岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


主体的な教育活動の展開を目指した学校運営の改善に関する研究

− 学校運営診断の結果に基づく自校課題に対応する運営改善策の検討をとおして −


《  目  次  》

はじめに
1 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営の基本的な考え方
 (1) 学校運営とは
 (2) 主体的な教育活動の展開を目指す学校運営とは
 (3) 主体的な教育活動の展開を目指す学校運営を進めるうえでの課題
2 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の基本構想
 (1) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の基本構想
 (2) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の進め方
3 学校運営診断の結果に基づく自校課題に対応する運営改善の推進試案
 (1) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善を進めるうえでの課題
 (2) 学校運営診断の結果に基づく自校課題に対応する運営改善の推進試案
4 運営改善推進試案に基づく実践紹介
 (1) 宮古市立花輪小学校における実践
 (2) 花巻市立湯本中学校における実践
 (3) 県立平舘高等学校における実践
5 研究のまとめと今後の課題
おわりに

【引用文献・主な参考文献】

はじめに

 21世紀を迎え、学校は、今それぞれに、新しい学校像を模索し学校改善に取り組んでいるところですが、学校週五日制や総合的な学習の時間の導入といった直面する課題、一人一人の教員や教員集団の意識改革、運営システムと方策の明確化等、課題が山積しており、学校運営の見直しなど具体的な対応策の検討が急がれているところです。
 こうした状況に際して、学校が、学校教育が新しい教育への抜本的な転換期にあることを自覚すること、さらに自校の学校運営について診断して課題を把握し、その課題に対応した自校の特色を生かした独自の改善の方向性を見いだし、改善に取り組んでいくことが重要であると考えます。
 そこでこの研究は、学校運営診断の結果の分析に基づいて、自校課題に対応する「運営構想の具体化」「運営システムの改善」「教育課程運用の弾力化」等の運営改善策の検討を行い実践化を図るという主体的な教育活動の展開が可能となるような学校運営の改善の進め方を明らかにしていくことを目的とするものです。

1 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営の基本的な考え方

(1) 学校運営とは
 この研究では、学校運営の定義や意義・機能について、次のように考えます。

(2) 主体的な教育活動の展開を目指す学校運営とは
 この研究では、「主体的な教育活動の展開」を「自主的・自律的に行う教育活動の展開」と同様に考え、「主体的な教育活動の展開をめざす学校運営」を「学校としての自主性・自律性を発揮して教育活動の展開を図ることをめざす学校運営」ととらえます。
 「自主性・自律性」のとらえ方については、平成10年9月中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」の考え方を基盤としています。
 「創意工夫」「地域に根ざした特色ある学校づくり」「自己判断と自己責任」「教職員一人一人の持てる能力・専門性の最大限の発揮」「教職員の意欲」「一致協力・積極的参加」「校長のリーダーシップの発揮」「個性の発揮」が、「主体的」のキーワードであり、具体的内容です。

(3) 主体的な教育活動の展開を目指す学校運営を進めるうえでの課題
 23頁【図1】は、戦後の学校教育等の変遷、本県の過去の教育活動に関する実態と教育関係者のとらえている課題から全国と本県の実態に基づく「学校運営推進上の課題」をとらえ、あわせて中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」による「学校の在り方」に関する改善方策と本県の学校教育に関する施策の基本方向から、「主体的な教育活動の展開を目指す学校運営を進めるうえでの課題」についてまとめたものです。
 【図1】に示すように、「学校運営推進上の課題」について、全国と本県を比較した場合に、「生徒指導上の問題の複雑化」「児童生徒・学校の実態に即した運営の推進」「特色ある学校づくりの推進」等双方に共通の内容が多く、本県独自の推進上の課題を見出すことは難しいように思われます。
 本県の特徴としてあげられるのは「学力向上」「生徒指導上の問題の複雑化、進路指導への対応」という児童生徒の実態に関する課題、「小規模校の振興」等の学校の有する条件に関する課題です。
 したがって、本県における各学校が主体的な教育活動の展開を目指す学校運営を推進していくうえで、「本県としては、どういった内容を課題としておさえていくべきか」と考えるてみると、児童生徒数が減少し学校規模が小規模化する現状のなかで、中央の都市部と比較して、豊かな自然環境と地域社会に密接な人間関係がまだ多く残されているという条件を生かし、家庭や地域社会との共通理解と連携によって、一人一人の児童生徒に豊かでたくましい心を育成し学力を向上させるためのきめ細かな教育活動を展開していくことであろうかと考えます。

2 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の基本構想

(1) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の基本構想
 24頁【図2】は、主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の基本構想について、それぞれの内容のかかわりをまとめたものです。なお、@からAの内容は改善の具体的な展開の例を示すものです。
 これらの内容のうち、(2)から(4)は、「計画的推進」の内容であり、「 (2) 学校としての課題と改善の方向の明確化 ⇒ (3) 構想・デザインの具体化 ⇒ (4) 教育課程の編成・運用の弾力化」と、「診断(S) ⇒ 改善(I)のための計画(P)」の部分を示し、「 計画(P)− 実践(D)−評価(S)− 改善(I)」という一連のサイクルの中核に位置付けられます。
 「 (5) 学校運営組織・システムの改善」「 (8) 地域住民の学校運営への参画」は、学校運営の「計画的推進」を、組織的にどのようにサポートしていくかという「組織的推進」の内容であり、「(6)学校の事務・業務の効率化」「(7)学校施設・設備の整備・充実」は、計画的推進が、「条件整備」の方向に具体化した内容です。
 そして、「 (1) 校長・教頭・主任層及び教職員の意識改革と力量形成」は、これら全ての推進内容を根底から支える学校運営推進の基盤といえる内容です。

(2) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善の進め方
 「計画的推進」「組織的推進」「意識改革」の内容は、学校運営の基本であり普遍的な内容です。また、その進め方も極めて自然で当たり前といえます。学校運営推進は、これら基本の内容を、当たり前に確実に実行していくことであり、本県の学校運営改善の方向についても同様であると考えます。
 本県の児童生徒の実態や学校を取り巻く自然環境や地域社会等の条件に即して、学校運営推進の基本的な内容と進め方に基づき、「心の育成」と「学力向上」のためのきめ細かな教育活動を展開していくことを、本県の改善の方向としてとらえて進めていきたいと考えます。

3 学校運営診断の結果に基づく自校課題に対応する運営改善の推進試案

(1) 主体的な教育活動の展開を目指した学校運営改善を進めるうえでの課題
 次の内容・方法により収集した資料について分析・考察を行い、学校運営改善を進めるうえでの課題を把握します。

@  平成12年5月29日〜31日実施の「学校経営研修講座」において研修者が研究協議した内容及び研修者に対して「自校の学校運営改善を進めるうえでの課題ととらえている内容」について質問した結果をまとめること。
A  研究協力員から、@の課題のまとめをもとに「学校運営改善を進めるうえでの課題」として、自校課題について焦点化を図ってもらい、まとめること。

(2) 学校運営診断の結果に基づく自校課題に対応する運営改善の推進試案
 推進試案作成の視点に基づき、次のように推進の手だてを考えます。詳しくは、【図3】です。
 ア 学校運営の流れを、運営改善の視点(1)から(8)により検討を行うこと。
 イ 学校運営改善の流れを、「方向性の明確化」「検討」「実践化」ととらえること。
 ウ 運営改善策の検討を行っていく際に、各学校が有する条件・特色をインプットし、生かすこと。

4 運営改善推進試案に基づく実践紹介
 運営改善の推進試案に基づく実践を、研究協力員所属校である宮古市立花輪小学校、花巻市立湯本中学校、県立平舘高等学校にお願いしました。その実践内容と実践結果を紹介します。

(1) 宮古市立花輪小学校における実践
 花輪小学校での実践について、有する条件と特色、実践の構想及びその流れを中心に紹介します。

ア 宮古市立花輪小学校の有する条件と特色

イ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」実践の構想
 教務部提案「経営重点」1学期末反省をもとに、「個別懇談」を行って学校運営上の課題を把握し、改善の方向性について検討を行っていくという構想を立てました。次に示すとおりです。

ウ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」に向けての具体的実践
 課題に対応する具体的実践の「実践の意図と概要」「実践結果とその分析・考察」を紹介します。

エ 実践結果の分析・考察
 主に、校長の報告をもとにして分析・考察を行い、明らかになったのは次の内容です。

@  運営改善策の検討にかかわり、「学級担任の年齢層が低めである」「学級経営を重視している」「全校6クラスという学校規模から校長がリーダーシップを発揮しやすい」といった自校の条件・特色から、学級担任の1学期学級経営反省の内容をもとに、校長が学級担任と「個別懇談を行う」という手だてを講じることができたことから、推進試案における「条件・特色のインプット」は、改善の方向を明確にし、実践化の流れを円滑にするうえで有効にはたらくということがわかること。
A  その月の各指導部生活目標をまとめ、指導内容や方法の重点化・組織化を図ることができたこと等から、本研究の「運営改善の推進試案」の流れや推進の手順は、把握した自校課題に対応する「運営構想の具体化」「教育活動全体構造の具体化」等の運営改善策について検討を行うことや学校の特色を生かした運営改善の実践化を図るうえで有効にはたらくということがわかること。

(2) 花巻市立湯本中学校における実践
 湯本中学校での実践について、有する条件と特色、実践の構想及びその流れを中心に紹介します。

ア 花巻市立湯本中学校の有する条件と特色

イ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」実践の構想

@  校長が、年度はじめから4・5月にかけて「学校経営重点反省」を行い、その結果について、本研究における「運営改善の推進試案」の(1)〜(8)の改善の視点により、学校運営診断を行います。
A  学校運営診断から明らかになった課題について、改善の方向性を検討します。
 詳しくは、【図4】運営改善推進試案に基づく「運営改善」実践の構想に示すとおりです。

ウ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」に向けての具体的実践
 課題に対応する具体的実践の「実践の意図と概要」「実践結果とその分析・考察」を紹介します。

@ 課題2「望ましい生活の確立」「健全育成」への対応

(3) 県立平舘高等学校における実践
 平舘高等学校での実践について、有する条件と特色、実践の構想及びその流れを中心に紹介します。

ア 県立平舘高等学校の有する条件と特色

イ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」実践の構想

@  校長が、年度はじめから4月にかけて「学校運営計画」の反省結果について、本研究における「運営改善の推進試案」の改善の視点により、学校運営診断を行います。
A  学校運営診断から明らかになった課題について、改善の方向性を検討します。
 詳しくは、【図5】運営改善推進試案に基づく「運営改善」実践の構想に示すとおりです。

ウ 運営改善推進試案に基づく「運営改善」に向けての具体的実践
 課題に対応する具体的実践の「実践の意図と概要」「実践結果とその分析・考察」を紹介します。

(ア)  職員朝会や職員会議の場面において、校長が教師集団に対して意図的に直接的に働きかけることにより、教職員の生徒に対する指導への意識化を図ります(@)。
(イ) 学校行事等での「生徒に対する講話」をとおして、生徒の活動への意識づけを行います(A)。
(ウ)  教職員集団が生徒に対する校長講話等を聴くことにより、校長の指導と対応を理解し、校長の経営方針や指導の意図をとらえます(B)。
(エ)  PTA懇談会・研修会等の場をとおして、地域住民や団体に校風と生徒のよさを伝えることにより、生徒や教師及び学校運営を好意的にとらえてくれるようになります(C)。

5 研究のまとめと今後の課題
 この研究について、成果として得られたのは次の内容です。

@  本研究の「運営改善の推進試案」における主体的な教育活動への可能性という「運営改善の視点」(1)〜(8)の内容から診断することは、自校課題を明確にするうえで有効にはたらくということ。
A  本研究の「運営改善の推進試案」における「条件・特色のインプット」は、改善の方向の明確化や構想の具体化を図り、実践化の流れを円滑にするうえで有効にはたらくということ。
B  本研究の「運営改善の推進試案」の流れや推進の手順は、把握した自校課題に対応する「運営構想の具体化」「教育活動全体構造の具体化」等の運営改善策について検討を行い、学校の特色を生かした運営改善の実践化を図るうえで有効にはたらくということ。
C  校長が学校運営診断の結果からとらえた自校課題について、改善の方向性を定めて運営改善の構想を立て、リーダーシップを発揮して資料提示と説明を行っていることは、教職員の自校課題についての共通理解を図ることや運営改善に向けての意識化につながっているということ。
 また、職員朝会や職員会議、学校行事等の場をとらえ、そこでの校長講話・挨拶をとおして、年間を通じて意図的、計画的に、課題についての考え方や改善策について説明していることは、教職員の自校課題や運営改善の意識化につながり、「運営改善の実践化」の一方策となっているということ。

 今後の課題にかかわっては、学校教育目標の具現化とそのための主体的な教育活動の展開のために、目標にかかわる規準の設定、具体的到達目標及び診断項目の設定が不可欠であると考えています。
 したがって、今年度、県内小・中・高等学校23校を対象に行った学校運営診断表にかかわる調査結果をもとに、本研究の運営改善の視点(1)〜(8)について吟味を行い、主体的な教育活動の展開を可能にするための運営改善の視点を明確にした診断表の内容項目について検討していきたいと考えます。

おわりに

 今年度は、作成した推進試案を実際に学校で活用してもらいました。学校運営診断の結果からとら えた学校の課題を試案にインプットし、試案の流れに従って学校の要望に応じた改善のプログラムを組んで提示する、また、その後の経過に沿って学校と共に方法を工夫していく等、学校独自の課題と学校が有する条件と特色に応じた運営改善の方略について、学校と一緒に検討することができました。
 最後に、この研究を進めるにあたり、ご協力をいただきました研究協力員の方々に心から感謝申し上げ、結びとさせていただきます。


【引用文献】
平成11年度岩手県立総合教育センター研究紀要「主体的な教育活動の展開を目指した学校運営の改善に関する研究 −先行研究や文献による資料の分析・考察をとおして−」 2000
岩手県教育委員会 「第8次岩手県教育振興基本計画 <1999.9.20> 」
平成10年10月中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」
牧 昌見 編 「新学校用語辞典」 ぎょうせい 1995

【主な参考文献】
児島邦宏 著 「学校経営の創意と改善」 ぎょうせい 1996
福岡県教育研究所連盟編 「学校を活性化する経営診断と経営改善」 第一法規 1998
牧 昌見・高橋静男・田島惟克 編 「学校改善を深める経営診断」 東洋館出版社 1994



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