岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方に関する研究

− 発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫をとおして −(第2報)


《  目  次  》

はじめに
1 発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を取り入れた指導実践計画の立案
 (1) 本研究でめざす豊かな人間性
 (2) 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力
 (3) 発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を取り入れた指導の手だて
2 指導実践計画に基づく指導実践及び実践結果の分析・考察
 (1) 幼稚園における指導実践と実践結果の分析・考察
 (2) 小学校における指導実践と実践結果の分析・考察
 (3) 中学校における指導実践と実践結果の分析・考察
3 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方に関する研究のまとめ
4 研究のまとめ
 (1) 研究の成果
 (2) 今後の課題
おわりに

【主な参考文献】

はじめに

 子どもたちを取り巻く状況がめまぐるしく変化している今日、学校教育においては、子どもたちに豊かな人間性をはぐくむことが重要な課題となっています。ところが、現状をみると、不登校やいじめなど、子どもたちに関する問題は年々増加し、豊かな心が失われつつあるように思われます。このことは激変する環境のなかで、子どもたちが体験をし、感動することが減少していることや、学校、家庭、地域社会が連携を図り、子どもたちの発達段階をふまえた指導が十分でなかったことによるものと考えられます。
 そこで、この研究は、幼稚園、小・中学校の発達段階に即した体験活動を生かした指導を工夫することによって、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方を明らかにし、幼稚園、小・中学校の道徳教育の充実に役立てようとするものです。
 昨年度は、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方についての基本的な考え方を検討し、基本構想の立案及び推進試案の作成を行いました。
 今年度は、昨年度作成した推進試案をもとに、実践化に向けての指導実践計画案を作成し、指導実践をとおして、手だての効果について確かめました。

1 発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を取り入れた指導実践計画の立案
 本研究の基本的な考え方とそれに基づく基本構想及び推進試案については、第1年次の研究において明らかにしています。この第1年次の内容は、今年度の研究内容である「発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を取り入れた指導実践計画の立案」の基盤となるものであり、以下にその概略を示します。

(1) 本研究でめざす豊かな人間性

(2) 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして幼児児童生徒に身に付けさせたい三つの力

(3) 発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を取り入れた指導の手だて

ア 単元的な構想に基づく道徳教育の指導計画の工夫
 幼児児童生徒の豊かな人間性をはぐくむ道徳教育を行うために、次に示すような流れで単元的な構想に基づく道徳教育の指導計画を作成します。

(ア)幼稚園

(イ) 小・中学校

イ 体験活動の場における道徳的価値の大切さを実感させる教師の援助・指導の工夫
 幼児児童生徒の体験活動に対する意識を深め、道徳的価値の大切さを実感できるよう【表1】に示した援助・指導を基本としながら、体験活動の場における教師の援助・指導を行うこととします。

ウ 体験活動を生かすモラルゲームと道徳の時間の工夫

(ア)幼稚園における体験活動を生かすモラルゲームの工夫
 幼稚園における道徳教育は、道徳性の芽生えを培うことにより、集団生活にとけ込み、他を思いやる心や善悪のけじめを得させることに主眼があります。そのためには、幼児一人一人が活動を行うなかで、自分たちの身の回りにはいろいろなルールがあることを理解させなければなりません。そこで、ゲーム的な要素を取り入れ、楽しく学ばせながら道徳的習慣の形成を促し、一人一人の道徳性の基礎を養おうとするものがモラルゲームです。モラルゲームの内容としては、「あいさつや言葉遣いなど礼儀作法に関すること」、「交通安全や室内での遊びなど生命尊重、健康・安全に関すること」、「身の回りの整理・整頓など規則正しく、きまりよい生活に関すること」などが考えられます。

(イ) 小・中学校における体験活動を生かす道徳の時間の工夫
 道徳の時間における体験活動の生かし方の手だてとして、小学校では【表2】、中学校では次頁 【表3】のような手だてを講じながら指導を行うこととします。

【例1】「追体験をとおして共感を深める」工夫
  ―主人公の心の弱さ、迷い、悩みなどを体験をとおして考えられるような発問の工夫―

 知的葛藤場面の話し合いでは、主人公の心の弱さ、迷い、悩みなどを子どもの体験をとおして浮き彫りにすることが重要です。そのためには、次のような発問を行い、主人公との心理的距離感を縮めながら「共感する力」を養っていきたいと考えます。

【例2】「活動を取り入れる」工夫
  ―役割演技の場での役割交換の活用―

 役割演技は、子どもの創造的な表現活動です。即興的に劇を演ずることによって、ねらいとする道徳的価値についての共感的な理解を深めたり、様々な立場や心情、心の変化などを理解したりしながら人間関係の在り方を見直すうえで有効な手法であると考えます。本研究では、役割演技のなかで、相手の立場に立って考えることができる役割交換を行いながら「受容する力」を養っていきたいと考 えます。

【例1】「多様な見方、感じ方、考え方に気付く」工夫
  ―名前カードの操作活動とグループでの話し合いの工夫―

 道徳の時間は、主人公の心情や行為に対する見方、感じ方、考え方を多面的に引き出し、話し合うことで自分の考えを深めたり、相手の考えを受容したりしながら、主人公が抱えている問題を自分自身の問題としてとらえられるよう展開を工夫していくことが重要です。そこで、次のような順序をふまえた話し合いを行いながら、「受容する力」を養っていきたいと考えます。

【例2】「主人公の生き方を追求する」工夫
  ―ねらいとする視点に沿って主人公の心情や行為の意味を振り返る発問の工夫―

 心の弱さ、迷い、悩みを克服しようと努力する主人公の生き方を追求する話し合いでは、ねらいとする視点に沿って主人公の心情や行為を振り返る発問を行うことが必要です。この話し合いをとおして、主人公の行為や心情の意味についてねらいとする1〜4の視点からとらえ直し、主人公の価値あ る姿を浮き彫りにしながら、「共感する力」を養っていきたいと考えます。

2 指導実践計画に基づく指導実践及び実践結果の分析・考察

(1) 幼稚園における指導実践と実践結果の分析・考察
 幼稚園における指導実践を次頁【図1】幼稚園における「他人を思いやる心や社会貢献の精神」をはぐくむ保育実践計画案をもとにして行いました。また、担任教師の指導及び幼児の発言内容や行動の状況については、具体的な指導場面における幼児の具体像と照らし合わせながら指導の効果について分析し、考察を加えました。ここでは、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力のうち、特に顕著な変容がみられたモラルゲームと体験活動における「実践を志向する力」の育成について紹介します。

ア 担任教師の指導及び幼児の発言内容や行動の状況からとらえた指導の効果

(ア) モラルゲームにおける「実践を志向する力」の育成

 5頁の実践記録にみられるように、担任教師が、よりよいあいさつの仕方を指導していたところ、幼児から日常生活をとおして学んだと思われるあいさつの仕方についてのさまざまな考えが出されました。特に、C1とC2の幼児は、積極的に周囲へ働きかけながら、日頃、大人から言われたり、学んだりしていることを具体的な形として表現しています。二人のあいさつの仕方に若干の違いはあるものの、どちらも望ましいあいさつの仕方を理解し、日常生活において習慣として具体的に生かしていることがわかります。また、この二人のやりとりをみていた他の幼児も二人組であいさつを行うなかで自分なりにどのようなやり方がよいかつぶやいたり、試みたりしており、このことはまさにあいさつに対する意欲の高まりととらえることができます。

(イ) 体験活動における「実践を志向する力」の育成

 感想を発表した幼児は、活動をとおして感じたことを素直に、生き生きとした表情で発表することができました。また他の幼児も発表に耳を傾けながら、作品づくりの成果を共有することができたと思われます。このように担任教師が活動の成果を振り返らせながら、幼児の自己発揮の喜びを認めたり、広げたりすることは、次時の活動への意欲を高めていくうえで効果的であると思われます。
 以上のことから、体験活動における幼児の自己発揮の喜びを認めたり、広げたりする振り返りとモラルゲームは、積極的に周囲に働きかけながら進んで実践しようとする意欲を高めるうえで有効な方策であることを確かめることができました。

イ 推進試案に基づく指導実践の指導の効果
 モラルゲーム及び体験活動の指導実践終了後の「担任教師の指導実践についての感想」により指導の効果について分析し、考察を加えました。

(ア) モラルゲームについて

(イ) 体験活動について

 「担任教師の指導実践についての感想」から、モラルゲームや体験活動における教師の援助をとおして、幼児があいさつや祖父母との交流を意欲的に行ったことがわかります。このことから、本研究で行った体験活動の生かし方としての手だては、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力、つまり共感する力、受容する力、実践を志向する力を培ううえで役立つということが明らかになりました。モラルゲームについては、次のような点について今後さらに検討を加えていく必要があると思われます。

(2) 小学校における指導実践と実践結果の分析・考察
 小学校における指導実践を次頁【図2】小学校における「他人を思いやる心や社会貢献の精神」をはぐくむ道徳教育実践計画案をもとにして行いました。担任教師の指導及び児童の発言内容や行動の状況については、具体的な指導場面における児童の具体像と照らし合わせながら、指導の効果について分析し、考察を加えました。ここでは、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力のうち、特に顕著な変容がみられた体験活動における「共感する力」、道徳の時間における「受容する力」の育成について紹介します。

ア 担任教師の指導及び児童の発言内容や行動の状況からとらえた指導の効果

(ア) 体験活動における「共感する力」の育成≪「東和そうをほうもんしよう」の実践から≫
 2年生の児童は、全員祖父母と暮らしていることもあり、普段から高齢者の方々との接し方については生活をとおして理解し身に付けてきています。しかし、うまく交流できないと思われる児童につ いては、担任教師の個に即した指導が必要となります。当日の活動のなかに児童一人一人が、自分が作ったプレゼントの説明をしたあとで高齢者の方々にプレゼントを渡す場面がありました。特に、自分が作ったプレゼントの説明がうまくできなかったり、積極的に握手ができなかったりする子どもについては、担任教師が説明を付け加えたり、握手がうまくできるよう、子どもの手をおじいさんたちの手に重ねたりするような指導が効果的に働いていたと思われます。このような担任教師のきめ細かい指導により、児童と高齢者の方々との心の交流が一層図られ、児童の体験活動に対 する共感性をより深められたととらえます。このことから、体験活動における担任教師の個に即した 指導は、ねらいとする道徳的価値への共感を深めるうえで有効であることが確かめられました。

(イ) 道徳の時間における「受容する力」の育成≪資料名「こころの花」の実践≫

 上記のような役割交換を取り入れた役割演技の実践を合計3回行いました。初め児童は、どのように表現していいかわからず、戸惑い気味でしたが、担任教師と児童による示範をみたり、担任教師の作ったお面を付けたりすることで演技に集中していく様子をうかがうことができました。特に、C2とC3の児童は、最初あまり演技をすることに意欲的ではありませんでしたが、周りの児童の演技に触発され、次第にまきさんとおばあさんの役になりきって表現することができました。演技をする児童の様子や演技後の発表からは、登場人物の立場や心情を相手とのかかわりをとおして考え、登場人物への共感をさらに深めたり、新たな考えを創造したりする力が養われてきたことをとらえることができました。このことから、登場人物のそれぞれの立場や心情を考える役割交換を取り入れた役割演技は、相手の立場や心情、心の変化などを理解するうえで有効であることを確かめることができました。しかし、この手だてをとおして相手との関係における自分の在り方を見直させるには、さらに「相手の演技から感じたこと」を振り返らせるなどの手だてが必要となると思われます。

イ 推進試案にもとづく指導実践の指導の効果
 体験活動及び道徳の時間の指導実践終了後の「担任教師の指導実践についての感想」により分析 し、考察を加えました。

(ア) 共感する力の育成について

(イ) 受容する力の育成について

(ウ) 実践を志向する力の育成について

 担任教師による「指導実践後の感想」から、体験活動や道徳の時間における手だてをとおして児童は、共感する力、受容する力、実践を志向する力を着実に身に付けてきていることがわかります。このことは、体験活動における教師の指導、道徳の時間における追体験をとおして共感を深める発問、役割演技並びに書く活動の手だての有効性を示すものであるととらえます。以上のことから、本研究で行った体験活動の生かし方としての手だては、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力、つまり共感する力、受容する力、実践を志向する力を培ううえで役立つということが明らかになりました。

(3) 中学校における指導実践と実践結果の分析・考察
 中学校における指導実践を次頁【図3】中学校における「他人を思いやる心や社会貢献の精神」をはぐくむ道徳教育実践計画案をもとにして行いました。担任教師の指導及び生徒の発言内容や行動などの状況については、具体的な指導場面における生徒の具体像と照らし合わせながら、指導の効果について分析し、考察を加えました。ここでは、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力のうち、特に顕著な変容がみられた道徳の時間における「受容する力」、体験活動における「実践を志向する力」の育成について紹介します。

ア 担任教師の指導及び生徒の発言内容や行動などの状況からとらえた指導の効果

(ア) 道徳の時間における「受容する力」の育成≪資料名「終わりのない旅に」の実践≫

 Aグループの話し合いの論点は、綾の立場に立って考えるか、ロンの立場に立って考えるかでした。綾の立場に立った発言をしているのは、S3の生徒であり、ロンの立場に立った発言をしているのは、S2とS5の生徒です。グループの話し合いでは、綾やロンの置かれている場面の状況や条件などを もとに、お互いの考えの根拠を主張し合いながら活発に話し合うことができました。話し合いの後、 生徒は次のような感想を記述しています。

 グループでの話し合いでは、自分と違う意見に共感しようとする態度もみられましたが、どちらかというと自分の考えを主張し、相手に納得してもらおうという雰囲気でした。しかし、話し合いの後の感想をみると、S4の生徒のように自分と違う立場の意見のよさも認めようとする態度が培われていることがわかります。これは、グループでの話し合いをとおして、お互いが考えを出し合い、本気になって交流することができたためであるととらえます。このことから、グループでの話し合いを行うことは、相手の気持ちを尊重しながら、多様な見方、感じ方、考え方に気付かせるうえで有効であることを確かめることができました。

(イ) 体験活動における「実践を志向する力」の育成≪職場体験学習の実践≫

 記述内容から、生徒は、職場体験学習前に設定した自己の課題をもとに体験学習に臨み、職場体験学習後は、体験活動をとおして学んだことをこれからの生活に生かそうとする意欲が養われてきていることがわかります。特に、職場体験学習後の感想には、学んだことを直接、生活に生かそうとする記述よりも、さまざまな価値の実現に向けて意欲を高めようとする記述が多くみられました。
 これは、職場体験学習が自分自身の在り方を見つめ直すうえで啓発的な機会となり、このことをもとに、自分自身の生き方をより真剣に考えられるようになったためであると思われます。
 このことから、職場体験学習など、生徒の心に響く体験活動は、体験活動をとおして学んだことや活動前と後の考えや行動の変容を確かめながら、活動へのよりよいかかわり方を考え、実践への意欲を高めるうえで有効であるという見通しをもつことができました。

(イ) 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力の変容状況
 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力の変容状況について、指導実践の事前と事後に研究協力校第2学年の生徒を対象に行った調査結果を分析し、考察を加えました。
 【表4】の指導実践の事前と事後の意識調査結果を比較すると、全般的に好ましい方向への意識の変容がみられます。特に道徳の時間においては、主人公の価値ある姿への共感を深める力、体験活動において

@  道徳の時間に、心の弱さ、迷い、悩みを克服しようとする主人公の生き方をねらいとする視点からとらえ直すことができるような発問を行ったこと。
A  体験活動の事前の指導において、担任教師が、体験活動の意義や大切さについて意識付けを図ったり、事後の指導においてそれぞれの課題への取り組み方がどうだったかを振り返られるような場を設定したり、自己の変容について書きながらまとめる活動を取り入れたりしたこと。

 このことから、単元的な構想に基づく道徳教育を推進するなかで、体験活動の場における教師の指導と道徳の時間における追体験をとおして共感を深める話し合いは、生徒に豊かな人間性をはぐくむ道徳教育をとおして身に付けさせたい三つの力、つまり、共感する力、受容する力、実践を志向する力を培っていくうえで役立つことが明らかになりました。しかし、道徳の時間における実践を志向する力、体験活動における他の人のよさを受容する力並びに活動に入る前に自分の課題を確かめながら活動への意欲を高める力については、有意差がみられませんでした。これは、以下のようなことがその原因であると考えられます。

@  内面化された道徳的価値には、すぐ実践に結び付いていくものとそうでないものとがあり、培われた道徳的実践力をどのようにして道徳的実践へと結び付けていくか、その方策が具体的でなかったこと。
A  体験活動をとおして受け止めた他の人のよさを自分自身のことと結び付けて考えられるようにするための手だてが十分ではなかったこと。
B  体験活動に対する意欲の高まりは、事前指導とのかかわりが大きく、自己の課題の把握だけでは十分ではなかったこと。

3 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方に関する研究のまとめ
 本研究で明らかになったことを指導の手だてに沿ってまとめると次のようになります。

(1)  発達段階に即した体験活動の生かし方の工夫を軸とした単元的な構想に基づく道徳教育に関する資料作成
・「保育実践計画案」や「道徳教育実践計画案」など、単元的な構想に基づく道徳教育に関する資料を作成したことは幼児児童生徒の、ねらいとする「豊かな人間性」に対する意識の連続性を図るという見通しをもつうえで有効であること。
(2)  幼稚園、小・中学校における体験活動の場で、道徳的価値の大切さを実感できる援助・指導
・幼稚園では、環境構成やティーム保育を含めた、教師のより具体的な援助が有効であること。
・小学校では、児童一人一人の思いや願いを共感的に受け止め、個に即した助言や励ましを行 うことが、道徳的価値の大切さを実感させ、活動に対する意欲を高めるうえで有効であるこ と。
・中学校では、課題を明確にもたせるなどの事前指導を充実させるとともに、活動へのよりよ いかかわり方を考えさせる事後指導が、実践への意欲を高めるうえで有効であること。
(3)  幼稚園における道徳的習慣の形成を促すモラルゲームと小・中学校における追体験をとおして共感を深める話し合い
・モラルゲームは、あいさつや礼儀などの意義や大切さを共感的に受け止めさせるとともに、日常生活における望ましい行為の仕方を具体的に理解させるために有効であること。
・役割交換を取り入れた役割演技は、相手の立場や心情を理解させるうえで有効であること。
・役割交換をとおして、相手との関係における自分の在り方を見直させるためには、相手の演 技から感じたことを振り返らせるなどの手だてが必要であること。
・名前カード等で自分の考えを明らかにし、グループでの話し合いを行わせることは、相手の気持ちを尊重しながら、多様な見方、感じ方、考え方に気付かせるうえで有効であること。
・内面化された道徳的価値には、すぐ実践に結び付いていくものとそうでないものとがある。その点からも、培われた道徳的実践力を道徳的実践へと結び付けていくための方策を具体的 に示していく必要があること。

4 研究のまとめ
 本研究の成果と課題については、次のようにとらえます。

(1) 研究の成果

 推進試案に基づき、指導展開の手順を具体化した「指導実践計画案」を作成し、その手順にしたがって「保育実践計画案」や「道徳教育実践計画案」を作成することができたこと。
 「指導実践計画案」をもとに作成した「保育実践計画案」「道徳教育実践計画案」の妥当性を検証するため、指導実践をとおして実践結果の分析・考察を行うことができたこと。
 指導実践計画案の作成や指導実践、実践結果の分析・考察をもとに、豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方についてまとめることができたこと。

(2) 今後の課題

 幼児が道徳的習慣のよさを実感し、納得しながら身に付けていくことができるような指導を取り入れ、継続していく必要があること。
 培われた道徳的実践力を道徳的実践へと効果的に結び付けていくための方策を具体的に示していく必要があること。

おわりに

 いじめ、不登校、自殺、非行など、心の荒廃にかかわる社会問題が、さまざまな場面で取り沙汰されています。人間は本来、社会的な動物であり、支え合って生活しなければ生きていくことができません。ですから、人が、人や人を取り巻く環境とのかかわりのなかで、感動する心、愛する心、創造する心、挑戦する心、思いやる心を十分に働かせていけるような「豊かな人間性」をはぐくむことがこれからの教育の核になると言っても過言ではありません。わたしたち教師が、今なすべきことは何なのかを今一度教育の原点に立ち返って考え直してみる必要があるのではないでしょうか。子どもたちの「心そのもの」を豊かに耕す教育を核とし、21世紀を「心の世紀」にしていきたいものです。


【主な参考文献】
・文部省「幼稚園教育要領解説」 1999年
・文部省「小学校学習指導要領解説道徳編」 1999年
・文部省「中学校学習指導要領解説道徳編」 1999年
・東山町立げいび幼稚園研究紀要『道徳性の芽生えを培う援助のあり方はどうあればよいか ―人とのかかわりをとおして―』 1999年
・東京都新宿区立余丁町幼稚園『幼稚園の道徳教育』 明治図書 1990年
・香川県小学校道徳教育研究会『発達課題にもとづく道徳教育』 明治図書 1983年



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