岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する研究

− 学習情報を共有するコンピュータ教材の開発をとおして −(第2報)


《  目  次  》

はじめに
1 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想
 (1) 「学習情報の共有」とその意義
 (2) 「学習情報を共有するコンピュータ教材」についての基本的な考え方
 (3) 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想図
2 基本構想に基づく教材開発及び事例調査と調査結果の分析と考察
  −主にインターネットを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」について−
 (1) 教材の概要
 (2) 教材のねらい
 (3) 教材の内容
 (4) 教材の活用状況
  ア 教材「親水活動支援システム」の活用状況
  イ 今年度新たに寄せられた学習情報
  ウ 共有された学習情報を活用した児童生徒の反応
  エ 教材に対する指導者の感想
3 基本構想に基づく教材開発及び実践結果の分析と考察
  −主に校内LANを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」について−
 (1) 教材の概要
 (2) 教材のねらい
 (3) 教材の内容
  ア 「ヒゲナガの川」について
  イ 「近くの川は?」について
  ウ 「交流しよう!」について
  エ 「発表会をしよう!」について
 (4) 授業実践
 (5) 実践結果の分析と考察
  ア コンピュータネットワークを積極的に利用する態度
  イ 生成した学習情報のとらえなおし及び生成した学習情報に対するより確かな理解
4 研究の成果と課題
 (1) 研究の成果
 (2) 研究の課題

【主な参考文献】

はじめに

 現代は、高度情報通信社会のいっそうの進展、特にもインターネットをはじめとする情報ネットワーク化の進展が著しい状況にあり、今後は急速に学校現場へのコンピュータネットワーク環境の整備が進むものと予想されます。このような状況において、コンピュータネットワーク環境の教育利用、特にも日常の学習指導への活用が期待されています。
 しかし、現在、コンピュータネットワーク環境の教育利用について様々な取り組みが行われてはいますが、実際の学習指導で児童生徒が学習によって得た情報の交流を行う実践的な研究は少ないのが現状です。これは、コンピュータネットワークを学習指導に用いることの意義が必ずしも明らかになっていないことや、ネットワーク環境を生かしたコンピュータ教材も少ないことが要因として考えられます。
 このような状況を改善するためには、学習指導において児童生徒が学習によって得た情報の交流を行う際にコンピュータネットワークを用いることの利点を明らかにし、ネットワーク環境を用いて学習情報を共有するコンピュータ教材を開発することが必要です。
 そこで本研究は、学習に必要な文字、画像、映像などの多種多様な情報を複合的に扱うことができ、ネットワーク環境を用いて児童生徒が学習によって得た情報を共有することができるコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方について明らかにし、コンピュータを用いた学習指導の改善に役立てようとするものです。  *なお、この報告は2年次研究の第2報です。研究の基本構想、開発教材の詳細については第1報「教育研究155 (P323〜P340)」を参照ください。

1 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想

(1) 「学習情報の共有」とその意義
 「学習情報の共有」とは、校内LANやインターネット等、コンピュータネットワークに接続された複数のコンピュータが、【図1】のように児童生徒の共通の学習情報を利用することです。
 コンピュータの児童生徒の学習情報を共有するという機能を活用すれば、児童生徒はコンピュータネットワークを利用して学習情報の交流を行うことができ、【表1】に示すような利点を生かした授業の展開が可能になります。

(2) 「学習情報を共有するコンピュータ教材」についての基本的な考え方
 コンピュータネットワークによる学習情報の共有形態には、大きく、学習情報がインターネット上で共有される場合と校内LAN上で共有される場合が考えられます。また、「学習情報を共有するコンピュータ教材」は、学習情報の生成や、共有ファイルの保存・呼び出しを支援するアプリケーションの他に、共有ディスク・共有フォルダの設定等コンピュータネットワークの環境設定も必要なことから、一つのシステムととらえています。
 なお、コンピュータネットワークを利用した情報の共有は、システム的にはすでに確立されている方法です。この研究のねらいは、このようなシステムを応用する具体的な教材を開発することです。

(3) 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想図
 学習指導におけるコンピュータネットワークの活用状況と児童生徒の実態、研究の手だて、研究が期待するコンピュータネットワークの活用の在り方と児童生徒の変容等を基本構想図【図2】に示します。

2 基本構想に基づく教材開発及び事例調査と調査結果の分析と考察
  −主にインターネットを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」−

(1) 教材の概要
 ・教材名 親水活動支援システム
 ・動作環境 Internet Explorer 、Netscape Navigator
 ・開発ソフト IBMホームページビルダー2000

(2) 教材のねらい
 この教材は、環境教育や水環境をテーマとする総合的な学習の時間等での取り組みが予想される「水生生物による水質調査」を支援するとともに、インターネットを利用して水質調査等に取り組む学校間の学習情報の交流を支援することがねらいです。

(3) 教材の内容
 この教材は、昨年度(第1年次)に試作を行い、研究協力校である花巻市立湯本中学校の先生方に試用していただき、その調査結果をもとに修正・改善したものです。インターネットを利用しますが、アプリケーション部分は【表2】のようにア〜オの5つのコンテンツで構成し、ソフト「イーハトーブの環境教育」として統合しています。

 次のページの【図3】は、「親水活動支援システム」の構造と三つの方法で提供可能なソフト「イーハトーブの環境教育」を図説したものです。
 教材「親水活動支援システム」は、当センターが学習情報の管理者となり、水質調査や総合的な学習の時間に取り組む各学校に、インターネットを通して環境学習の事例を提供するとともに、各学校から寄せられる新たな活動を学習情報として蓄積することにより、インターネット上に環境学習のデータベースを構築していきます。
 また、ソフト「イーハトーブの環境教育」は、インターネットとともに急速に普及しているHTMLとよばれる言語を用いて開発しています。その結果、ホームページを閲覧できるパソコンであればほとんどのパソコンで利用することが可能となり、図に示したように、この教材は、インターネットに加え、CD-ROMと高速通信回線のモデル事業である先進的教育用ネットワークとの三つの方法で提供を行っています。上の【表2】のア「環境学習の事例(ビデオ)」はMPEG形式の動画ファイルであり、これは【図3】に説明するCD-ROM版と先進的教育用ネットワークで利用可能なコンテンツです。

(4) 教材の活用状況

ア 教材「親水活動支援システム」の活用状況
 開発教材の活用状況について、昨年度の県教育研究発表会教育工学分科会参加者及び開発教材提供者を対象にアンケート調査を行ったところ75名の教諭から回答が寄せられました。その結果、【図4】に示すように全体の約6割の教諭が「活用した」または「今後活用したい」と回答していることがわかりました。また、その他の42.7%の内訳には、学年や教科の関係で活用場面がないことや利用環境が整っていないこと等の理由が多くみられました。
 【表3】は、開発教材を実際に活用したと答えた教諭(26名)に対して、さらに活用場面や活用内容等を具体的に尋ねてみた結果です。これをみると、教材が小学生から中学生まで校種や学年、地域を問わず広く利用されていることや、教材の活用場面では総合的な学習の時間が多いこと、さらに水生生物による水質調査法を学習するソフトや各校の事例を紹介するビデオがよく利用されていること等が分かります。

イ 今年度新たに寄せられた学習情報
 水環境にかかわる学習のデータベースの機能を備えた教材「イーハトーブの環境教育」に、今年度は、次に紹介する4校の学習情報(【表4】)が新たに加えられました。

ウ 共有化された学習情報を活用した児童生徒の反応
 【表4】に紹介した学校のように、データベースに学習情報を提供した学校が、自分達の活動も含めて共有化された学習情報を二次的に利用する場合は、単にインターネットに情報を発信したり、インターネットから情報を収集するのとは違った学習効果が期待できるはずです。
 【表5】は、その学習効果を調べるために、自らデータベースに学習情報を提供し、そのデータベースを利用し、自分達の活動と他の学校の活動の様子(共有化された学習情報)との比較を行った花巻市立湯本中学校のホタル委員会の生徒を対象とした意識調査の結果(感想の抽出)です。

 これを見ると、質問1に対するC1、C2、C3の記述からは、自分達の学校の活動を見直していること、C5の感想からは、自分達の学校の活動に誇りまで感じていることがわかります。
 また、質問2に対する記述からは、C5のように他の学校の活動から水質調査以外の情報を知ることができた生徒、あるいは、C6の「このような活動をしたい」、C8の「いろいろと見て学んでいきたい」という感想のようにこれからの活動に意欲を示した生徒や、C7のように他の学校との交流を希望する生徒等が現れたこともわかりました。
 さらに、質問3に対する記述からは、他の学校の調査結果を見ることにより、他の河川にも関心が広がりつつあることをうかがい知ることができます。
 以上のことから、ホタル委員会の生徒は、インターネットを利用して自分達の学校の活動や他の学校の活動の様子を見ることによって、自分達の活動を再評価したり、河川や水質に対する見方を広めたり、新たな活動意欲をもち始めていることがうかがえ、これらが、共有化された学習情報を活用した場合の学習効果と考えられます。

エ 教材に対する指導者の感想
 【表6】は、開発教材試用状況調査に記載された指導者の感想を整理したものです。

 教材「環境学習の事例(ビデオ)」と「ヒゲナガの川Ver.3」にはたくさんの感想が寄せられましたが、その内容は「児童生徒が興味を抱いた」「学習の意欲付けに役立った」「調査の目的や概要、方法を教えることができた」等に要約されるものであり、前の【表3】に示されたとおりこの二つの教材が特に利用されたことを裏付ける内容になりました。
 教材「環境調査の報告」についての感想は、ここに紹介したものも含めて数例のみでしたが、開発教材の活用状況調査の対象者がCD-ROMの提供者であったことと、まだ多くの学校は児童生徒が自由に電子メールを利用できるような環境が整っていないこと等が理由として考えられます。実際に「ネットワーク環境が整っていないので利用できない」という内容の感想も多く寄せられています。
 教材「よその学校の活動の様子」については、教材に触れた児童生徒の反応や変容について「他校の例をおどろきながら見ていた」「川のよごれについて調べたい子どもがたくさん出てきた」等のように記述している例が見られましたが、これは、湯本中学校ホタル委員会の生徒の反応とも一致する内容です。その他に「実践例を増やしてほしい」という要望も寄せられましたが、インターネットを利用して学習情報を共有するこの教材は、インターネット上に水環境の学習にかかわるデータベースを構築するものですから、各校が学習情報を提供し合うことで実践例の数は増えていくものと考えられます。
 教材「環境学習リンク集」については、「便利」「役立つ」といった内容の感想が寄せられましたが、教材「環境調査の報告」についての感想と同様にネットワーク環境が十分整っていないことから、その他の学校では、児童生徒が自由に利用するまでには至らなかったというのが現状のようです。
 以上ア〜エの調査結果を総括すると、開発教材「親水活動支援システム」は、水質調査や総合的な学習の時間に教材として活用されており、学校におけるコンピュータやコンピュータネットワークの活用を促す教材に成り得たものと思われます。
 また、寄せられた多くの実践事例から、教材「環境学習の事例(ビデオ)」と「ヒゲナガの川Ver.3」が水質調査の事前学習や意欲付けに役立っていること、さらに研究協力校である湯本中学校の事例からは、学習情報を共有する教材を活用することが生徒自身が活動を再評価したり、見方や考え方を広めたりすること等にも役立っていることが認められ、これらが本教材を活用した場合の学習効果と考えられます。
 したがって、今後も、ネットワーク環境を用いて学習情報を共有するコンピュータ教材を開発し授業に用いれば、児童生徒の学習情報に対する理解をより確かなものとすることができるとともに、学校におけるコンピュータネットワークを活用した学習情報の交流が推進されるものと思われます。

3 基本構想に基づく教材開発及び実践結果の分析と考察
  −主に校内LANを利用する「学習情報を共有するコンピュータ教材」−

(1) 教材の概要
 ・教材名 水生生物を見つけて川の水質を調べよう
 ・動作環境 Internet Explorer Windows Media Player Ms-Word98

(2) 教材のねらい
 この教材は、先に紹介した「イーハトーブの環境教育」を校内で利用する場合の支援システムで、主に校内LANを利用して、水生生物による水質調査のための事前学習、水質の予想、調査結果の交流等の活動を支援します。

(3) 教材の内容
 この教材は、校内LANを利用した「学習情報を共有するコンピュータ教材」の実例です。研究協力校で試用・検討していただいた結果や授業実践するコンピュータ室の環境等を考慮し、昨年度のものに修正・改善を加えました。初期メニューは、「ヒゲナガの川」「近くの川は?」「交流しよう!」「発表しよう!」からなっています。

ア 「ヒゲナガの川」について
 「ヒゲナガの川」は、学習に対する興味・関心が高まることを主なねらいとしています。ここでは、水生生物による水質調査の仕方を事前学習することができます。さらに、これからの学習への期待や「ヒゲナガの川」について学習した感想等を、共有ファイルに入力し保存することができます。また、こうして生成された学習情報を呼び出し、交流することができます。操作手順は、次の通りです。

(ア) 水生生物による水質調査の仕方を事前学習(ヒゲナガの川)
 【図6】の左フレーム画面から「水生生物の調べ方を学習しよう!」をクリックすると、画面@ように「ヒゲナガの川」が始まります。

(イ) 感想等の入力・保存(学習情報の生成)
 【図6】の左フレーム画面から「感想をまとめよう!」をクリックすると、画面Aが右フレームに出てきます。次に、自分の名前(図では○○○○)をクリックすると、画面Bのような自分専用の「Ms-Word98」ファイルが出てきます。そこで、スピーカーの画像を右クリックしWindows付属の「サウンド・レコーダー」を起動させ、音声を入力し、保存します。

(ウ) 友達の感想等の呼び出し(学習情報の交流)
 【図6】の左フレーム画面から「感想を交流しよう!」をクリックすると、画面Cが右フレームに出てきます。次に、友達を選び、その名前(図では○○○○)をクリックすると右フレームに画面Bが出てきます。そこで、スピーカーの画像をダブルクリックして、友達の情報を聞きます。

イ 「近くの川は?」について
 「近くの川は?」は、実際に調査する川について、自分なりに水質はどうなっているだろうかと考えてみること、友達の考えを知ること等を主なねらいとしています。ここでは、調査する川についての予想等を【図6】の操作と同じようにして入力・保存し交流することができます。その際、参考として、実際に児童が調査する川の写真や映像を見ることができるように【図7】のような画面を用意しています。児童は、この画面上から見たい内容をクリックすることで、川の写真や映像を画面に表示して見ることができます。さらに、【図8】に示す画面から友達へ自分の考えをメールとして送信することができるようにしています。メールを出すとき、この画面上からメールを出したい児童の名前をクリックし、あとは【図6】の操作と同じようにして入力・保存します。メールを見るときは、メールを見たい児童の名前をクリックすると見ることができます。

ウ 「交流しよう!」について
 「交流しよう!」では、他の班の情報を視聴し、自分達の調査の情報を振り返ることを主なねらいとしています。ここでは、調査時にまとめとして撮影してきたA班とB班の「川のようす」「調査のようす」「見つけた虫と水質の判定」を視聴できます。なお、視聴するデータは、水質調査時に、児童がデジタルビデオカメラを使ってminiDVテープに収録させたデータを、教師がMPEG1のデータに変換したものです。操作手順は、次のとおりです。
 例えば、【図9】の左フレーム画面からA班の「川のようす」をクリックすると、画面@のように右フレームにA班の「川のようす」についての映像が再生されます。以下、A班の「調査のようす」は画面Aのように、「見つけた虫と水質の判定」は画面Bのように再生されます。B班の映像についても同様の操作で視聴します。

エ 「発表会をしよう!」について
 「発表会をしよう!」では、発表練習や発表会をとおして、この学習活動に対する成就感が高まることを主なねらいとしています。ここでは、プレゼンテーションの資料として両班の撮影してきたデータを提示することができます。操作手順は、「交流しよう!」と同様です。

オ 校内LAN(ネットワーク)の概要
 【図10】は、授業実践校で構成したネットワークの概要です。教材は「05」と名付けたコンピュータのDドライブに共有フォルダ「SUISEI」を作成し、そこに入れてあります。各コンピュータのデスクトップの画面には「05」のDドライブにある教材にリンクするショーカットキーを作成し児童が起動しやすいようにしてあります。

(4) 授業実践
 基本構想をもとに、この実践での期待する児童の変容を【表7】のようにとらえました。

 検証計画は、【表8】のとおりです。

 授業実践は、東和町立成島小学校のご協力をいただき、6単位時間(270分)で行いました。
  第1次(90分) 「水生生物による水質調査法の学習」(7月17日2・3校時)
  第2次(90分) 「水質調査(野外学習)」(7月18日2・3校時)
  第3次(60分) 「調査結果の交流」(7月19日2校時)
  第4次(30分) 「発表会」(7月19日3校時)
 なお、実践では、小学校第4学年、しかも校内LANは未経験の児童を対象にしているため、「ネットワーク」という言葉で統一しました。また、「ネットワークについての簡単な知識」として「 ネットワークとは、コンピュータとコンピュータをつないだもので、ファイルをみんなでつかったり、メールができたりする。」とおさえました。

(5) 実践結果の分析と考察

ア コンピュータネットワークを積極的に利用する態度

(ア) ネットワークについての簡単な知識
 ネットワークについての簡単な知識を習得できたかどうかについてまとめたものが【図11】と【図12】です。また、児童個々の反応が【表9】と【表10】です。

 事前は、ネットワーク未経験のため、児童はネットワークとはどんなことか、また、どんな使い方があるか理解していません。授業では、第1次「ヒゲナガの川」を使う学習の前に、ネットワークについてどんなことか、どんな使い方があるか説明しました。事後は、7名の児童がどんなことか理解したと答え、5名の児童がどんな使い方があるか理解したと答えています。
 これらのことから、児童は体験したことがなかったネットワークについて、どんなことでどんな使い方があるか簡単な知識をもつことができたと考えられます。

(イ) ネットワークを利用したいという意欲
 ネットワークを利用したいという意欲についてまとめたものが【図13】です。また、児童個々の反応が【表11】です。
 事前は、「++」が6名「+」が2名です。ネットワーク未経験ですが、ネッ トワークを利用してみたいという意欲をかなりもっていたことがわかります。児童は新しく導入されたコンピュータに関心が高く、ネットワークはコンピュータと関連しているととらえていたのではないかと思われます。事後は、「++」が8名です。C1とC3が「++」に変わり、全員がネットワークをとても利用してみたいという意欲をもっていることがわかります。とても利用してみたいという理由として、C1は「一度やってみたから」、C3は「やったことがなかったから」と答えており、ネットワークを利用した体験がもとになって、とても利用してみたいという意欲につながっていることがうかがえます。
 これらのことから、興味本位で利用してみたいという意欲からネットワークについて経験し簡単な知識を身に付けたうえで、ネットワークをもっと利用してみたいという意欲に変わってきたと考えられます。

(ウ) ネットワークのしくみについての意識
 ネットワークのしくみについての意識をまとめたものが【図14】です。また、児童個々の反応が【表12】 です。事前は「−」が6名「−−」が2名です。事後は「+」が2名「−」が5名「−−」 が1名です。ネットワーク未経験時からネットワークはむずかしそうだなという意識が強いことがわかります。また、経験後、C1、C6については、ネットワークはむずかしいという意識が薄まってきているが、残りの児童は回答に変化はなく、むずかしいという意識はまだ強いことがわかります。むずかしいと思う理由として、C8は「はじめてだから」と答えています。ネットワークを利用したいという意欲を生かし、個々の学習情報の生成や交流の時間をより確保できるようにし、合わせて、コンピュータのつながりをより意識させることができるような画面から操作ができるようにしていれば、さらにむずかしいという意識が薄まっていったのではないかと思われます。
 これらのことから、むずかしいという意識は薄まっているものの、指導計画を見直したり、教材の改善を行う必要があると考えられます。

(エ) ネットワークのよさについての感想
 ネットワークのよさについての感想の一覧が【表13】です。

 この記述を見ると、ネットワークを利用するよさを明確に意識できている児童はいません。しかし、楽しく興味をもって取り組めることを見出したりメールの意味を理解したうえでその有効性に気付き始めたりしていることがわかります。C5はネットワークについて「ぜんぶむずかしかった」と記述していますが、【表11】のようにネットワークを利用したいという意欲が強く、その理由として「わかるからです」と答えています。
 これらのことから、児童は、ネットワークを利用するよさを明確には認識していないものの、それに気付きはじめていることがわかります。
 以上アの(ア)(イ)(ウ)(エ)の分析を総括すると、ネットワークについてどんなことでどんな使い方があるかの簡単な知識をもったこと、ネットワークを利用したいという意欲が育成されてきたこと、ネットワークのしくみやよさを気付きはじめていることがうかがわれ、ネットワークを積極的に利用しようとする態度が育成されてきたと考えられます。

イ 生成した学習情報のとらえなおし及び生成した学習情報に対するより確かな理解

(ア) 相違点や疑問点の内容
 第3次、A班、B班の学習情報の主な内容が【表14】、視聴後に話し合った主な内容が【表15】です。

 お互いの学習情報を班毎に検討後、A班の児童は、水温がA班は14℃、B班は17℃と異なることに気付き、「水温はなぜちがったのだろう?」と疑問点を出すことができました。B班の児童は、A班は「きたない水」の指標生物であるヒルを見つけていないのにB班は見つけたことに気付き、「ヒルは、A班の調査地点にいないのはなぜだろう?」という疑問を出すことができました。話し合いでは、「水温はなぜちがったのだろう?」については明確な結論は見いだすことはできませんでしたが、その理由を自分なりに考えることができました。また、専門家の話として教師の解説を興味深く聞き入っていました。
 これらのことから児童は学習情報をとらえなおすことができたと考えられます。

(イ) 2班の調査結果をもとに調査した地域の水質の判定の内容
 児童が、調査した地域の水質を判定した内容の一覧が【表16】です。

 児童は、水温の差やヒルの登場でとまどっていましたが、A班、B班とも調査地点での水質階級は「きれいな水」であることと、ヒルの存在については水生生物の専門家の話として教師が話した解説の内容をもとに、どの児童も調査した地域の水質を総合的に「きれいな水」と判定しました。
 これらのことから、児童は学習情報に対する理解を、自分なりにより確かなものにできたと考えられます。

(ウ) 新たな疑問や課題の内容
 自分なりの新たな疑問や課題の一覧が【表17】です。

 C1は石の色と虫のすむ関係を、C2は事前学習時きれいな水にいることを学習したサワガニの存在を、C3は次回の調査の天候を、C4は交流時にでてきたヒルを、C5は水生昆虫の食べ物を、C6は身近な川や他の地域ではどうだろうという疑問を、C7はきれいな理由を、C8は晴れた日と雨の日の川の水と虫をあげています。これらは、事前学習時、水質調査時、交流時にそれぞれもった自分なりの思いを発展させたものと思われます。
 以上イの(ア)(イ)(ウ)の分析を総括すると、児童は、相違点に気付き疑問点を発見して話し合いができたことから、生成した学習情報をとらえなおすことができたと考えるとともに、調査した地域の水質を総合的に「きれいな水」と判定したことと自分なりの新たな疑問や課題をもつことができたことから、生成した学習情報に対する理解をより確かなものにできたと考えられます。

4 研究の成果と課題
 この研究は、学習に必要な文字、画像、映像などの多種多様な情報を複合的に扱うことができ、ネットワーク環境を用いて児童生徒が学習によって得た情報を共有することができるコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方について明らかにしようとするものです。
 そのために、昨年度は、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用に関する基本構想を立案し、基本構想に基づいて学習情報を共有するコンピュータ教材の開発を行い、研究協力校における調査をとおして、開発した教材の検討を行いました。そして、今年度は、開発教材を活用する授業の指導試案を作成し、指導試案に基づく授業実践、事例研究に取り組み、その結果の分析と考察を行うことにより、学習指導におけるコンピュータネットワークの活用の在り方について明らかにすることができました。この研究の成果と課題は次のとおりです。

(1) 研究の成果
 児童生徒が学習情報を交流する際にコンピュータネットワークを利用することの利点や校内LANやインターネット等を活用した学習情報の共有形態を具体的に明らかにするとともに、「学習情報を共有するコンピュータ教材」の事例として総合的な学習や環境教育の支援を想定した主にインターネットを利用する教材「親水活動支援システム」と、主に校内LANを利用する教材「水生生物を見つけて川の水質を調べよう」とを開発することができました。
 開発教材「親水活動支援システム」は、水質調査や総合的な学習の時間を支援する教材として活用されており、学校におけるコンピュータやコンピュータネットワークの活用の在り方を示す具体的な事例と成り得たものと思われます。また、多くの実践事例から、教材「環境学習の事例(ビデオ)」と「ヒゲナガの川Ver.3」が水質調査の事前学習や意欲付けに役立っていること、さらに研究協力校の事例からは、学習情報を共有する教材を活用することが生徒自身が活動を再評価したり、見方を広めたりすること等にも役立っていることが認められ、これらがこの教材を活用した場合の学習効果と考えられます。
 校内LANを利用する教材「水生生物を見つけて川の水質を調べよう」は、校内LANの活用の推進と水環境にかかわる児童の学習活動を支援する教材として活用することにより、校内LANの活用の在り方を示す具体的な事例と成り得たものと思われます。また、活用することにより、ネットワークを積極的に利用しようとする児童の育成に役立つと考えられます。さらに、児童は、生成した学習情報をとらえなおすことができ、生成した学習情報に対する理解をより確かなものにできると考えられます。

(2) 研究の課題
 開発した教材の改善、ホームページや電子メールの管理、校内LANの環境設定等も研究の対象として取り組んでいく必要があります。また、ネットワーク環境の整備が必ずしも十分とはいえず、インターネット上で共有された学習情報を活用した場合の児童生徒の変容を知るためにはさらに詳細な調査が必要です。


【主な参考文献】

環境庁水質保全局、「水生生物による水質調査法」、1998年
鈴木利典分担執筆、「中学校理科教育実践講座」、ニチブン、1995年、(12-3-5)
川合禎次編、「日本産水生昆虫検索図説」、東海大学出版会、1985年
工藤雅俊、「WINDOWS 95 ネットワーク編(改訂版)」、東京書籍、1997年
中森工慈・高井昌彰共著、「WWWオーサリング技法」、森北出版 、1996年



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