岩手県立総合教育センター教育研究(1999)


コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の在り方に関する研究(第1報)


目 次

T 研究のねらい
U 研究の手だて
V 本年度研究の内容と方法
 1 研究の目標
 2 研究の内容
 3 研究協力校
 4 研究の方法
W 研究結果の分析と考察
 1 コミュニケーションの技能を高める英語科の指導に関する基本的な考え方
 (1)学習方略とは
 (2)オックスフォードの学習方略(直接法、間接法)
 (3)コミュニケーション能力について
 (4)コミュニケーション活動と学習方略
 (5)学習方略と学習スタイル
 2 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導についての基本構想
 (1)これまでのコミュニケーション活動の困難点を意識する活動
 (2)既存の学習方略を紹介して生徒個人に応じて取り込む活動
 (3)他の生徒の実践を観察・交流し自らの学習方略を深め増やす活動
 (4)学習方略指導後の授業
 (5)コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の基本構想図
 3 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
 (1)指導試案作成のための実態調査の概要
 (2)実態調査の結果
 (3)調査結果に基づく生徒個々の学習方略の活用
 (4)調査結果に基づく語彙学習にかかわる学習方略
 (5)コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
X 研究のまとめと今後の課題
 1 研究のまとめ
 2 今後の課題
おわりに

引用・参考文献

資料編
資料1 実態調査問題(「英語の学習についての調査」)
資料2 オマリーらの学習方略
資料3 Oxford's SILL
資料4 視覚重視型と聴覚重視型のテスト

T 研究のねらい
 英語科の指導において、基本的な内容に関して聞き取ったり、相手に意思を伝えたりするオーラルコミュニケーション能力の養成が急務です。また、インターネット等の新たなメディアの普及に伴い読んだり書いたりすることによるコミュニケーション能力の養成も重要です。
 しかし、これまでの指導においては、コミュニケーション活動で、ある方法が有効に機能しないとき、教師が代わりの方法を提示したり、生徒に自分で補う手だてを試みさせたりすることに欠ける面がありました。また、自ら積極的に学習に取り組む方法を指導することも少なかったようです。
 この状況を改善するためには、技能面と情意面からの学習方略を生かした学習法の理論を応用することが有効です。学習事項の記憶、練習や応用、不足する技能の補完、計画・集中・自己評価、不安の軽減、相手とのかかわり等の学習法の方略を、生徒が必要に応じて活用できるように指導する必要があります。
 そこで、この研究は、技能面と情意面からの学習方略を生かしたコミュニケーションの技能を高める指導法を明らかにし、英語科の学習指導の改善に役立てようとするものです。

U 研究の手だて
 英語科の学習指導におけるコミュニケーション活動で、これまで困難を感じた点を指摘させた後、学習方略を次のように指導すればコミュニケーションの技能が高まるだろうと考えました。
 (1) 個々の学習スタイルの特徴に応じて学習方略を紹介し、実行可能な内容を取り込ませる。
 (2) 他の生徒の活動を観察させ、気付いた点を交流させて自己の学習方略を深化拡大させる。
 (3) 導入・理解・練習・応用の各段階に、個人と集団、並びに、感覚と思考の要素を組み合わせて指導する。

V 本年度研究の内容と方法
1 研究の目標
 技能面と情意面からの学習方略を生かしたコミュニケーションの技能を高める英語科の指導に関する基本的な考え方を検討し、学習指導の基本構想を立案するとともに、研究協力校での生徒の実態調査を踏まえ、学習指導試案を作成します。

2 研究の内容 (※(4)〜(6)は、平成12年度に行います。)
(1) コミュニケーションの技能を高める英語科の指導に関する基本的な考え方の検討
 学習方略並びに学習スタイルに関する先行研究の文献を調べ、本研究で参考にする学習方略を規定し、学習スタイルと学習方略の関係を明らかにします。
(2) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導についての基本構想の立案
 基本的な考え方に基づき、コミュニケーションの技能を高めるため行う学習指導の基本構想を、学習方略の指導とコミュニケーション活動の指導にわけて立案します。
(3) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案の作成
 基本構想を基に、研究仮説を授業実践に移すために必要な学習指導試案を作成します。
(4) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案に基づく授業計画と授業実践
(5) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案の妥当性の検討
(6) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の在り方についてのまとめ

3 研究協力校
 北上市立北上中学校

4 研究の方法
(1) 文献法…学習方略を生かしてコミュニケーション技能を高める指導の基本構想を立案するにあたり、先行研究を調べ、まとめます。
(2) 質問紙法…学習指導試案作成の資料を得るために、先行研究と研究担当者が作成した問題を用いて調査を行います。

W 研究結果の分析と考察
1 コミュニケーションの技能を高める英語科の指導に関する基本的な考え方
(1) 学習方略とは
 学習方略とは、辰野(1997)によると、「学習の効果を高めることをめざして意図的に行う心的操作あるいは活動である」と定義されています。注目すべき点は「心的操作」であり、学習方略が、外部から見えない学習者の内的な活動をも含む点です。このことは、学習者の内的な活動内容が、学習者個々人で異なることをも示します。
 教科の学習に限らず、達成度の高い学習者は低い学習者に比べ、多くの学習方略を用い、その種類も多様であることが知られています。したがって、達成度の高い学習者には、学習方略を意識化させて訓練させることにより質を高めること、達成度の低い学習者には、学習方略の存在を紹介して自分に適した方略を持たせたり、作らせたりすることが外国語学習にも有効であると思われます。

(2) オックスフォードの学習方略(直接法、間接法)
 オックスフォード(1990)は、学習方略を2種類に分類しました。記憶、認知、補完の「直接法」と、メタ認知、情意、社会的法の「間接法」です。記憶は新情報を記憶し再現する方法、認知は言語を理解し作り出す方法、補完は知識の欠けている部分を補う方法で、メタ認知は学習過程のアレンジ、情意は感情のコントロール、社会的法は他人と共に学ぶ方法を扱います。また、彼女は各学習方略が4技能の学習のどれに有効であるかを解説しています。以下の【表−1】、【表−2】は研究担当者が、一般的言語学習の流れである記憶と再現、活動の計画・実践・評価に分け、抜粋したものです。なお、本研究は、生徒に身につけさせたい方略を中心としています。また、LRSWは、聞く、読む、話す、書く技能を、全は全技能を表します。

(3) コミュニケーション能力について
 コミュニケーション能力は、Canale & Swain (1980)による@文法能力、A社会言語学的能力、B談話能力、C方略的能力の4つから成ると考えます。文法能力は文法的に正しい文を作り出す能力、社会言語学的能力は場面や状況に応じて言葉を適切に使える能力、談話能力は文法能力を駆使して文法的、意味的につながりのあるテキストを作る能力、方略的能力は会話を継続させるための能力です。

(4) コミュニケーション活動と学習方略
 実際のコミュニケーションの場面では、基礎的な英語表現をできるだけ蓄積し、それを必要に応じて出していけるようになること、すなわち記憶と再現にかかわる方法、やり取りの内容をあらかじめ予想したり計画したりすること、やり取りの最中では不足する技能や部分を補いながら不自然な間をおかず継続できること、終了後は理解度を確認して新たな目標を立てるための方法を知ることが必要です。このように、コミュニケーション活動では、技能だけでなく、技能を有効に生かすことを促進する要素が必要なので、学習方略が果たす役割は大きいと思われます。

(5) 学習方略と学習スタイル
 学習スタイルは、認知スタイルとも言われ、個人に特徴的な認知面と情意面の習性・性質です。 Keefe (1979, cited in Brown, 1994a)によると、学習スタイルとは、学習場面において「学習環境をどう知覚し、それとどうかかわり、どう反応するかの個人的な特徴である 」と定義しています。  それぞれの学習者が持つ学習スタイルに応じて、好んで使う学習方略が異なると言われ、学習者自身が、自分の学習スタイルを知ることは、どの学習方略を使えば更に学習が促進されるかを知ることにつながります。研究者で、学習スタイルの分類は異なりますが、ここでは2つの説を紹介します。
 Knowles (1982, cited in Richards & Lockhart, 1994)は、学習者を次の4タイプに分類しています。

@Concrete learning style…活動的、直接的手段で新情報を取り込む(下線は研究担当者)
                  直接的な価値を有する情報に興味を持つ
                  好奇心に富み自発的で危険を冒すことを恐れない
                  決まりきった学習や書く作業を嫌い、話し言葉や視覚的経験を好む
AAnalytic learning style…独立的、問題解決を好む、自分自身の原理原則を作る
                 新教材は論理的、系統的に提示されることを好む
                 勤勉で、自分自身に厳しい
BCommunicative learning style…他とかかわり学習すること(グループ学習)を好む
                      民主的な雰囲気を好む
CAuthority-oriented learning style…責任感が強く依存的
                        構造的で一貫性のある過程を好む
                        明確な指示を好み、作業課題を完全に把握することを好む
                        教師主導の伝統的クラスを好む、協議形式による決定を好まない
 Willing (1998, cited in Richards & Lockhart, 1994)は、学習への取組みの傾向として、@のスタイルは、ゲーム、絵やビデオの使用、ペア学習を好み、Aのスタイルは、文法学習、本での学習、教師からの訂正を好み、Bのスタイルは、ネイティブや友人との学習、テレビを使った学習を好み、Cのスタイルは、教師からの詳細な説明、自分なりの完璧なノート作りを好むことなどを発見しました。
 Tyacke (1996, edited by Reid, 1998)は、上記の分類に似た4タイプに学習方略を分類しています。
@Absorber…総合的右脳思考タイプ、教材に関心を持たず勤勉ではない、オープンエンディドな質問を好み仲間の意見を聞きたがる、類推的質問に興味を持ち批判的読解を好む、など
AStudier…分析的左脳思考タイプ、勤勉で継続性を好む、オープンエンディドな状況より構造化された状況を好む、グループ活動より紙と鉛筆による問題解決を好む、リストやメモを作り規則を学び活用する、仲間からのフィードバックを好まず教師からの指示を待つ、など
BExplorer…学習をゲームと考え規則を嫌う、変化と選択を好み教師に頼らない、形式より意味・正確さより流暢さを好む、教室外の知識に頼り現実的・応用的、自己判断が好き、など
CDiverger…挑戦的性格と注意深さを併せ持つ、時に即断するがすぐ教師からのフィードバックを求める、単独での作業を好むが気が散りやすい、困難に遭遇するとすぐあきらめる、変化を嫌い適応に時間がかかる(下線は研究担当者)

2 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導についての基本構想
 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導にあたっては、学習方略の意識化、紹介と取り込み、観察と交流による深化拡大、そして学習方略指導後の授業の工夫の流れで進めます。

(1) これまでのコミュニケーション活動の困難点を意識する活動
 生徒がこれまでのコミュニケーション活動で感じた困難点を指摘します。

(2) 既存の学習方略を紹介して生徒個人に応じて取り込む活動
 この活動は研究の手だて1に対応し、教師が実演や説明で学習方略という新たな情報を提示し、生徒は、学習スタイルに応じ、記憶と再現の過程、計画・実践・評価の過程、情意面で、少なくとも一つずつの計3つ、学習方略を取り込みます。また、一定期間の実践の後、成果を自己評価させます。

(3) 他の生徒の実践を観察・交流し自らの学習方略を深め増やす活動
 この活動は研究の手だて2に対応し、学習方略を取り入れた実践的で個人参加型の活動を行い、観察し、活動後に全体で気付いた点を交流して学習方略を深めたり数を増やしたりします。また、一定期間の実践の後、成果を自己評価させます。

(4) 学習方略指導後の授業
 この活動は研究の手だて3に対応します。生徒に限らず教師にもそれぞれの学習スタイルがあり、無意識にそれを授業で繰り返しがちです。そこで、異なる学習スタイルに配慮した指導過程を組みます。すなわち、個人・集団(内向・外向的)活動と、Hainer et al. (1990)を参考にした感覚・思考(右脳・左脳)的活動を組み合わせます。
 @導入の段階では、感覚に訴える全体での導入活動を見聞きした後、個人毎に課題を把握する。
 A理解の段階では、教師による視覚と聴覚に訴える説明を見聞きした後、個人毎に理解度を確かめる。
 B練習の段階では、学級全体の置換練習の後、学習事項を個人の状況・考え・経験へ適用し練習する。
 C応用の段階では、個人で言語活動の計画(展開や使用言語)を立て、実践し、他の実践を観察する。

(5) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の基本構想図
 これまで述べてきたことを基本構想図にしたものが、次の【図−1】です。

3 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
(1) 指導試案作成のための実態調査の概要
 言語学習に関する学習スタイルテストの一つとして、Myers (1962, cited in Brown, 1994a, p.147)による4分類(内向・外向的、熟考・直観型、客観・主観的、論理・偶発的)を測るMyers-Briggs testがあり、それを用いてEhrman and Oxford (1990, cited in Brown, 1994a, p.150)は、外向的学習者は社会的方略を頻繁に使うのに対し、内向的学習者はそれを拒否し、熟考型学習者は記憶方略を、直観型学習者は補完方略を使い、客観的学習者はメタ認知的方略を使うのに対し、主観的学習者は社会的方略を使い、論理的学習者は情意的方略をほとんど使わず、偶発的学習者は頻繁にそれを使うことを明らかにしました。本研究では、学習方略と関連があると思われ、回答が容易なBrown (斎藤・新里訳1995)による内向・外向性、右脳・左脳優越、並びに担当者による英語学習の困難点と工夫の自由記述によるテストを作成し、10月18日に北上市立北上中学校2年1学級において実施しました。
@内向・外向性テスト(問題文は資料参照)
 各文ごとに相反する内容の2肢から自分に当てはまる方を選びます(15問)。きわめて外向的、やや外向的、やや内向的、きわめて内向的の4種類に分類します。
A右脳・左脳優越テスト(問題文は資料参照)
 各文ごとに5段階から自分に当てはまる段階を選びます(20問)。きわめて右脳、やや右脳、中間、やや左脳、きわめて左脳の5種類に分類します。
B自由記述問題
 英語学習上の困難点と、個人の工夫を問います。

(2) 実態調査の結果
@内向・外向性テストの結果(男子18、女子18、計36名)
 学級全体では、きわめて内向6、やや内向13で内向型の計19、きわめて外向1、やや外向16で外向型の計17です。男女差があり、男子は内向12、外向6、女子は内向7、外向11です。
A右脳・左脳優越テストの結果(男子18、女子18、計36名)
 きわめて右脳6、やや右脳17で右脳計23、きわめて左脳0、やや左脳5で左脳計5、中間は8です。男女差はなく、男子は右脳11、左脳3、中間4、女子は右脳12、左脳2、中間4です。
B内向・右脳の組合せは13(男8・女5)、内向・左脳の組合せは4(男3・女1)、外向・右脳の 組合せは10(男3・女7)、外向・左脳の組合せは1(男0・女1)です。
 ここまでの数を表にしたものが、次の【表−3】「実態調査の結果」です。

C自由記述問題(複数回答による回答数)
 単語14、作文10、語順8、が主な困難点です。工夫点では単語練習14と予・復習6です。

(3) 調査結果に基づく生徒個々の学習方略の活用
 学習スタイルと学習方略の関連、並びに、高梨(1997)による英語力に関係がある4つの学習方略(認知・補完・メタ認知・社会的)を、次のように、調査結果に応じて協力校の生徒に勧めます。
 @内向・右脳的生徒=練習にかかわる認知方略と、言い換え、身振りなどの補完方略
 A内向・左脳的生徒=練習にかかわる認知方略と、計画と評価のメタ認知方略
 B外向・右脳的生徒=共同学習にかかわる社会的方略と、言い換え、身振りなどの補完方略
 C外向・左脳的生徒=共同学習にかかわる社会的方略と、計画と評価のメタ認知方略

(4) 調査結果に基づく語彙学習にかかわる学習方略
 実態調査3番の英語学習における困難点の自由記述で、語彙が最大の困難点であることが再度確認されました。Reiss (1981, cited in Murphey, 1998)は、外国語学習の生徒を対象に4項目の質問を行い、成績が優れている生徒と、そうでない生徒との間で、使われている学習方略に違いがあるかを調べました。最初の2項目が語彙学習にかかわるものであり、それぞれ、@学習済みの読み物の中にある30個の単語を覚える学習方略、A授業で説明された一連の動詞の時制変化を覚える学習方略でした。
 その結果、成績の優れている生徒が使う学習方略に一定の傾向があることがわかりました。それらをまとめると、学習内容の「特定化、個人化、活用、(有意義な)反復、再利用」です。具体的には、 @単語学習では、単語を含んだ文を作る、単語のわきにヒントを書く、暗記するとき声に出して言ったり歌ったりする、左側に単語右側に意味を書いた対称表を作る、できるだけ使ってみるなどです。 A動詞の時制変化を覚える学習では、読み物の中で例を捜しながら読む、会話の中に盛り込む、似たような時制変化を捜す、自分なりの練習方法を開発する、動詞を入れた文を作るなどです。
 これらの方略については個別的ではなく、学級全体での指導をおこなうこととします。

(5) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案を次の【図−2】のように作成しました。

X 研究のまとめと今後の課題
1 研究のまとめ
 この研究は、技能面と情意面の学習方略を生かしてコミュニケーションの技能を高める英語科の指導法を明らかにしようとしたものです。
 そのためには、学習事項の記憶と再現、練習と応用、不足する技能の補完、活動の計画・集中・評価、不安の軽減、相手とのかかわりなどを扱う学習方略を、生徒が必要に応じて活用できるように指導する必要があると考えました。
 本年度は、基本的な考え方を検討し基本構想を立案するとともに、実態調査により、生徒の学習スタイルの傾向を把握し、学習方略を指導する指導試案と、コミュニケーション活動の指導試案を作成しました。
 なお、実態調査から以下の3点が明らかになりました。
(1) 男子生徒に内向的傾向があること
(2) 男女に関係なく右脳優越が6割を越えたこと
(3) 英語学習の困難点は、語彙・語順が大きな要素であること

2 今後の課題
 実態調査の結果のなかで一部先行研究の内容と異なる部分がありました。来年度も、授業実践を行う学級で生徒個々の学習スタイルを把握するために同じ調査を実施したうえで、今年度との比較検討を行う必要があります。また、来年度は、授業実践をとおして、指導試案の妥当性を検討します。

おわりに
 本年度の研究を進めるにあたり、多大なご協力を戴きました研究協力校である北上市立北上中学校の菊池明敏校長はじめ諸先生方、そして、生徒の皆さんに心から感謝申し上げます。
 また、研究協力員として、基本構想の段階から貴重なご意見を戴いた以下の先生方に心から感謝申し上げます。

〈研究協力員〉
盛岡市立上田中学校 教諭 三上 智子
盛岡市黒石野中学校 教諭 小野寺哲男
県立宮古高等学校  教諭 阿部 善一


引用・参考文献

Brown, H. D. (1994a). Principles of Language Learning and Teaching. Prentice Hall. p.105, p.147, p.150.
Brown, H. D. (1994b). Teaching by Principles. Prentice Hall. pp.203-208.
Brown, H. D. (1995). 斎藤誠毅・新里眞男訳 「アメリカ風外国語学習法」  研究社 pp.152-159.
Canale, M. & Swain, M. (1980). Theoretical Bases of Communicative Approaches to 2nd Language Teaching and Testing. Applied Linguistics, 1, 1. pp.1-47.
Cohen, A. D. (1990). Language Learning. Heinle & Heinle.
Hainer, E. V. et al. (1990). Integrating Learning Styles and Skills in the ESL Classroom. CAL. pp.3-6.
Murphey, T. (1998). Language Hungry. Macmillan Languagehouse. pp.72-75.
O'Malley, J. M. & Chamot, A. U. (1990). Learning Strategies in 2nd Language Acquisition. Cambridge.
Oxford, R. L. (1990). Language Learning Strategies. Heinle & Heinle. pp.57-97, pp.151-173.
Oxford, R. L. ed. (1996). Language Learning Strategies Around the World. Univ. of Hawaii.
Reid, J. M. ed. (1998). Understanding Learning Styles in the 2nd Language Classroom. Prentice Hall.  pp.38-40.
Richards, J. C. & Lockhart, C. (1994). Reflective Teaching in 2nd Language Classrooms. Cambridge. pp.60-62.
Rubin, J. & Thompson, I. 西嶋久雄訳(1998) 「外国語の効果的な学び方」  大修館
高梨芳郎(1997) 『〈データで読む〉英語教育の常識』「現代英語教育」3月号 研究社 pp.54-55.
辰野千壽(1997) 「学習方略の心理学」  図書文化 p.11, pp.94-95.
Wenden, A. (1991). Learner Strategies for Learner Autonomy. Prentice Hall.


資料編

資料2 オマリーら(O'Malley , J. M. et al. 1988)の学習方略(辰野 1997 pp. 94-95)
(1) メタ認知的方略
・先行オーガナイザー(予期される学習活動に対し、あらかじめ概念・原理について一般的、包括的なまとめをしてみる。)
・注意の管理(学習課題に注意し、無関係で気を散らすものは無視することをあらかじめ決心する。)
・選択的注意(言語インプットを保持するため、あらかじめ手がかりを与える。インプットされるものの特定の面、あるいはその場面の細部に注意することを決定する。)
・自己管理(自分の学習を助ける諸条件を理解し、それらの条件を整える。)
・機能的立案(近く学習する予定の言語課題を遂行するために必要な言語の要素について、計画して(先行の準備)下稽古をする。)
・自己監視(自分の話を発話、文法、語彙の正確さの点で、あるいはその場の状況、人に関する適切さの点で修正する。)
・遅延生産(まず聞くことを学習するため、話すことは後回しにすることを意識して決定する。)
・自己評価(自分自身の言語学習の結果を、完全さと正確さの点で内的尺度に照らしてチェックする。)

(2) 認知的方略
・反復(言語モデルを模倣し、声に出す練習と音声を出さない復唱を行う。)
・資料活用(目標とする語学の参考資料を用いて、単語あるいは概念の定義を明らかにしたり、広げたりする。)
・身体的反応(新しい情報を、身振りを使って指示するときのように、身体的行為に関係づける。)
・翻訳(第二言語を理解し産出するための基礎として、第一言語を用いる。)
・分類(共通の属性に基づいて、学習する材料を並べかえ、あるいは再分類して、そして自分で考えた名前をつける。)
・ノートとり(口頭で、あるいは書いて提示される情報の中の、おもなアイデア、重要な点、概要、要約を書きとめる。)
・演繹(第二言語を産出、あるいは理解するためのルールを意識して適用する。)
・組み換え(既知の要素を新しい方法で結合し直すことにより、有意味な文章あるいはより大きな言語配列を構成する。)
・イメージ化(よく知られていて、たやすく再生できるものに視覚化する。句あるいは位置を介して、新しい情報と記憶している視覚的な概念を関係づける。)
・聴覚的表現(単語、句、あるいはより大きな言語配列の音、類似の音を覚える。)
・キーワード(第二言語における新しい単語を次の方法で覚える。@第一言語の中で新しい単語と音などが似ている熟知語を見つける。A新しい単語と関係をもつ、再生しやすいイメージをつくる。)
・文脈化(単語あるいは句を、有意味の言語配列の中に置く。)
・精緻化(新しい情報を、記憶の中の他の概念に関係づける。)
・転移(以前に獲得した言語の知識、あるいは概念的知識を、新しい言語―学習課題の習得を促進するために用いる。)
・推論(新しい項目の意味を推測したり、結果を予測したりする。あるいは欠けている情報を補うため、現在利用できる情報を用いる。)

(3) 社会的情意的方略
・協力(フィードバックを得るため、情報を出し合うため、あるいは言語活動を模倣するために、何人かの仲間と一緒に勉強する。)・明確化のための質問(反復、言い換え、説明、例などを、教師あるいはネイティブの人に求める。)

資料3 Oxford's SILL(Strategy Inventory for Language Learning, by Oxford 1990, cited in Brown 1994b)
「これから、英語学習に関する一連の文がありますので、それぞれの文について、自分にどれくらい当てはまるかに応じて、集計用紙の数字に○を付けて下さい。それぞれの数字は、次の意味があります。なお、これは正解、不正解を問う問題ではありません。」
 1 決して、あるいは、ほとんど私に当てはまらない。(めったにない)
 2 どちらかというと、当てはまらない。(半分以下)
 3 少し当てはまる。(半分くらい)
 4 どちらかというと、当てはまる。(半分以上)
 5 常に、あるいは、ほとんど私に当てはまる。(ほとんど毎回)
A1 英語で学ぶ新しいことと、自分が既に知っていることの関連を考える。 1−2−3−4−5
 2 新出単語は、記憶できるように文の中に置いて覚える。 (以下数字省略)
 3 新出単語の記憶を助けるため、単語とその単語が持つイメージや絵を結びつける。
 4 新出単語は、それが使われる状況を心に描いて記憶する。
 5 新出単語を記憶するため、韻を使う。
 6 新出単語を記憶するため、カードを使う。
 7 新出単語は体を使って表現する。
 8 英語の授業を、よく復習(振り返り)する。
 9 新出単語や語句を覚える時、その場所(ページ、黒板)と一緒に覚える。
B10 新出単語は、何回も話したり、書いたりする。
 11 外国語指導助手の先生のように話せるように努力している。
 12 英語の発音練習をしている。
 13 知っている英単語を、様々な状況で使ってみる。
 14 英会話では、自分から話し始める。
 15 英語のテレビ番組、英語の映画を見る。
 16 英語の読書をする。
 17 英語でメモ、メッセージ、手紙、レポートを書く。
 18 英語の文章を読むとき、先ず全体をざっと読み、次に初めに戻り詳しく読む。
 19 英語の新出単語と似ている日本語の単語を探す。
 20 英語の文法や発音の特徴を探す。
 21 英語の単語は、理解できる最小単位に分けて理解するようにする。
 22 一語一語訳したりしない。
 23 聞いたり読んだりした英語は、要約(まとめ)を作る。
C24 知らない単語を理解するとき、推測する。
 25 英会話の中で、ある単語を思いつかないとき、ジェスチャーを使う。
 26 英語で適切な単語を知らない時、自分で新語を作る。
 27 新出単語を全部調べなくても、英語の文章を読む。
 28 英会話で相手が次に何を言うか予測する。
 29 英語の単語を思い出せない時、同じ意味の単語や語句で言い換える。
D30 英語を使う機会をできるだけ見つける。
 31 自分の英語の間違いに気付き、自分の英語力向上のために有効に使う。
 32 誰かが英語を話している時は、その人に注意を払う。
 33 よりよい英語学習者になるための方法を探す。
 34 英語学習の時間を確保するため、自分の学習計画を立てる。
 35 英語で話せる人を探す。
 36 英語の読書の機会をできるだけ探す。
 37 自分の英語力向上に関して明確な目標がある。
 38 自分の英語力が向上したかを考える。
E39 英語を使う状況でリラックスするようにする。
 40 間違いをする恐れがあっても、英語を話すように自分自身を激励する。
 41 英語がうまく使えた時、自分に褒美を与える。
 42 英語を学習していたり使ったりしている時、緊張している自分がわかる。
 43 自分の感情を日記に書いている。
 44 英語を学習している時、どう感じているかを、他の人に話す。
F45 相手の言っていることがわからない時、ゆっくり話すか、もう一度言うように頼む。
 46 自分が英語を話していて間違った時は、訂正してくれるように頼む。
 47 他の生徒と英語を練習する。
 48 外国語指導助手に助けを求める。
 49 英語で質問する。
 50 外国の文化も学習するようにしている。

集計方法  1〜 9の数の計÷9(小数点2位以下繰上)=小計A(効率よい記憶)
       10〜23 〃  ÷14 =小計B(心的操作の割合)
       24〜29 〃  ÷6 =小計C(不足する知識の補完)
       30〜38 〃  ÷9 =小計D(学習の組織と評価)
       39〜44 〃  ÷6 =小計E(感情の抑制)
       45〜50 〃  ÷6 =小計F(他者との学習)
        1〜50問の数の計÷50=全体平均
判定    4.5 〜 5.0…常にあるいはほとんど活用されている
       3.5 〜 4.4…普段活用されている
       2.5 〜 3.4…時として活用されている
       1.5 〜 2.4…普段あまり活用されていない
       1.0 〜 1.4…全くあるいはそれに近い位活用されていない



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