岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


身近な自然に科学的関心を高める探究活動の在り方に関する研究

− 七時雨火山地質図の作製とその教材開発を中心に −(第2報)


《  目  次  》

はじめに
1 身近な自然に科学的関心を高める探究活動に関する基本構想
 (1) 基本的な考え方
 (2) 野外活動を中心とした探究活動の進め方についての考え方
2 学校周辺の地質図の作製
 (1) 実践校周辺の地質の概要
 (2) 実践に使用した露頭の記載
3 探究活動の授業実践
 (1) 実践の対象
 (2) 既習学習の内容
 (3) 授業展開
4 実践結果の分析と考察
 (1) 生徒が自ら見いだした課題について
 (2) 生徒が考えた解決方法と工夫について
 (3) 生徒が解決した問題と感想について
 (4) 発表の状況と感想について
 (5) 探究活動の進め方についての考察
5 研究のまとめと今後の課題
 (1) 研究のまとめ
 (2) 今後の課題
おわりに

【参考文献】

はじめに

 生活の場である地域の自然を教材として授業を展開し、直接体験をさせながら科学的関心を高め、探究心等を育てることは学習指導要領理科編のねらいでもあります。このことは、地質的自然を学習対象とする地学分野では特に重要なことです。同時に、地球環境の保全のため、身近な自然の大切さや自然との共生の認識を深めるうえでも必要なことと思われます。
 しかし、現状をみると、郷土の自然についての知識が少なく、関心が薄いという生徒の実態があります。また、野外学習を中心とした授業は、教師からは敬遠されがちで、身近な自然に対して科学的関心をもち、探究していこうとする力が十分育っているとは言いがたい状況にあります。その原因の一つには、地域の自然の形成史に関する調査と研究資料の不足から、教材開発や探究活動の効果的な進め方について授業の構想ができにくいことがあると考えられます。
 そのためには、まず、地域の自然について調査を行い、生い立ちを明らかにして、それを地質図としてまとめ、教材化することが重要です。さらに、野外活動を中心とした学習を通して、身近な自然に科学的関心を高め、探究心を育てる効果的な学習の展開について研究を行う必要があります。
 そこでこの研究は、七時雨火山地域を例として、地質図作製のための調査と教材開発を行い、身近な自然に科学的関心を高める探究活動の進め方の手法を、実践的に確かめることによって、理科教育の改善に役立てようとするものです。
 この研究は、平成11年度から平成12年度にわたる2年次研究です。第1年次は、探究活動についての先行研究に関する文献研究を行い、身近な自然に科学的関心を高める探究活動の進め方の手法についての基本構想を立案しました。さらに、七時雨火山の活動史とその周辺地域の地質調査と地質図の作製及び教材開発を行いました。
 第2年次は、実践校周辺地域の教材開発及び授業実践による有効な探究活動の進め方について検討し、探究活動に関する研究をまとめました。ここでは、以下の点について述べたいと思います。 (1)身近な自然に科学的関心を高める探究活動に関する基本構想、(2) 実践校周辺の地質図の作製、 (3)探究活動の授業実践、(4) 実践結果の分析と考察、(5) 身近な自然に科学的関心を高める探究活動に関する提案。

1 身近な自然に科学的関心を高める探究活動に関する基本構想

(1) 基本的な考え方
 野外学習の効果については多くの論文が公表されています(例えば磯崎、1999)。また、野外学習は地学リテラシーの育成(下野、1993)や、地域環境の認識においても貴重な実体験になると考えられます。
 文部省(1999)は、中学校では「生徒の興味・関心に基づき問題解決能力を育成するため、野外観察を一層充実するとともに生徒自ら観察や実験の方法を工夫したりして課題解決のために探究する活動を行うこと」とし、高等学校理科総合Bでは、「地球環境にかかわる自然の事象を探究する学習を行い、自然を総合的に見る見方や自然を探究する能力や態度を養う」。Tを付した科目では、「観察、実験、探究活動などを行い、基本的な概念や探究方法を学習する」としています。今後、探究活動の実施にあたり、これまで以上に詳細に準備し検討されるべきであると考えます。
 しかし、野外における探究活動の実施状況は非常に低いことが知られています(三輪、1999)。野外学習・校外学習の授業が敬遠される原因について述べたいくつかの報告があります。磯崎(1999)は、地学教育シンポジュームの講演の中で、Orion、N.(1993)を引用しその原因を3点紹介しています。@学校システムにロジステイックな限界があること、A適切な教授・学習材が不足していること、B教師が学習環境として野外に精通していないこと。野外における探究活動を実施するためには、これらの点を解決する必要があります。

(2) 野外活動を中心とした探究活動の進め方についての考え方
 ここでは、野外における探究活動を「生徒の興味・関心に基づき、生徒自らが課題を見いだし、観察や実験の方法を工夫して、課題解決のために探究する活動」ととらえます。
 本研究では、地質図が作られていない地域での事前準備から、生徒の探究活動実施までの進め方について検討します。基本構想図を【図1】に示します。

2 実践校周辺の地質図の作製

(1) 実践校周辺の地質の概要
 西根町一帯は、新第三紀の安山岩及び岩手山の岩屑なだれ堆積物からなる小丘陵と、その間を埋める平野の堆積物からなります。平野は泥岩からなります。岩手山の山体崩壊に伴い赤川の堰き止めにより、自然のダムが作られ、そこに堆積したものです(土井2000)。実践校付近には、東西に活断層の存在が推定され、南北方向に延びています。この度の実践にあたり、教師用の 2.5万分の一地質図(図2)および火山灰説明書(別冊)を作製しました。

(2) 実践に使用した露頭の記載

   ※ 地質図をクリックすると、詳細な地質図を見ることができます。(106KB)

※ 地質図をクリックすると、詳細な地質図を見ることができます。(62KB)

  ※ 地質図をクリックすると、詳細な地質図を見ることができます。(66KB)

【図3】 実践に使用した露頭.西根町堀切西根町立西根第一中学校校庭.
  ※ 地質図をクリックすると、詳細な地質図を見ることができます。(235KB)
【図4】 探究活動の実践. 1 課題を見いだす活動
【図4】 探究活動の実践. 2 課題を見いだす活動
【図4】 探究活動の実践. 3 課題設定の学習
【図4】 探究活動の実践. 4 課題解決の活動

ア 露頭の概要
 【図3】は、西根第一中学校校庭の露頭を西側から見た南北断面です。安山岩を基盤岩として、不整合に被覆し、玉山火山灰(下位よりTir6〜1)、岩手川口火山灰、江刈内火山灰が整合的に重なっています。見かけ上北側傾斜に見えます。白色の火山灰はTir2とTir1テフラです。これらは、江刈内および沼宮内火山灰のメンバーと見なされていました(大上ほか、1987)。
 【図4−2】は、南側から見た東西断面です。安山岩を基盤岩として、その上に玉山火山灰(下位よりTir2〜1)、岩手川口火山灰の一部、江刈内火山灰、沼宮内火山灰の下部が整合的に重なっています。見かけ上西側傾斜に見えます。すなわち、この露頭は、突出した安山岩の北西斜面を玉山火山灰から沼宮内火山灰までが、堆積の不連続を伴いながらも、順次重なったことを示しています。一カ所で、これら4つの火山灰の累重関係を観察できるのは、今のところこの露頭だけです。本地域の火山活動の歴史を編むうえできわめて貴重です。また、生徒の発達段階からみて、見かけの傾斜から空間概念を形成する学習の場として適したフィールドです。

イ 基盤岩の特徴
 火山灰が覆う基盤岩(【図4−2】)は、割れ目の発達した暗灰色の溶岩です。柱状粗粒の角閃石と斜長石および石英からなり、肉眼でも斑状組織が確認できます。
 顕微鏡下では、有色鉱物として角閃石が、無色鉱物として斜長石および石英が見られます。石英含有角閃石安山岩です。石基は流理の発達した褐色のガラス質で、結晶の発達が不良です。典型的な斑状組織を示す溶岩であり、火山岩の教材としても適しています。

ウ 火山灰の層序と特徴
 図6に柱状図を示します。玉山、岩手川口、江刈内、沼宮内の四つの火山灰が累重し、その中に挟まる多数の火山灰が新たに区分されました。火山灰の特徴及び記載は、火山灰説明書を参照して下さい。

エ 鉱物組成
 Tir2には、1cm大の斜長石の遊離結晶が、江刈内火山灰中にはカンラン石が特徴的に含まれています。黒雲母とカリ長石以外の主要造岩鉱物が全て採集可能です。

オ 分布及び供給火山
 鉱物組成及び層厚分布などから、七時雨火山起源の火山灰は、玉山火山灰と岩手川口火山灰の秋浦第1軽石、秋浦3a軽石、秋浦3b軽石、松内火山灰の上斗内火山灰、安代軽石、及び寺田火砕流です。また、江刈内、沼宮内、山崎及び松内火山灰の下部のほとんどが八幡平火山起源と推定されます。

3 探究活動の授業実践

(1) 実践の対象
 西根町立西根第一中学校(3年生、1学級、33名)

(2) 既習学習の内容
 大地の変化の導入として実施したため、鉱物、岩石などの地質や地形などについての教科書の知識はもっていない状態です。

(3) 授業展開
 自ら課題を見いだし、解決方法を考え、問題を解決し、さらに発表する一連の探究活動を次のように展開しました。

1時 事前指導(安全、時間、進め方、服装、筆記用具など)
2時 テーマを探す(連続性に注目しスケッチさせ、図に具体的に課題を示させる)
3時 探究活動の実施
4時 室内及び野外での分析・探究
5時 まとめ(研究レポート及びプレゼンテーションシートの作成)
6時 発表

 2時の実施に先立ち、県立高等学校1年化学選択者40名について、自由に川のスケッチをして気づいた点を書かせ、分析を行ないました。その結果、観察の視点を示すことが大切であることが分かり、恩藤(1991)の「連続性に注目させ」スケッチを行わせることの重要性を再確認しました。

4 実践結果の分析と考察
 室内及び野外における学習の様子の観察、スケッチなどの提出された学習資料、成果の発表内容、感想文などから分析及び考察を行いました。その検討内容を以下に述べます。

(1) 生徒が自ら見いだした課題について
 結果:火山灰露頭において、興味・関心により生徒の見いだしたテーマ(複数回答)は以下のようです。
・土の種類は何でできているか(21名)、・白くなっている部分は何か(18名)、・地層はなぜ斜めになっているのか(4名)、・白い軽石ができたのはなぜか(3名)、・砂や土や岩がどこからきたか(2名)、・地層にはどんな物が含まれているか(1名)、・岩盤が何でできているか(1名)、・岩の上に土が乗っているか(1名)。
 探究活動は、原則として個人研究とし、テーマが同じで希望があれば共同研究としました。その結果、以下のような8つのグループとなりました。研究テーマと設定理由は次の通りです。
「白石の謎」(地層の中でも一番気になった)5名、 「白い土と岩盤」(関心をもった)4名、「土の調査」(調べてもっと土のありがたみを感じたい)7名、「石の種類を調べる」(学校の周りにあるのは何か調べたい)2名、「なぜ地層が傾いているか」(不思議だった)4名、「土の性質や種類」(性質と種類を調べたかった)3名、「白い軽石ができたのはなぜか」(他の部分とは違う軽石が気になった)3名、「土の種類を徹底分析」(どんな種類があるか性質を知りたかった)5名。
 分析:この結果を分析すると、生徒の多くが色と物に注目して課題を探していることが分かります。スケッチにも色彩に関する記述が多く、興味・関心の場所がよく示されています。これは色に注目して連続を追跡した事にもあるかもしれません。地質構造、相互の接し方、火山灰の供給源などに関しては少ないようです。しかし、さらに十分な時間を与え観察させると、様々な鉱物、火山豆石、レンズ状の軽石、軽石からロームへの変化なども課題として見つけだす可能性があります。それは、別のクラスの探究活動の観察結果から予想されたことです。いずれ、全ての生徒が露頭の事物現象に注目して、科学的な課題を見出すことができたと判断されます。

(2) 生徒が考えた解決方法と工夫について
 結果:生徒が考えた調べ方、工夫をテーマごとにみると次のようです。
 「白石の謎」;色、形、火に対する反応、塩酸反応を調べる。その結果、透明な粒が多く黒・白の粒を少量含む。軽石は灰色の粉になる。形は決まった形がなく固まってできている。塩酸反応はない。砂鉄を含む。軽石は硫黄の臭いがする。火に近づけると火花が散る。凝灰岩である事を確認した。
 「白い土と岩盤」;水に溶かしてPHを調べる。水に溶かしたものを熱する。砕いて顕微テレビ装置で調べる。その結果、白い土は中性、軽石は弱酸性、熱しても何もでないことを確認した。岩盤は安山岩に近い岩石で石英・角閃石の様なものが見つかり斑状組織であると推定した。
 「土の調査」;水を加えて熱し臭いと味覚を調べる。粒径による分類を本で調べる。その結果、白い土は硫黄の臭いがした。白くなった水は石灰水と思ったが違った。白い土は砂のようであり顕微鏡で透明な鉱物を見つけた。
 「石の種類を調べる」;気になる石を拾う。石を削り実験室の標本と比較する。その結果、軽く穴のある石、重みがあり割れる石、黒・白などの粒の模様のある石の3種類があった。それらを、軽石、玄武岩、閃緑岩であると結論した。
 「なぜ地層が傾いているか」;分度器で角度を測定する。仮説を立てて検討する。その結果、地層の傾斜角は35度であることを測定し、火山噴火説と地殻変動説の2つの仮説を立てた。
 「土の性質や種類」;粉にする。熱する。顕微鏡観察。磁石を近づける。水に溶かす。その結果、土を洗ったら小石・白砂・黒砂が含まれていた。顕微鏡では緑色の砂が入っており、カンラン石と推定された。黒い砂は磁石にくっついたので砂鉄であると推定した。土を混ぜてビーカー内で人工的に地層を作れることを確かめた。黒・茶色・砂のような粘土質の土を水に溶かして観察すると、黒土が最も早く沈殿し、一粒一粒が固まっており草の根がくっついていることも分かった。
 「白い軽石ができたのはなぜか」;熱し水分を蒸発させる。砕き水に浮かべる。その結果、砕くと黒い石が混じっていて磁石に反応した。軽石には水に浮く物と沈む物がある。熱すると色が黄色から白色に変わった。小さな穴が沢山できている。図書で調べたところ、マグマ中のガスが固まるときに逃げて小さな穴ができることが分かったので、軽石であると判断した。なぜ軽石が白いのか疑問として残った。
 「土の種類を徹底分析」;異色な部分を採集。磁石・塩酸・リトマス紙に対する反応を調べる。顕微鏡観察を行う。その結果、4種類中3種類が磁石で反応し、磁鉄鉱が含まれていると考えた。水に溶かした上澄み液に塩酸を加えたら1種類が気体を発生し、水素だと判断した。顕微鏡下で石英と磁鉄鉱を確認。その他の鉱物は分からなかった。調べていくとさらに分からないことや不思議なことが沢山でてきたので、徹底分析できなかった。途中で終わって残念なので再び調査して土についてできるだけ知りたいと思った。
 分析:生徒が考えた解決方法と工夫を列挙すると次のようです。色や形を調べる、臭いと味覚を調べる、火に対する反応を調べる、塩酸反応を調べる、水に溶かしてリトマス紙及びBTBでPHを調べる、水に溶かしたものを熱する、砕いて顕微鏡で観察する、粒径による分類を図書館で調べる、気になる石を集める、色の違う部分を採集する、石を削り標本と比較する、分度器で角度を測定する、仮説を立て検証する、粉にする、磁石に対する反応を調べる、熱し水分を蒸発させる、水に浮かべる、などです。すなわち、感覚による方法、薬品による化学的な方法、物理的な方法、機材・器具を用いた観察方法、文献などの情報活用による方法などを駆使している事が分かります(【図7】)。
 実験室にあるものは自由に使用できることとしました。野外では、洗いかご、スコップ、マジックインキ、サンプル袋、スケッチ板など、試料採集や記録に必要なものを使用しています。発達段階に応じた無理のない方法であり、これまでの学習での知識と技能を十分に生かしていると思われます。しかし、調べ方の視点やサンプルの仕方、試料の整理など多少の課題も残ります。

【図7】 解決方法を工夫しながら進める探究活動.

(3) 生徒が解決した問題と感想について
 結果: テーマごとに生徒の問題解決できた内容と感想についてまとめます。なお、以下の記述は生徒の表現そのままです。
 「白石の謎」;白石は火山灰が積み重なったものであることが分かった。軽石はなぜ硫黄の臭いがしたのか疑問をもった。これからしてみたいことは、実際の溶岩を見たいこと、河口の石と比べたいことである。(感想;初めて知った事もあって楽しかった。みんなと調べることができて忘れられない。沢山の石の種類がよく分かって良かった。このように何かを調べることはとても良いことだと思った。石や土がこういう物だと分かって良かった。もう少し詳しいことを知りたかった。時を忘れて頑張った。)
 「白い土と岩盤」;岩盤は、マグマが固まってできる安山岩に酷似し斑状組織であることが分かった。(感想;岩石には色々な形や種類がありその特徴を調べることができてよかった。資料がなかったけど調べることは調べたので良かった。実験を通して色々なことを吸収できた。)
 「土の調査」;白い土は粉というよりは砂であることが分かった。(感想;温泉のようないい匂いがした。顕微鏡で見るときはかなり洗わないといけないことが分かった。色々な臭いの土をもっと調べたい。なぜ硫黄の臭いがしたのか調べてみたい。今度は熱するだけでなく色々なことを工夫してやってみたい。調べてみて色々なことが分かって楽しかった。土には色々な種類があって場所によって違うことが分かった。)
 「石の種類を調べる」;玄武岩と閃緑岩は採石起源であると考えた。(感想;石・岩の歴史は長くとてもよいものだと思った。石は大きく分ければ2つ細かく分ければ無数に分かれることを調べてみるまで分からなかった。)
 「なぜ地層が傾いているか」;元々傾いたところに火山灰などが積もったものであることが分かった。(感想;考えが違ったけど結論が分かって良かった。単純な理由だったのでおどろいた。)
 「土の性質や種類」;白い部分は火山灰であることが分かり、昔は近くに火山が沢山あったと推定した。人工的に地層を作れることも確かめた。(感想;土の中に砂鉄が含まれていることが分かったので調べて良かった。調べてみないと分からないことが分かったのでよかった。おもしろい実験が沢山できて楽しかった。)
 「白い軽石ができたのはなぜか」;マグマ中のガスがにげて軽石ができることが分かった。(感想;磁石に反応しびっくりした、何だろう。軽石についてだいたい分かった。水分をかなり含んでいたので驚いた。疑問が残ったけれど軽石についてだいたい分かった。)
 「土の種類を徹底分析」;各種の土の鉱物組成のちがいと共通点をまとめることができた。(感想;今まで知らないことが分かってよかった。リトマスで弱酸性の反応を示す物があった。土について調べたことがなかったので難しかったが色々分かった。知らなかったことも調べることができ良かった。色々な実験をして土について調べることができ勉強になった。)
 分析:「白石の謎」は、鉱物や軽石を含み硫黄の臭いがすることから、火山灰であると推察し、さらに軽石の形が不規則で、固まっていることから凝灰岩であると判断しました。この火山灰は固結度が高く、寧ろ正しい見方であると思われます。
 「白い土と岩盤」は、火山灰に対してPHや熱による実験が、根本的な問題解決にはなりませんでした。しかし、岩石組織の観察からは、石英や角閃石を含む安山岩であり、火山岩であると正確な結論を得ています。
 「土の調査」は、白い土は粒度から砂であると判断しました。この火山灰は結晶質で見方としての誤りはありません。また白濁した溶液は石灰水ではないとした結論も正しいものです。ただ、顕微鏡観察やPH値からの考察に不明なところがあったのは、レポートの書き方が十分でないためと思われます。
 「石の種類を調べる」は、岩石の研磨表面の観察と標本の比較観察の結果から、軽石、玄武岩及び閃緑岩と判定しました。後者の2つは、明らかに採石であって、生徒は露頭の岩石との比較ともあわせて、外から持ち込まれた物と正しい推察を行っています。
 「なぜ地層が傾いているか」は、地層の傾く場合について仮説を立てて検討したところが特徴的です。傾いた原地形を火山灰が被覆したものであることに気づきますが、表現に説得力が不足していました。
 「土の性質や種類」は、土を水洗して分析した結果、各種の鉱物を含むことから火山灰であるとの結論を得ています。さらに鉱物の分類を試み、緑色の鉱物をカンラン石としたが、これは輝石の間違いです。さらに、黒土、ローム及び粘土化した軽石層の沈殿速度などの観察を行い、葉理の作られることや黒土には植物の痕跡のあることなど、詳細で正確な観察を行っています。
 「白い軽石ができたのはなぜか」は、軽石であることを観察と実験を駆使し確かめています。さらに図書館で軽石の成因について情報を得てレポートにまとめています。
 「土の種類を徹底分析」は、極めて科学的な研究手法をとっています。火山灰を洗い、鉱物に対して、磁石による反応、塩酸反応、鉱物組成など各試料ごとにまとめ、溶液のリトマス紙による反応も試みています。しかし、鉱物の鑑定については石英と磁鉄鉱以外は不明としており、黒雲母としたものは輝石の誤りと思われます。また、塩酸によって発生した気体を水素としたが、これはCO2 の間違いです。
 以上のように、生徒が設定し解決した課題は、自らの力でほぼ満足すべき解決を行っていると分析されます。問題点としては、説得力のあるまとめ方、鉱物の分類の仕方、考察の検証などがあげられますが、今後の学習の時間で解決できるものと考えます。
 他方、感想をみると、生徒の多くは、活動が楽しかった、もののいろいろなことが分かったなどとしています。学習の様子を見ても、全ての生徒が終始積極的、意欲的に取り組む活動が見られたこでも確かめられました。また、さらに調べたいとする生徒、軽石の色や火山灰の硫黄臭の原因などに疑問をもっている生徒もいて、今後の学習の進め方について検討する必要があると考えられます。

(4) 発表の状況について
 結果: ここでは、スケッチの活用と時間の節約からプレゼンテーション用のレポートを作成、OHPシートを用いた発表としました(【図8】)。

 テーマ  氏名
テーマ設定の理由
 1 取り組みの経過
 2 調査内容と調査方法
 3 解決したこと(結果)
 4 感想
 5 参考文献

【図8】 探究活動の成果の研究発表.

 発表会後の生徒の感想をまとめると次のようです。
 詳しく調べている、良くまとめられているなど研究の成果・取り組み・まとめ等に関する記述は29名(複数回答)でした。図表を使って発表が分かりやすい、テーマを絞られていておもしろいなど発表方法等(14名)、地層・軽石・土・火山灰など発表を聞いて知識を得た、勉強になった、分かったなど知識に関すること(41名)、方法がおもしろい、工夫や発想がよいなど調査方法等に関すること(22名)、仮説の設定など研究方法に関すること(9名)、調査結果が色々あって不思議など研究結果に対する驚きや感動に関すること(22名)、まだ調べたいことがある、発表を聞いて調べたいことがあるなど探究活動の意欲に関すること(13名)でした。また、探究活動の時間が少なかった(5名)、どのグループも今まで以上に土について知ったと思う、今回の調査は勉強になった、身近な物を調べ分かって良かったなど探究活動全体に関すること(5名)、土の調査は難しい、石は種類が多く覚えるのが難しいが各1名でした。
 これから調べたいこと、勉強したいこと、興味をもったことに関する感想としては次のような結果が得られました。堆積岩・溶岩・断層・噴火・化石・鉱山など新たなテーマで調べてみたい(14名)、調べて分からなかったこと、結果のおかしいこと、まだやれなかったことなど取り組んでいるテーマを深めたい・追研究したい(9名)、地層の傾斜・地層の作り・白い石など研究発表を聞いて疑問に思った事について調べたい(9名)、火山灰・鉱物がどこからきたかなど供給源に関すること(5名)、ここは昔何だったのだろう・土地の歴史・いつできたなど地域の地史に関すること(5名)、岩盤や軽石はどうしてできたかなど成因に関すること(2名)でした。
 分析:生徒の作成したレポート及び発表を見ると、手軽に簡潔にまとめ、情報発信することができ成就感を得たようです。上記のようなレポート用紙を、印刷して準備しておくと限られた時間内でまとめる際に能率的であり、生徒の研究の焦点も絞りやすいと考えられます。
 また、探究活動を発表会まで一連の計画で実施することの効果については、感想文からも伺えます。つまり、発表会をとおして知識だけでなく、研究方法、発表方法、まとめ方、探究意欲などを育てることができることが分かります。研究の成果や知識・技術・科学的方法を共有できることは発表会の意義と考えられます。さらに、探究活動に研究発表を位置づけることは、科学的関心を高め、探究心を育てるうえで効果のあることを示しています。

(5) 探究活動の進め方についての考察
 実践結果の分析から、効果的な探究活動の進め方について以下に考察を行います。なお、下野(1997)は、野外学習指導法の体系化についての組織的な研究を行い、指導事例集を編集しています。野外の指導法、評価、学校内の学習との連携など参考になる点が多くあります。ここでは、事前調査、構想の立案、実施、実施後の教科の学習の発展に至る流れを考慮し、探究活動の進め方について試案としてまとめることにします。

ア 自ら問題を見いださせることについて
 スケッチをすることによって、課題を見いださせることは有効と考えられます。生徒の見いだした課題は、地質構造、物質、成因、層序、分類、鉱物、基盤岩、累重関係、供給源に関するものなどであり、事物現象を見据えた科学的な課題です。事前に観察実験で観察力の訓練を行うことにより、さらに多様な課題を見つけだす可能性があります。また、自然の魅力を取り上げる環境作りや、事前指導の検討、観察の観点の指導などの検討も重要と考えられます。
 課題を見いだす段階でのアドバイスとして、基本的には生徒のテーマを生かしてやることが大切です。その際の留意点としては、@活動範囲は生徒の行動範囲に止めること、A具体的なものを対象としており観察実験で解決できる見込みがあること、B抽象的な結論の予想されるものは修正してやることなどがあげられます。

イ 生徒が自ら解決方法を工夫することについて
 探究活動実施以前の教科での学習が、基本的知識や解決方法の技術になることは重要です。しかも、それらの知識や方法で課題解決が可能でした。しかし、生徒は一般に探究活動に慣れていないのが現状です。そこで、生徒の活動意欲を損なわないことを念頭において、調査活動を実施するうえで考慮したいと思われる点をあげておきます。
@準備したいこととして、一般的調査方法のマニュアルのプリント、記録の取り方・スケッチへの記入の仕方・柱状図の作り方・写真による記録などの参考例、貸し出しできる器具や設備の一覧表、計画の検討項目の簡単なプリント。これらを事前に配布し、必要に応じ採用させることがよいと思われます。
A調べ方、観察の仕方、助言の仕方などを工夫する必要があります。例えば、「どんな物がどのように重なっていて、どこの部分を採集したのか」、「忘れるから採集場所と番号を付けてきなさい」と指示します。そのことによって、系統的な採集、サンプルポイントの記入、サンプル番号の記入、サンプルの仕方、採集用具などの基礎的技能が身に付くものと思われます。  また、「どのように連続して、互いにどのように接しているかに注目して」と目的により観点を示す必要があります。
B観察器具の使い方とサンプル処理では、必要に応じて扱い方の指導が必要です。器具の扱い方は秦(1998)が述べているように、低いレベルから進めることが適切と考えられます。火山灰などの分析・実験での指導は、教科書や図書の紹介、薄片の作り方と材料など、生徒の質問の範囲内で最小限の指導に止める必要があります。

ウ 自ら問題解決する力を育成するために
 学習方法の工夫により、問題解決能力がさらに育成されることが期待できます。例えば、
@物の認識、変化及び特徴を捉えるために観察力の育成(照井・茂庭、1999)を意識した観察・実験を準備すること
A実験器具の基礎的な技能の定着と活用、顕微鏡で様々な種類の物の観察を行う機会を設けること
B生徒の探究心を刺激する適切なアドバイスや検証に結びつく助言などを与えること、発表会のもち方を探究活動がさらに意欲に繋がるように工夫すること
C地域素材の活用、積極的な地域学習の推進、教科の学習で問題解決的学習の展開を行うこと
D探究活動のレポートの考察や感想の中の疑問、意欲に応える授業を行っていくことなどです。

エ 野外における探究活動の進めかた
 野外学習を効果的に行うためには、教師の準備がこれまで以上に重要になると考えられます。例えば、
@活動の時期や場所は、地域の実態や植生、気象などを事前調査で判断し、決定しておく必要があります。生徒が繰り返し調べるためには、できるだけ近い場所に学習の場を準備することが必要です。
Aまた、地域の空間的広がりを視点を変えて視覚的に捉えさせ、科学的関心を高めるため、地質図を作製し、空中写真なども併せて展示することも一つの方法です。
Bその他の、検討事項として、@T.Tの活用、A事前準備、B目的意識をもった観察の指導の方法、Cきめ細かな計画の立案、Dワークシートの作製、E的確な事前指導の項目の検討、F発表会のもちかた、G野外での指導の観点、Hまとめ方、及び事後指導の具体的展開方法などがあります。
Cこの度の探究活動の実践の結果、教科書の内容を超えた知識の身につくことが明らかになりました。そこで探究活動実施後には、その実体験を生かして授業の構造を探究的に展開する工夫が必要となります。例えば、本実践の場合、河口の石との比較、火山噴火活動の推定、火成岩の成因とマグマの分化(花崗岩と安山岩の薄片作製と観察)、堆積岩の分類と粒径、地形景観の形成と地域の形成史、岩石の成因と分類、地殻変動、鉱物と火山灰の分析、堆積岩の形成と観察、火山噴火と供給源の推定などの授業の組立が考えられます。その際、各グループの成果が全員のものになるためには、探究活動の場を同じ露頭で実施し、共通の観察体験をもたせることが効果的と考えられます。
 先に、文部省(昭和61年)は、自ら学ぶ力を育成するための留意点として、次の点をあげています。導入(探究活動の学習の意義と心構え、研究の進め方等)、テーマの決定とグループ編成、研究計画の検討と立案、研究資料・文献等の収集・調査、研究に必要な観察・実験器具の準備、探究活動の具体的な展開と学習活動の推進、研究の整理とまとめ(研究報告書の作成等)、研究成果の発表(研究発表会と討議)。

5 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ
 この研究は、野外における探究活動が十分に行われていない現状を捉え、身近な自然に科学的関心を高める野外における探究活動の進め方について、実践的に確かめることによって、その手法を提案し、理科教育の改善に役立てようとするものでした。
 探究活動の実施にあたっては、地域の自然について調査を行い、それを地質図としてまとめ、地図上で学習展開の構想を立てることが重要である。さらに、野外活動を中心とした生徒の主体的な学習を通して、探究心が育つ効果的な探究活動の進め方について研究を行う必要があると考えました。
 2年次にわたる研究の成果として、@探究活動の進め方とその留意点について検討し、まとめることができたこと、A実践校を含む西根町一帯の火山灰について、層序と供給火山を推定し、七時雨火山を中心とした地質図としてまとめ、教師用の説明書を作成することができたことがあげられます。
 実践の結果、明らかになったことを以下にまとめます。

@ 事前に地域の調査を実施し、地質図、柱状図、露頭分布図を作製し、実践露頭の決定・安全性・適切な時期などのロジステックな限界を打開することが可能です。

A 自ら課題を見出させるため、観察の観点を示し、スケッチさせることが効果的です。

B 解決方法を考えることは、学習進度、既習学習事項、基礎基本とも関係します。器具の扱いについては必要に応じて技術指導を行い、段階的に観察を深める器具の使用を考慮することが大切です。このように留意すれば、学習の導入時に探究活動を実施しても十分可能です。

C 問題解決力を育てるために、観察力育成の学習の準備や、積極的に地域学習を進めることも有益と考えられます。

D 探究活動は、身近な地域をテーマとし、間近に観察できる事物現象で実施することが大切です。探究活動の一連の流れの中に発表会を位置づける必要があります。そのことで、身近な自然への知識と科学的関心をより高めることが可能になります。また、実施後には、授業の展開を探究的に行う工夫が必要となります。

(2) 今後の課題
 本県の広域な教師用地質説明書の作成、探究活動の実施手引き書の作成、露頭の不足な地域でのテーマの選定・実習場所への移動手段・時間の確保・統導など別の要素の検討、探究活動で生徒のもつ課題や疑問、興味関心などをその後の授業に結びつける授業の工夫などが課題です。

おわりに

 本研究にあたり、西根町立西根第一中学の教職員の方々から協力を頂きました。心から感謝の意を表します。


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