岩手県立総合教育センター教育研究(1999)
インターネットを利用した 教育情報データベースシステムの構築に関する研究 (第1報)
目 次
1 はじめに
2 教育情報データベースシステム構築に関する基本的な考え方
(1)データベースとは
(2)教育におけるデータベースシステムの意義
(3)教育情報データベースシステムの構築に関する基本的な考え方
3 教育情報データベースの内容
4 インターフェースの開発
(1)トップページ
(2)銀河情報データベース
(3)学習用ソフトウェア
(4)その他のメニュー
5 教育情報データベース(銀河情報データベース)
(1)教育実践データベース
ア 学習指導案検索システムの概要
イ 日本語全文検索システムの概要
(ア)インデックスの作成
(イ)検索方法と結果の表示
(ウ)学習指導案検索システム
(2)学習素材データベース
ア システムの特徴
イ データの登録
ウ データの検索
(ア)条件指定検索
(イ)カテゴリ検索
(ウ)キーワード検索
エ マルチメディアデータを用いた学習指導案の蓄積と提供
6 研究のまとめ
(1)研究の成果
(2)今後の課題
<引用・参考文献>
1 はじめに
近年、急速に進展する高度情報通信社会では、情報機器を利用し、さまざまな情報を収集、発信
することが可能になっています。学校にもコンピュータの導入が進められ、ネットワークを利用し
て多くの教育情報を得ることができる環境が整いつつあります。一方、新学習指導要領では、コン
ピュータなどの情報手段の活用を一層求めており、今後、多くの学校から実践事例や研究成果が公
開されることが期待されます。また、岩手県では「いわて情報ハイウェイ」による情報基盤の整備
と情報教育の充実を掲げ、県の情報ネットワーク作りが始まっています。このような状況の中で、
県内に多数存在する有益な情報を教育活動に活用していくことが必要です。
しかし、これらの有益な情報は、それぞれが散在しデータベース化されていないため教育活動に
おいて有効に活用されていない状況です。また、当総合教育センターが平成元年度から提供してい
る教育研究パソコン通信ネットワーク「銀河コスモスネット」による教育情報データベースシステ
ムでは、マルチメディアデータを扱うことができないため情報の提供方法に制限があり、インター
ネットからも利用することができない状況にあります。
このような状況を改善するためには、インターネットを利用して多くの学校や教育機関から公開
されている実践事例、研究成果及び教育活動で活用されている情報を収集し、静止画、動画、音声
などを取り入れた形式で提供することが必要です。また、わかりやすい検索用インターフェースを
開発し、各教育関係機関との双方向による情報のやりとりが可能となるシステムの構築が必要です。
そこで本研究は、教育情報をマルチメディアデータベース化し、インターネットを使って各教育
関係機関から容易に検索できるシステムを構築し、児童生徒の学習活動や教師の教育活動に役立つ
情報を提供しようとするものです。
本年度は2年次研究の第1年次であり、研究内容は以下の3点です。
@ 教育情報データベースシステムの構築に関する基本構想の立案
A データベースの内容の検討
B インターフェースの開発
2 教育情報データベースシステム構築に関する基本的な考え方
(1) データベースとは
データベースは情報(データ)の蓄積を行うものです。情報という資産を、利用者からの多様な
ニーズに対応できるよう整理・統合して蓄積し、情報の有効活用がなされるようにしたシステム
のことです。
データベースは、コンピュータ・システムの発達や情報通信ネットワークの進展に伴い、急速
に発展しています。社会のさまざまな分野で生み出される情報の量が飛躍的に増大し、それを統
合的に効率よく管理する方法として注目されてきたのです。今日の社会では、データベースを中
心として関係機関が情報を共有し、連携して業務を遂行するという形態が一般的になっています。
(2) 教育におけるデータベースシステムの意義
教育に関する情報の種類は、教育研究文献、実践事例、学習指導案、教育用ソフトウェアなど
主として教師側に関わるもの、教科における学習活動や特別活動に役立つ素材など主として児童
生徒に関わるものなど、さまざまあります。これらの情報を、収集、整理・分類し、必要に応じ
ていつでも利用できるようにすることは、教育におけるさまざまな課題への対応や指導方法の改
善、ひいては新学習指導要領における改訂のねらいである児童生徒が自ら学び自ら考える「生き
る力の育成」や「特色ある教育」の展開などに役立つものと考えます。
また、今日、社会のあらゆる分野で音声・画像などによるデータのマルチメディア化が進んで
います。学校にもコンピュータのほか、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなどのマルチメ
ディア関係機器が導入されつつあり、これらを用いて行った実践事例、画像や映像などが組み込
まれた学習指導案及びマルチメディア教材などの公開や提供が進むことが予想されます。今後、
マルチメディアを利用したデータの作成は、教師だけではなく児童生徒の学習活動や特別活動に
においても活発に行われるものと考えます。そこで、これからの教育情報データベースシステム
は、ネットワーク上から利用でき、操作しやすいインターフェースを有し、マルチメディアデー
タを扱うことができるシステムとして構築することが必要です。このことにより、教師が行う指
導実践や学習指導案などの作成方法の幅を広げ、新たな教育活動の展開が期待できます。また、
データの作成をとおし、多彩なメディアを活用しながら児童生徒の表現力や創造力を育成するこ
とができ、情報教育の目標である「情報活用能力の育成」につながるものと考えます。
以上のことから、多様な情報を公開し、共有しながら活用していくことを可能にする教育情報
データベースシステムの構築は、これからの教育において教師及び児童生徒に有益な教育情報や
手段を提供するものであり、大変意義のあることと考えます。
(3) 教育情報データベースシステムの構築に関する基本的な考え方
「銀河コスモスネット」では現在約15万件の教育情報を提供しています。毎年数千件のアクセ
スがあり、大きな成果を上げています。しかし、「銀河コスモスネット」に構築した教育情報デ
ータベースは文字情報が中心で動画や音声などを取り入れたマルチメディアデータを扱うことが
できないため、データの収集や提供方法に制限があります。また、近年、インターネットから利
用可能な教育情報データベースに対する要望が強く寄せられています。そのため、情報のマルチ
メディア化が進んでいる今日のデータベースとして、インターネットを利用して検索でき、マル
チメディアデータを取り入れた多様な教育情報を提供できるような、より新しいデータベースシ
ステムを構築しなければならない時期にきています。
21世紀に向け教育における情報化はさらに進み、教育内容や指導方法の改善、児童生徒の主的
な学習活動が活発に行われるなど多様化すると思われます。そのような中で教育情報データベー
スを運用していくためには、教師の教育活動及び児童生徒の学習活動や特別活動に役に立つ情報
を分類、整理し蓄積していくことが必要です。また、児童生徒が主に使う情報については、デー
タを教師主導のもとで作成していくだけではなく、児童生徒もデータの作成に携わることができ、
作品や研究成果などの発表をとおして情報の受発信ができるようにしていく必要があります。
以上のことから、本研究では、次のようなデータベースシステムの構築を考えました。
@ インターネットから利用できるようなシステムの構築
A マルチメディアデータを扱うことができるデータベースシステムの構築
B 親しみやすく、わかりやすいインターフェースの開発
C 本県の教師の教育活動に役立つ教育情報データベースの構築
D 本県の学校や地域の特色を生かした児童生徒の学習に役立つデータベースの構築
E 児童生徒がデータベースの構築に参加できるようなシステムの構築
F 協調学習や交流学習ができるようなシステムの構築
G 学校や教育機関から比較的容易に情報を得ることができるようなシステムの構築
特に、インターフェースは、インターネットブラウザの操作性の良さを生かしたグラフィカルでわかりやすいシステムにするため、次のような点に配慮し開発しました。
@ 画面のスクロールを最小限にするよう工夫する。
A 検索画面は1画面になるよう工夫する。
B キーボード入力を最小限にし、マウスをクリックすることで検索できるよう工夫する。
C 児童生徒も使う画面では、言葉の表現や用いる絵・画像などを工夫する。
D ファイルの内容がわかるように、ファイルを特徴づけるサムネイル表示を工夫する。
E 主に教師が使う画面では、キーワードとカテゴリを併用した日本語全文検索を導入する。
F データは、校種、教科・領域に分類し、児童生徒も検索しやすいよう工夫する。
3 教育情報データベースの内容
当総合教育センターは、平成10年12月、文部省・郵政省の共同事業である「先進的教育用ネット
ワークモデル地域事業」(以下、学校インターネットと呼ぶ)における全国30モデル地域の一つと
して指定され、平成11年11月末、花巻地域ネットワークセンターが稼働を開始しました。この事業の目的は、教育センター等を拠点としモデル校35校を高速回線で接続し、学校教育におけるインタ
ーネットの有効活用や地域ネットワークの在り方に関する先導的な研究開発を行い、学校教育の改
善・充実に資することです。当花巻地域では、「学校・地域の特性を生かしたデータベースの構築
と先進的教育用ネットワークの活用の在り方に関する研究」を主題として掲げています。
本研究は、学校インターネット事業で導入されたWWWサーバ、マルチメディア対応データベース
サーバ及びデータベース用ソフトウェアを使用して研究を行います。研究の成果は、今後、当総合
教育センターに導入されるデータベース関係の機器、ソフトウェアを用いて外部に公開します。
教育情報データのうち、HTML形式のデータはWWWサーバに構築し、動画などはVOD(ビデオ・オン
・デマンド)に対応したマルチメディアデータベースサーバに構築します。HTML形式のデータには、
必要があれば写真、ビデオなどの一画面を縮小したサムネイル画像を貼り付け、教育情報の具体的
な内容をわかりやすく示します。そして、サムネイル画像やデータの存在を示す文字列をクリック
すると実際の画像がマルチメディアデータベースサーバから配信されるような連携を工夫します。
本研究で構築するデータベースは、これまで当総合教育センターに蓄えられてきたデータを含め、以下の7種類です。また、構築するデータベースシステムの基本構想図を【図1】に示します。
@ 教育研究文献情報データベース
A 教育実践データベース
B ソフトウェアライブラリデータベース
C 領域別実践データベース
D 学習素材データベース
E 地域素材データベース
F 児童生徒作品データベース
4 インターフェースの開発
学校インターネット事業における花巻地域ネットワークを、今後さまざまなマルチメディア教育情報を受発信し岩手の教育に貢献できることを願い、岩手が生んだ宮澤賢治にちなんで「イー ハトーブ銀河ネットワーク」と命名しました。JPNICから独自のedドメイン(ihatov.ed.jp) を取得し、当ネットワークセンターのWebページの作成と公開を行いました(【図2】)。なお、URLはhttp://www.ihatov.ed.jp/ ですが、これは外部公開用のものです。 イーハトーブとは、宮澤賢治が岩手県花巻市一帯を理想郷として名付けた名前です。トップページについては本システムの入口となる重要なインターフェース部分であると考え、イメージ図とメニューの種類や配置を工夫しました。全体として宮澤賢治のイメージをベースとし、児童生徒にもなじみやすい画面構成になるよう工夫しています。画像は1枚のサイズが大きいため4分割にし、表示スピードのダウンを極力緩和できるようそれぞれの容量が6〜10KBになるようにしました。また、メニ ュー部分はクリッカブルにし、各ページに簡単にリンクできるようにしました。トップページを含め、各ページに使用するロゴやイメージ画像は宮澤賢治や花巻地域がイメージされるようにし、明るく表現できるよう色使いなども工夫しました。各メニューはマウスで指示するとひらがなでメニュー名が表示されるようにし、小学校の児童にもわかりやすいようにしています。 トップページからのメニューは【図3】に示すとおりです。 |
(2) 銀河情報データベース
本研究におけるデータベースシステムを「銀河情報データベース」と命名しました。このうち、「教育研究文献情報データベース」「教育実践データベース」「ソフトウェアライブラリデータベース」は、主に教師が利用するものであり、教師の教育活動に役立つデータベースの構築を行います。これらは今まで「銀河コスモスネット」のサーバー内に構築し提供していましたが、文字情報のみの提供であること、検索システムが使いやすいとはいえないこと、インターネットから利用できないことなどのデメリットがあります。しかし、特に県内の学校から収集している学習指導案については閲覧希望が非常に多く、インターネットでの閲覧を可能にしてほしいとの要望が強く寄せられています。そこで、これらの3種類について、既存のデータベースサーバからテキストデータとして取り出し、それをインターネットブラウザで閲覧することが可能になるよ
うHTML化することとしました。検索用ソフトウェアとしては、フリーソフトでありながら各方面で高い評価を受け、動作的にも信頼性の高い全文検索システム「Namazu
v1.3.0.10」(高林哲氏)を使用することとしました。インターネット上からのアクセスが可能となることにより、一般的なブラウザを使用した検索や閲覧を容易に行うことができるようになります。「銀河コスモスネ
ット」によるアクセスと比較し、検索方法や学校からの情報の取得方法も大幅に改善され、学校からの要望にも応えることができるよう工夫しました。
「領域別実践データベース」「学習素材データベース」「地域素材データベース」「児童生徒作品データベース」は、主に児童生徒が利用するものです。学校の協力を得ながら、学校や地域の特色を生かした児童生徒の学習に役立つデータベースの構築を行う予定です。メニューにはふりがなをふったり、ひらがなを多用するなどの工夫を行います。また、言葉の表現を工夫したり、子ども向けのロゴや動画などを用いることによって、小学校低学年の児童にもわかりやすく親しみやすいページになるよう工夫していきます。どのデータベースもマルチメディアデータを扱うことができ、学校や教育機関からも情報を得ることができるようになっています。さらに、児童生徒もデータの作成やデータベースの構築に参加できるようなシステムとなっています。
以下に、構築するデータベースの内容とシステム構成を簡単に示します。また、Web上におけるメニュー画面は【図4】に示すとおりです。
@ 教育研究文献情報データベース A 教育実践データベース B ソフトウェアライブラリデータベース C 領域別実践データベース D 学習素材データベース E 地域素材データベース F 児童生徒作品データベース |
(3) 学習用ソフトウェア 「じょうほうのたからばこ」からは「ブリタニカ国際大百科事典小項目版」(TBSブリタニニカ)にアクセスすることができます。著作権によりデータの二次利用は認められていませんが、調べ学習や教材作成の参考資料として活用することができます。 「音のたからばこ」から著作権フリーの音源集「音の彩色」(株式会社ベストメディア)にアクセスすることができます。200タイプの素材が収録されており、ホームページや教材などに挿入する効果音、BGMとして自由に編集、加工し、活用することができます。 「交流学習のためのどうぐばこ」から協調学習をするためのソフトウェア「COLLABONAVI」(東日本電信電話株式会社)を使用できます。これは、既存のホームページを教材として活用し、メ ッセージボード、チャットなどのツールを使い「意見交換をしながら、一つのテーマに対する理解を深めていく」学習スタイルを実現するものです。 「学習のどうぐばこ」からはインターネットを利用した個人適応型学習システム「CALsurf」(NTTソフトウェア株式会社)にアクセスすることができます。活用方法としては、学習を深めるための教材提示、自習時間の学習などが考えられます。また、電子メールなどが利用できるため、教師と児童生徒、児童生徒同士が遠隔地にありながら情報交換や交流を行うことができます。 「素材のどうぐばこ」からアクセスすることができる「CyberLoft」(NTTラーニングシステムズ株式会社)を用い、登録されているマルチメディアデータから目的の映像を表示・再生・入手することができます。児童生徒が作成したデータを登録し、表示・配信することが可能です。 |
(4) その他のメニュー
トップページからは、他に「イーハトーブリンク」「花巻地域ネットワーク」「ネットワーク
リンク」にリンクするようになっています。
「イーハトーブリンク」は、平成9年度の研究の一環で作成した教育情報リンク集のことです。全国の約1万を越えるサイトから約1,300件の情報に絞り込み、児童生徒の学習活動や教師の教育活動に活用可能と思われる教育素材を校種ごとに分類し、さらに教科、領域ごとに分類して二次情報を提供しています。現在約35,000件を超えるアクセスがあり、よく活用されています。
「花巻地域ネットワーク」は、学校インターネット事業に参加している県内25校と、青森県弘
前市10校にリンクしています。今後、各学校の教育活動の様子が発表される場となります。
「ネットワークリンク」は、学校インターネット事業における中央ネットワークセンターや全国30地域の各ネットワークセンターなどへリンクしています。全国の活動状況の受発信の場とな
ります。
5 教育情報データベース(銀河情報データベース)
本研究で構築するデータベースのうち、主に教師が使うデータベースとして「教育実践データベース」を、また、主に児童生徒が使うものとして「学習素材データベース」を例にあげ説明します。
ア 学習指導案検索システムの概要
「銀河コスモスネット」から学習指導案を検索するシステムは次のような仕様です。
・カテゴリやキーワードをあらかじめ登録しておかなければならない。
・テキストデータだけしか扱うことができない。
・検索方法がコマンド入力である。
そのため、以下に示すような制約があります。
・目的のデータを検索するまでに、多くの階層を経なければならない。
・目的のデータを検索するまでに、多くの画面スクロールが必要である。
・登録されていないキーワードでは検索することができない。
・データベースにデータを登録する際は、複数のキーワードを設定する必要がある。
・検索結果は文字情報だけで表示され、マルチメディアデータを扱うことができない。
・表示されたデータは文書として成型されていないため活用するには成型作業が必要。
・検索画面やデータのデザインを工夫することができない。
これらのことから、インターネットを利用したデータベースシステムでは、データとなる学習指導案をHTML化し、すべてテキストベースで検索される日本語全文検索システムを導入するこ とにしました。このシステムの導入により、トップメニューからのカテゴリ検索とキーワード検索との併用により、登録されているすべての学習指導案から日本語全文検索ができるようにしました。インターネット上で検索する利点として、次のようなことがあげられます。
・一般的なブラウザ上から検索することができる。
・レイアウトやデザインなどを工夫することができ、視覚的な情報検索が可能になる。
・マルチメディアデータを扱うことができるようになり、写真や図を取り入れた教育実践データをそのまま提供できるようになる。
また、日本語全文検索システムの導入による利点として、次のようなことがあげられます。
・データ構築の際、キーワード作成の必要がなく、データのメンテナンスが容易である。
・システムの運用後も使いやすいインターフェースに改良することができる。
・複数のキーワードを入力することができる。
・目的のデータを検索するまでの検索画面が少ない。
イ 日本語全文検索システムの概要
ここで採用する日本語全文検索システム用のソフトウェア「Namazu」には、インデックス作成機能とサーチエンジン機能の2つの機能があります。インデックス作成機能とは、文書データの中に含まれている単語を分析してインデックスを作成する部分です。サーチエンジン機能
とは、作成されたインデックスに基づいて検索を行う部分です。
インデックスを作成するためには、文書データを単語ごとに分ける処理が必要になります。これを日本語の「分かち書き」といい、「kakasi
v1.14」(佐藤雅彦氏)を用いることにしまし た。また、インデックスの作成には「Perl
v5.005」、ネットワーク用漢字コード変換フィルタとして「nkf
v1.7」を使用し、日本語全文検索システムを構築することとしました。
「Namazu」を使用することに関する利点として以下のことがあげられます。
・さまざまなサイトで使用されており、システムとしての安定性が実証されている。
・インデックス作成部分と検索部分が分かれているため、検索システムとして高速である。
・インデックス作成のバッチファイルのカスタマイズが容易である。
・検索時の環境、検索画面などのカスタマイズが容易であり、システムを構築しやすい。
・フリーソフトであり、いろいろなOSに対応しているため、他のサーバや学校などにおけるイントラネットなどにも導入できる。
「Namazu」を用いた日本語全文検索システムの基本的構造とその機能を【図6】に示します。
(ア) インデックスの作成
「インデックス作成」とは、どの単語がどの文書に含まれているのかという情報を作成する索引のようなものです。日本語全文検索システムでは、通常、単語単位で検索を行うため、インデックスには単語単位で情報を格納します。したがって、インデックスを作成するためには、情報を単語ごとに分ける処理が必要になります。これが前述した「分かち書き」です。日本語全文検索システムは、日本語を分かち書きし、単語として登録することにより、検索を行うサーチエンジン機能の実行速度を高めています。
本研究におけるカテゴリは、「小学校」「中学校」「高等学校」「盲・聾・養護学校」としました。そして、カテゴリに対し、それぞれ教科・領域を指定し、さらに、キーワードを入力し、検索対象を絞ることができるようにしたいと考えました。そこで、インデックスを格納する場所とデータを格納しておくディレクトリの構造を同一にしました。このことにより、それぞれの検索方法に応じて高速に検索することが可能になっています。また、インデックスを作成するためのバッチファイルを作り、それぞれの検索方法に対応できるようなインデックスを作成し、格納しています。インデックス格納フォルダとデータ格納フォルダは、カテゴリと同様に校種ごとに分け、さらに、教科・領域に分けました。
(イ) 検索方法と結果の表示
作成されたインデックスをもとに、サーチエンジン部分で検索を行います。カテゴリ検索は、前述したように「校種」「教科・領域」の2段階で行うことができます。さらに、検索文字列欄にキーワードを入力することにより、検索対象を絞り込むことができます。キーワード入力の検索は、AND、OR、NOT検索などデータベースにおける基本的な検索方法のほか、フレーズ検索及び中間一致、後方一致、正規表現による検索もサポート
しています。また、「表示件数」や「要約表示の有無」などを検索する側で設定することもできます。表示結果からデータを閲覧する場合は、クリックするだけでデータが表示され、検索から閲覧までの過程を簡略化し、検索速度を速めています。これらにより、「銀河コスモスネット」における検索システムでは不可能であった利用者のニーズに応じた自由度の高い検索を行うことができるようにしました。
(ウ) 学習指導案検索システム
学習指導案検索システムのトップページは、【図7】に示すとおりです。検索文字列のテキストボックスにキーワードを入力し、対象校種のチェックボックスにチェックを入れ、対象教科・領域のリストボックスから検索したい教科・領域を選択します。表示件数や要約表示の有無はユーザーが設定できるようになっています。なお、検索対象校種や教科・領域のチェックをしない場合には、全校種が検索対象となり、登録されているすべての学習指導案を対象に検索を実行することができます。必要な条件の設定と入力を行い、検索
ボタンをクリックすると、検索結果が表示されます。表示された学習指導案のタイトルをクリックすると、学習指導案の内容がブラウザ上に表示されます。
以上の検索の流れを【図7】、【図8】に示します。ここでのキーワードは、「小学校、
社会、インターネット」です。
「検索方法説明画面へ」ボタンは、検索の仕方がよくわからないユーザーのために作成 したものであり(【図9】)、「学習指導案一覧表へ」ボタンは、登録されている全学習指導案が一覧表形式で表示されるページへリンクしています。【図10】は「学習指導案一覧表へ」ボタンからの画面です。登録されているすべての学習指導案を校種ごとに一覧表形式で見ることができ、再検索をする際にも役立つ画面です。この画面から検索画面に飛ぶことができるように工夫しました。
ここで用いる日本語全文検索システムは、さらに改善を加え、「教育研究文献情報データベース」「ソフトウェアライブラリデータベース」に応用していくことになります。
(2) 学習素材データベース
これは、授業などで活用できる静止画、動画、音声などを取り入れたマルチメディア素材をマルチメディアデータベースサーバに蓄積し、ネットワークを利用して登録、検索、閲覧、配信することができるマルチメディアデータベースです。ソフトウェアは「CyberLoft」と「MediaBase」
(日本SGI株式会社)を用います。
ア システムの特徴
・個々のユーザを登録し、さらに必要に応じてグループ化することができます。このことにより、細分化されたグループ内だけでデータを利用し、学習することも可能です。
・データをダウンロードしたり、アップロードすることができます。このことにより、遠隔地で作成したデータの共有化が可能となります。また、学校側のコンピュータの動作環境やネットワークの状況により閲覧することができないときには、ダウンロードしてからデータを見ることができるため、動作環境にあまり左右されずにデータを利用することができます。
・検索結果は、データの内容がわかるように静止画像を貼り付けたサムネイル表示が可能です。
・動画の配信はストリーミングになっています。学校で閲覧する際は、データを蓄積しているサーバからリアルタイムで再生され、VOD形式でデータを見ることができます。
データの登録は、【図11】に示す「ファイル登録」画面で行います。登録するビデオデータの作成には、ビデオ映像をMPEG-1形式に圧縮(エンコード)することが必要です。学校から登録をする場合は、あらかじめ登録をされた教師が行うことになります。登録に際しては一つのデータに複数のキーワードを設定することも可能です。データのアクセス権についても設定することができるため、閲覧やダウン ロードを制限することもできます。登録項目についてはあらかじめ設定しておくことが可能であるため、ほとんどがマウスの操作で行うことができ、キーボードからの入力を最小限にしています。データの変更や削除、項目内容の変更や削除も登録と同様に行うことができますが、これらはすべて管理者が行います。 |
ウ データの検索
検索方法は3通りあります。すべての方法において、検索結果画面から、プレビュー、ダウンロード、説明を見ることができます。また、サムネイル表示して必要とするデータを的確に選択することができるようにしています。
(ア) 条件指定検索
条件を指定して検索を行う方法です。「ファイルをさがす」ボタンをクリックすると検索画面が表示されます。タイトルやキーワードなどさまざまな条件を指定することにより検索できます。必要な項目のみを指定することができ、キーボードからの入力を最小限にとどめています。複数の項目を指定した場合はAND検索となります。そのほか、全文検索、ワイルドカード(*)や正規表現も用いることができます。また、キーワードは画面右側に一覧表示されるようになっています。
検索条件を指定した後「検索スタート」ボタンをクリックすることで検索結果が表示され、該当するデータのサムネイルを見ることができます。【図12】に「ファイルをさがす」の検索画面を示します。【図13】は「ファイルをさがす」からの検索結果です。「ふりがな」欄に「うに」と入力した検索結果です。
「ファイル検索結果」画面では「プレイ」をクリックすると動画が再生され、「ダウンロード」をクリックすると学校のコンピュータに転送されます。また、「せつめい」をク リックするとデータに関する説明文などを見ることができます。「プレイ」画面を【図14】に、データの内容説明を表示した画面を【図15】に示します。
(イ) カテゴリ検索
データを登録した際のカテゴリで検索を行う方法です。カテゴリは、教科別、領域別の表示としました。「カテゴリからさがす」ボタンをクリックすると画面右側にカテゴリ一覧が表示されます。カテゴリ名のリンクをクリックすると、登録されているデータがサムネイル表示されるようになっています。カテゴリ一覧が表示されるため、データの詳細な内容がわからなくても検索することが可能です。
データに登録されているキーワードで検索を行う方法です。「キーワードからさがす」ボタンをクリックすると画面右側にキーワード一覧が表示されます。キーワードのリンクをクリックすると登録されているデータがサムネイル表示されるようになっています。キーワード一覧が表示されるため、データの詳細な内容がわからなくても検索することが可能です。キーワードは、データをイメージしやすいような表現をするよう工夫 しました。また、一覧が同一画面に表示されるよう、できるだけ項目を絞りました。【図16】にキーワード 検索の検索結果画面を示します。 |
エ マルチメディアデータを用いた学習指導案の蓄積と提供
「学習素材データベース」に登録されているビデオデータによる教材、授業展開を撮影した映像などを学習指導案に組み入れ、データベースとして提供することが可能です。これは、ワ
ープロソフトなどで作成した学習指導案の中にビデオデータへのリンク情報を与え、そこからマルチメディアデータベースサーバに直接アクセスするようリンクを張ることによって実現できます。学習指導案を見ながら授業で用いた教材、児童生徒の活動の様子をプレビューすることができ、授業の展開をより具体的に見ることができるようになると考えます。また、このよ
うなマルチメディアデータを用いた学習指導案を蓄積、提供できるようになることは、「銀河コスモスネット」における文字情報のみの提供という大きな制約を改善するものであり、学習指導案の多様化と共に指導方法の改善や教材の工夫など教育活動における新たな展開につながるものと考えます。【図17】に学習指導案(盛岡白百合学園中・高等学校安倍冨士男教諭作成)の例を示します。
【図18】は、学習指導案からマルチメディアデータベースサーバにアクセスし、データをプレビューした画面です。【図17】@にはマルチメディアデータベースサーバーへのリンクが張ってあり、クリックすると「ウニ」を見ることができます。複数の動画を同一画面に開くことも可能です。【図19】は、同様に学習指導案からマルチメディアデータベースサーバにアクセスした授業の様子を撮影した静止画です。【図17】Aをクリックすると表示され、児童生徒の学習活動の様子を見ることが可能になります。
「地域素材データベース」「児童生徒作品データベース」についても以上の方法を応用して構築していきます。
6 研究のまとめ
本研究は、これまでの資産を生かしながら県内の数多くの教育情報をマルチメディアデータベース化し、インターネットを使って学校や教育関係機関から容易に検索できるシステムを構築することにより、児童生徒の学習活動や教師の教育活動に役立てようとするものです。
本年度は、2年次研究の第1年次として、マルチメディアデータベースシステムの構築に関する基本構想を立案し、構築するデータベースの内容とインターフェースの検討を行いました。その結果、研究の成果と第2年次への課題として考えられることは、次のとおりです。
(1) 研究の成果
@ 7つの教育情報データベースの基本構想を立案することができたこと。
A 教育情報データベースをインターネットから利用できるようにし、さらにマルチメディアデータを扱うことができるようにしたこと。
B 児童生徒もデータの作成に参加し、情報の受発信をとおして協調学習や交流学習ができるようなシステムを構築できることが明らかになったこと。
C 「教育実践データベース」では、日本語全文検索システムを導入したことにより、検索方法が改善され、マルチメディアデータを含んだ学習指導案や実践事例における資料などを扱うことができるようになったこと。
D 「学習素材データベース」では、マルチメディアデータの作成、登録、提供の方法について検討し、その可能性について確認できたこと。また、学校との双方向による登録、検索、閲覧、配信することができるデータベースシステムの構築を検討し、学校間交流や共同学習など、多様な学習の可能性を見いだすことができたこと。
E 日本語全文検索システムとマルチメディアデータベースサーバを連携させることにより教育活動の新たな展開の可能性が広がることが明らかになったこと。
F 学校インターネット事業における花巻地域ネットワークセンターのWebページを、児童生徒も利用しやすいようなインターフェースを作成し、公開することができたこと。また、トップページから本研究におけるデータベースシステムである「銀河情報データベース」のページへリンクすることにより、各種の教育情報データベースにアクセスすることが可能になり、検索方法の簡素化を図ることができたこと。
G 児童生徒にとって親しみやすく、わかりやすく検索できるようなインターフェースを工夫することができたこと。
(2) 第2年次への課題
@ データベースの種類に応じ検索しやすいインターフェースの研究、開発をさらに進めること。
A トップ画面から統一された構造的なリンクになるよう研究、開発をさらに進めること。
B 「教育実践データベース」におけるカテゴリやマルチメディアデータの管理を工夫すること。
C 「学習素材データベース」におけるカテゴリやキーワードを工夫すること。
E 日本語全文検索システムをさらに改善し、「教育研究文献情報データベース」「ソフトウェアライブラリデータベース」の構築に応用していくこと。
F 学校や地域の協力を得ながら、「領域別実践データベース」「学習素材データベース」「地域素材データベース」「児童生徒作品データベース」を構築すること。
G データベースのコンテンツ作成と収集を本格的に行い、管理運用の方法を明らかにすること。
6 おわりに
本研究第2年次目にあたる平成12年度は、学校インターネット事業に関する具体的な運用が研究協力校35校で実施されます。また、平成13年度にはすべての学校がインターネットで結ばれ、特に岩手県では「いわて情報ハイウェイ」の運用が開始予定で、教育情報データベースの活用や各学校間の交流が盛んになることが期待されます。今後、急激に進展する教育の情報化のあり方を見据え、多くの先生方の経験や教材等のデータの蓄積、教育実践の成果や課題などを共有しながら、情報化社会をたくましく生き抜く児童生徒の育成を図っていきたいと考えます。
<主な引用・参考文献>
1)田中博之・木原俊之・山内祐平共著 1993
「新しい情報教育を創造する」 ミネルヴァ書房
2)永野和男編 1995 「これからの情報教育」 高陵社書店
3)吉川英一編 1995 「マルチメディアとネットワーク」 中央経済社
4)佐伯 胖 1997 「新・コンピュータと教育」 岩波新書
5)熱海則夫・山極隆・赤堀侃司 1998 「パソコンと教育−導入から研修まで−小学校」 国土社
6)馬場 肇 1998 「日本語全文検索システムの構築と活用」 ソフトバンク株式会社
7)中村史朗 1998 「データベース入門」
日経文庫