岩手県立総合教育センター教育研究(1999)
学校における教育相談の在り方に関する研究(第2報)
目 次
1 はじめに
2 学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案作成の考え方
(1) 学校における教育相談の在り方に関する基本構想の概要
(2) 学校おける教育相談の在り方に関する指導・援助試案作成の考え方
3 学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案の作成
(1) 学校における教育相談の在り方「解説(理論)編」について
(2) 学校における教育相談の在り方「実践@(推進・組織)編」について
(3) 学校における教育相談の在り方「実践A(事例)編」について
4 学校における教育相談の在り方「解説(理論)編」
(1) 学校教育相談の概論
(2) 児童生徒の内面理解
5 学校における教育相談の在り方「実践@(推進・組織)編」
(1) 教育相談体制の確立
(2) 校内研修の進め方
6 学校における教育相談の在り方「実践A(事例)編」
(1) 小学校の事例「学校で話そうとしない小学生への援助の在り方」
(2) 中学校の事例「保健室登校を続ける中学生への対応」
(3) 高等学校の事例「高校生の不登校の基本的理解と対応」
7 おわりに
≪引用文献≫
≪主な参考文献≫
1 はじめに
学校は、児童生徒が集団生活をとおして、自らのよさを発見し、自己を高めたり、社会性や自律性を身につけたりする場です。そして、教師は児童生徒一人一人の個性を尊重しながら、児童生徒の自己実現を図るための指導・援助を行うことが必要です。
しかし、最近の学校の状況をみると、不登校やいじめ問題等で学級になじめない児童生徒や、教師に反抗し学級の秩序を乱し意図的に学級からはみでる児童生徒などが増えてきています。これは、教師が児童生徒の内面理解を図ることが不十分で児童生徒との信頼関係が形成されていないために、児童生徒への指導・援助が適切でないことによるものと考えられます。
このような状況を改善するためには、教師は「児童生徒はもっとよくなりたいという成長の動機をもった主体的な存在である」という人間信頼の立場に立ち、児童生徒の気持ちを敏感に受けとめて共感的に理解し、児童生徒の自己決定を促すように、教育相談に対する資質向上を図っていく必 要があると考えます。
そこで、この研究は、教育相談に対する悩みや児童生徒への指導・援助上の問題など、学校における教育相談にかかわる課題を把握し、教育相談の在り方について明らかにし、学校における教育相談活動の充実に役立てようとするものです。
研究完結年次の今年度は、学校における教育相談の在り方に関する基本構想をもとに、学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案を作成し、学校における教育相談の在り方についてまとめました。
2 学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案作成の考え方
(1) 学校における教育相談の在り方に関する基本構想の概要
昨年度は、県内の公立小学校、中学校、高等学校で、中堅として学級担任等を経験されている、教職経験10年を経過した先生方284名を対象に「学校における教育相談推進上の課題と、学校不適応問題への対応、問題点等」について実態調査を行いました。
その結果、以下の9点の課題が明らかになりました。
○ 児童生徒理解に関する意識と実態について
@ 教育活動の中に児童生徒との触れ合いを意図的・積極的に行っていく必要があること
A 児童生徒理解の基本的な考え方や方法について、共通に理解を図る必要があること
B 児童生徒理解を深めるために、対人関係づくりを意図的・計画的に行っていく必要があること
○ 不適応児童生徒への対応に関する意識と実態ついて
C 不適応問題への対応について、さまざまな事例から指導・援助の在り方について理解を深める必要があること
D 不適応問題についての理解と対応のし方について、研修の機会を計画的にもつ必要があること
E 不適応問題への対応は、専門相談員や専門機関を活用し協力体制をつくりながら進めていく必要があること
○ 教育相談に関する意識と実態について
F 教育相談の基本的な考え方や方法を共通に理解し組織として運営する必要があること
G 教育相談の担当が中心となって、相談活動を展開できるような校内体制を確立する必要があること
H 教育相談の研修を計画的に行い、教師一人一人の教育相談に対する資質向上を図る必要があること以上の調査結果及び学校における教育相談の在り方についての指導・援助に関する課題を踏まえ、それらの解決を図る手だてを検討し、以下のような具体的構想を盛り込み【図−1】のような基本構想を立案しました。
@ 教育相談は、「いつでも、どこでも、だれでも」を基本として、教師と児童生徒との信頼関係を確立しながら推進することが、児童生徒の自己実現を図るうえで大切である。
A 教育相談が機能するには、教育相談の進め方や考え方、方法等の理論について共通に理解を図り、学校全体で対応できる校内体制を確立し、推進することが必要である。
(2) 学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案作成の考え方 ア 相談は「いつでも、どこでも、だれでも」を基本に校内体制を確立すること イ 児童生徒との信頼関係を確立すること ウ 教育相談の進め方や考え方、方法についての共通理解を図ること エ 日常のあらゆる機会をとらえた意図的・積極的な児童生徒理解をすすめること オ より実践的・事例的に教育相談の進め方や考え方について共通理解を図ること 以上の観点をもとに、学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案を、教育相談の進め方や考え方、方法についての共通理解を図るための「解説(理論)編」、学校全体で対応する校内体制の確立を図るための「実践@(推進・組織)編」、より実践的・事例的に教育相談の進め方や考え方について共通理解を図るための「実践A(事例)編」の三部構成で、〔表−1〕のように作成しました。 |
3 学校における教育相談の在り方に関する指導・援助試案の作成
学校における教育相談とは、「児童生徒が自分の課題、または問題について自己理解し、どのようにするとその解決が図れるかを洞察し、自らの内にもつ力によって自己を変容していくとき、その過程を援助する教育活動」(『生徒指導の手引き(改訂版)』(文部省))を言います。 不登校や、高校中途退学者数の増加、集団不適応や学級崩壊の問題等、社会状況の変化にともない教育相談へのニーズがますます高まり、教育相談は、一部の専門家だけの分野ではなくなってきています。特に学校においては、「日常児童生徒と接している教師がカウンセリング・マインドを身に付け、児童生徒のさまざまな相談に応じること、問題行動の予兆となるサインに気付き、適切な手だてを講じること、問題行動等を通じて周囲の助けを求めている児童生徒に的確なケアをすること」(「新しい時代を拓く心を育てるために」次世代を育てる心を失う危機(中央教育審議会答申)より)などが、今後ますます大切になってきています。 また、昨年度の本研究の実態調査から、どの校種とも共通して「教師間の児童生徒についての共通理解」や「基礎的な教育相談の研修」の必要性、「校内の共通理解と連携」の必要性を先生方が感じていることも明らかになりました。 以上のことから、「解説(理論)編」では、学校において日常的に教育相談を進めるうえで基本となる考え方を盛り込むこととしました。 その内容については、〔資料1〕のとおりです。 |
学校内に教育相談体制を確立することは、教育相談を機能的に推進するうえから重要なことです。不登校への対応やいじめ問題の解決等、早期発見、早期対応が求められる緊急時においても、予防的・開発的教育相談を推進していくうえでも、校内に教育相談体制を確立し、日常的に教育相談が機能していく学校の在り方が求められています。 実態調査から、教育相談が校内において機能していくための要件として「教育相談担当の組織上の位置付け」と「校内の連携の在り方(スクールカウンセラー、心の教室相談員等を含む)」「教育相談担当の役割の共通理解と協力体制」を各校種の先生方がともに挙げていることが明らかになりました。 以上のことから、「実践@(推進・組織)編」は、校内における教育相談を推進していく核となる担当者の役割の明確化と、それぞれの連携の在り方、校内研修の在り方について述べることとしました。 その内容については、〔資料2〕のとおりです。 |
ウ 教育相談の機能
(ア) 開発的教育相談…児童生徒の能力、人格、精神的健康などを、さらに望ましい方向へ押し進めます。一人一人の自己実現の課題を明確にし、その可能性を最大限に伸ばすように援助します。
(イ) 予防的教育相談…一人一人の児童生徒の内面理解を図り、信頼関係を確立します。日頃から、一人一人の児童生徒の精神的健康の維持と増進を図ります。
(ウ) 治療的教育相談…問題を抱えた児童生徒を対象に、どのようなことで、どの段階でつまずているかなどを明らかにし、一人一人に見合ったかかわりをもち、自己実現欲求を引き出しながら適応を図ります。
(エ) 訓育的教育相談…問題行動傾向をもつ児童生徒には、信頼関係を前提として、「気持ちは受容するが行為は認めない」という毅然とした姿勢で、本人の将来を思いやり、問題行動をなくして、けじめを守らせる援助を行います。
(2) 児童生徒の内面理解
ア 児童生徒理解の方法
児童生徒を理解する方法には、観察法、調査法、検査法等があり、他にも日記、作文等の作品による方法等、多くの方法があります。これらの方法には、それぞれの特徴とともに限界もあるので、実施にあたっては、その特徴・限界等を十分に理解しておく必要があります。
イ 児童生徒理解の種類
(ア) 主観的理解
児童生徒の容貌、態度、動作等の外面的なものから、観察者の経験、価値観をもとに、性格、人間性、能力等を理解することです。独善的、ステレオタイプ的な理解にならないように注意します。
(イ) 客観的理解
調査・検査、家庭環境、生育歴、友人関係、学業成績等の客観的事実をもとに、性格、適性、進路、能力等を理解することです。児童生徒を独自な存在として捉えにくいので、機械的、評価的に偏らないように注意します。
(ウ) 受容的・共感的理解
児童生徒個々の価値観、動機、悩み、心情等をその立場に立った受容的・共感的な姿勢で理解するもので、指導・援助において最も重要なものです。
ウ 児童生徒理解の留意点
(ア) 教師自身が自己理解の努力をすること
(イ) 受容的・共感的態度で接すること
(ウ) 総合的理解をすること
(エ) 一人一人の児童生徒との触れ合いを深め、親しく話し合うこと
(オ) 客観的、科学的立場に立ち、広い視野から多面的に理解すること
(1) 教育相談体制の確立
ア 校内組織と校内体制
校内の教育相談体制を確立することは、教育相談を機能的に推進するうえから重要なことです。教育相談担当はもちろんですが、小・中学校においては統括している生徒指導主事や児童生徒の心身の健康について日常的にかかわりをもっている養護教諭等との連携を図りながら推進していくことが重要です。
(ア) 教育相談担当の役割
教育相談担当の役割としては、年間計画の策定・運営、校内研修会の企画・運営、広報・調査・情報提供等があります。
教育相談のねらいや目標を明確にして年間計画を策定することは、全ての教師による教育相談活動を進めるうえで大切なことです。年間計画には、学級経営上日常的に行う児童生徒理解に関する相談活動(チャンス面接・自主来談面接等)や定期的に実施する教育相談週間、児童生徒の内面理解を図るための調査や教育相談への理解と啓蒙を図るための広報活動、そして教員一人一人の力量を高めるための校内研修会の企画等が挙げられます。
高等学校の教育相談室の活動内容としては、次のようなものがあります。
@ 自主的に相談に来る生徒への相談活動
A 担任や学年、保健室、生徒指導部などから依頼された生徒への相談活動
B 教育相談室の広報活動
C 心理検査の計画立案と活用
D 教育相談に関する研修会の企画・運営
E 教育相談室会議や対策委員会(プロジェクトチーム)での活動
(イ) 保健室との連携
保健室は、健康診断や欠席・早退等の情報、日常の救急処置など心身の問題の早期発見と初期対応がしやすい場所であり、教育相談の立場からみると児童生徒にとっては、リラックスでき安心して居られる場所になることが望まれます。
一般的に、保健室には次のような機能があるとされています。
@ 養護教諭との信頼関係の中で、一対一で向き合い、心の中のことも話せる。
A 養護教諭は、成績評価をしないので、授業や生活面のことを何でも話せる。
B 身体的、精神的に気になっている症状があれば、生徒が気軽に保健室に入れるし、相談できる。
C 養護教諭から熱や脈を測ってもらえたり、傷の手当や薬の処方をしてもらったりして、スキンシップが図れる。
また、養護教諭は、次のようなことに配慮しながら、保健室運営を行うことが大切です。
@ 児童生徒が安心して入れる保健室にすること
相談活動の第一歩は、安心できるところで、安心して話せる人と一緒にいることから始まる。
A 児童生徒の話をよく聴くようにすること
児童生徒の動作や、表情、話し方などから児童生徒の真の訴えを感じとれるような感受性をもつことが望まれる。
B 校内の教育相談組織や他の教職員との連携を図ること
校内に教育相談に関する組織があり、養護教諭がそこに位置付けられていることが望ましい。もし、位置付けられていない場合でも、保健室に関係した児童生徒については、教育相談担当教員等と協力してすすめる。
イ 校内組織の連携
教育相談の推進においては、児童生徒の問題行動や不適応問題への対策として、対策委員会等を組織し、いつでも対応できるように校内体制をつくることが必要です。
次に示すのは、小・中学校における対策委員会の組織の具体例です。
対策委員会の開催については、定期的なものや臨時的なものが考えられますが、委員が一同に集まるための時間の工夫は、それぞれの学校の実態に合わせることが必要です。
そして、開催にあたっては必ずしも委員全員がそろうことに固執せず、事後報告も行いながら推進することが大切です。いかなる場合でも、学級担任を支えるための校内の連携を第一に考え、児童生徒と保護者(家庭)への対応が共通理解のもと統一された方針で進められることが重要です。
特に、保護者との連携については、学校側の窓口を学級担任や、教育相談担当と固執することなく、保護者が安心して相談できる先生を中心に推進することが大切です。
学級担任が一人で抱え込まないようにするためには、教育相談担当がリーダーシップをとり校内の組織に働きかけていくことが必要です。
(ア) 保護者との連携
保護者にとって、「自分の子どもは世界で一番かわいい」存在であることを理解しながら連携を図ることが大切です。児童生徒が問題行動を起こしたり、不登校になったりすることで保護者はどのように対応したらいいか分からなくなり、混乱し対応に苦慮する場合があります。そのような時に、児童生徒個人や家庭内の問題性を指摘しても保護者を混乱させるだけで問題の解決に向かうとは考えられません。まず、保護者の不安や混乱という心情を受け止めることが必要です。そして、児童生徒をいっしょに育てていく協力者として、対等の立場で接し、信頼感をもってもらえるような対応が望まれます。教師が柔らかな表情で接することで、保護者はほっとすると言います。そのような関係を基本にして、児童生徒の現実をありのままに共有できるように、家庭での様子を尋ねながら、学校での様子を伝えるという構えのない雰囲気を保つことです。
もちろん、普段から学校での児童生徒の様子を伝える場面を設けるなど、家庭とのよい関係づくりは欠かせません。
現在、教育改革にともない「地域に開かれた学校」が望まれています。地域内の各種団体との交流、校舎の開放など、学校が地域の中で機能していくためには、教師と保護者の信頼関係を基本にしながら、地域の方々との人間関係を構築していく姿勢が求められています。
(イ) スクールカウンセラー、心の教室相談員との連携
平成7年度から小・中学校及び高等学校の一部に、教師とは違う立場で児童生徒と接することができるスクールカウンセラーが配置されています。また、平成10年度からは県内の約7割の中学校に心の教室相談員が配置されました。
スクールカウンセラーは、臨床心理士などの専門的な知識・技能を習得し、実務経験も必要とされています。連携にあたっては、趣旨に沿って、それぞれの役割を明らかにし、活用の在り方について校内で共通理解を図りながら進めていかなければなりません。
児童生徒にとって、スクールカウンセラーは、親や教師とは違う立場で、受容・共感・傾聴してくれる存在です。スクールカウンセラーに相談することによって、情緒的に安定し、自己理解を深める児童生徒も多くいます。
また、教師にとっても、スクールカウンセラーに、専門的な立場から助言を受けることにより、より深く児童生徒理解を進めることができる重要な存在です。
したがって、配置にあたっては教職員の共通理解や児童生徒への周知などいろいろ協議しておく必要があります。
次に示すのは、ある中学校でスクールカウンセラーの配置にあたり、「学校側のニーズを、いかにカウンセラーのもつ専門性につなげるか」という基本的な姿勢に基づいた考え方です。
@ スクールカウンセラーは、あくまでも教職員への援助が主であり「黒子」的存在であること
A 受容と共感を原則とする教育相談だが、何でも全てを受け入れるわけではないこと
B スクールカウンセラーは、相談者の心情に配慮することから、カウンセリングの内容の全てを学校側に話せるわけではないこと
なお、スクールカウンセラーの活動の内容として、スクールカウンセラーの活動内容
ります。
スクールカウンセラーと教師が密接な連携を図りながら、役割分担や相談体制を確立し同一歩調で教育相談活動に取り組むことが重要です。
スクールカウンセラーと学級担任、教育相談担当、養護教諭等との連携が円滑にいくことが、児童生徒の健全な学校生活につながっていきます。
また、心の教室相談員は、中学校という思春期を迎えた生徒が悩みや不安等について気軽に話せ、ストレスを和らげるための相談ができる第三者的な存在となり、生徒が心のゆとりをもてるような環境を提供する必要から配置されています。
その趣旨を生かして、スクールカウンセラーと同じように校内の共通理解のもと生徒のために機能させることが大切です。
ウ 教育相談室の運営
児童生徒にとって、教育相談室は居心地がよく気軽に立ち寄れるよう環境整備をすることが必要です。特にも悩んでいる児童生徒や落ち込んでいる児童生徒には、学校の中で気持ちがゆったりできるような居場所がないので、教育相談室がそのような児童生徒の安らぎの部屋になるようにしたいものです。
ともすると、教育相談室は問題行動を起こした児童生徒の取調室のようになりがちですが、教育相談担当者は、花を飾ったりカーテンを明るいものにしたりして雰囲気を和らげ、児童生徒が気軽に立ち寄れるように努めてほしいものです。
(2) 校内研修の進め方
ア 校内研修計画の作成
教育相談について、校内の研修会を計画的に行うことが、教師一人一人の教育相談に対する資質を高めることにつながります。そこで、教育相談担当者は、校内研修の計画を立てる際には、次のようなことに留意しながら作成することが大切です。
@ 1年間を見通し、予防的なものや治療的なもの、開発的なものを適時性を考えながら構成して行うこと
A 研修の方法として、理論や知識の習得に片寄ることなく、教師自身の感性や表現力を磨くために、実技や演習も組み入れて行うこと
イ 校内研修の内容
校内研修会は、定期的に行うことが効果的であることから、次のような視点から内容を考え、年間の研修計画に組み入れたいと考えます。
ウ 校内研修の推進
校内研修として、ここでは、事例研修会について具体的に例を示します。事例研究会は、児童生徒の客観的な事実や内面理解を図り、適切な指導の方法を探るもので、具体的な事例を参加者が知識や体験に基づいて分析し、実際的な解決策の検討、討議を行うことです。
多くの意見や考え方に触れることで、教師自身の視野が広がったり、自分自身を見直す機会にもなります。事例提供者の力量や指導の不足を指摘するのではなく、以後の指導・援助に役立つような姿勢で臨むことが大切です。形態としては、全校研修、希望者・有志、学年会(拡大学年会)、校務分掌部会などがあります。
事例研究の方法としては、生育歴や家庭環境等から問題の背景について、次頁〔資料5〕に示した「診断仮説の構造図」に整理しながら行う方法や、インシデント・プロセス方式といってグループ討議を中心にし、原因や主訴について考え、対応策について検討する方法などがあります。
事例研究の進め方としては、次のような手順があります。
@ 問題行動の背景にあるさまざまな要因を、生育歴、学校生活史、家族構成、性格・行動などから明確にしていく。
A 収集した資料を、「診断仮説の構造図」にまとめると、問題行動発現の要因やメカニズムが理解しやすい。
B 診断仮説から、何をどのように指導・援助すれば問題行動が解消するかを探り、指導・援助方針を決定する。
また、事例研究の時間は、次のように構成することが望ましいです。
@ 事例提示(20分) 客観的事実の説明、困っている点、検討してほしいことの説明
A 情報収集(20分) 出席者による事実の追加、原因、対応のための必要事項の質問
B 方針検討(15分) 事実から可能な対応を検討する
C まとめ ( 5分) 助言者やスーパーバイザーによるまとめ
[資料5] 診断仮説の構造図
なお、どの場合でも学級担任が今後に見通しをもてるような指導・援助方針が立てられることが大切です。そして、参加した教員一人一人の教育相談に対する資質の向上が図られることが重要です。
6 学校における教育相談の在り方「実践A(事例)編
ここでは、小学校、中学校、高等学校、それぞれの校種、1事例について示します。
(1) 小学校の事例「学校で話そうとしない小学生への援助の在り方」
(2) 中学校の事例「保健室登校を続ける中学生への対応」
(3) 高等学校の事例「高校生の不登校の基本的理解と対応」
7 おわりに
この研究の目的は、教師の教育相談に対する悩みや児童生徒への指導・援助上の問題など、学校における教育相談にかかわる課題を把握し、教育相談の在り方について明らかにし、学校における教育相談活動の充実に役立てようとするものです。≪引用文献≫
文部省 小学校生徒指導資料7 「小学校における教育相談の進め方」 大蔵省印刷局 1991
文部省 生徒指導資料第21集 「中学校・高等学校における教育相談の進め方・考え方」 大蔵省印刷局 1990
文部省 「新しい時代を拓く心を育てるために」−次世代を育てる心を失う危機− 中央教育審議会(答申) 1998
≪主な参考文献≫
全国教育研究所連盟 「学校における教育相談の進め方」 ぎょうせい 1989
全国教育研究所連盟 「だれもが身につけたい生徒指導・学校教育相談の技法」 ぎょうせい 1992
國分康孝 著 「学級担任のための育てるカウンセリング全書」 図書文化 1998
國分康孝 著 「<育てる学校カウンセリング> 子どもの心を育てるカウンセリング」 学事出版 1998
今井五郎 著 「個々の児童・生徒に添う 生徒指導と学校教育相談」
ぎょうせい 1994
大野精一 著 「学校教育相談 理論化の試み」
ほんの森出版 1997
「学校教育相談 具現化の試み」
ほんの森出版 1997
小泉英二 著 「学校教育相談・初級講座」 学事出版 1995
千葉県立総合教育センター 「教育相談ハンドブック」 ≪小学校編≫
≪中学校編≫ ≪高等学校編≫ ≪面接編≫ 1998
岩手県立総合教育センター 「学校における登校拒否児童生徒への効果的な対応及び予防の在り方に関する研究」 1995
「学校における『いじめ』の問題の指導に関する研究」 1995