岩手県立総合教育センター教育研究(1999)


学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する研究

−学習情報を共有するコンピュータ教材の開発をとおして−(第1報)


<< 目   次 >>

1 はじめに
2 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想
 (1)コンピュータネットワークを活用した「学習情報の共有」とその意義
  ア 「学習情報」のとらえ方
  イ 「学習情報の共有」とその意義
 (2)学習情報の共有形態と共有方法
  ア インターネットを利用する学習情報の共有方法
  イ 校内LANを利用する学習情報の共有方法
 (3)「学習情報を共有するコンピュータ教材」についての基本的な考え方
  ア 「学習情報を共有するコンピュータ教材」のとらえ方
  イ 「学習情報を共有するコンピュータ教材」の開発方針
 (4)学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想図
3 基本構想に基づく教材開発
 (1)主にインターネットを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」
  ア 教材の概要
  イ 教材のねらい
  ウ 教材の内容
  エ 教材の活用例
 (2)主に校内LANを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」
  ア 教材の概要
  イ 教材のねらい
  ウ 教材の内容
4 研究協力校における調査をとおした開発教材の内容の検討
5 これまでの成果と課題
 (1) 研究の成果
 (2) 第2年次への課題
6 おわりに

<<参考文献>>

1 はじめに

 現代は、高度情報通信社会のいっそうの進展、特にもインターネットをはじめとする情報ネットワーク化の進展が著しい状況にあり、今後は急速に学校現場へのコンピュータネットワーク環境の整備が進むものと予想されます。このような状況において、コンピュータネットワーク環境の教育利用、特にも日常の学習指導への活用が期待されています。
 しかし、現在、コンピュータネットワーク環境の教育利用について様々な取り組みが行われてはいますが、実際の学習指導で児童生徒が学習によって得た情報の交流を行う実践的な研究は少ないのが現状です。これは、コンピュータネットワークを学習指導に用いることの意義が必ずしも明らかになっていないことや、ネットワーク環境を生かしたコンピュータ教材も少ないことが要因として考えられます。
 このような状況を改善するためには、学習指導において児童生徒が学習によって得た情報の交流を行う際にコンピュータネットワークを用いることの利点を明らかにし、ネットワーク環境を用いて学習情報を共有するコンピュータ教材を開発することが必要です。
 そこで本研究は、学習に必要な文字、画像、映像などの多種多様な情報を複合的に扱うことができ、ネットワーク環境を用いて児童生徒が学習によって得た情報を共有することができるコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方について明らかにし、コンピュータを用いた学習指導の改善に役立てようとするものです。

2 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想

(1)コンピュータネットワークを活用した「学習情報の共有」とその意義
ア 「学習情報」のとらえ方
 本研究では、コンピュータの活用の有無にかかわらず児童生徒の学習活動にかかわる情報を便宜的に「学習情報」と呼んでいます。また、この「学習情報」は、児童生徒が課題解決のために収集する一次的な情報と、課題解決の過程で新たに生成される二次的な情報にも分けられますが、特に断りがない限り、本研究で用いる「学習情報」は後者の二次的な情報を指しています。

イ 「学習情報の共有」とその意義
 「学習情報の共有」とは、校内LANに接続された複数のコンピュータが、共有ファイルにより児童生徒の学習情報を共有することを意味しています。
 共有ファイルは、LAN上で複数のユーザーが使用できるファイルで、共有ファイルの使用は、コンピュータネットワークの基本的な機能の一つです。
 また、共有ファイルとは若干異なりますが、インターネットを利用しても共通の学習情報を扱うことが可能なため、本研究では、校内LANの他にインターネットも含めて、コンピュータネットワークに接続された複数のコンピュータが児童生徒の共通の学習情報を使用することを「学習情報の共有」ととらえています。
 【図−1】のように、コンピュータが児童生徒の学習情報を共有するという機能を活用すれば、児童生徒はコンピュータネットワークを利用して学習情報の交流を行うことができます。そして、学習情報の交流にコンピュータネットワークを活用すれば【表−1】のような利点を生かした授業の展開が可能となります。

(2)学習情報の共有形態と共有方法
 コンピュータネットワークによる学習情報の共有形態には、学習情報が、インターネット上で共有される場合と校内LAN上で共有される場合とが考えられます。
ア インターネットを利用する学習情報の共有方法
 インターネット上に情報の管理者(仲介者)を設置すれば、ホームページやEメールを利用した児童生徒間の学習情報の交流が可能となります。管理者を仲介した情報交換は、すでにメーリングリスト、電子掲示板で行われていますが、これらの事例は、情報の管理者がサーバーを管理している場合がほとんどです。インターネットを利用した学習情報の交流をもう少し手軽に行いたい場合は、Eメール等を次のように利用するのが便利です。
 通常、インターネットを利用したEメールの交換は一対一の形ですが、共通の話題を持った利用者どうしで管理者を決め、管理者がEメールの送受信を仲介するという形をとれば、そのグループ内での情報交換ができます。後段で紹介する開発教材の一つはこの方法を取り入れたものです。

イ 校内LANを利用する学習情報の共有方法
 校内LANに接続された任意のコンピュータに共有ディスク・共有フォルダを設定することにより、学習情報の共有が可能となります。
 共有ディスク・共有フォルダの設定は、【図−2】のようにサーバーに設定する場合と、教師用あるいは児童生徒用のコンピュータに設定する場合とが考えられますが、その選択は学習内容やコンピュータネットワークの環境によって決められます。
 学習情報の共有ディスク・共有フォルダへの保存や、共有ディスク・共有フォルダからの学習情報の呼び出しを行うためには、児童生徒が「保存」や「呼び出し」のようなコマンドを選択することにより自動的に実行する教材ソフトが必要ですが、コンピュータリテラシーの指導が十分に行われている場合は、児童生徒が保存先である共有ディスク・共有フォルダのパスとファイル名を指定するだけでも共有ファイルの利用は可能です。
 なお、ここで紹介したインターネットや校内LANによる学習情報の共有方法は、システム的にはすでに確立されているもので、このようなシステムを活用する具体的な教材を開発するのが本研究です。

(3)「学習情報を共有するコンピュータ教材」についての基本的な考え方
ア 「学習情報を共有するコンピュータ教材」のとらえ方
 コンピュータネットワークによる「学習情報の共有」という機能を用いて、児童生徒の「学習情報の交流」を支援する教材が「学習情報を共有するコンピュータ教材」です。
 この教材は、学習情報の生成や、共有ファイルの保存や呼び出しを支援するアプリケーションの他に共有ディスク・共有フォルダの設定等コンピュータネットワークの環境設定も必要なことから、全体としては、【図−3】のように一つのシステムとしてとらえられます。

イ 「学習情報を共有するコンピュータ教材」の開発方針
 「学習情報を共有するコンピュータ教材」が、通常のアプリケーションの機能の他にコンピュータネットワークの環境設定も必要であり一つのシステムとして機能することから、「学習情報を共有するコンピュータ教材」の開発にあたっては、使用するネットワーク環境の状況を踏まえたうえで、実際に学習情報の交流を行う際にどのような機能が活用できるのかを検討することにしました。
 また、教材開発は、指導者がWindows98等の基本的な操作(ファイル、フォルダ等の管理)や、インターネットやEメールが利用できるものとして行いますが、CGIの利用やサーバーの管理等、一般の先生方には応用が難しい内容は研究の対象から外すことにしました。
 また、コンピュータネットワークを利用して学習情報の交流を行うためには、Windows98等の基本機能を利用したコンピュータネットワークの環境設定の他に、児童生徒による学習情報の「生成」「送信・保存」「活用」等の活動を支援する教材が必要ですが、このような教材の開発に、本研究では、インターネットの普及とともに急速に利用されはじめているHTMLとよばれる言語を中心に、教材を開発することにしました。HTMLには「Kit97」や「VB」に比べデータを加工したりファイルを自由に管理するような内容のプログラミングが難しいという欠点がありますが、静止画や動画、音声といったオブジェクトの挿入や他のファイルやオブジェクトへのリンク等が比較的簡単にできるという利点もあります。HTMLは、ホームページやWindows98のヘルプファイル等のハイパーテキストを作成している言語です。

(4)学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想図
 次の【図−4】は、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用状況と児童生徒の実態、研究の手だてと研究の目指す姿等を図に示したものです。

3 基本構想に基づく教材開発

(1)主にインターネットを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」
ア 教材の概要
 ・教材名「親水活動支援システム」
 ・動作環境「教材の内容」を参照
 ・開発ソフト  IBMホームページビルダー2000

イ 教材のねらい
 本県では河川の水質調査を教育活動に取り入れている学校が多く、平成10年度は、小・中学校を中心に227団体4,495人が、143河川475地点で「水生生物による水質調査」を行っています。
 本教材は、この調査活動を支援するとともに、インターネットを利用して水質調査に取り組んだ学校間における学習情報の交流を支援するものです。河川の水質調査という体験活動から環境教育に取り組んでいる学校は全国的にも増えており、「水生生物による水質調査」や「水質調査を基にした発展的な学習」は、環境教育や環境問題をテーマとする総合的な学習等の一環として行われることが予想されます。【図−5】はその一例で、環境問題にかかわる様々な探究活動の過程で「水生生物による水質調査」が行われる可能性を示しています。あるいは、単元の導入に全員で「水生生物による水質調査」という体験活動に取り組み、その活動から各自が学習課題を設定し、例えば、流域の環境や生態系について探究活動を展開しながら「自然と人間」について学んでいくというような学習過程も考えられます。

ウ 教材の内容
 「親水活動支援システム」のアプリケーション部分は、「水質調査活動の支援」と、「学習情報の交流や発展的学習の支援」を中心に構成し、ソフト「イーハトーブの環境教育」として統合しています。
 【図−6】は「イーハトーブの環境教育(CD−ROM版)」のトップページで、次のメニューが選択できます。

 次に、各メニューの内容について具体的に説明します。

(ア)【はじめに】について
 「はじめに」のページでは、このソフトの目的と動作環境について次のように説明しています。

(はじめに)
 このソフトは、水生生物による水質調査や環境の学習に利用できます。水生生物による水質調査法を学び たい場合は「ヒゲナガの川」を、水質調査活動の実例や水に親しむ活動「親水活動」について知りたい場合 は「環境学習の事例」をクリックして下さい。また、よその学校の友達と情報を交換したり、環境学習の交 流をしたい場合は「調査結果の送信」をクリックして下さい。もし、あなたの学校のコンピュータがインタ ーネットに接続していれば、あなたの学校の活動の様子を管理者(システムオペレータ)に送信することが できます。送信して頂いた情報はホームページ「イーハトーブの環境教育」に掲載しますから、ご覧になっ て下さい。「よその学校の活動の様子」は、ホームページに掲載される場合のサンプルです。みんなで力を 合わせて環境学習のデータベースを作って行きませんか。

(動作環境)
画面モード800×600(推奨)ブラウザInternet Explorer4.0以上(推奨)Netscape Navigator4.0以上(推奨) ビデオ再生Windows Media Player(推奨)他に、MIDI形式・WAV形式の音声ファイルがあります。

「イーハトーブの環境教育」CD-ROM版についてご意見・ご感想をお寄せ下さい。岩手県立総合教育センター 教育工学室 tsuzuki@ed-center.hanamaki.iwate.jp 花巻市北湯口2-82-1 TEL 0198-27-2711 FAX 0198-27-3562

(イ)【環境学習の事例】について(CD-ROM版)
 「環境学習の事例」を選択するとMPEG形式で保存されたビデオが再生されます。このビデオは、水生生物による水質調査の事前指導や事後指導における利用を想定したもので、次のように水質調査や水環境の保全活動、親水活動に取り組む県内の三校の活動を紹介しています。

 ○ビデオ1「ふるさとの川を見守る〜大槌中学校科学部4年間の活動〜」1992年
 大槌町立大槌中学校は、科学部が中心となり、水生生物による水質調査に継続的に取り組み、日本学生科学賞県審査最優秀賞を連続受賞、全国小・中学校環境教育奨励賞等も受賞しています。
 このビデオは、環境保全ビデオ大賞最優秀賞受賞作品で「大槌中学校科学部による水質調査活動の様子」「活動が水質調査から環境調査に移行していく過程」「大槌川や流域の自然環境に対する関心が全校に広まっていく過程」等が紹介されています。
 ○ビデオ2「全国水環境フェア'96岡山大会における川崎村立川崎中学校の発表」1996年
 川崎村立川崎中学校は、河川の調査・保全活動に水辺に親しむ活動を加えた「親水活動」に取り組んでおり、県教育表彰、環境庁水質保全局長表彰等を受賞しています。
 このビデオは、東北代表として参加した水環境フェア'96岡山大会で上映された作品で、「砂鉄川の水質調査」「砂鉄川源流を訪ねる旅」「北上川クリーン作戦」「Eボート大会」等の活動が紹介されています。
 ○ビデオ3「大槌町立小鎚小学校による水質調査活動」1990年
 大槌町立小鎚小学校の実践は、「教育情報いわて」の実践レポートで「身近な環境問題に気付き、意欲的に自然を守る活動を実践していこうとする児童の育成」と題して紹介されています。
 地域連携も取り入れた取り組みは、全国環境教育フェアで実践発表、今年度は県から河川愛護団体感謝状を受賞しています。
 このビデオには、同校が継続的に取り組んでいる小鎚川の水質調査の初年度の様子が紹介されています。
(ウ)【ヒゲナガの川 Ver.3】について
 水生生物による水質調査が県内で広く実施されていることは既に紹介しましたが、この調査には、 河川から出現した生物を水質を示す指標生物に分類するという専門的な知識・技能が必要です。
 本教材は、この水質調査の原理や指標生物の見分け方といった専門的な内容を、ゲーム感覚で学習できるようにしています。
 本教材は、当教育工学室の長期研修生が、平成4年度にFCAIを用いて開発したMS-DOS版の「ヒゲナガの川」(「教育研究岩手No.70」参照)がベースになっており、MS-DOS版は、すでに県内外の小中学校をはじめ、県南青少年の家が主催する環境教育の講座等でも活用されてきています。
 本教材は、環境教育や環境問題をテーマとする総合的な学習等の一環として行われることも予想される水質調査活動の支援を目的に、HTMLを用いて新たに開発したソフトで、全編をホームページの形式で構成しているためブラウザがインストールされていれば、ほとんどの学校で利用できることが大きな特徴です。
 【図−7】は内容を説明する初期画面で、【図−8】〜【図−10】は、それぞれ観察力を鍛える場面、検索の用語を学習する場面、分類方法のポイントを学習する場面の一例です。Windows版「ヒゲナガの川」は約250のHTML形式ファイルと百数十枚の画像ファイルから構成されています。

(エ)【水質調査結果の送信】について
 このぺージは、水質調査の結果を、Eメールを利用して情報の管理者に送信する場合に利用します。初期メニューから【図−11】の説明画面を経て、【図−12】のような「今すぐ送る」「まとめ方を見る」「送り方を学習する」の三つの内容で構成されたメニュー画面に移ります。
 1の「今すぐ送る」をクリックすると当センター宛てのEメールを送信するソフトが立ち上がり、2の「まとめ方を見る」をクリックすると、【図−14】のような水質調査のまとめ方の一例が紹介されます。調査結果のまとめ方は各校の工夫に委ねることにしていますが、まとめ方の雛形を希望する学校のために【図−15】のような内容(一部)のテキストファイル形式のページも用意しています。3の「送り方を学習する」からは、【図−13】のようなEメールソフト(Outlook Express)の説明のページにリンクします。簡単な説明ですが、Eメールのように校外に直接情報を発信する活動は、マナーやセキュリティ等の問題から児童生徒が単独で行う場合は想定していないため、文字を入力する場所や写真などが添付できること等が理解できる程度の内容としています。

(オ)【よその学校の活動の様子】について
 このページは、水生生物による水質調査を実施した学校から送信された学習情報が掲載される場所で、水生生物による水質調査活動を基にした発展的な学習を行う場合に利用できます。
 他校の調査結果や活動の様子を見ることにより、児童生徒は、これまでの活動を見直したり、母校の川から全県あるいは全国の状況というように視野を広げたり、あるいは水質調査から環境調査、人と自然とのかかわり等に学習を発展させたりすることができると考えられます。
 【図−16】のように、このページの初期画面には、水質調査実施校と位置を示す地図が掲載されています。このページ左側のフレームの一覧表から校名をクリックすると、地図が掲載されているフレーム部分に【図−17】のように、選択された学校の活動の様子が紹介されます。
 各学校の紹介は、ホームページ形式ですから、各学校から送信されてきた学習情報がHTML形式のファイルであればそのまま掲載し、メール文と写真等の添付ファイルの場合は管理者側で編集したものを掲載する予定です。

(カ)【環境学習リンク集】について
 環境学習リンク集は、水生生物による水質調査や、他校との学習情報の交流等を体験した児童生徒が発展的な課題を解決する手段の一つ、あるいは新たな課題を探る手段の一つとして利用することを想定しています。リンクの数は十数例ですが、児童生徒が、リンク集を利用して水環境にかかわる情報の検索を体験することにより、ホームページを利用して情報収集を行おうとする動機づけが図られるようにしています。このリンク集の特徴は次のとおりです。

○ 国立環境研究所環境情報センターのデータベース「環境情報ガイド」にリンクさせており、ここから水質調査や環境調査に関連する数千件の情報にアクセスすることができます。
○ 岩手県生活環境部のホームページ「測定結果」にリンクさせており、児童生徒は、このホームページから水生生物による水質調査の全県的な取り組み状況を知ることができます。
○ 調査・保全中心の活動から、川との触れ合い方を考える学習に発展させる上で有効なホームページの一つとして「北上川ガイド」にリンクさせています。
○ 児童生徒の視野が全国の活動に広がるように、北は北海道の「北海道環境サポートセンター」から、南は屋久島の「屋久町立岳南中学校」まで取り上げています。
○ 水質調査以外にも様々な角度から環境調査や環境保全活動に取り組んでいる事例として「大西町立大西小学校環境教育」「長浜市立長浜小学校」等のホームページにリンクできるようにしています。

エ 教材の活用例
 教材「親水活動支援システム」は、研究上では学習情報を共有し、児童生徒の学習情報の交流を支援するものですが、教材を部分的に利用する場合や、教材を利用する場面等により、次のように様々な活用形態が考えられます。

(ア)教材を部分的に利用する場合
 ○ 水生生物による水質調査活動の事前学習に「ビデオ」や「ヒゲナガの川」を利用する
 ○ 環境学習の教材(道具)として「ビデオ」や「リンク集」を利用する
 ○ 他校との学習情報の交流に「Eメール」や「ホームページ」を利用する

(イ)教材を利用する場面
 ○ 教科の中や、総合的な学習の導入場面等で一斉学習として全員で利用する
 ○ 総合的な学習での課題解決の過程で希望する児童生徒のみが利用する
 ○ 特別活動の一環として委員会活動や部活動で活用する
 したがって、本教材を活用した学習情報の交流にも「個人と学校」「学級と学級」「クラブとクラブ」等のように様々な活用形態が予想されるため、【図−18】に紹介する活用例はあくまでも一例に過ぎません。【図−18】のA校、B校における学習過程は、中学校3年理科の弾力的運用の時間を利用し「水質調査」を行う場合を想定しています。また、【図−18】の(CD)は、同等の機能を有するCD−ROM版で、インターネットの利用時間やインターネットを同時に利用できるコンピュータの台数などに制限がある学校のために開発したものです。

(2)主に校内LANを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」
ア 教材の概要
 ・教材名   「水生生物を見つけて川の水質を調べよう」
 ・動作環境  ブラウザ Internet Explorer4.0以上 (推奨)
               Netscape Navigator4.0以上(推奨)
          Windows Media Player ハイパーキューブ for Windows
          校内LAN・インターネットに接続
 ・開発ソフト IBMホームページビルダー2000

イ 教材のねらい
 本教材は、先に紹介した「イーハトーブの環境教育」を校内で利用する場合の支援システムで、主に校内LANを利用して、次にあげる児童の活動等を支援します。
 ○ 「イーハトーブの環境教育(ヒゲナガの川)」を活用した水生生物調査の事前学習
 ○ 水質の予想、調査計画、調査結果、まとめ、感想等の学習情報の交流
 ○ 「イーハトーブの環境教育(調査結果の送信)」を活用した調査活動の報告
 ○ 「イーハトーブの環境教育(環境学習リンク集)」を利用した情報収集

ウ 教材の内容
 本教材は、校内LANを利用した「学習情報を共有するコンピュータ教材」の実例です。学習情報の共有形態は、情報の管理のしやすさから【図−19】のように校内LANのサーバー内に6つの共有フォルダをつくり、児童が生成した学習情報を送信・保存し管理するという方法を選択しています。この共有フォルダ内に蓄積された学習情報に、コンピュータを利用するすべての児童がアクセスすることができます。「生成」「送信・保存」「活用」等の学習活動の支援は、メニュー画面から「ハイパー・キューブ」等のあらかじめインストールされているアプリケーションにリンクさせ、アプリケーションを起動し、利用するという方法で行います。
 次のページ【図−20】は教材の初期メニュー画面であり、【図−21】は教材の構成と共有フォルダとの関係を示したものです。

 初期メニュー画面は2つのフレームからなっています。左側はメニュー選択画面。右側にメニュー画面で選択したページが表示されます。
 初期メニューから選択できる内容は次のとおりです。

 次に、それぞれのメニュー(教材)の内容と学習の進め方について説明します。

(ア)【ヒゲナガの川】について
 「1 ヒゲナガの川」は、「水生生物を見つけて水質を調べよう」の導入にあたります。これからの学習への期待や「ヒゲナガの川Ver.3」についての感想等、友達の様々な考えを知ることをとおしてこの学習に対する興味や関心が高まることを主なねらいとしています。
 まず、「ヒゲナガの川Ver.3」で水生生物の調べ方を事前学習します。その後、これからの学習への期待や「ヒゲナガの川Ver.3」についての感想等を、次のページで紹介するような方法で自分専用の「キューブ・ワード」ファイルに入力します。入力された友達の感想は、【図−22】のような画面から友達の番号をクリックすることで、【図−23】のような形で呼び出し交流します。
 なお、この事例では友達の番号をクリックしていますが、実際の指導では、児童は友達の名前をクリックします。

(イ)【近くの川は?】について
 
「近くの川は?」は、実際に調査することになる身近な川について、自分なりにどうなっているだろうかと考えてみること、友達の様々な考えを知ること、友達の考えに対して自分なりの考えをまとめてみること、自分の考えに対して友達がどう考えたのかを知ることをとおして、調査する前に自分なりの考えを確かに持つこと等を主なねらいとしています。
 まず、調査する川について、「水生生物は本当にいるのだろうか?」「いるとすればどんな生物だろうか?」「身近な川の水質はどうなのだろうか?」等の疑問やその予想を「ヒゲナガの川」と同じように入力・保存し交流します。その際、参考として、実際に児童が調査する川の上流、中流、下流の写真や映像を見ることができるように【図−24】のような画面を用意しています。児童は、この画面上から見たい内容をクリックすることで、写真や映像を全画面に表示して見ることができます。
 次に、友達の疑問や予想を見て、自分なりに考えたことを友達にメールとして送ります。この作業は【図−25】のような画面からメールを出す友達を選び、「キューブ・ワード」ファイルに自分なりに考えたことを入力・保存することでメールが送られたことになります。そして、このメールは【図−26】のような画面から見る友達を選び、交流します。

 この後、班編成、調査地点等の調査計画を教室で話し合い、調査に使う道具や記録するデジタルカメラ等の練習を行い、実際に川に調べに行くことになります。

(ウ)【調査してまとめよう!】について
 「3 調査してまとめよう!」では、班毎に調べてきたことをまとめていきます。学習情報となる調査のまとめを自分の班で作成しながら、他の班のまとめを知ることや自分の班のまとめに対しての他の班の考えを知ることをとおして、調査のまとめを振り返ることを主なねらいとしています。
 まず、調査の結果を何ページにどのようにまとめるかを話し合い、ページ毎に作業を分担します。
 次に、【図−27】の画面から「キューブ・ワード」のファイルにリンクし、【図−28】のように作成していきます。【図−27】は、縦軸が「班名」で、1班から10班まであります。横軸は班で作成する「ページ」で、ページ1からページ10まであります。例えば、2班が2ページ目を作成するときは、縦軸の「2班」から横軸の「ページ2」をクリックするとその「キューブ・ワード」のファイルにリンクし、調べたことをまとめ保存していくことになります。

(エ)【発表会をしよう!】について
 「発表会をしよう!」では、発表会の練習や発表会を行い、この学習活動に対する成就感を高めることを主なねらいとしています。まず、班毎に作成した「キューブ・ワード」のファイルを更に検討し、最終的にHTMLファイルとして保存します。すると、【図−29】のように「発表会をしよう!」のフレームから自分の班を選び、班名の下のページ番号を順にクリックすることで、自分達が作成したページを、例えば画面@〜Bのようにスライドショーとして提示することができます。そして、発表の分担を決め、練習し、発表会を開くことになります。

(オ)【報告しよう!】について→「親水活動支援システム」332ページ参照
(カ)【よその学校の活動様子をみよう!】について→「親水活動支援システム」332ページ参照

4 研究協力校における調査をとおした開発教材の内容の検討

 教材「親水活動支援システム」は研究協力校である花巻市立湯本中学校の先生方に、教材「水生生物を見つけて川の水質を調べよう」は研究協力校である花巻市立宮野目小学校の先生方に試用・検討していただきました。その検討結果(要旨)は、【表−2】、【表−3】のとおりです。

 調査結果から、開発した教材が概ね開発のねらいに沿った教材であることが分かりましたが、小学生にも分かりやすい表現にする必要がある等、改善しなければならない点もいくつか明らかになりました。研究協力校からいただいた教材に対する意見・要望等については、実践段階に入る前に可能なかぎり対応・改善していきたいと考えています。

5 これまでの成果と課題

 この研究は、学習に必要な文字、画像、映像などの多種多様な情報を複合的に扱うことができ、ネットワーク環境を用いて児童生徒が学習によって得た情報を共有することができるコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方について明らかにしようとするものです。
 そのために、本年度は、2年次研究の第1年次として、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想を立案し、基本構想に基づいて学習情報を共有するコンピュータ教材の開発を行い、研究協力校における調査をとおして、開発した教材の検討を行うことができました。
 これまでの研究の成果と、第2年次への課題と考えられることは次のとおりです。

(1)研究の成果
 これまでの研究の結果、児童生徒が学習情報を交流する際にコンピュータネットワークを利用することの利点や、校内LANやインターネット等を活用した学習情報の共有形態を具体的に明らかにするとともに、「学習情報を共有するコンピュータ教材」の事例として総合的な学習や環境教育の支援を想定した主にインターネットを利用する教材「親水活動支援システム」と、主に校内LANを利用する教材「水生生物を見つけて川の水質を調べよう」とを開発することができました。

(2)第2年次への課題
 研究2年次の課題は、開発した教材を用いた授業実践を行い、その分析と考察により学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方に関して検討を加えることが中心となりますが、開発した教材の改善、ホームページやEメールの管理、校内LANの環境設定等も研究の対象として取り組んでいきたいと思います。

6 おわりに

 この研究を進めるにあたり、アンケートにご協力いただく等いろいろお世話いただきました研究協力校の花巻市立宮野目小学校佐藤孝行校長、花巻市立湯本中学校田中吉兵衛校長をはじめとする諸先生方、並びに、教材の開発にあたり貴重な資料を提供して下さいました関係機関に心から感謝申し上げます。


<<主な参考文献>>
環境庁水質保全局  「水生生物による水質調査法」   1998年
鈴木利典 「中学校理科教育実践講座(12-3-5)」 ニチブン    1995年
川合禎次編      「日本産水生昆虫検索図説」 東海大学出版会     1985年
工藤雅俊       「WINDOWS 95 ネットワーク編 改訂版」 東京書籍  1997年
中森工慈・高井昌彰共著「WWWオーサリング技法」 森北出版  1996年



はじめに戻る



岩手県立総合教育センター
〒025-0301 岩手県花巻市北湯口第2地割82番1
TEL:0198-27-2711(代)
FAX:0198-27-3562(代)
Copyright(C) The Comprehensive Educational Center of Iwate