岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


基礎・基本の習得を図る複式指導の進め方に関する研究

− 複式指導実践事例集の作成をとおして −


《  目  次  》

はじめに
1 研究の方向性
2 研究の内容と方法
 (1) 研究の内容
 (2) 研究の方法
 (3) 資料収集の対象
3 研究結果の分析・考察
 (1) 資料の収集状況
 (2) 複式指導実践事例集の概要
 (3) 複式指導実践事例集の作成・分析
  ア 実践事例集の改善に関する調査についての分析・考察
  イ 実践事例集改善の視点
  ウ 実践事例集改善の例
  エ 実践事例集の内容例
4 研究のまとめと今後の課題
 (1) 研究のまとめ
 (2) 今後の課題
おわりに

【主な参考文献】

はじめに

 今日の学校教育においては、子どもたちが、自主的、主体的に生きていくために必要な資質を養うことが大切です。そのため、自ら考え、自ら学ぶ教育への質的転換を図ることが求められています。特にも自学自習の学習形態が必然的に生じる複式指導においては、その特性を生かし、自ら学ぶ目標を定め、どのように学ぶかという主体的な学習の仕方を身に付けさせるなかで、基礎・基本の習得を図ることができるような教育活動を展開していくことが必要であると考えます。
 しかし、県内の複式指導の現状をみますと、異年齢構成による少人数という複式学級の特性を生かした指導や直接指導・間接指導の効果的な割り振りをした指導に基づいて、子どもたちを主体的に学習に取り組ませ、基礎・基本の習得を図るまでには至っていない状況が見受けられます。このことは、担当する教師が複式指導に関する基本的な知識や経験が十分であるとは言い難いことや複式指導資料が少ないこと等によるものと思われます。
 このような状況を改善していくためには、複式指導を進めるうえでの基本的な考え方に基づき、基礎・基本の習得を図ることを目的とした複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる教科指導等の進め方について、複式学級担任が理解を深めていくことができるような複式指導実践事例集を作成していくことが必要であると考えます。
 そこで、本研究は、県内小学校複式学級における指導実践の記録を収集・整理し、基礎・基本の習得を図るという観点から、複式指導実践についての事例集を作成し、複式指導の充実に役立てようとするものです。

1 研究の方向性
 複式指導を進めるうえでの基本的な考え方を、平成11年度に作成した「複式指導手引書」において示しました。「複式指導手引書」で示した基本的な考え方は、次の三つの視点から示したものです。

 複式学級を有する学校、学級の特性にかかわることについて
 複式学級経営について
 複式学習指導について

 この基本的な考え方に基づき、複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる指導等の観点から、県内小学校複式学級における指導実践の記録をもとに複式指導実践事例集を作成すれば、複式学級担任の指導法への理解が深まり、複式学級における基礎・基本の習得を図るための指導の進め方が明らかになるのではないかと考えました。

2 研究の内容と方法

(1) 研究の内容

ア 県内の複式学級を有する小学校からの学級経営、学習指導にかかわる資料の収集と記録
 複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる指導等の観点から、県内小学校複式学級における指導実践の記録を収集、整理・記録します。

イ 複式指導手引書に基づく複式指導実践事例集(案)の作成と検討
 平成11年度に作成した複式指導手引書に示した基本的な考え方に基づき、複式指導実践事例集(案)を作成し、その実践事例集(案)にかかわる調査を、平成12年度複式指導法改善研修講座の研修者を対象に実施し、実践事例集改善のための資料を得ます。

ウ 複式指導実践事例集の作成
 調査により得た資料の分析・考察をもとに、実践事例集(案)を改善し、実践事例集を作成します。

エ 基礎・基本の習得を図る複式指導の進め方に関する研究のまとめ
 複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる指導等の観点から作成した複式指導実践事例集により、基礎・基本の習得を図る複式指導の進め方に関する研究のまとめを行います。

(2) 研究の方法
ア 記録法

(ア)  「集合学習」「交流学習」の指導実践の資料を収集し、整理・記録をして、実践事例集(案)の作成に生かします。
(イ)  複式学習指導にかかわる資料を収集し、整理・記録をして、実践事例集(案)の作成に生かします。

イ 質問紙法
 実践事例集(案)に関して、複式学級担任を対象とした調査を行い、実践事例集の作成に役立てます。

(3) 資料収集の対象
ア 第49回 岩手県へき地・小規模学校教育研究大会発表校14校
イ 資料提出協力依頼校
  県内(複式を有する)小学校

3 研究結果の分析・考察

(1) 資料の収集状況

ア 集合学習の資料
 集合学習の資料の収集状況は【表1】、次頁【表2】のとおりです。

イ 交流学習の資料
 交流学習の資料の収集状況は【表3】、【表4】のとおりです。

ウ 複式学習指導の資料
 複式学習指導の資料の収集状況は【表5】、【表6】のとおりです。

(2) 複式指導実践事例集の概要

ア 複式指導実践事例集作成の視点

(ア) 複式学級経営について
 「複式指導手引書」において、複式学級の固定的人間関係を活性化させる学級経営として、「学校内で行うこと」「学校外で行うこと」の二つの考えを【図1】のように示しました。
 本実践事例集では、少人数化が進むと予想される複式学級を有する小規模校において、今後必要性が増すであろうと考えられる『学校を出て行うこと』で示した「集合学習」「交流学習」の指導実践の記録を収集し、特別活動、教科ごとに整理するとともに、指導実践の特徴を示しながら、実践事例集Tとして作成することとします。

イ 複式学習指導について
 「複式指導手引書」において、【図2】のように、学習指導の形態を示しました。
 しかし、本県における実態として、複式学級を担当する教師が複式指導に関する基本的な知識や経験が十分であるとは言い難いことや、複式指導資料が少ないことがあげられます。
 そこで、本実践事例集では、「学年別指導」「同単元指導」の指導実践の記録を収集し、教科、学年ごとに整理するとともに、指導実践の特徴を示しながら、実践事例集Uとして作成することとします。

(3) 複式指導実践事例集の作成・分析

ア 実践事例集の改善に関する調査についての分析・考察
 本実践事例集の作成にあたり、実践事例集(案)を作成し、平成12年度複式指導法改善研修講座の研修者7名に実践事例集の改善に関する調査を行いました。

(ア) 目次に関する改善
 【表7】は、目次に関する設問への記述です。
 設問1への「まず、内容(テーマ)が先にあればよい」「内容別の目次もあればいい」「交流学習、集合学習、教科名などの大きな見出しがあればいい」の記述から、実践事例集を活用するにあたり、内容がすぐに分かるような目次であることを望んでいることが分かります。
 このことから、目次から内容がすぐに分かるようにする必要があると考えます。

(イ) 実践事例集に必要な内容に関する改善
 次頁【表8】は、実践例を活用するにあたり、必要な内容に関する記述です。
 設問2への「集合学習も同じような形式で」という記述から、集合学習の留意事項を望んでいることが分かります。また、「学習形態についての指導の有効性の説明があればよい」という記述から、学習形態の説明を必要としていることが分かります。
 このことから、集合学習の留意点を加えること、学習形態の説明を加えることが必要であると考えます。

(ウ) 実践例の表記に関する改善
 【表9】は、表記に関する記述です。
 設問3への「見出しは、活字が本文より大きい方が見やすい」「字を大きくしたり、網掛けにしたり…」「もう少し大きくしたほうが目立つ」などの記述から、見出しを強調した方が使いやすいと感じていることが分かります。
 このことから、見出しを見やすくする工夫が必要であると考えます。

(エ) 実践事例集の全般に関する改善
 【表10】は、実践事例集の全般に関する記述です。
 設問4への「全体のレイアウトを考えてもよい」「途中に枠があったり、表が合ったり、行間があったり……」などの記述から、全体をとおして、見づらい部分があると感じていることが分かります。
 このことから、全体のレイアウトを考え、視覚的にも受け入れられやすくしていく必要があると考えます。

イ 実践事例集改善の視点
 実践事例集の改善に関する調査の結果をもとに、実践事例集改善の視点を、次のように考えました。

 (1) 見出しの工夫をすること
 (2) 目次から内容がすぐに分かるようにすること
 (3) 学習指導の形態についての一項を設けること

ウ 実践事例集改善の例
 実践事例集改善の視点にそって改善した箇所を以下に例示します。

@ 見出しの工夫をすることの例

A 目次から内容がすぐに分かるようにすることの例

B 学習指導の形態についての一項を設けることの例

エ 実践事例集の内容例
 実践事例集の内容を以下に何点か例示します。

(ア) 実践事例集Tの内容

@ 目次

A 集合学習の実践例

B 交流学習の実践例

(イ) 実践事例集Uの内容

@ 目次

A 《国語科》学年別指導の実践例

B 《道徳》同単元同内容指導(同資料)の実践例

4 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ

 県内の複式学級を有する小学校からの学級経営、学習指導にかかわる資料の収集と記録
 複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる指導等の観点から、県内小学校複式学級における集合学習15事例、交流学習9事例、学年別指導23事例、同単元指導12事例の実践記録を、関係各機関のご協力をいただきながら収集し、整理・記録することができました。
 複式指導手引書に基づく複式指導実践事例集(案)の作成と検討
 平成11年度に作成した複式指導手引書に示した基本的な考え方に基づき、複式指導実践事例集(案)を作成し、その改善にかかわる調査を平成12年度複式指導法改善研修講座の研修者を対象に実施し、その調査結果の分析・考察をとおして、実践事例集改善の方向性を検討できました。
 複式指導実践事例集の作成
 実践事例集改善にかかわる調査結果の検討をもとに作成した改善の視点に基づき、実践事例集を作成することができました。
 基礎・基本の習得を図る複式指導の進め方に関する研究のまとめ
 複式学級を活性化させる学級経営の進め方や子どもたちを主体的に学習に取り組ませる指導等の観点から作成した複式指導実践事例集を用いることにより、複式学級担任の指導法への理解が深まり、基礎・基本の習得を図る複式指導の進め方が明らかになるであろうという見通しをもつことができました。

(2) 今後の課題
 本研究において、関係各機関のご協力により、59の実践記録を収集することができました。今後も資料の収集に努め、内容の充実を図っていきたいと思います。

おわりに

 この研究を進めるにあたって、資料収集にご協力をいただきました関係各機関、各小学校の先生方及び調査に協力いただきました先生方に、心から感謝を申し上げ、結びとさせていただきます。


【主な参考文献】
・全国へき地教育連盟「21世紀を拓く教育シリーズ T 学習指導法の工夫・改善 〜へき地・小規模・複式学級を有する学校の実践的事例〜」 1998
・全国へき地教育連盟「21世紀を拓く教育シリーズ U 効率的な学習指導と学校・学級経営 〜へき地・小規模・複式学級を有する学校の実践的事例〜」 1999
・岩手県立総合教育センター 複式指導手引書T・U 2000



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