岩手県立総合教育センター教育研究(1999)


特殊教育における教育相談活動の教員支援システムに関する基礎研究

−相談担当教員の研修資料の作成と研修の在り方についての検討−(第1報)


目    次

1 はじめに
2 研究の基本的考え方
3 特殊教育における教育相談
4 教育相談活動の教員支援の在り方
 (1)教育相談体制の組織化と意識化
 (2)特殊教育の専門性を生かした教育相談
5 特殊教育の相談活動にかかわる実態調査の分析と考察
 (1)調査の目的
 (2)調査対象
 (3)調査結果
 (4)調査結果のまとめ
6 特殊教育の相談活動にかかわる教員への支援システム
 (1)教員支援システムの基本構想
 (2)支援試案作成の基本構想
7 研究のまとめと今後の課題
 (1)研究のまとめ
 (2)研修資料の作成と支援試案の作成
 (3)今後の課題
8 おわりに

主な引用・参考文献

1 はじめに

 1981年(昭和56)の「国際障害者年」によって日本において障害児者への理解が高まり,国際障害者年の理念である「完全参加と平等」が標榜されるようになりました。それ以降徐々にノーマライゼーションが浸透し,障害児者が社会を構成する一員であると認識され,社会・経済・文化その他のあらゆる分野に参加する機会の確立などの取り組みが行われてきました。特殊教育においても自立の意味が「学校教育後に働くことができる力」から子供一人一人のあるがままを受け入れて,「子供を中心にして保護者,教師が互いに影響し合い支援し合う関係」を築いていくことへと拡大されてきました。
こうした中で「特殊教育の教育相談は障害が早期に発見された場合,保護者が我が子の障害をどのように受け止めて養育に当たるかは,その後の成長・発達に与える影響が大きく,父母を中心として積極的に養育に当たれるように援助することが大切である」と考えられるようになりました。障害のある子供に対して,保護者の気持ちを受け止めながら,子供の実態を理解してもらい適切な養育ができるように援助することが求められています。
特殊教育における教育相談は,就学相談,養育相談,進路相談など多様な相談内容が含まれます。障害のある子供の相談は,子供の実態や,成長の様子を踏まえて保護者が判断できるように援助することが必要です。つまり,保護者が納得して養育に関われるように援助していくことが大切です。

2 研究の基本的考え方

 特殊教育では児童生徒の指導を行うために,可能な限り客観性と妥当性のある実態把握を行い,適切な就学の場と実態に応じた指導内容など児童生徒個々の課題に即して教育を行わなければ,十分な指導の成果を上げることはできません。
しかし,保護者は,子供の実態を正確につかむことができなかったり,就学の場に戸惑ったり,不安のうちに就学期を迎えることが多く,適切な教育を受けるための判断となる情報が少ないまま就学させることがみられます。また,就学後に指導を担当する教員も,児童生徒個々の十分な情報がないまま指導を行わなければならず,教育相談,就学相談の充実が課題となっています。
このような状況を改善するためには,教育相談,就学相談に関して養護学校が核となり,養護学校区の各市町村教育委員会や特殊学級が連携協力できるような地域の実態に応じたシステムを作ることが求められています。また,よりよい相談ができるように相談担当教員の資質と専門性を高め,相談活動の充実を図っていくことが必要であると考えます。
そこでこの研究では,教育相談と就学相談を担当する教員が抱えている課題を明らかにし,相談場面で活用できる研修資料を作成し,保護者,児童生徒本人への相談実践をとおして,相談活動の内容と方法の在り方について検討するものです。

3 特殊教育における教育相談

 医学の進歩により,障害が生後早い時期に発見されるようになった今日,障害のある乳幼児の家庭においては,保護者はその子供の養育や教育に関わる様々な悩みを抱えています。障害が早期に発見された場合,父母を中心として積極的に養育に当たれるように援助することが大切です。
幼児期になると,他者との触れ合いやコミュニケーション能力を高め,社会性の芽を育てるために,家庭から離れて集団での保育の場が必要となります。障害のある子供の多くは,集団での保育をとおして他者とのかかわり方を学び,援助を受けながら身の回りのことが少しずつできるようになります。また,集団活動の楽しさを知り,他者に働きかけられるように成長していきます。しかし,この乳幼児期が常に順調な発達を遂げるわけではなく,停滞,後退,成長と繰り返します。
障害のある子供の就学の場としては,盲・聾・養護学校や特殊学級が設置され,整備されてきました。その一方で,保護者の教育観や価値観の多様化に伴い,就学の場の選択に際して一義的に決定しかねる場合も少なくありません。障害のある子供の保護者の就学前の1年間は,どこに就学できるのか不安であり,入学時健診の時期に保護者の緊張は一段と高まります。しかも,保護者の考えと異なった就学先等を提示されると,養育に対する自責の念や提示された就学先に対する不満,社会的偏見に対する不安,祖父母との軋轢など様々な要因が重なり何をどのようにしたらいいのか解らないぐらいの混乱に陥る場合もあります。Drotar,D.,etal (1975)によると,障害児を抱える保護者の心理過程は[図−1]に示すような五つの時期を経てくると述べています。障害があると気づいた時点では,どのように育てていけばよいのか迷ったり,相談機関を求めたり,保育の場を求めたりと戸惑うことが多いといわれます。 

 [図−1] 障害児を育てる親の心理過程                
 相談活動の中で,就学相談は特殊教育における相談活動の中で最も多い相談内容であり,大切な活動です。しかし,就学の時点での就学相談だけでは,保護者の就学に対する考えと開きが大きいことがあります。子供の実態にあった就学を勧めるためには就学時点での相談だけではなく,保護者の養育を援助しながら,障害のある子供の発達にかかわる相談に応じ,成長の様子を踏まえて保護者が判断できるように援助することが必要です。
本研究の特殊教育における教育相談は,就学相談,転学相談,入級相談,養育相談,指導相談,進路相談などが含まれます。就学相談には盲・聾・養護学校や特殊学級への就学があり,特殊学級への在籍の変更は入級相談です。特殊学級から盲・聾・養護学校への編入及び転校は転学相談として考えました。養育相談は保護者の養育上の悩みに対応する相談です。指導相談は,教師の学習指導や生活指導などに関する相談です。進路相談は,中学校及び中学部以降の進路に関する相談と考えました。
 相談活動とは,これら来談者に対応する教師の活動を指します。教育相談とは,「教育に関する相談事に対応すること」であり,それぞれの立場を理解し合いながら共感的に同じ土俵の上に立って教育について考える活動です。

4 教育相談活動の教員支援の在り方

(1)教育相談体制の組織化と意識化
 校内体制の整備にあたって重要であると思われるのは,教育相談を学校経営に位置づけ,役割等を明確にすることです。また,全校体制で取り組む視点から教員の配置を行うなどの組織化を図ることが必要です。組織化にあたっては,各学校の地域の状況を考慮するとともに,盲・聾・養護学校では分掌や学部間,特殊学級においては分掌や学級間の緊密な連携を図ることが必要と思われます。また,相談の成果を校内に還元するために全校研修会を組織的に行うことも必要です。また,校内体制を整備するためには,全校の教職員が教育相談活動が特殊教育における今日的課題であることや,地域の期待に対して認識を深めるなど,早期からの教育相談の意義や効果,盲・聾・養護学校や特殊学級の役割についての意識化を図ることが大切であると考えます。そして教育相談が一部に対するサービスと捉えるのではなく,地域に開かれた学校として,さらに地域の特殊教育のサービス機関であることを認識するとともに,盲・聾・養護学校は地域の特殊教育のセンターとして役割を担わなければならないことなどについて全教職員の共通理解を図り,自覚を高めていくことが大切です。さらに,教育相談を充実させるためには,教育相談担当者の養成と資質の向上を図るための研修を行うことが大切です。特殊教育における教育相談については,相談の内容が教育に関することだけに限定するのではありません。福祉的相談や療育的相談,家族の問題など幅の広い相談に対応できる力量を高めることが必要であるといわれます。そのためには,障害に関する知識や乳幼児期からの発達援助に関する知識,あるいは教育のみならず福祉関係の知識などが求められてきます。このような多方面にわたる研修とともに,自己研修のための図書整備や資料の収集なども大切な業務内容と考えられます。特殊教育の教育相談に関わる主な研修の内容は,[表−1]のようにまとめられます。

(2)特殊教育の専門性を生かした教育相談       
 校内体制の整備・充実を図る中で,保護者や関係者の要望に応えるため,特殊教育の専門性を生かした教育相談を行うことが必要です。盲・聾・養護学校は,障害に関する基本的な知識や自立して社会参加する資質を養うための指導内容・方法等をはじめ,障害の状態に配慮した子育ての方法に関する情報や手法等,特殊教育についての専門性を有しています。特殊学級は,相談の場として身近なところにありますが,特殊教育の経験年数に大きな違いがあるとともに,一人担任の学級も多いのが現状です。このような現状に応えるためにも,盲・聾・養護学校は特殊教育経験の少ない特殊学級担任への支援も必要と思われます。
盲・聾・養護学校が地域のセンター的役割を果たすためには,教育相談活動をとおして特殊学級に在籍する児童生徒や担任への指導相談に応じることも視野に入れる必要があります。また,障害のある乳幼児・児童生徒と保護者に適切な援助を行う専門性が求められています。
さらに,教育相談を実施するにあたっては,個人情報の保護に十分に配慮し,取り扱いや管理については校内で共通理解を図る必要があります。専門性を生かした教育相談の主な内容が[表−2]です。
 以上のように,特殊教育における教育相談は,新盲・聾・養護学校学習指導要領や第8次岩手県教育振興基本計画でも示されており,眼前の課題であり取り組みへの準備を急がなければなりません。

5 特殊教育の相談活動にかかわる実態調査の分析と考察

(1)調査の目的
 特殊教育における教育相談活動について,小学校・中学校特殊学級設置校,通級指導教室設置校及び盲・聾・養護学校における教育相談に関する実態や相談担当者や一般教職員の意識について把握し,問題や課題を明らかにするものです。

(2)調査対象
ア 対象者数
 調査は,質問紙法により,大船渡及び久慈教育事務所管内の10市町村教育委員会の教育相談担当者10名,同管内の小学校20校の特殊学級担任並びに通級指導教室担当者27名,同管内13校の中学校特殊学級担任13名,大船渡・久慈地域の養護学校2校の教員67名,そして県内公立盲・聾・養護学校16校の教育相談担当者40名の計157名を対象に平成11年9月に実施し,回収率は100%でした。

イ 相談担当者の実態
 調査対象者の中で相談を担当している者の実態は[表−3]に示すとおりです。

(3)調査結果
ア 教育相談状況
 昨年度,調査対象者の中で特殊教育相談担当者が対応した教育相談件数は,小学校が185件,中学校が34件,盲・聾・養護学校が584件,市町村教育委員会が51件で総件数は854件でした。校種間に差はあるもののかなりの相談件数であることがわかります。
イ 教育相談の実施状況
 特殊教育の相談状況を表したものが[図−2]です。相談は,全体で90%と,高い率で実施されており,特殊教育に関する相談の重要性への認識が高いと考えられます。校種間では実施状況に差が見られ,小・中学校ではどちらも約70%の実施率であるのに対して,盲・聾・養護学校では96%,教育委員会では 100%となっています。
ウ 相談の内容
 教育相談担当者からの回答は次ページ[図−3]のように,全体的には「就学相談」が73%で突出していますが,校種間で見ると,盲・聾・養護学校は,就学相談と盲・聾・養護学校への転学相談が50%を越えており,自校への入学や転学を前提とした相談が多いことを示しています。中学校では,進路相談が100%,次いで養育相談が63%となっており,義務教育終了後の情報と思春期に入り養育上の課題が増え始める生徒に対する情報やアドバイスを求めていることが見て取れます。小学校で50%を越えるのは,就学相談,特殊学級への入級相談,養育相談の3項目ですが,突出したものがないことから,小学校には,様々な情報提供やアドバイスを求めているものと考えられます。教育委員会は,就学業務に直接関わることもあり,就学,転学,入級に関する相談が多いのですが,それと同時に担任等への指導相談も50%と多く,多岐にわたる対応が求められていることが分かります。
 相談内容で,療育相談は各校種とも少ない状況にありますが,これは,相談者が,学校や教育委員会を就学直前や就学後の問題について相談する場所と捉え,乳幼児期からの療育相談に関する情報提供やアドバイスを受けられる場とは考えていないと思われます。
エ 相談の実施内容
 相談時に実施する内容は[図−4]のとおりですが,盲・聾・養護学校は,行動観察と教育歴の調査に重きがおかれ,小学校も,行動観察は高い実施率でした。一方,中学校と教育委員会は行動観察が20%台ですが,これは,来談者に子供が含まれるかどうかによるものと思われます。なお,どの校種も行動観察と教育歴調査以外で50%を超えて実施したものはないほか,標準化された諸検査の実施も低率でした。これらのことから,相談担当者は子供の実態を捉えるために何を実施したらよいかに迷いがあると考えられます。その他の項が小学校で多いのですが,これを見るとことばの教室担当者の回答が多く,その内容は構音検査でした。
オ 来談者の構成
 教育相談に訪れる来談者の構成を見てみると,[図−5]に示されたように全体的には,対象児と保護者の2者が多いのですが,それでも43%と半数を切っています。校種別に見ると,小学校と盲・聾・養護学校は対象児と保護者の2者が50%強で多くなっており,対象児の実態を知ってもらいながらの教育相談が主流であるのに対して,中学校と教育委員会は保護者のみの相談がそれぞれ63%と50%となっています。中学校は対象児の年齢が高く,保護者が相談したい内容を理解してしまうことを危惧しているためと考えられます。
 教育委員会については,相談内容が就学,特殊学級入級,盲・聾・養護学校への転校が主体であることや,学校と異なり相談室等の施設面での不備が保護者のみの相談を多くする要因とも考えられます。盲・聾・養護学校については,対象児,保護者,指導者の3者の相談も25%あり,幼稚園や学校に在籍する対象児に対して,指導面での援助がなされていることが分かります。また,保護者のみの相談もほとんどなく,対象児の様子を見た上での相談に重点を置いているものと思われます。
カ 相談の実施回数
 教育相談の実施回数は,[図−6]に示すとおり, [図−6] 相談の実施回数 盲・聾・養護学校は1〜2回が圧倒的に多くなっています。これは,[図−3]に見られるように,小学部入学にあたっての就学相談や自校への転入学や中・高等部への進路相談などが多く,その際に就学児や中・高等部への入学希望者の教育相談を学校見学的な内容で実施することが多いためと思われます。小学校は1,2回ないしは3〜5回が多いのですが,それ以上の相談回数については,率が斬減します。小学校でその他が多くなっていますが,これは,ことばの教室での相談で,構音指導をカウントしたものと思われます。
 中学校は,2ないし3〜5回の相談が多く,10回以上の相談も他校種に比べると多くなっています。また,教育委員会は,3〜5回が最も多いのですが1ないし2回,10回以上も見られます。これらのことから考えると,小・中学校および教育委員会は相談者の主訴や願いに応じて相談回数を決定している様子がうかがえます。
キ 相談時の話題
 話題にする内容は,[図−7]に見られるように,各校種とも様々な内容を取り上げ,保護者の願いや子供の実態を把握しようと努めていることが分かります。ただ,継続的に相談を重ねる中で,これらの話題に触れていくのであれば問題はないのですが,今回の調査では,相談の回数が1〜2回がほとんどという実状からすると,一つ一つの項目について,話題の取り上げ方が性急になりがちで,保護者の願いや思いに共感しながら相談をすすめるという面では課題が残るものと思われます。
 話題に取り上げる内容を子細に見ていくと,校種間によって軽重がありますが,これは,障害種とその程度,年齢,発達段階,保護者が相談に訪れた経緯等に配慮しながら,教育相談担当者が話題を選択していると思われます。
ク 相談のイメージ
 特殊教育の教育相談について感じていることについての結果は[図−8]のとおり,全体的には幼・小・中・養護学校間の連携が必要75%(盲・聾・養護学校77%,小学校78%,中学校69%,教育委員会60%)で最も高く,次に教育以外の機関との連携が必要69%,就学についての相談が必要59%でした。これらがいずれも高率となったのは,適切な就学のためには総合的に支援していくことが必要であるという意識をもっているのではないかと思われます。
 教育相談担当者と担当外でみると,教育相談活動を知りたいが相談担当者24%,担当外45%であり,担当外の先生方についても教育相談に関心をもっているとともに,教育相談についての学校体制が相談担当者のみの相談活動になりがちな傾向にあるためではないか思われます。
ケ 相談員の資質
 教育相談を進める上で必要と思われる知識について全体的に見ると[図−9]のように最も多い値は,障害に関する知識で25%,特に,教育委員会においては40%であり,特殊教育に関する経験が少ないための高率と思われます。これらのことから,教育相談を進める上では的確な子供の実態把握や相談者に対する配慮が相談員の資質として求められているという意識がうかがわれ,教育相談に対して関心は少なくないと思われます。
 相談担当者・担当外の差で大きかったものは,心理検査法等による子供の実態を把握する方法であり,全体では相談担当者15%,担当外3%,小・中学校においては相談担当と担当外に16ポイントの差がありました。また,養育・指導についての知識では相談担当者3%,担当外12%でした。この傾向はどの校種とも同様であり,相談担当者は諸検査を行うことが多いことから検査方法および解釈についての知識を必要とし,担当外の先生方は,特殊教育経験が少ないため保護者に具体的に支援できるような知識を必要としていると思われます。
コ 相談員の研修
 教育相談担当者の研修について必要と思われる事項については[図−10]のように,いずれも校種間に差はほとんどなく,全体的には心理検査法の習得についての研修が77%で最も高く,次いで障害児の心理特性についての研修75%でした。特にも障害児の心理特性については,小・中学校では90%を越える高い値を示していました。これらから考えられることは,障害児の心理特性や障害児の病理などについて研修を深めることによって,実態把握や指導の具体的な手がかりを導き出し,保護者との面談時の参考にしていきたいとの思いから選択したと思われます。また,保護者との面談に関しては,カウンセリングや面接技法についての研修も高率で,これは,前述ケの相談者を受けとめる包容力の選択が多かったことと合わせて考えると,保護者との面談の難しさを理解しているものと思われます。
サ 相談体制
 教育相談を行うために必要と考えている体制については,[図−11]のように校種間に差はほとんど見られず,全体では,複数での相談体制,相談担当者に対して専門家のバックアップシステム,教育関係機関及び福祉関係機関との連絡調整システムが必要であるとの回答が,60〜70%でした。特にも,中学校においては,教育関係機関との連絡調整システムと学校全体でのバックアップが必要については,共に85%であり,また,いずれの校種とも値が低かったのは,分掌とすることが望ましい20%前後でした。これらから考えられることは,教育相談を行うにあたっては,校内体制の整備や校外の諸関係機関との連携等に取り組まなければならないという意識の現れであると思われます。
 また,相談担当者は,複数での相談体制が望ましいについては81%と高く,相談担当者が,教育相談時には授業を欠かざるをえなかったり,相談の準備や記録整理,多面的な支援などに難しさを抱えているのではないかと思われます。
シ 相談の配慮事項
 相談活動を行う際の配慮すべき事柄や,留意している点については[図−12]のように,全体的にほとんど50%以上と高くなっていました。なかでも,各校種等とも保護者との十分な相談時間の確保60〜80%,養育・指導の具体的なアドバイス50%〜80%,共感的に理解する姿勢60%〜90%,来談者のプライバシー保護50〜80%と高率でした。また,校種間では,養育・指導の具体的なアドバイスについて小学校,盲・聾・養護学校と中学校との差は,最大で40ポイントであり,小学校や盲・聾・養護学校は,学習面のみならず生活面についての支援が求められていることがうかがえます。
 相談担当者と担当外を校種別でみると,小・中学校では,相談担当外が担当者より断定的な表現はさけるが31ポイント高い値でした。これは,相談担当外の先生方が特殊教育の経験年数が少ないことからくるものと思われます。
 また,相談時間や回数については,小・中学校と盲・聾・養護学校の相談担当外が担当者より20〜30ポイント高い値を示していました。これらから考えられることは,担当外の先生方は,教育相談の充実を図ることへの意識が強く見られましたが,実際に相談担当している先生方からは,実施するうえでの難しさがうかがわれ,校内体制の整備を図ることが課題と思われます。

(4)調査結果のまとめ
 今回の特殊教育における教育相談活動に関する調査を行うにあたって,4つの調査仮説を設定しました。その調査仮説に即してまとめると次のようになります。

 1 盲・聾・養護学校や特殊学級設置校の特殊教育における教育相談では,多様な内容の相談活 動が行われているのではないか。

 盲・聾・養護学校,特殊学級や通級指導教室,市町村教育委員会とも特殊教育に関わる教育相談は高い率で実施されていることから,特殊教育に関わる教育相談の重要性が広く認識されていると同時に,積極的に教育相談を受け入れようとする姿勢がうかがわれました。また,相談受理件数が合計で854件という数字を見ても,特殊教育相談に対する保護者や学校・園などのニーズが高いことを表しています。また,相談にあたっての中心的な相談内容(主訴)をみると,就学相談が多いものの,盲・聾・養護学校への転校,養育,進路,療育,そして,その他の項目に該当する,ことばの発達や発音についての相談など,その内容は多岐にわたっています。校種によって扱う相談の内容には,多い少ないはあるものの,相談者の多様なニーズに各学校,教育委員会が応えようとしていることが明らか になりました。

 2 相談活動を行うためにどのようなシステムが必要なのかとまどっているのではないか。

 相談をすすめていくうえで相談担当者や特殊教育に携わる教員が課題を抱えていることも分かりました。その中では,複数での相談体制や学校全体でのバックアップ体制など,教育相談を円滑にすすめるために,学校内で解決すべき課題があることが示されました。さらに,相談者の多様なニーズに適切に対応したり具体的な情報を提供できるようにするためには,対外的な部分として,教育関係機関や福祉関係機関との連絡調整システム,専門家のバックアップ体制,各校種間の連携,教育以外の機関との連携などが必要であることを指摘していました。これらのことから,相談担当者や特殊教育に携わる教員は,望ましい教育相談活動をすすめていくために,学校内の体制づくりと学校外の関連する機関との連携の重要性を認識しつつも,課題を解決するためにどのような手だてを講じていけばいいか具体的な方略を見いだせないでいると思われました。このような問題を解決するために,校内 体制の在り方と,外部の関係機関との連携の基本的な考え方などを示す必要があると思われます。

 3 実際の相談活動場面で,どのような方法で相談活動を行えばよいのか,戸惑っているのではないか。

 調査対象者の中の教育相談担当年数は平均で盲・聾・養護学校教員が3.3年,小・中学校の特殊学級や通級指導教室の教員が2.6年でした。小中の場合,特殊教育経験年数も6.4年と盲・聾・養護学校の19.5年に比べると短いうえに,特殊教育担当が学校の中で一人のケースが多いことや,相談内容が多岐にわたっている現状から,相談活動を行っていくうえで戸惑いを感じることは多いと思われます。さらに,調査における設問「教育相談で実施する内容」に対する回答では,校種間で実施されている内容にかなりの差が見られたほか,50%を越えて実施されている項目は小学校と盲・聾・養護学校の「行動観察」及び盲・聾・養護学校の「教育歴の調査」のみでした。これらのことから,来談児の実態を捉えるために何を実施すべきか迷いがあると思われます。また,「相談時の話題」をみても相談回数が少ない中で,多岐にわたる内容を話題にし,来談児の実態や保護者の願い等を捉えようとしている 姿勢がみられるものの,深まりのある相談活動にしていくうえでは課題が見受けられました。

 4 新学習指導要領に示された,早期からの教育相談活動に対しての準備に多くの課題を感じているのではないか

 相談者の資質についての設問では,「障害に関する知識」や「包容力」,「心理検査法等」の選択率が高いこと,さらに,相談員に必要な研修項目についての設問に,7割を越えて回答しているものに「心理検査法」「心理特性」「カウンセリングの方法」「療育技法」があり,それ以外の項目にも高い回答率を示していることから,教育相談活動をすすめるうえで障害に対する知識や検査法,療育技法のみならず相談者としての姿勢についても習得したいという回答者の思いが読みとれます。
 教育相談状況を見ると最も件数が多いのは就学相談ですが,盲・聾・養護学校の場合は,就学相談が入学を前提とした学校見学的色合いが濃く,相談回数も1回程でした。新学習指導要領に示された早期からの教育相談において地域の相談センター的役割を期待されている盲・聾・養護学校の相談活動としては,今後,養育や療育相談へ比重を移し,継続的な相談を重ねる中で,最終的に適切な就学の在り方を援助できる相談活動へシフトしていかなければならないと思われます。また,今回の調査の中で,特殊教育相談の在り方に対する意見として,@就学直前の相談でなく,療育を含めた早期からの教育相談が必要。Aプライバシー等の問題を含むものの,学校と関係機関の情報の共有化。B未経験のまま相談を担当することへの悩みが多いことからくる,研修の必要性。などが記述されていました。これらの課題の解決を図るためにも,特殊教育相談についての考え方や捉え方を示した研修資料等を作成するとともに,活用の在り方について提示する必要があると思われました。

6 特殊教育の教育相談にかかわる教員への支援システム
(1)教員支援システムの基本構想
調査結果に示されたように,特殊教育における相談は盲・聾・養護学校や特殊学級で行われています。盲・聾・養護学校においては幼児への教育相談に対して相談回数は少ないのですが,盲・聾・養護学校のセンター的役割についてはその機能を持ち地域に貢献したいと考えていることがわかりました。また,教育相談についての関心は高く,担当者以外も相談について知識を得たいと考えていました。
早期からの教育相談活動を行うにあたって,地域の療育システムに参画し,教育サイドからの援助・支援ができるようにしていく必要があります。
今次研究では今後の障害児に関係する各機関のネットワーク化そしてシステム化を期待しながら,障害のある子供の早期からの教育相談の第1歩となる相談担当教員への支援の在り方を検討することとしました。そこで,特殊教育の教育相談に関わる教員への支援の在り方については,先行研究及び調査研究を踏まえ特殊教育における教育相談活動の目指す姿を示しながら,相談担当者が活用でき研修資料を作成し、研究の目的にそって支援試案について検討することとしました。
(2)支援試案作成の基本構想
 前述の基本的考え方をもとに,次の三つの支援試案を作成しました。

   支援試案1 校内における教育相談体制確立のポイント
   支援試案2 教育相談の手順と連携協力に関するポイント
   支援試案3 教育相談の原理と担当者の研修に関するポイント

特殊教育における教育相談は,各学校の全職員に支えられて行わなければその効果を上げることはできません。障害のある乳幼児を養育する保護者にとっては,さまざま軋轢の中で養育にあたり,不安と期待,出生から発育,行動の遅れなどすべてを背負い込んで養育にあたっている場合などが多いと思われます。保護者のそうした心情を理解して学校での教育相談活動に取り組むためには,教育相談に対する基本的な考え方などを共通に理解しておく必要があります。そこで,支援試案1の「校内における教育相談体制の確立のポイント」を作成しました。
また,教育相談は個人のプライバシーに踏み込むことであり,個人情報の管理や保護者の希望にかなう相談活動などが求められます。このような来談者のニーズの把握と関係機関からの情報収集について基本的に押さえるべき内容を支援試案2「教育相談の手続きと連携協力に関するポイント」として作成しました。
さらに,支援試案3として,「教育相談の原理」を@「教育相談の意義」,A「障害のある子供の理解」,B「保護者への援助」,C「関係機関との連携」の四つの視点で押さえて示しました。また,来談者の要求に応えられるように相談を担当する教員の研修のポイントを10項目取り上げました。これらは基本的な内容であり,担当者は自己の課題を設定して研修に取り組む必要があります。
[図−12]支援案1『校内における教育相談体制確立のポイント』

[図−13]支援案2『教育相談の手順と連携・協力に関するポイント』
[図−14]支援案3『教育相談の原理と担当者の研修に関するポイント』

7 研究のまとめと今後の課題
(1)研究のまとめ
本年度研究は,2年次研究の第1年次として特殊教育における教育相談の基本的考えをまとめました。そして,県内盲・聾・養護学校と2つの地区を指定して特殊学級と市町村教育委員会を対象にして,特殊教育の教育相談の実態調査を行い,相談状況を明らかにすることができました。
 ア 特殊教育における教育相談活動の基本的考え方
盲・聾・養護学校の新学習指導要領に示された早期からの教育相談は,これまでの就学相談活動のみの対応では困難であり,開かれた学校づくりの一環として学校全体でその理念や目的などを押さえ,教育相談体制を整える必要があります。また,研修会などをとおして特殊教育における教育相談の在り方を理解する必要があります。
特殊教育における教育相談は,環境の改善を調整する役割として,家庭における保護者の役割も大きく,特殊教育における教育相談は,対象児の課題だけではなく対象児を養育する保護者や家族への相談活動も大きなウェートを占めています。
 イ 教育相談担当者の支援システムに関する実態調査の実施と考察

 (ア)特殊教育の教育相談状況
本調査は,特殊教育の教育相談状況について質問を行い,調査対象の9割が教育相談を実施しているとの回答があり,特殊教育の相談の重要性を理解し積極的に相談を受け入れようとしていることが明らかになりました。また,相談の内容も多岐にわたり,多様な相談に対応していることが分かりました。
 (イ)特殊教育の相談に関する課題
特殊教育の相談に携わる教員が抱えている課題は,教育相談を支える学校体制の整備や相談の具体的進め方,研修の必要性などでした。また,相談者の多様なニーズに適切に対応したり,具体的な情報を提供できるようにするには,教育関係機関や福祉関係機関との連携の必要性も指摘されました。
 これらの問題を解決するために,教育相談活動をすすめていくうえでの校内体制の在り方,外部との連携の基本的な考え方を示すとともに,多様な教育相談に対応するための研修資料を示す必要があることが分かりました。
 ウ 教育相談担当教員への支援システムに関する基本的考え方
特殊教育における相談活動を行うためには,これまでの教育活動に加え新たな教育活動を展開してくとの認識に立って全校の組織を見直し新しい時代の学校組織の有り様を検討して取り組んでいく必要があります。この組織の見直しをとおして,教育相談担当者を全校で支援する校内での相談担当教員支援システムが必要であると考えます。
 (2)研修資料の作成と支援試案の作成
 研修資料は,調査結果を踏まえながら実際の相談活動で活用できるように,多様な相談内容を想定し,支援試案に従って作成しました。各障害種ごとに障害の捉え方,援助のポイントを示し,相談担当者としての留意事項等を盛り込みました。
 支援試案は,学校経営に位置づけられ全校体制で取り組んでいくことを前提に考えました。そのためには,全校研修会をコーディネートしたり実際の相談活動を担当する係等を設け,担当者を配置して活動する必要があります。そこで,校内における教育相談体制の確立の在り方を第1のポイントとして示しました。
 次に,相談活動にあたる手順については明確化を図り,一定の手続きに従って進めなければなりません。手続きの簡素化は各学校の実態に応じて検討しなければなりませんが,来談者の個人情報の管理には十分留意しながら,来談者のニーズに合わせて相談を進める必要があります。そうした手続きや配慮事項等を第2のポイントとして示しました。
 第3のポイントとして,教育相談の原理と担当者の研修に関して示しました。障害のある乳幼児を養育する保護者にとっては,さまざま軋轢の中で養育にあたり,不安と期待などすべてを背負い込んで養育にあたっている場合が多く見られます。保護者のそうした心情を理解し相談活動に当たるためには,教育相談担当者教員は,研修会や事例研究会等をとおして,来談する保護者や家族などに対応する力量を身に付けなければなりません。相談担当者としての資質の向上を図るよう研修を意図的,計画的に進める必要があります。さらに,特殊教育における相談は担当者の継続性が要求されます。校務分掌において継続して相談活動に当たれるように配慮する必要もあります。
 
(3)今後の課題
次年度はこれら支援試案の考えを基にして,実際の教育相談活動の場で研修資料を活用し,相談活動を行い,特殊教育における教育相談担当教員への支援の在り方について相談実践をとおして具体的に検討しなければならないと考えております。
 
8 おわりに
 この研究を進めるに当たり,多大なご協力をいただきました研究協力校の大船渡市立盛小学校・久慈市立久慈中学校,岩手県立気仙養護学校・岩手県立久慈養護学校の校長先生をはじめとする諸先生方,そして研究協力員の岩手県立花巻養護学校小松 順子先生に心より感謝を申し上げます。
 また,調査研究にご協力いただきました特殊学級設置校,県内盲学校,聾学校,養護学校及び市町村教育委員会の諸先生方に御礼を申し上げます。

【主な引用・参考文献】
・泉 匡 『養護学校の地域センター化に向けての教育相談』 発達の遅れと教育 NO.494 1998年
・一番ヶ瀬康子監修 『障害児福祉・家族援助のあり方』 一橋出版 1998年
・伊藤則博他 『学校教育における児童生徒の行動理解と自立支援のあり方』発達障害研究19巻3号1997年
・猪平真理 『盲・聾・養護学校における障害幼児指導体制の現状と問題点』 特殊教育学研究 35(4)1998年
・岩手県教育委員会 『第8次岩手県教育振興基本計画』 1999年
・大城正大 『養護学校における就学措置と教育相談の取り組み』 発達の遅れと教育 NO.494 1998年
・栃木県総合教育センター 平成9年度紀要 第5号(1) 1998年
・野口幸弘 『生涯を見据えた障害幼児への援助のあり方』 発達障害研究20巻2号 1998年
・福井県特殊教育センター 『心身障害児の就学相談の進め方(2)』 年報第11号 1994年
・藤井文朗・小川克正 『障害児教育の現状・課題・将来』 培風館 1996年
・北海道南幌養護学校 『早期からの教育相談体制の在り方に関する研究』(平成8・9年度文部省障害児の就学指導に関する調査研究) 1998年
・北海道特殊教育センター 特殊教育ほっかいどう第33号 『特集早期からの教育相談』 1998年



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