岩手県立総合教育センター教育研究(2000)
学校不適応児童生徒に対する指導・援助に関する研究
−グループ・カウンセリングをとおして−(第1報)
《 目 次 》
はじめに
1 学校不適応児童生徒に対する指導・援助についての基本的な考え
(1) 学校不適応児童生徒についての基本的な考え
(2) グループ・カウンセリングについての基本的な考え
(3) 学校不適応児童生徒の指導・援助にグループ・カウンセリングを取り入れることの意義について
2 グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助の在り方
(1) グループ・カウンセリングを取り入れる時期について
(2) グループ・カウンセリング実施上の留意事項について
(3) グループ・カウンセリングの過程について
(4) グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助についての基本構想
(5) グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助試案
(6) 検証計画の概要
3 研究のまとめと今後の課題
(1) 研究のまとめ
(2) 今後の課題
おわりに
【引用・参考文献】
はじめに
最近の社会の急激な変化のなかで、児童生徒を取り巻く生活環境は大きく変わり、学校教育においては、児童生徒理解の重要性がますます増してきています。特に、学校においては、児童生徒理解をはじめとした生徒指導の充実、とりわけ「教師と児童生徒との豊かな人間関係づくり」をベースとした学校教育相談の充実を図っていくことが重要です。
しかし、学校の状況をみると、不登校やいじめ問題、自己中心的行動などで集団になじめない児童生徒が年々増加の傾向にあり、学校は、児童生徒が集団生活をとおして自らのよさを発見し、自己を高めたり社会性や自律性を身に付けたりする場としての存在が危うくなってきています。このように学校生活に適応できないでいる児童生徒は、一時的に自分を見失い、新たな自己への気付きが見えていない状況であると考えます。
このような状況を改善するためには、学校不適応児童生徒への指導・援助において、グループ・カウンセリングを取り入れ、対人関係や自己実現に関する問題に焦点を当てながら、他者との関係における自分を見つめさせることが大切であると考えます。
そこで、この研究は、学校不適応児童生徒への指導・援助において、他者との関係における自分を見つめさせることで肯定的な自己概念を育てることを事例的に研究し、学校不適応児童生徒の指導・援助に役立てようとするものです。
研究第1年次の今年度は、グループ・カウンセリングについての基本的な考え方を検討し、学校不適応児童生徒への指導・援助についての基本構想を立案して、指導・援助試案を作成しました。
1 学校不適応児童生徒に対する指導・援助についての基本的な考え
(1) 学校不適応児童生徒についての基本的な考え
児童生徒は、思春期を迎える頃から「自分とはどういう人間であるか」という問いを自分に向けて発するようになり、自己を概念化してとらえた自己概念というものが形作られていきます。自己概念は、自分自身がとらえる自己の像に、他者によって示される自己の像が加わりながら、徐々に現実的なものへと発達していくものであり、また、その人の判断や行動に無意識のうちに影響を与えていると考えられています。
思春期を迎えた児童生徒は、他者の存在というものを強く意識するようになります。そして、直接自分に向けられた発言はもとより、相手の仕草や態度ひとつにも、そのなかから自分への評価や価値付けのようなものを見いだそうとし、自分なりの解釈をしては喜んでみたり落ち込んでしまったりするようなことが起こってきます。このような情緒的に不安定な時期に経験する自分の失敗や挫折、他者からの批判的な言動などは、心のなかに自己の像として刻まれやすく、そのまま現実の自己として受け止めてしまう児童生徒がいます。そして、同様の場面に遭遇したときには、また同じ結果が待ち受けているのではないか、あるいは再びつらい思いは味わいたくないと考えてしまい、その場面を回避するようになったりもします。
このような状態にいる児童生徒が、自分の気持ちを教師や親、友人などに伝えようとしても、「気にすることはない」「考えすぎだ」「誰にでもあることだ」に類する助言をもらって終わることがあります。そのため児童生徒は、自分の気持ちが伝わらないと思うばかりか、自分の悩みや苦しみは誰にもわかってもらえないと考えてしまったり、この程度のことでつまずく自分を否定的に見てしまったりするようになると思われます。あるいは誰にも相談できずに自分の思いを抱え込んだまま、一人で悩み苦しんでいる場合も少なくありません。その結果、他者に対して心を開くことのないまま、自分の在り方や考え方というものに自信をもつことができずに、不適応状態に陥ってしまう児童生徒がいると考えます。
これは、学校不適応児童生徒が、自己の否定的な面を見つめるあまり、一時的に自己を見失っているために起こるものと思われます。つまり、否定的な自己概念が意識や行動を支配してしまい、自己を肯定的にとらえることができなくなっていることが考えられます。
そこで、この研究では、否定的な自己概念を抱いている学校不適応児童生徒像を、自分のことは誰にもわかってもらえないと思い込んだり、自分だけが悩み苦しんでいると考えてしまったりして、新たな自分というものを見いだせないでいる児童生徒ととらえていくことにします。
一度否定的な自己概念を抱いてしまった学校不適応児童生徒は、他者とかかわることに積極的になれないでいるため、新たな自己の像というものを他者から与えられる機会が失われがちです。そのため、自己概念が否定的なとらえのままに立ち止まっていることが多いと思われます。このような学校不適応児童生徒の状況を改善するために、援助者は、他者とのかかわりのなかで自己を見つめ直す機会を与え、新たな自己への気付きを促すことで、肯定的な自己概念をはぐくむ必要があると考えました。
(2) グループ・カウンセリングについての基本的な考え
グループ・カウンセリングは小集団を形成して行われるカウンセリングであり、メンバー相互の影響力を利用しながら個人の変容を促すことを、その目的としています。
グループとは、単なる個々の集合体ではありません。メンバー一人一人を加算した単純な総和がグループの力とイコールとはならないところに、グループを結成してカウンセリングをする意味が存在すると考えます。例えば、ある集団が醸し出すその時々の雰囲気が、個人に思わぬ言動をとらせるというような出来事は、日常でも経験することです。
グループ・カウンセリングが進行するなかで、グループの内部では様々に影響しあう過程が生じてくるものと思われます。これを、グループ全体とメンバー個々との影響の与えあいとして端的に表現するなら、個人→集団→個人→集団・・・・となります。つまり、個人の言動が集団に影響を与え、その影響を受けて変容した集団が個人に影響を与えるというように、影響が相互の間を行き来します。その影響の行き来する間に、個々の自己実現に向けた変容が生じてくるものと考えます。
グループ・カウンセリングの意義について、今井五郎氏は、「生徒指導と学校教育相談」(1994)のなかで、自由で脅威のない場の設定を原則としたうえで、次の五つを挙げています。
@ | 受容 |
教師やメンバーに自分を受け入れてもらえる体験を通して、仲間意識が生まれ、孤立感が解消します。 | |
A | 普遍化 |
他の人との共通性の発見や、同じ悩みをもっているという安心感を得られます。 | |
B | 愛他性 |
メンバーや教師からの、元気づけ・忠告・解釈・示唆などを通して援助し合う成果です。グループカウンセリングでは支持と揺さぶりが大事ですが、特に相手を支持する姿勢が磨かれます。 | |
C | 観察効果 |
他の人を知り、他の人を見習うことによって自己を客観視し、見つめ直す成果です。生徒指導で基本的に重要な自己洞察が深まり、自己をありのままに受容する姿勢が身につきます。 | |
D | 相互作用 |
メンバーの人間関係や雰囲気を通して、相互に学び合い、影響を与え合う効果です。グループカウンセリングでは、相互作用の成果が特に重視されています。 |
このような意義が達成されるためには、援助者による多くの配慮が求められます。また、メンバー個々の状況を把握しておくことも必要であると考えます。それらの準備が整えられると、グループ・カウンセリングが開始されます。
メンバーは、場に戸惑いながらも援助者の支えを受けて自己を語り出します。メンバー同士の思いが交錯するなかで、混乱や対立が生まれることもありますが、徐々に相互理解が深まると、他者に対して親和的なまなざしを向けられるようになっていきます。次いで、他のメンバーとの比較において自己にも視線が向けられるようになったとき、自己理解は新しい展開へと進み、やがて個々の自己実現に向けた動きが促されていきます。
グループ・カウンセリングが順調に推移した場合、以上のような過程をたどっていきます。この間、援助者は、メンバー個々に対して共感的な態度で接しながら、一人一人の感情を明確にしたり、全体が理解できていない有用な事柄をグループ全体に伝えたりするなど、メンバー同士の相互作用を促進するための手助けをします。時には援助者自身が自己開示をすることも、カウンセリングを進展させるうえで不可欠なことであると考えます。
援助者には、このように様々な態度や技術が要求されるところですが、メンバー個々の主体的な姿勢が現れてくるのを待ちながら、グループが生み出す雰囲気や影響力を大切にしてカウンセリングを進めることが重要であると考えます。
グループ・カウンセリングには、集団の人間関係が生み出す力によって個人の自己実現を促進するという、個別のカウンセリングとは違ったはたらきかけによる効用があります。人は社会の構成員である以上、何らかの集団に所属していることになりますので、その意味において、グループ・カウンセリングは、現実的かつ日常的な形を用いた自己実現へのアプローチであると考えます。
(3) 学校不適応児童生徒の指導・援助にグループ・カウンセリングを取り入れることの意義について
自己概念には、他者とのかかわりのなかで発達していくという特徴があります。梶田叡一氏は「子どもの自己概念と教育」(1985)で、自己概念の内実と形成にかかわる問題として、「学校や家庭での対人関係は、多かれ少なかれ、子ども一人ひとりにとって自らを映し出す鏡となっている。周囲の人の反応によって、自分自身の現状に気づくと同時に、自分がそれらの人にどのように位置づけられ価値づけられているかをも知ることができる。特に教師や親や親友といった『重要な他者』のまなざしに自分がどのように映っているかは、見すごすことのできない重大な問題である」とし、児童生徒の場合、自己概念の形成において、他者からの影響力が特にも大きいことを説いています。
そこで、他者とのかかわりを避ける傾向がある学校不適応児童生徒に対し、援助者の側からグループ・カウンセリングを紹介することで、他者とのかかわりの場を提供していきたいと考えます。
グループ・カウンセリングが始まり、メンバー同士が自己開示しあいます。ありのままの自分を語り、それがメンバーに受け入れられたとき、自分が共感的に受容されたことを感じられるようになります。また、メンバー相互の理解が進んでいくうちに、グループのなかに自分と同様に悩みを抱える仲間を見いだし、自分が特異な存在ではないということに気が付いていきます。さらには、相互交流の深まりとともに、互いに支えあう状況も生まれてきます。個々の内面では、メンバーと比較しながら自己洞察が進んでいきます。その結果、これまでの自己のとらえに広がりや深まりが生まれ、新たな自己への気付きが促されていきます。グループ・カウンセリングの、このような過程を体験しながら、児童生徒は自己を否定的なとらえから解放し、肯定的な自己概念をはぐくんでいくものと考えます。
この研究では、肯定的な自己概念がはぐくまれた児童生徒像を、誰もが悩み苦しみながら生きていることに気付き、自分が目指す方向性をイメージすることができる児童生徒ととらえます。メンバーとの交流を通じて、このような肯定的な自己概念をはぐくむことができれば、学校不適応児童生徒は、明日からの自分というものをイメージできるようになると考えます。
以上のことから、学校不適応児童生徒の指導・援助にグループ・カウンセリングを取り入れていきたいと考えます。
2 グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助の在り方
(1) グループ・カウンセリングを取り入れる時期について
学校不適応児童生徒が、他者とかかわることに消極的な傾向が強いことを考えますと、児童生徒のその時々の心理的な状態を見ながら、グループ・カウンセリングを紹介するタイミングを計る必要があると考えます。
岩手県立総合教育センター刊行の「教育相談ハンドブック」(1989)によりますと、不登校に陥った児童生徒は、一般に、次のような経過をたどると述べられています。
グループ・カウンセリングを指導・援助に取り入れるタイミングとしては、後期(回復期)にさしかかった家庭内安定期からが最も適当と考えます。この時期、不適応児童生徒は、ある程度落ち着きを取り戻すものの、過去を振り返りながら、否定的な自己概念にとらわれたまま、未だに動けないでいることが考えられます。
このような時期に、グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助を行うことで、肯定的な自己概念をはぐくみながら、再登校に向かう時期への移行を促していきたいと考えます。
(2) グループ・カウンセリング実施上の留意事項について
グループ・カウンセリングを実施するときは、以下の事項に留意しながら進めていきたいと考えます。
ア グループの人数
メンバー個々が、集団からの圧迫感を感じないで、十分に自分の思いを語るための人数は、2名から5名が適当であると考えます。
イ 年齢・校種・性差
それぞれの違いによってもたらされる新たな気付きに期待するところもあるので、年齢・校種の違いがあること、または男女が混在することは構わないことにします。
ウ メンバーの入れ替え
同一のメンバーで交流し続けることで相互理解が図られ、それにより互いが与えあう影響も段階を追って深まると思われるので、メンバーの入れ替えは行わないことにします。
(3) グループ・カウンセリングの過程について
グループ・カウンセリングのそれぞれの段階で、グループ並びに個々の過程は次のように進展していくものと考えます。
ア 第1段階(誰もが悩み苦しみながら生きていることに気付く段階)
援助者は、ここが脅威のない自由な場であることをまず伝え、不安を抱いているメンバーの緊張感を和らげる配慮が必要です。そして、グループに参加を決意したこと自体、大変な勇気のいることであったと思われますので、温かく迎え入れるような雰囲気作りに努めながら、メンバーに接していきたいと考えます。
援助者の進行でメンバーは自分を語り始めますが、当初は他のメンバーの存在が強く意識されるため、感情を抑圧しながらの発言になるものと思われます。発言を繰り返すなかで、自己開示への抵抗感は、メンバーから徐々に薄れていきます。そして、援助者との1対1のやりとりからメンバー同士のやりとりへと発展していきます。互いの発言に耳を傾けあい、互いを理解しあえるようになると、自分が援助者や他のメンバーに受け入れられていくのを感じるようになります。他のメンバーによって受け入れられたメンバーは、今度は相手を受け入れるようになり、結果としてグループ内で相互に受容しあえる状況が生まれてくるものと考えます。それにより、メンバー個々はグループ内に自分の居場所があることを発見し、安心感を得ていくものと思われます。
互いに受容しあい、安心感を得たことで、グループ全体に親和的な雰囲気が生まれてくると、メンバーは自分の悩みや苦しみを、より率直に語れるようになります。率直な発言は相互理解を進展させ、グループの凝集性を密にしていくものと思われます。このような経過を経て悩みや苦しみを共有できるようになったメンバーは、互いの発言を切実な思いで受け止めることでしょう。そして、他者の発言であっても自分自身の状況に置き換えながら耳を傾けると思われますし、支持する気持ちも生まれやすくなると思われます。このようなグループの状況のなかから、発言者の気持ちをそのまま支持する発言や、言葉にはならなくてもうなずきながら聴くような態度も出てくるものと考えます。さらには、他のメンバーに対して自分なりの援助を施そうとする者が現れて、気持ちが落ち込んでいるメンバーに対して励ましたり、迷いの強いメンバーに対しては助言したりといった行動につながっていくことも起こり得ると考えます。
グループ内に出現するこれらの態度は、発言者に対して勇気を与えてくれることでしょう。発言者は、これまでは誰にもわかってもらえない、受け入れてもらえないと決めつけては、他者とのかかわりを避けてきた自分が、他のメンバーに共感的に受け止められているという状況を感じ取っていきます。そのような体験から、決して自分は特異な存在ではないことに気が付き、孤立感が徐々に解消されていくものと考えます。そして、このようなグループ内でのやりとりをとおして、メンバー個々は、自分以外の存在もまた、自分と同様に自分自身のことで悩み苦しみながら生きているということに気付いていくようになると考えます。
援助者は、この段階では発言者に対して受容的・共感的態度で傾聴し、その感情をありのままに支持していくようにします。また、繰り返し・明確化・質問をしながら、発言者の思いが他のメンバーにも伝わりやすいように配慮することが大切です。さらには、他のメンバーに対する共感的・支持的な姿勢が出てきたメンバーを承認し、グループ全体の支えあう雰囲気を高めていきます。場合によっては援助者自身が自己開示をしながらグループの一員となっていくことも、メンバーの自己開示や相互理解を促していくうえで必要なことであると考えます。
イ 第2段階(自分が目指す方向性をイメージする段階)
グループの親和性が高まるにつれて、グループ内で互いに影響を与えあう力もまた徐々に高まっていくものと考えます。親和的なグループ内での、悩みを共有しあうメンバーからの現実的な発言は、他のメンバーの心に素直に届いていくことでしょう。そのなかでメンバーの内面では、他のメンバーの状況と自分の状況とを比較しながら、これまでの自分というものを客観的に見つめ直す作業が進むものと思われます。自分と同様に自分自身のことで悩んでいながらも、他のメンバーは異なるものの見方や感じ方をしていることがわかってきます。それに対して自分はどのように見たり感じたりしてきただろうかという問い返しがなされ、自己洞察が進んでいきます。あるいは、これまでのグループの歩みを振り返りながら、自分が他のメンバーによって受容されたこと、自分以外のメンバーも自分と同じように悩み苦しんでいることに気付いたことなどを思い返しながら、自分が今、どんなふうに自分を見、周りを見、行動しているのかを確かめる作業も進んでいくものと思われます。
他のメンバーとの出会いは、同じように悩みに向きあっていながらも、これまでの自分とは異なるものとの出会いに等しいことであり、自己の内面に一人で入り込み、闇に閉ざされていたような思いでいたメンバーにとって、一条の光が射し込んでくる出来事であると思われます。その光によって、見えなかった自分、気付かなかった自分がおぼろげながら姿を現したように感じられたとき、自己理解は少しずつ新しい展開へと進んでいきます。そして、悩み苦しむ自分をありのままに受け入れながら、他のメンバーとの交流によって見いだした新たな自己を支えとすることで、明日からの自分というものをイメージできるようになると考えます。
援助者はこの段階ではメンバー同士の自由なやりとりを共感的に見守っていきますが、メンバーの大切な感情がグループ全体に理解されていない場合や、メンバーに対する理解が歪んでしまったり偏りが生じたりしそうな場合には、介入する必要があります。また、自分を客観的に振り返ろうとしているメンバーの姿勢を尊重しながら、自己洞察を促していきます。さらには、自己を見つめる目に変容が起きているメンバーを積極的に承認しながら、変容のきっかけを本人に問い返し、グループ同士が学びあう相互作用が有効に働いていることを明瞭にしていくことが大切です。
なお、各回のグループ・カウンセリングのあとに、メンバーから感想を聞く時間を設定します。その回のグループ・カウンセリングを終えてどんな気持ちでいるのか、何かしらの発見や変化が感じられているのかなどをメンバーに話してもらいます。また、終結時には、全体をとおして振り返る時間を確保しておきたいと思います。
(4) グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助についての基本構想
これまで述べてきた考えに基づいて、学校不適応児童生徒に対してグループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助の基本構想を、【図1】のようにまとめました。
(5) グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助試案
学校不適応児童生徒に対してグループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助試案を、【表1】のように作成しました。
(6) 検証計画の概要
基本構想に基づいて、各段階の指導・援助についての有効性を、【表2】のような分析の観点と内容で検証します。
3 研究のまとめと今後の課題
(1) 研究のまとめ
この研究は、学校不適応児童生徒に対してグループ・カウンセリングを取り入れて、他者との関係における自分を見つめ直す機会を与え、肯定的な自己概念を育てることで、指導・援助に役立てようとするものです。
そのため、グループ・カウンセリングについての基本的な考え方、グループ・カウンセリングを取り入れた指導・援助についての基本構想について研究を進め、指導・援助試案を作成しました。その結果、次のようなことが成果として考えられます。
ア | 先行研究や文献等をもとに、児童生徒の行動や意識に対して自己概念が及ぼす影響や、グループ・カウンセリングについての基本的な考え方を検討し、児童生徒の肯定的な自己概念をはぐくむための考え方を明らかにできたこと |
イ | グループ・カウンセリングが進展していくなかで、児童生徒の肯定的な自己概念がはぐくまれるという、グループ・カウンセリングの過程に沿った指導・援助の基本構想を立案できたこと |
ウ | 基本構想に基づき、グループ・カウンセリングの段階的な指導・援助試案を作成できたこと |
(2) 今後の課題
本年度の研究をふまえて、学校不適応児童生徒に対する指導・援助試案に基づいて実践を進めていきながら、学校不適応児童生徒に対する指導・援助の在り方について、実践的・事例的に明らかにしていくことが、次年度への課題と考えます。
おわりに
この研究を進めるにあたり、資料の提供にご協力いただきました研究協力員の先生方に心から感謝申し上げ、第1年次研究の結びとさせていただきます。
【引用・参考文献】
今井五郎 著 「生徒指導と学校教育相談」 ぎょうせい 1994
梶田叡一 著 「子どもの自己概念と教育」 東京大学出版会 1985
岩手県立総合教育センター 「教育相談ハンドブック 子どもとともに」 1989
松井紀和 編著 「小集団体験 −出会いと交流のプロセス−」 牧野出版 1991
平野 馨 著 「対人関係の基礎知識 −カウンセリングとグループダイナミクスの活用−」 日本看護協会出版会 1993
小泉英二 編著 「学校教育相談・中級講座」 学事出版 1991
辻平治郎 著 「自己意識と他者意識」 北大路書房 1993
柏木惠子 著 「子どもの『自己』の発達」 東京大学出版会 1983