岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


コミュニケーションの技能を高める英語科の指導に関する研究

− 技能面と情意面からの学習方略を生かして −(第2報)


《  目  次  》

はじめに
1 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導についての基本的な考え方
 (1) 学習方略の意味
 (2) 学習スタイルの意味
 (3) コミュニケーションの技能を高める学習指導についての基本構想
  ア 英語科の学習においてコミュニケーションの技能を高めることの意義
  イ 技能面と情意面からの学習方略を生かしてコミュニケーションの技能を高めることの意義
  ウ 技能面と情意面からの学習方略を生かした学習の進め方
  エ コミュニケーションの技能を高める英語科の指導についての基本構想図
  オ コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
2 授業実践と学習指導試案の妥当性の検討
 (1) 能力群の編成
 (2) 学習スタイルと学習方略
 (3) 授業実践の概要
  ア 授業実践計画
  イ 授業の実際
 (4) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案の妥当性の検討
  ア コミュニケーションの技能の高まりの状況
  イ 英語科の学習に対する意識の変容状況
  ウ 単元の学習内容の習得状況
 (5) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の在り方についてのまとめ
  ア 成果として考えられること
  イ 課題として考えられること
  ウ 改善点として考えられること
3 研究のまとめと今後の課題
 (1) 研究のまとめ
 (2) 今後の課題
おわりに

【引用文献・主な参考文献】

はじめに

 英語科の指導において、基本的な内容に関して聞き取ったり、相手に意思を伝えたりするオー ラルコミュニケーション能力の養成が急務です。また、インターネット等の新たなメディアの普及に伴い読んだり書いたりすることによるコミュニケーション能力の養成も重要です。
 しかし、これまでの指導においては、コミュニケーション活動で、ある方法が有効に機能しないとき、教師が代わりの方法を提示したり、生徒に自分で補う手だてを試みさせたりすることに欠ける面がありました。また、自ら積極的に学習に取り組む方法を指導することも少なかったようです。
 この状況を改善するためには、技能面と情意面からの学習方略を生かした学習法の理論を応用することが有効です。学習事項の記憶、練習や応用、不足する技能の補完、計画・集中・自己評価、不安の軽減、相手とのかかわり等の学習法の方略を、生徒が必要に応じて活用できるように指導する必要があります。
 そこで、この研究は、技能面と情意面からの学習方略を生かしたコミュニケーションの技能を高める指導法を明らかにし、英語科の学習指導の改善に役立てようとするものです。
 研究仮説を次のように設定しました。

研究仮説
 英語科の学習指導におけるコミュニケーション活動で、これまで困難を感じた点を指摘させた 後、学習方略を次のように指導すればコミュニケーションの技能が高まるであろう。
(1)  個々の学習スタイルの特徴に応じて学習方略を紹介し、実行可能な内容を取り込ませる。
(2)  他の生徒の活動を観察させ、気付いた点を交流させて自己の学習方略を深化拡大させる。
(3)  導入・理解・練習・応用の各段階に、個人と集団、並びに、感覚と思考の要素を組み合わせて指導する。

 本年度は、2年次研究のまとめとして、1年次に作成した学習指導試案をもとに授業実践を行い、その結果の分析と考察をとおして、コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の在り方についてまとめました。

1 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導についての基本的な考え方

(1)学習方略の意味
 学習方略とは、辰野(1997)によると、「学習の効果を高めることをめざして意図的に行う心的操作あるいは活動である」と定義されています。注目すべき点は「心的操作」であり、学習方略が、外部から見えない学習者の内的な活動をも含む点です。このことは、学習者の内的な活動内容が、学習者個々人で異なることをも示すものです。
 教科の学習に限らず、到達度の高い学習者は低い学習者に比べ、多くの学習方略を用いることができ、その種類も多様であることが知られています。したがって、到達度の高い学習者には、学習方略を意識化させて訓練させることにより質を高めること、到達度の低い学習者には、学習方略の存在を紹介して自分に適した方略をもたせたり、作らせたりすることが外国語学習にも有効であると考えられます。
 英語を学習するうえで生徒に身につけさせたい方略について、本研究ではオックスフォードの学習方略を主に参考にしました。(詳細は、『平成11年度教育研究155』 岩手県立総合教育センター pp.200-202に掲載)オックスフォード(1990)は、学習方略を2種類に分類しました。記憶、認知、補完の「直接法」と、メタ認知、情意、社会的方法の「間接法」です。記憶は新情報を記憶し再現する方法、認知は言語を理解し作り出す方法、補完は知識の欠けている部分を補う方法で、メタ認知は学習過程のアレンジ、情意は感情のコントロール、社会的方略は他人と共に学ぶ方法を扱います。

(2)学習スタイルの意味
 学習スタイルは、認知スタイルとも言われ、個人に特徴的な認知面と情意面の習性・性質です。学習場面では、「学習環境をどう知覚し、それとどうかかわり、どう反応するかの個人的な特徴である」とKeefe(1979)は述べています。それぞれの学習者がもつ学習スタイルに応じて、好んで使う学習方略が異なると言われ、学習者自身が自分の学習スタイルを知ることは、どの学習方略を使えば更に学習が促進されるかを知ることにつながります。
 本研究では、Knowles と Tyacke の分類の仕方を参考にし、生徒の学習スタイルを次のように分類します。

@  内向型(協議形式による決定を好まないなど)
A  外向型(他とかかわり学習することを好むなど)
B  右脳優越型(感覚的思考を好むなど)
C  左脳優越型(論理的思考を好むなど)

(3) コミュニケーションの技能を高める学習指導についての基本構想

ア 英語科の学習においてコミュニケーションの技能を高めることの意義
 コミュニケーションとは、音声や文字によってメッセージを受け取ったり、伝えたりする行為であり、技能とは意図的な練習や学習によって獲得される能力です。英語科の学習におけるコミュニケーションの技能とは、学習した語句や文型などの言語要素を用いて、「聞く」「話す」「読む」「書く」ことにより情報を伝えあう技能です。
 また、コミュニケーション能力とは、言語要素を用いてメッセージの交換を行える力だけではなく、必要に応じて会話を継続させるための方略を用いたり、相手や場面に応じて適切な表現を工夫したりする力です。
 英語科の学習においては、ますますこのコミュニケーション能力の育成が求められています。学習した言語要素を用いて、生徒が使ってみるという体験を保障し、使って慣れることにより、運用能力が高まるとされているため、「聞く」「話す」「読む」「書く」ことのコミュニケーション活動の工夫が求められています。
 しかし、このことは必ずしもコミュニケーションの技能を高めることの必要性が軽んじられているということではなく、コミュニケーションの技能と能力、双方の育成が求められていることです。学校の英語教育で目指すべきことは、学習者が学習したことを生かして、主体的に学べるような基礎的な技能を習得させることと、メッセージの交換を行うことに対する意欲を高めることも含めて、言語体系を的確に運用できるコミュニケーションの能力の育成です。
 本研究では主題とする力を、情報伝達手段としてその技能を高めることがより強く求められている、「聞く」技能と「話す」技能とし、効果的な指導法の在り方を検討します。

イ 技能面と情意面からの学習方略を生かしてコミュニケーションの技能を高めることの意義
 実際のコミュニケーションの場面では、基礎的な英語表現をできるだけ蓄積し、それを必要に応じて出していけるようになることが必要です。すなわち、記憶と再現にかかわること、メッセージのやりとりの内容をあらかじめ予想したり計画したりすること、やりとりの最中ではコミュニケーションに不足する技能や部分を補いながら不自然な間をおかずに継続できること、終了後は理解度を確認して新たな目標を立てるための方法を知ることなどが必要です。このように、コミュニケーション活動では、技能だけではなく、技能を有効に生かすことを促進する要素が必要であり、学習方略を取り込み適切に活用することは大きな意義があります。
 英語の学習の際、指導者自身が好む学習スタイルを一斉指導の中で進めることが多いのですが、学習者にはそれぞれ適した学習方略があり、その方略を活用して学習すればより有効であるということに注目して指導する必要があると考ます。

ウ 技能面と情意面からの学習方略を生かした学習の進め方
 コミュニケーションの技能の技能を高める学習指導にあたっては、学習方略の意識化、紹介と取り込み、観察と交流による深化拡大、そして学習方略指導後の授業の工夫の流れで進めます。

(ア)  これまでのコミュニケーション活動の困難点を想起する活動
 生徒がこれまでのコミュニケーション活動で感じた困難点を、自己並びに相互に指摘します。
(イ)  既存の学習方略を紹介して生徒個人に応じて取り込む活動(仮説の手だて1)
 指導者が実演や説明で学習方略という新たな情報を提示し、生徒は、学習スタイルに応じ、記憶と再生の過程、計画・実践・評価の過程、情意面で、少なくとも一つずつ(計3つ)学習方略を取り込みます。
(ウ)  他の生徒の実践を観察・交流し自らの学習方略を深めたり増やす活動(仮説の手だて2)
 学習方略を取り入れた実践的で個人参加型の活動を行い、観察し、活動後に全体で気づいた点を交流して学習方略を深めたり数を増やします。
(エ)  学習方略指導後の授業(仮説の手だて3)
 異なる学習スタイルに配慮した指導過程を組むこととします。すなわち、個人・共同的活動内向・外向的活動)と感覚的・思考的活動(右脳・左脳活動)を次のように組み合わせます。
@ 導入の段階では、感覚に訴える全体での導入活動を見聞きした後、個人毎に課題を把握します。
A 理解の段階では、指導者による視覚と聴覚に訴える説明を見聞きした後、個人毎に理解度を確かめます。
B 練習の段階では、学級全体の置換練習の後、学習事項を個人の状況・考え・経験へ適用し練習します。
C 応用の段階では、個人で言語活動の計画(展開や使用言語)を立て、実践し、他の実践を観察します。

エ コミュニケーションの技能を高める英語科の指導についての基本構想図
 これまで述べてきたことを基本構想図にしたものが、次の【図1】です。

オ コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案

(ア) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導

@ 学習指導試案作成のための実態調査の考え方
 本研究では、学習方略と関連があると思われ、生徒が答えやすいBrown(1994)による内向・外向、右脳・左脳優越、並びに担当者による、英語学習の困難点と工夫の自由記述による学習スタイル調査(詳細は、『平成11年度教育研究155』 岩手県立総合教育センター p.210に掲載)を作成し、5月 26日に実施しました

A 生徒個々の学習方略の活用
 学習スタイルと学習方略の関連、並びに、高梨(1997)による英語力に関連がある四つの学習方略(認知・補完・メタ認知・社会的)を、次のように、調査結果に応じて生徒に勧めます。

内向・右脳的生徒=練習にかかわる認知方略と、言い換え、身振りなどの補完方略
内向・左脳的生徒=練習にかかわる認知方略と、計画と評価のメタ認知方略
外向・右脳的生徒=共同学習にかかわる社会的方略と、言い換え、身振りなどの補完方略
外向・左脳的生徒=共同学習にかかわる社会的方略と、計画と評価のメタ認知方略

(イ) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案
 コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案を次の【表1】のように作成しました。

(ウ) 検証計画
 コミュニケーションの技能を高める学習指導試案に基づく指導が、生徒の技能の高まりや意識の育成にどのような影響を与えたかをみるために、次の【表2】の検証計画に基づいて検証を行います。

2 授業実践と学習指導試案の妥当性の検討

(1) 能力群の編成
 指導試案の妥当性をより詳細に検討するため、学級全体を【表3】のように上位群と下位群に編成しま した。能力群の編成にあたっては、1学期末と夏休み明けテストの相加平均をもとに両群の特徴を明確にするために、群間の5名を群外としました。

(2) 学習スタイルと学習方略
 平成12年5月26日に実施した内向・外向性及び右脳・左脳優越をみる実態調査では【表4】のような結果が得られ、担当者がそれぞれの型に応じて、学習方略を提示しました。

 また具体的な学習方略については、オックスフォードの直説法と間接法の学習方略に基づいて、生徒が取り込みやすい【表5】のような学習方略を生徒に勧めました。

(3) 授業実践の概要

ア 授業実践計画
 学習指導試案の妥当性を検討するために、研究協力校において授業実践を行いました。次の【表6】は、学習指導試案に基づいて作成した Unit 6 “Our Neighbors”(第2学年)の指導計画です。

イ 授業の実際
 次の【資料1】は、授業実践において本研究の手だてを講じた部分の一部を抜粋して示したものです。

(4)コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導試案の妥当性の検討

ア コミュニケーションの技能の高まりの状況
 指導試案に基づく授業実践によるコミュニケーションの技能の高まりの状況をみるために、コミュニケーションの技能の構成要素である「聞く技能」と「話す技能」の観点からテスト問題を作成し、事前及び事後に実施し、その結果からコミュニケーションの技能の高まりの状況を分析し考察することとしました。
 【表6】は、コミュニケーションの技能の高まりの状況について、学級全体と、上位群、下位群の事前と事後のテスト結果を、平均点、標準偏差、t検定(平均の差の検定)を用いて表したものです。また次頁の【表7】はコミュニケーションの技能の二つの構成要素のうちの「聞く技能」、【表8】は「話す技能」のテスト結果を表したものです。

 t検定の結果、【表7】に示したとおり、「聞く技能」の高まりをみるテストでは、学級全体と下位群に有意差が認められたことがわかります。これは、指導試案に基づいた授業で、英語を話したり聞いたりするコミュニケーション活動のなかで、前後関係から意味を推測するなどの補完方略などを取り込み、活用したためだと考えられます。一般に聞く技能の高まりは短期的な学習では大きな変容は期待できないと言われていますが、上位群に有意差が認められなかったのは、事前テストの段階ですでに英語を聞くときの方略を用いて聞いていたため、事後においては大きな変容がみられなかったためと考えられます。
 また、t検定の結果、【表8】に示したとおり、「話す技能」の高まりをみるテストでは、学級全体と各能力群に有意差が認められたことがわかります。これは、生徒が取り入れた学習方略のうち、特に英語を話すことにあたっての補完方略が話す技能を高めることに好ましい変容をもたらしたことによるものと考えられます。
 「聞く技能」と「話す技能」の二つの構成要素を総合してまとめたコミュニケーションの技能の高まりは、【表6】に示したとおり学級及び各能力群において有意差が認められました。これは、練習にかかわる認知方略、言い換えや身振りなどの補完方略、計画と評価のメタ認知方略、共同学習にかかわる社会的方略を生徒が取り込み活用することによって、コミュニケーションの技能が高まったためと考えられます。リスニングテストやインタビューテストという主題テストの性格上、言い換えや身振りなどの補完方略が生徒の変容にかかわっているのではないかと考えられますが、本研究ではどの方略が、内向・外向・右脳・左脳型のうちどのような生徒に有効であったのかというところまでは、明確に分析するまでには至りませんでした。
 なお、「話す技能」については、「目的や場面に即した応答」と「考えを整理した平易な表現での発話」の二つの下位要素を設定しましたが、次の【資料2】は、後者の高まりをみるテスト問題と評価規準です。

イ 英語科の学習に対する意識の変容状況
 指導試案に基づく授業実践による、学習に対する意識の変容状況を調べるために、調査問題を作成し、事前及び事後に実施しました。
 【表9】は、聞くこと、話すことに対する興味、関心、意欲、態度、学習方略の有用感の変容状況についてχ2検定(変化の検定)を用いて表したものです。

 χ2検定の結果、【表9】に示したとおり、意識の変容状況についてはいずれについても有意差が認められませんでした。これは、学習方略の指導にあたって方略を取り込ませる際、実行可能な内容を生徒に選択させ、徐々に学習方略を深化拡大させましたが、生徒が取り込んだ学習方略が、聞くこと、話すことの二つの技能を高める方略にとどまらず多岐に及んだためと考えられます。また、1単元の授業では多様な方略を実行してみることが困難で、その学習方略を十分理解し活用してみることが不十分だったためと思われます。
 今後は、学習方略を指導したり意見交流を行ったりする際、言葉による指導だけではなく、実演し、生徒にも実際に取り組ませるなどの指導の工夫が必要と考えます。 【図4】は、技能面と情意面からの学習方略に関する有用感についての意識調査を授業実践後に実施し、その結果を人数の割合によってまとめたものです。
  【図4】によると、設問9の 学習方略の有用感をみる調査では、70%以上の生徒が肯定的な反応を示しました。この結果より、情意面と技能面からの学習方略を生かした学習が役に立つと受けとめられたたと考えらます。今後は、生徒が学習方略に有用感をもっていることを大切にして指導する必要があると考えます。

ウ 単元の学習内容の習得状況
 指導試案に基づく授業実践によって、Unit 6で学習した内容が習得されたかどうかを検証するために、「言語事項」「本文の内容理解」「表現」の三つの観点から単元テストを作成し、授業実の事前と事後に調査を実施しました。【表10】は単元の習得状況について、学級全体と、上位群、下位群の事前と事後の結果を、正答率と有効度指数を用いて、単元全体と観点別に表したものです。

 【表10】をみると、学級全体の有効度指数は34であり、単元の学習内容の習得状況は十分とはいえません。これは、年間指導計画のなかの1単元指導時間内に、単元の指導に加えて学習方略の取り込みに関する指導や学習方略を深化拡大させる交流を行ったために、新出事項を学習するのに十分な時間を当てられなかったことによるものと考えます。しかし、学習方略に関する指導を1年間や3年間など長期的に行うのであれば、本指導案による指導は単元の習得に支障が無くなるものと考えます。
 また、単元テストの「表現」において、有効度指数が17という低い値を示していることは、本研究 のコミュニケーションの技能を高めるというねらいと相反するように考えられます。しかし、単元テストでは書くことについての習得状況をみる調査問題であったのに対し、本研究ではコミュニケーションの中でも、聞く、話す技能に絞った指導試案を作成し、それに基づいて授業実践を行いました。したがって、同様に表現力を高めることをねらっても、書く技能を高めるためには、さらに指導の手だてを工夫する必要があると考えます。

(5) コミュニケーションの技能を高める英語科の学習指導の在り方についてのまとめ
 これまでの検証から、指導試案に基づく授業実践の結果において、次のようなことが明らかになりました。

ア 成果として考えられること

@  コミュニケーションの技能を高める方略を取り込み活用することによって、概要や要点を聞き取ったり、相手の質問に応じたり、自分の意向を伝えたりできるようになったこと
A  今後も学習スタイルに応じた学習方略を活用してみたいという有用感が生まれたこと
B  生徒が今後活用したいと考える方略が、練習にかかわる方略からコミュニケーション技能を高める多様な方略に拡大したこと

イ 課題として考えられること

@  学習に関する意識調査の結果から、授業実践の事前と事後に大きな変容はみられず、英語のコミュニケーションに対する意欲をさらにを高めることができなかったこと
A  学習方略に関する意見交流が十分なされず、他の人が活用してみて有効な学習方略に興味をもち、自分も取り込んでみたいという意欲を喚起するまでには至らなかったこと
B  多様な学習方略を紹介したものの、生徒がそれらを取り込んで使ってみる活動が十分でなかったため、書く技能を高めるには至らなかったこと
C  生徒の個々の学習スタイルに応じた学習方略を活用させるため、一斉指導の中では一人一人の学習状況を掌握し、個に応じた支援を行うことが困難であること

ウ 改善点として考えられること

@  生徒が学習方略について理解できるように、具体的な言語材料を用いて、実演してみる時間を確保すること
A  生徒が学習方略を深化拡大できるように、意見交流を十分行うこと
B  コミュニケーションの意欲を高めると同時に、英語の言語体系を習得させるための指導の在り方を工夫すること
C  一斉指導のなかでも、生徒が個々の学習スタイルに応じた学習ができるように、支援の在り方を工夫すること

3 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ
 この研究は、コミュニケーションの技能を高める英語科の指導法を明らかにし、英語科の学習指導の改善に役立てようとするものです。そのために、英語科におけるコミュニケーションの技能を高める学習指導についての基本構想を立案するとともに、技能面と情意面からの学習方略を生かした学習指導試案を作成し、授業実践をとおしてその妥当性を検討してきました。その結果、次のことが明らかになりました。

@  教師が自分の学習スタイルだけで学習指導を行うのではなく、個々の生徒に適した学習方略を必要に応じて生徒に取り込ませ、活用させれば、英語のコミュニケーションの技能を高めるうえで効果があること
A  学習スタイルに応じた技能面と情意面からの学習方略を紹介すれば、生徒は方略に有用感をもち、活用してみようという意欲が生まれること

(2) 今後の課題

@  読んだり書いたりするコミュニケーションの技能を高めるために、有効な学習方略を生徒に紹介し、取り込ませること
A  技能面と情意面からの学習方略を生かした指導が、コミュニケーションの技能を高めるうえで概ね有効であることが確かめられたので、どの学習方略が、どのような学習スタイルをもつ生徒に効果があるのか継続して調べていくこと

おわりに

 この研究を進めるにあたり、たいへんお世話いただきました研究協力校の校長先生をはじめ、諸先生方、そして生徒のみなさんに心から厚くお礼申し上げます。また、研究協力員としてご協力いただきました3名の先生方に心から感謝申し上げます。


【引用文献・主な参考文献】

Brown, H. D. (1994a). Principles of Language Learning and Teaching . Prentice Hall. p.105,p.147, p.150
Brown, H. D. (1994). Teaching by Principles. Prentice Hall. pp.203-208
Canale, M. & Swain, M. (1980). Theoretical Bases of Communicative Approaches to 2nd Language Teaching and Testing. Applied Linguistics, 1,1.pp.1-47
Hainer, E. V. et al. (1990). Integrating Learning Styles and Skills in the ESL Classroom. CAL. pp.3-6
O'Malley, J. M. & Chamot, A. U. (1990). Learning Strategies in 2nd Language Acquisition. Cambridge.
Oxford, R. L. ed. (1990). Language Learning Strategies.  Heinle & Heinle. pp.57-97, pp.151-173
Oxford, R. L. ed. (1996). Language Learning Strategies Around the World. Univ. of Hawaii.
Reid, J. M. (1998). Understanding Learning Styles in the 2nd Language Classroom.  Prentice Hall. Wenden, A. (1991). Learner Strategies for Learner Autonomy. Prentice Hall.
Rubin, J. & Thompson, I. 西嶋久雄訳(1998) 「外国語の効果的な学び方」 大修館書店
辰野 千壽(1997) 「学習方略の心理学」 図書文化
松畑 熙一・和田 勝明(1995) 「コミュニケーション能力の育成と評価」 開隆堂
金谷 憲・谷口 幸夫(1999) 「英語教師の四十八手 テストの作り方」 研究社



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