岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


不登校児童生徒に対する指導・援助に関する研究(第1報)


《  目  次  》

はじめに
1 不登校児童生徒についての基本的な考え方
2 不登校児童生徒の指導・援助についての基本構想の立案と指導・援助試案の作成
 (1)不登校児童生徒の指導・援助についての基本構想の立案
 (2)教育相談が機能した不登校児童生徒に対する指導・援助について
 (3)不登校児童生徒に対する指導・援助試案の作成
3 実践結果の分析と考察
 (1)指導・援助試案に基づいた実践結果について
 (2)教育相談研修と指導・援助内容の相互理解に関する教育活動について
4 不登校児童生徒に対する指導・援助についてのまとめ
5 研究のまとめと今後の課題
 (1)研究のまとめ
 (2)今後の課題
【主な参考文献】

はじめに

 最近の社会の急激な変化の中で、児童生徒を取り巻く生活環境は大きく変わり、学校教育においては、児童生徒理解の重要性が益々増してきています。特に、学校においては児童生徒理解をはじめとした生徒指導の充実、とりわけ「教師と児童生徒との豊かな人間関係づくり」をベースとした学校教育相談の充実を図っていくことが重要です。
 しかし、学校の状況をみると、不登校やいじめ問題、校内暴力等で集団になじめない児童生徒が年々増加の傾向にあり、学校において児童生徒の不適応問題は大きな課題です。特に、不登校児童生徒は年々増え続け、「学校」という存在の意義までも問われるような現状となってきています。
 このような状況を改善するためには、学校における教育相談推進のための体制の確立を図り、不登校問題に対して共通理解のもとに不登校児童生徒に対する指導・援助を組織的に行っていくことが必要です。
 そこで、この研究は、不登校児童生徒に対する指導・援助において、学校における教育相談体制を機能的に推進し、不登校児童生徒への指導・援助の在り方を事例的に研究することにより、学校不適応児童生徒への指導・援助に役立てようとするものです。

1 不登校児童生徒についての基本的な考え方

 平成11年度学校基本調査によると、不登校で欠席している全国の小中学校の児童生徒は、13万人におよび調査開始以来最高を記録しています。本県における総数は、小学生が 245人、中学生が1060人、高校生は 841人です。出現率は、小学校 0.28 %、中学校 2.09 %、高等学校 1.96 % に達しています。また、不登校児童生徒のいる学校数は、小学校 122校(484校中)、中学校 153校(217校中)、高等学校83校(86校中)となっています。さらに、各学校には、欠席は30日に満たないが休みがちな児童生徒や別室登校をしている児童生徒、学校以外の専門機関で指導・援助を受けている児童生徒もいるので、学校の対応は多岐にわたっています。不登校児童生徒の原因や背景は、学校、家庭、社会等の様々な要因が複雑に絡み合っていることが多く、一概に特定することが難しいため、効果的な対応策が見つけにくくなっています。
 文部省の学校不適応対策調査研究協力者会議報告(平成4年3月)は、不登校児童生徒への指導・援助に関する視点として、以下の5点をあげています。

@  登校拒否はどの子にも起こりうるものであるという視点に立って登校拒否をとらえていく必要があること
A  学校生活上の問題に起因して登校拒否となってしまう場面がしばしばみられるため、学校、教師の一層の努力が極めて重要であること
B  学校、家庭、関係機関等の努力によって、登校拒否のかなりの部分を改善ないし解決していくことができると考えられること
C  学校に行くことに義務感を抱き、それがプレッシャーとなっているケースも少なくなく、学校生活への適応を図るとともに、子どもの自立をいかに促すかという視点をもつことが重要であること
D  子どもの好ましい変化は、たとえ小さなことであっても、これを自立のプロセスとしてありのままに受け入れ、積極的に評価すること

 また、具体的な対策として、全国的に、適応指導教室、スクールカウンセラー、心の教室相談員などの事業が行われたり、独自の不登校児童生徒をサポートする事業を展開している自治体もあります。
 このように、不登校児童生徒への対策として、不登校児童生徒に関する予防や対策についての視点が示されたり、具体的な対処が行われたりしてきています。学校では、不登校に陥ったきっかけが、友人関係、学業不振など学校生活での影響によるものが多いことを踏まえながら、予防的な視点での日常の教育実践や不登校児童生徒への指導・援助など様々な取り組みを行ってきており、多くの事例で成果をあげています。
 当教育相談室では、学校不適応児童生徒への指導・援助についての基本的な理解や対応を「登校拒否児童生徒への援助・指導編」、「いじめの問題の理解と指導編」、「学業不振及び学校不適応問題の理解と指導編」の3冊のハンドブックにまとめました。また、室研究として、「学校における登校拒否(不登校)児童生徒への効果的な対応及び予防の在り方に関する研究」(平成6、7年)を行い、不登校児童生徒の早期把握の重要性、校内における指導・援助方針の立て方、複数の教師による対応の効果等についてまとめました。さらに、「学校における教育相談の在り方に関する研究」(平成10、11年度)では、学校における教育相談の在り方について、理論の共通理解と組織的に推進していくための校内体制を確立することの必要性についてまとめました。これらの研究をふまえながら、平成1 2年度は、学校が、不登校児童生徒の指導・援助をどのように具体化していくかという視点で、研究に取り組んできました。
 学校は様々な教育活動を通じて、児童生徒一人一人の個性や能力に応じた指導・援助を行い、社会の中で主体的に生活していく心豊かな児童生徒を育成しなければなりません。このような自己実現に向けた歩みのスピードは一様ではなく、児童生徒一人一人によって異なっているのは当然です。したがって、不登校児童生徒に対する指導・援助においては、不登校という状態をありのままに受け入れながら、一人一人の実態や取り巻く環境に合わせて、有効な指導・援助を行うべきであると考えます。
 そこで、不登校児童生徒への指導・援助を中心になって行うのは、学校であるという考えに立ち、現実に今、学校でできる指導・援助内容を探り、学校が有効な指導・援助を自信をもって行えるようにしたいと考えました。

2 不登校児童生徒の指導・援助についての基本構想の立案と指導・援助試案の作成

(1) 不登校児童生徒の指導・援助についての基本構想の立案
 学校における不登校児童生徒の指導・援助で大切なことは、教師の不登校児童生徒に対する認識です。教師は、不登校児童生徒を理解する時に、「不登校は誰にでも起こりうる」「不登校という状態は同じでも、その背景、内面は異なる」という視点で、受容的に捉える必要があります。また、わが子が不登校になったことに対する保護者の悩みや苦しみに共感できる姿勢が求められます。そのためには、校内研修会や事例研究会等を通して、全ての教師が受容的・共感的態度を身に付けられるようにすべきです。
 不登校児童生徒への指導・援助に際しては、担任教師や個々の教師に任せるのではなく、全ての教師が共通理解をするという姿勢で臨むことが早期解決につながっていきます。その場合には、校務分掌や不登校児童生徒の状態に合わせて、数名の教師で援助チームを組織し、不登校児童生徒が必要としている指導・援助を迅速に行えるようにすべきです。また、援助チームで行っている指導・援助内容を他の教師にも伝えて、情報を相互理解することで、援助を強化したり、他の生徒への効果的な指導・援助に結びつけたりすることができると考えます。
 このような、教育相談の考え方を生かした教師の受容的で共感的な姿勢や援助チーム等の不登校児童生徒への指導・援助について、教師はその重要性を認識しています。しかし、不登校児童生徒の指導・援助について教育相談が機能的に運営されにくかったのは、教育相談担当者の校務分掌上の位置づけやその不明瞭な役割に原因があるように思えます。
 平成10年度に県内公立小学校、中学校、高等学校で教職経験10年を経過した先生方(小学校教員 102名、中学校教員 91名、高等学校教員 91名)に「学校における教育相談推進上の課題」についてアンケート調査を行いました。その結果、「あなたの学校では、教育相談は機能していると思いますか」という問いに対して「大いに機能している」と回答しているのは、小学校6.9 %、中学校 14.3 %、高等学校 23.1 %でした。また、「機能を高めるための内容」の回答で多かったのは、「教育相談を校内の組織に位置づけること」、「教育相談担当を明確にすること」、「教育相談担当の活動内容について共通理解を図ること」や「生徒とのふれあいの時間を多くすること」でした。また、平成6年度には県内公立小学校、中学校、高等学校(小学校502校、中学校202校、高等学校73校)に、「校内組織と指導・援助体制の実態」についてのアンケート調査を行いました。その結果、「教育相談係の校内組織への位置づけ」について、小学校・中学校では「生徒指導部」内に位置づけている学校が約8割、「教育相談部」が独立している学校は約1割でした。そして、高等学校では、「教育相談部」として独立している学校が約7割、「生徒指導部」内が 約1割でした。なお、アンケートではふれられ ていませんが、小学校、中学校においては生徒 指導主事が教育相談係を兼ねている学校が多い と思われますし、小学校では学級担任が生徒指 導主事、教育相談係を兼務している学校も多数 あると思われます。
 これらのことから、校務分 掌に教育相談部や教育相談係はあっても、教育 相談担当者が中心になって、校内の教育相談体 制づくりや不登校児童生徒への指導・援助を行 っている学校は少ないことが窺えます。
 このような現状をふまえ、平成11年度まで の「学校における教育相談の在り方に関する研 究」でまとめた、教育相談が組織的に機能して いくための三つの柱(理論・推進・組織)に焦 点を当て、相談担当者を中心とした教育相談体 制の機能的な推進の具体化を図るための、不登 校児童生徒に対する指導・援助の在り方に関す る基本構想図を【図1】のように作成しました。

(2) 教育相談が機能した不登校児童生徒に対する指導・援助について
 教育相談が組織的に機能していくためには、教育相談の進め方、考え方や方法についての共通理解を図る理論、日常のあらゆる機会をとらえた意図的・積極的な児童生徒理解にかかわる推進、及び学校全体で対応する校内体制の確立を図る組織の三つの柱が重要です。そして、不登校児童生徒の指導・援助では、三つの柱に視点をおいて機能的な教育相談体制を推進することが効果的だと思われます。
 ここでは、教育相談が機能した不登校児童生徒に対する指導・援助のための、教育相談の進め方、考え方や方法についての共通理解にかかわる教育相談研修の充実と、日常のあらゆる機会をとらえた意図的・積極的な児童生徒理解にかかわる指導・援助内容の相互理解について検討し、まとめます。

ア 教育相談研修の充実について
 校内研修を計画的に行うことは、教師一人一人の教育相談に対する資質を高めることにつながり、不登校児童生徒への指導・援助にも有効ですので、年間計画に位置づけておくことが必要です。教育相談に関する校内研修を計画するのは、教育相談担当が一般的であると思われますが、研修を充実させるために、年度当初の会議で教育相談計画として説明し、理解を得ておくことが重要です。そのようにすることで、一人一人の教師は、教育相談を意識した教育実践を積み重ねることができるので、児童生徒への指導・援助に視点をおいた研修会になりやすいですし、研修会で学んだことを実践しやすいと考えます。
 以下に、年間計画の作成と校内研修の内容等について検討します。

(ア) 年間計画の作成
 年間計画は、小学校や中学校の場合は、教育相談係が生徒指導部内に位置付いている学校が多いので、生徒指導部運営計画内の教育相談計画として作られることが多くなります。また、高等学校の場合は、教育相談部が独立している学校が多く、そのような学校では、教育相談室の運営計画によって、校内の教育相談活動が推進されています。

(イ) 校内研修計画の作成
 教育相談担当者が年間計画に校内研修を位置付ける際の留意点として、以下のようなことが考えられます。

@  1年間を見通した研修として、援助的な内容や予防的・開発的な内容に配慮して構成する
A  研修の方法として、理論や知識の習得に片寄ることなく、教師自身の感性や観察力を磨くために実技や演習も組み入れる
B  年間計画に、教育相談週間の設定、児童生徒理解強化月間、交友関係調査、悩み調査等を位置付けておくことで、校内研修と日常の教育実践との結びつきを図る
C  職員会議や学年会に教育相談の考え方や心構え等の教育相談に関する資料を配布したり、希望制の参加による研修会をしたりする

 校内研修の内容は、各学校の教育相談にかかわる研修の頻度や内容、教師が抱えている課題によって異なってくるので、教育相談担当者は、広い視野と敏感な感受性をもち続ける努力をすべきだと考えます。
 校内研修の内容としては、以下のようなものが考えられます。

・教師による教育相談の進め方   ・構成的グループエンカウンターの進め方
・ロールプレイの体験学習   ・心理検査の活用法
・事例研究会   ・教育相談の手法を取り入れた授業の進め方
・学級経営に生かす教育相談

イ 指導・援助内容の相互理解について
 不登校児童生徒に対する指導・援助内容については、児童生徒理解の面から広く職員に把握してもらうことが大切です。特に、不登校児童生徒が再登校に向かう場合の受け入れ態勢を整える場合や、不登校児童生徒との関係づくりを行う場合には重要です。
 職員間の相互理解を図るためには、以下のような場の活用が考えられます。

(ア) 打ち合わせ会
 校種や学校規模によって、打ち合わせの時間や回数が異なると思われますが、より多くの職員 との相互理解にとって大切な場です。特に、不登校児童生徒の必要としている援助を、必要な時に、効果的に行うためには、日常的な打ち合わせの場の活用が重要だと思われます。
(イ) 学年会
 定期的に行っている学校が多いと思われますが、具体的な指導・援助内容を決定しやすく、学 級担任にとっては心強く、頼りになる場です。不登校児童生徒の状況によって、養護教諭や相談担当者が加わることもあり得ると思われます。
(ウ) 職員会議
 学年の様子を報告する場面に、不登校児童生徒についての説明を加えることで共通理解を図りやすくなります。また、教育相談担当者が指導・援助方針や基本的考え方、今後の見通しなどを説明することで、学校全体の相互理解が図られ、協力を得やすいと思われます。
(エ) 不適応対策委員会
 構成メンバー、実施回数は、学校規模によって異なりますが、不適応児童生徒についての現状把握や指導・援助方針の確認、今後行う指導・援助内容の確認等を行います。場合によっては、外部講師やスクールカウンセラー等を招いて指導・援助方針や内容について指導助言を受けることも有効です。
(オ) 日常的な情報交換
 打ち合わせ会、学年会、職員会議は一度にたくさんの職員と不登校児童生徒の情報を共有できるという長所がある反面、短時間であったり、会議が月に一度であったりと効率的でないという短所があります。そこで、大切だと思われるのが、教育相談担当者と学級担任や学年主任、あるいは教育相談担当者と生徒指導主事や養護教諭等との頻繁な情報交換です。放課後や始業前、昼休み、授業のない時間等、あるいは、授業の合間の休み時間を活用し、わずかな時間でも惜しまずに情報交換することで児童生徒の状況がわかり、指導・援助に役立てられると思われます。

ア 援助チームの結成

(ア) 援助チーム結成
 援助チームを結成するにあたっては、教育相談担当者が学級担任や学年主任、養護教諭等から情報収集をすることが必要です。なお、学級担任や学年主任、養護教諭等から教育相談担当者へ援助チーム結成の依頼も考えられます。

(イ) 援助チームのメンバー
 メンバーは、不登校児童生徒の状態や学校環境などによって変わってきます。メンバーとしては、教育相談担当者、学級担任、学年主任、養護教諭、クラブ顧問、教科担任、生徒指導主事、心の教室相談員、スクールカウンセラー等が考えられます。また、指導・援助の進行に伴って新たなメンバーが加わることもあり得ます。いずれにしても、教育相談担当者が学級担任や学年主任等と連絡調整を密に行う必要があります。

イ 援助チームの運営

(ア) 援助チームの会議の設定
 教育相談担当者は、援助チームの会議を開く時間を確保するために、チームのメンバーや教務主任などに主体的に働きかける必要があります。援助チーム会議は短時間に効率よく行うことを心がけるべきですし、放課後にチーム会議の時間を確保するためには、教務主任と相談して、週予定に組み入れてもらう等の工夫も必要です。
 小学校では、週1日の会議の日を設定し、放課後の時間を確保している学校があるので、それらの前後に援助チーム会議を設定することも可能だと思われます。
 中学校や高等学校では、援助チームメンバーの空き時間が重なった教師で話し合ったり、場合によっては時間割変更を依頼して、全てのメンバーの空き時間を同じにしてもらったりすることも考えられます。メンバー全員が揃うことができない場合であっても、援助チームの会議を開き、出席できなかったメンバーに対して、教育相談担当者が連絡、調整を迅速に行うことで、不登校児童生徒が必要としている援助はできると思われます。

(イ) 指導・援助方針の決定
 メンバー決定後、指導・援助方針を決め るためのチーム会議に向けて、学級担任は 本人に関する情報を収集・整理しておきま す。指導・援助方針は、不登校児童生徒を 取り巻く環境や背景、誘因等を分析するた めに、「診断仮説の構造図」等を用いると 決定しやすいと考えます。指導・援助方針 は、児童生徒一人一人に合わせたものであ ることは当然ですので、状態の変化によっ ては変わることもあり得ます。

(ウ) 指導・援助内容の決定と実行

@ 援助シートについて
 援助シートは、指導・援助方針を受けて、いつ、誰が、何を、どのように行うか等を具体的に決定し、その結果や本人の様子を書き加えながら次の指導・援助内容を決定するために使います。援助シートを使うことで具体的な指導・援助内容を決定、確認し、学級担任やメンバーが自信と見通しをもって指導・援助できるようにしたいと考えます。留意すべき点や配慮事項は次のとおりです。
・本人に対して
 本人の状態に合わせて、直面している問題解決を目標に、指導・援助できることを具体的に決めます。指導・援助結果は記録し、次に考えられる指導・援助はその都度メモをしておきます。どんな小さな変化でも見逃さずに観る、聴く態度で接することが、指導・援助に結びつくと考えます。
・保護者に対して
 子どもが不登校に陥った保護者の不安や心情を受け止め、保護者に寄り添う姿勢が大切です。そして、保護者に信頼感をもってもらえるような対応を心がけるべきです。そのような関係を基本にして児童生徒のありのままの姿を共有できるような、構えのない関係を作るべきです。
・援助チーム以外の教師について
 不登校児童生徒に対する教科指導等について必要によって援助チームに入っていない教師に、指導・援助を依頼する場合もあり得ます。その際は、教育相談担当者か学年主任が依頼するのが一般的です。
・スクールカウンセラー、心の教室相談員、関係機関等との連携について
 スクールカウンセラーや心の教室相談員に対しても、積極的に協力や意見を求める姿勢が大切です。中学校の場合は、心の教室に登校する生徒もいますし、保護者が電話等で相談することもあるので、教育相談担当者が心の教室相談員との連携を図る必要があります。
 学校や教師だけでは指導・援助が難しい場合は保護者と連携しながら、学校以外の関係機関等に協力を求める必要があります。

3 実践結果の分析と考察
 ここでは、教育相談体制を機能させた不登校児童生徒に対する指導・援助という観点から、不登校児童生徒に対する指導・援助試案に基づいて取り組んだ事例について検討します。また、教育相談研修と指導・援助内容の相互理解に関する教育活動についてもまとめます。

(1) 指導・援助試案に基づいた実践結果について
 実践校は、学級数 12 、生徒数 410 名、教職員数 28 名の中規模校で、教務部、研究部、指導部、管理部の4部制をとっており、教育相談担当は、生徒指導部内の教育相談係として位置付いています。
 教育相談計画では、生徒一人一人の自己実現を図る支援のために教師と生徒の心の交流を大切にしながら、あらゆる場、機会を生かした教育相談の充実を目標に掲げています。また、運営にあたっての具体策として、教師同士や心の教室相談員、関係機関との連携も取り上げています。
 さらに、評価を次のような観点によって行い、教育相談の充実に努めています。
 ・教師と生徒の温かい人間関係が確立され、心を開いた相談ができたか
 ・生徒の悩み、問題行動や不適応の早期発見と指導・援助ができたか
 ・相談室の整備、活用がなされたか
 ・教師相互、家庭や関係諸機関との連携が密に図られたか
 年間計画では、学年毎の定期教育相談や部活動への適応に焦点を当てた観察や支援など教育活動全般にわたって教育相談の視点を取り入れたり、家庭との連携を月目標にして保護者との協力関係を重視したりしています。
 以下の事例は、本人の長所に視点を当てて、本人との話し合いを重視しながら、教育相談担当者と学級担任を中心にして、複数の教職員が援助チームを結成して指導・援助を行ったものです。

○考察
・援助チームの結成について
 事例の援助チームは、夏休み中に学級担任が家庭訪問や電話連絡によってS男とのかかわりを続け、学年内で情報交換をしてきたことを生かして、教育相談担当者が中心になり、学級担任や学年主任と相談して結成されました。早期に援助チームを結成したことによって、S男に対する迅速な指導・援助ができたと考えられます。
 チームのメンバーは、学級担任、学年主任、教育相談担当者、養護教諭、心の教室相談員です。このメンバーは、S男に深くかかわり、関係づくりが進んでいる学級担任に学年主任を加え、登校場所が心の教室になることから心の教室相談員と、今後の情緒面での援助が必要とされることから養護教諭とに依頼したものです。S男に緊張感を与えないで接することができ、S男の必要としている援助を行うのに適したメンバーによる援助チームが結成されたと考えられます。

・援助チームの運営について
 教育相談担当者は、学級担任やチームのメンバーとの情報交換を日常的に行いながら、S男の状態や指導・援助内容に合わせて援助チームの日時や場所を設定し、放課後や授業の空き時間等を使って効率的、機能的な援助チームの運営に努めました。学年内でも、毎日の打ち合わせで情報交換が行われ、学級担任とS男や保護者との信頼関係もできていたことで、S男を取り巻く環境や背景などの情報収集や指導・援助に結びついたと思われます。
 具体的な指導・援助を決定し実践する時に、援助シートを活用したことで、「本人と相談して特別時間割を作るのは学級担任」、「教科担任に個別指導を依頼するのは学年主任」というように、誰が何をどのようにするかという具体的な行動が分かり、お互いに確認しながら指導・援助を行うことができました。また、複数の視点でS男にかかわることで、S男の変化を捉えやすくなり、様々な視点からの共感的な理解や具体的な指導・援助につながったと思われます。
 援助チームに養護教諭と心の教室相談員が加わり、教科の指導をしない援助者という立場でS男に接することができたことは、S男の情緒面の安定につながったと思われます。また、校務員や他の教師の援助によりS男が得意な分野で自分自身を発揮できたことは、自信や成就感につながり、そのことで学校生活の拡大や希望進路達成に向けた取り組みができるようになったと思われます。

(2) 教育相談研修と指導・援助内容の相互理解に関する教育活動について

ア 教育相談研修の充実について
 実践校では、校内研修を年間計画に位置付けたり、年間を通して教育相談が教育実践と関連するようにしたりして、教育相談の充実に努めています。教育相談の年間計画と実施した校内研修の概要は、以下のとおりです。

(ア) 教育相談の年間活動計画

(イ) 校内研修会
 年間計画で8月に予定していた全校研修会を、夏期休業中に外部講師を招き、構成的グループエンカウンターについての講義を30分間、その後に演習を1時間30分間かけて行いました。
 全校研修会であり、構成的グループエンカウンターを初めて経験する教師が多かったのですが、意欲的に参加し、研修会が終わった後の感想には、「日常の教育活動全般に生徒同士の人間関係を深めるような取り組みを意識的に取り入れることで、生徒の精神的なつながりが強まるように感じる」、「全職員で体験できたことで、職員間の連帯感が一層深まったようだ」という内容が多くみられました。
 また、2学期の学級活動の時間に構成的グループエンカウンターを体験した生徒は、「あの人が、自分から絵を見に行くのは意外だった 」「初めて話した人がいる」「班がまとまって活動できるので楽しい」「また、やりたい」という感想をもちました。実施した学級担任は「普段の授業や生活では見られない顔や姿をする生徒がいた。あの生徒は、あまり動かないだろう、と思っていたのに他の生徒を押しのけて絵を見に行く姿があり、自分自身の表面的な生徒理解を反省した 」、「以後の班活動や学級の様々な取り組みに良い効果があった」「年間を通して計画的に行えば更に効果が表れると思う」という感想をもちました。このような感想から、構成的グループエンカウンターの研修会を行ったことで教師や生徒の人間関係がより深まったり、教師自身の生徒理解を振り返る機会になったりしたことが分かります。

イ 指導・援助内容の相互理解
 指導・援助内容の相互理解を図る場として、全職員の打ち合わせ(週1回)、学年内の打ち合わせ(毎日)、学年会(月1回)、職員会議(月1回)、学校適応指導委員会(年間3回)等があります。それぞれの場で、教育相談担当者や学年主任、学級担任等が不登校生徒の状況や指導・援助方針と指導・援助内容等を報告し、相互理解を図っています。
 また、教育相談担当者が生徒の欠席状況を把握するために、欠席報告(毎月)を学級担任に提出してもらっています。これには、生徒のどのような変化でも成長と捉えるという考え方を基本にして、学級担任が見たり感じたりした生徒の行動や心の動きなど、少しでも変化している点を見つけて記入するようにしています。欠席報告をそのような形式にすることは新年度計画会議における教育相談計画で全職員に説明し、4月から始めているので、学級担任は生徒理解の手だての一つという意識で取り組んでいます。
 欠席報告には、「起きる時間が早くなった」、「ピアノを始めた」、「最近料理に興味をもってきた」、「笑顔が多くなった」等の記述があり、変化を感じようとする学級担任の姿勢が窺えます。
 また、学級担任からは、「何か変化を探さなければという気負いはないが、生徒に漠然と会うということがなくなった 」、「家庭訪問や電話連絡の回数が増えた」という感想が聞かれ、不登校児童生徒に積極的にかかわっている学級担任の姿が浮かびあがってきました。さらに、教育相談担当者が、不登校児童生徒の状況を把握しているので、指導・援助に関して教育相談担当者から学級担任に声がかけやすいという利点も生まれています。

4 不登校児童生徒に対する指導・援助についてのまとめ
 不登校児童生徒に対する指導・援助には、教育相談の進め方・考え方や方法についての共通理解と意図的・積極的な児童生徒理解、そして学校全体で対応できる校内体制の確立が必要です。
 そのために、教育相談担当者を中心にして、教育相談に関する研修を年間計画に位置づけて、講義や体験を取り入れた研修を行うことで、教育相談の進め方や考え方の共通理解を図るとともに、生徒同士や生徒と教師の受容的で共感的な関係づくりを充実させるように努めました。また、打ち合わせや学年会、職員会議の機会に、一人一人の児童生徒の状態を総括的に把握している教育相談担当者から指導・援助方針や指導・援助内容等を話し、職員相互の理解を図ることで、不登校児童生徒の必要としている具体的な指導・援助につながるようにしました。不登校児童生徒への具体的な指導・援助では、教育相談担当者を中心にした援助チームを作り、複数の教師で指導・援助方針と指導・援助内容を決め、不登校児童生徒の必要としている指導・援助が行えるように配慮しました。
 具体的な指導・援助を行った援助チームのメンバーから、「どのように接したらいいのか分からなくて悩むことがない 」、「援助シートに記入することで、何をするかが分かり、自信をもって援助できた」、「いろいろな人の意見を聞けるし、気持ちに余裕がもてた」等の意見が聞かれました。また、不登校生徒の作文に「校務員さんといろいろな話をしたり、作品を作ったりすることで、自分に自信がもてたし、人生についていろいろ教えてもらった。感謝している」という記述があり、自分の内面を見つめたり、自立に向けた将来の見通しを考えるきっかけになったことを示しています。このように、援助チームによる指導・援助は、不登校児童生徒の不登校という状態の回復に効果があるだけでなく、児童生徒の内面的な成長や指導・援助にあたる教職員の自信や指導・援助の見通しにも良い影響を与えることを示しています。
 また、援助チームの結成やチーム会議の開催等の具体的運営については、教育相談担当者を中心にして、校種や学校規模等の実状に合わせて、不登校児童生徒に対して有効な指導・援助をどのように行うかという視点で決めていくことが大切だと考えられます。
 これらのことから、教育相談担当者が、教育相談研修の充実や指導・援助内容の相互理解を図り、不登校児童生徒に対する援助チームの結成からチーム会議の召集、さらに指導・援助内容の決定等に深くかかわることで、教育相談に関する校内体制の組織化が図られ、不登校児童生徒の指導・援助が機能的に推進されることが確かめられました。

5 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ
 この研究は、不登校児童生徒に対して、教育相談担当者が中心になり、校内の教育相談体制を機能させて指導・援助を行うことを目的としてきました。
 研究をとおして、不登校児童生徒の指導・援助には、教育相談の理論・組織・推進に視点をあて、教育相談研修の充実、指導・援助体制の確立、指導・援助内容の相互理解の観点で、校内の教育相談体制を機能させるのが重要であることが確かめられました。また、校内の教育相談体制を機能的に推進するのは教育相談担当者が適任であること、そして、不登校児童生徒の指導・援助において、教育相談体制を機能的に推進することが不登校問題の改善につながることが示唆されました。

(2) 今後の課題

 不登校児童生徒に対する指導・援助は、相談担当者を中心にして機能的な校内体制を構築することが大切であると考えます。機能的な校内の指導・援助体制を構築するための教育相談担当者の役割と働きをさらに事例をとおして明らかにしていく必要があります。
 学校の現状として、校務分掌や実務において、教育相談担当者が複数の係を担当せざるを得ない場合もあることをふまえて、校種や学校規模毎の不登校児童生徒に対する効果的な指導・援助の在り方を探っていく必要があります。

【主な参考文献】
大野精一 著 「学校教育相談 具現化の試み」 ほんの森出版 1997
松原達哉 編 「学校カウンセリングの組織と運営」 ぎょうせい 1998
石隈利紀 著 「学校心理学」 誠信書房 2000
文部省初等中等教育局 学校不適応対策調査研究協力者会議報告 「登校拒否(不登校)問題について」 1992
岩手県立総合教育センター 「学校における教育相談の在り方に関する研究」 2000



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