らかにすることができました。
ウ 実態調査の分析から明らかになった課題を基に、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導の在り方に関する基本構想の立案を行いました。さらにこの基本構想を基に、指導体制の見直しと自己を生かす活動についての推進試案を作成することができました。

(2) 今後の課題
 本年度の研究結果をふまえて、教師の共通理解を中心とした指導体制を生かしながら、集団のなかで自己を生かす具体的な活動の内容を検討していく必要があります。また、試案をとおして、児童生徒の社会性をはぐくむ生徒指導について、事例的、実践的に究明していくことが課題です。

6 おわりに

 この研究を進めるにあたり、調査にご協力をいただきました石鳥谷町立新堀小学校、大迫町立大迫中学校の校長先生をはじめ、諸先生方に心から感謝申し上げるとともに、実態調査にご協力いた だきました県内各地の小学校、中学校及び各教育委員会、各教育事務所にお礼を申し上げ結びとさ せていただきます。


【主な参考文献】
・山極 隆編 『豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人』 新しい教育課程と学校づくりA ぎょうせい 1999
・東京都教育委員会『子どもたちの豊かな人間関係を育てるために』 〈平成3年度 児童・生徒健全育成推進資料〉 1992
・千葉市教育センター『生きる力を育む学校と家庭の役割に関する研究 −子どもの社会性の育成をめぐって−』 1998
・菊地章夫 『また/思いやりを科学する』 川島書店  1998
・繁田 進他 『たくましい社会性を育てる』 有斐閣 1995
・坂本昇一他 『生徒指導の機能を生かす』実践生徒指導D ぎょうせい 1994
・R・ネルソン 『思いやりの人間関係スキル』 誠信書房  1993 =ジョーンズ



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