岩手県立総合教育センター教育研究(2000)


幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方に関する研究

− 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動の工夫をとおして −(第2報)


《  目  次  》

はじめに
1 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方についての基本構想
 (1) 音楽的発達とは
 (2) 音楽的発達を促す意義
 (3) 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動の基本的な考え方
 (4) 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導試案
2 保育実践・授業実践
 (1) 幼稚園における保育実践
 (2) 小学校における授業実践
3 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導試案の妥当性の検討
 (1) 音楽的発達の状況
 (2) 音楽の学習に対する意識の変容状況
4 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方についてまとめ
 (1) 成果として考えられること
 (2) 課題として考えられること
 (3) 指導・援助の在り方の改善点
5 研究のまとめと今後の課題
 (1) 研究のまとめ
 (2) 今後の課題
おわりに

【主な参考文献】

はじめに

 幼稚園から小学校低学年にかけての時期は、音楽的な刺激に鋭く反応し、音楽を感受する力が著しく発達する時期です。この時期に音楽的な環境を構成し、発達に応じた指導・援助をしながら、幼児・児童に豊かな音楽活動を経験させることは、その後の音楽活動の基礎的な諸能力、生涯にわたって音楽を愛好する心情、豊かな情操などの育成に必要不可欠なことであると考えます。
 そこで本研究では、次のような仮説を設定し、幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方について研究を進めることにしました。

研究仮説
 幼稚園の表現活動や小学校低学年の音楽科の学習において、次のような楽曲とかかわる遊びを取り入れながら楽曲のよさや楽しさを感じ取らせる活動をしていけば、幼児・児童の音楽的発達が促されるだろう。
(1)  リズム遊びや歌遊び、音遊び
(2)  言葉とリズム、感情などを歌と結びつけた表現
(3)  イメージを広げる造形遊びや音づくり

 本年度は2年次研究のまとめとして、昨年度作成した指導試案をもとに保育実践・授業実践を行い、その分析と考察をとおして、音楽的発達を促す指導・援助の在り方を検討しました。

1 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方についての基本構想

(1) 音楽的発達とは
 
音楽的発達とは音楽的な諸能力が伸長され高まっていくことであり、より高い音楽行動を自ら可能にしていく力の発達であるともいえます。この音楽的な諸能力には、技能や理解力、感性など多くの要素が含まれますが、本研究では幼稚園と小学校低学年における音楽的発達の要素を、〈音楽的な感受力〉〈表現力〉〈音楽に親しむ意欲〉とし、次のように考えました。

〈音楽的な感受力〉 〈表現力〉 〈音楽に親しむ意欲〉
 音楽に対する反応や感じ方、思いなどの感覚的な力  思いをもって歌唱や身体表現などで表現しようとする力  音楽を愛好する心情や活動を楽しもうとする意欲

 音楽的発達は、このような要素が他の諸能力、心情面などと関連し合ったり統合化されたりしながら発達していくものと考えます。

(2) 音楽的発達を促す意義
 音楽的発達は進む方向や質、程度、速度などに個人差があり、必ずしも段階的に進むものではないと考えます。本研究において音楽的発達を促すということは、ねらいに向かって子どもに何かを覚えさせたり、高度な演奏技能を身に付けさせたりする指導を意味するものではありません。一人一人の個性を尊重し、子どもの興味・関心・意欲を喚起しながら、子ども自身が無理なく音楽に取り組んだり、上達しようとしたりする心情や力を育てる音楽的環境を整えることにあります。
 幼児期・児童期の子どもは、音楽に反応して身体を動かしたり、真似ようとしたり、遊びのなかのことばが歌になったりするなど、鑑賞行動と歌唱行動に大きな特徴をみることができます。そして身近な人々や生活などから様々なことを体験し、音に対する感覚や表現する力、楽しさや感動などの心が育まれていくようになります。これは身体の成長や、視覚・聴覚などの五感の発達、言語や知的な面の発達、人間関係の広がりなどとも関係しているものです。
 このことから、幼児期・児童期に音楽的発達を促すことは、単に音楽的な能力を高めるばかりでなく、豊かな感性や心情を育て、その後の生活形成や人間形成を育むものであると考えます。

(3) 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動の基本的な考え方
 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取る活動とは、幼児・児童が楽曲のもつ特徴を感じ取ったり、楽曲の特徴を生かすような表現を行ったりすることで、鑑賞と表現が表裏一体となった活動です。
 音楽行動は、音楽を聴いたり表現を見たりして心を動かされ、自分もやってみたいというあこがれをもつことから出発し、その思いや願いを生かす表現や鑑賞をすることによって喜びや感動を味わい、これが次への意欲となっていきます。このような経験が繰り返されることによって、幼児・児童の音楽的な発達が促進されていくことになります。
 そこで本研究では、楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動を、音楽の感受という面から4つの段階を考え、「であう」「かんじる」「あらわす」「たのしむ」としました。この段階は厳密に区切られるものではなく、音楽活動を進める過程のなかで、行きつ戻りつしながら絡み合ってらせん的に広がるものです。
 なお、この各段階に楽曲とかかわらせた遊びを取り入れることにします。

(4) 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導試案
 以上の基本構想をもとに、昨年度実態調査を行いました。その結果、幼児・児童の表現行動の実際、児童の音楽活動に関する願い、教師の願い、教材選択の視点、発達段階における留意点などが明らかになりました。このことを楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動の展開に取り入れ、幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導試案として、次頁【表1】のように作成しました。

2 保育実践・授業実践

(1) 幼稚園における保育実践

ア 保育実践計画
 研究協力園において、5歳児を対象に次頁【資料1】のような保育計画を立案し、保育実践を行いました。

イ 保育の実際
 次頁の【資料2】は、幼稚園の第三日の実践の概要です。

(2) 小学校における授業実践

ア 授業実践計画
 次の【資料3】のような学習指導案を作成し、研究協力校において授業実践を行いました。

イ 授業の実際

(ア) 楽曲の気分を感じ取って歌を覚える学習活動(第一次 第3時)
 新曲の導入段階で児童の興味・関心や意欲付けを図るため、次のような学習活動を展開しました。

 このように児童の心には聴く観点が意識付けられ、興味・関心をもちながら旋律の流れやリズムなど、楽曲の特徴を感じ取って聴いている様子がみられます。

(イ) 思いを表す学習活動(第二次 第4時)
 楽曲の中で歌われている季節を班で一つ選び、思いを個人カード(葉の形)に書き、「うたのきもち」としてまとめました。(写真1、写真2)

 この記述例が、下の【図1】です。

 どの班も、曲のイメージを膨らませ、音や楽器、短いお話などを考えていました。

(ウ) 表現を交流し共有する学習活動(第三次 第8時)
 次頁【資料5】のように、班でそれぞれ工夫した表現を交流し合いました。

 児童には一人一人の思いがあり、それを分かり合いながら表現したり鑑賞することは、楽しさを共有することになります。このように、視覚的・聴覚的な方法を用いることは、音楽全体を把握したり興味・関心をもたせることに効果的であるといえます。

3 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導試案の妥当性の検討
 保育・授業実践をとおして、指導試案の妥当性をみるために、次のように検証することにしました。

(1) 音楽的発達の状況
 「音楽的な感受力」についての事前事後調査及び、「表現力」「音楽に親しむ意欲」についての実践過程での観察から、幼児・児童の音楽的発達の状況をみることにします。

ア 「音楽的な感受力」について

(ア) 音楽の感受
 趣の異なる二つの曲@「トランペット吹きの休日」A「組曲動物の謝肉祭より『水族館』」を聴かせ、曲の気分の合う表情画を選択させて、音楽の感じ方をみました。幼児・児童の選択人数をまとめたものが、次の【表2】【表3】です。
 【表2】をみると、幼児は曲1ではアがやや多く、曲2では選び方が多方向で全体に大差がないことがわかります。これは、幼児の曲の感じ方が多様であることをあらわしています。
 また、選ぶときの様子をみると、事後では曲への親しみや心地よさなどを感じながら聴いて選んでいる様子がみられました。幼児は表情の意味を自分なりに判断し、選んでいることがわかります。
 次に【表3】をみると、児童は曲1では圧倒的にアに集中しています。また曲2ではすべてに選択が広がってはいるものの、イが多いようです。この結果を幼児と比べると、一人一人の音楽の受け止め方や感じ方に幼児ほど大きなばらつきはみられず、ある一定の共通した方向がみられることがわかります。
 そこで、児童の選択理由をみるために、【表4】のようにカテゴリーを拾い上げてみました。

 これをみると、曲1では事前は楽しさ、曲への関心、楽器に関することが挙げられます。しかし事後では楽しさや気分、想像したこと、あこがれなどに関する記述もみられ、全体的に語彙が増えていることがわかります。これは曲2でもいえることで、事後になると全体的に快感を表すことばに変わっています。
 さらに個人の記述例を示した【図2】をみると、児童は表情画の選択が同じであっても、明確な理由付けや根拠など、一人一人に気持ちの変化があることがわかります。

 このように、快感を伴う感じ方をするようになるということは、リズムに反応するという段階から、旋律の美しさや意味を感受する段階へと、発達していることの現れとも考えます。幼児・児童の音楽の感じ方は、音楽の聴き方も反応の仕方も漠然としていたのが、いろいろな音楽に触れ活動する経験を重ねることによって、自分の好みや思いをもち、快感を伴った受け止め方ができるようになったといえます。つまり直感的・雰囲気的な感じ方が、感覚的あるいは知覚的にとらえるようになり、音楽を感受する力の育ちがみられます。

(イ) リズム・旋律の感受
 【譜1】【譜2】のリズムを叩いたり旋律を歌ったりして、幼児・児童に図や描画に記述させ、リズムや旋律の感じ方をみました。

 次頁の【図3】【図4】は、幼児・児童の実際の記述例です。
 幼児は【図3】にみられるように、リズムも旋律も○△など の図形的描画が多く、リズム一つ一つに対 応するのではなく、リズムや音全 体のまとまりを表しています。また記述の様子も、他の幼児のを真似て 描く幼児や、意味不明な描き方をしている幼児もいます。記述後に「どのように叩くの(歌うの)?」と聞いても、「わからない」と答えています。
 しかし事後では、拍数やリズム数を表す描画や、拍を感じた図形的描画へと変わっており、「描いたものを見てリズムを叩いてみて」という問いかけに、幼児は迷うことなく叩いています。また旋律についても、リズムと同様に図形的な描画から、音の数や長短、高低を表す描画に変わっています。これらの描画の仕方は、リズムや旋律の事象の正しさ、左から右への進行、という点で事前より進歩しているといえます。
 【図4】の児童の記述をみると、リズムでは事前事後とも、タンタン…と聴いたとおりに文字で表現している児童が多く、なかには音符で表している児童もあります。旋律の感じ方は、事前事後とも文字(歌詞)の記述が多く、事後にはさらにジグザグ線や曲線などを付け加えて旋律の抑揚を表しています。全体的に児童は幼児と比較してリズム・旋律がほぼ正しくとらえられています。

 このことから、幼児・児童のリズム・旋律の感受の仕方は事後に音楽的に変化し、特に幼児においてはその進歩が著しいといえます。このようにリズムや旋律の多面的な表現の可能性を経験させることは、幼児・児童にリズム・旋律をより深く理解させることにつながるものと考えます。

(ウ) ことばの感受
 ことばの感じ方をみるために、幼児・児童に簡単なことばを音声表現させました。次頁の【譜3】【譜4】は実際の表現例を楽譜に書き下ろしたものです。
 幼児は、他の幼児の表現(言い方)の聞き覚えや真似が多く、擬音語の強調がほとんどでした。しかし事後では、速さや声の強弱などの変化がみられ、自然に感情表現しようとする気持ちがみられます。また事前に表現できなかった幼児も、事後には自分で考えた表現をしていました。
 これは声を使っての遊びにより、気持ちと表現【譜3】 幼児の表現 とのかかわりを感じ取れるようになったためと考えます。
 一方児童は、事前は「ことばを読む」「一部のことばの強調や抑揚」という形での表現が多かったのですが、事後は自分なりにイメージをとらえ、特に擬態語や擬音語を工夫して表現する【譜4】 児童の表現 姿もみられました。
 これは児童が、歌詞の情景などを想像し表現する活動を行ったことにより、ことばの意味を理解し音楽的に表現する方法を考えることができるようになったためと考えます。

 以上の結果により、幼児・児童の音楽に対する感受力は、より音楽的な方向に変容がみられました。
 この音楽的な感受力は点となり、これが音楽の他の諸能力とかかわり合って進歩、発達していくものです。これは、幼児・児童が音楽的な遊びをとおして楽曲を聴いたり表現したりすることの楽しさを実感できたことと、楽曲とかかわる遊びにより、楽曲のもつよさに気付くことができたためと考えます。

イ 「表現力」「音楽に親しむ意欲」について
 「表現力」「音楽に親しむ意欲」について、実践過程において抽出児を観察し、次の【表5】のような観点で行動のタイプから傾向を分析し、考察を行いました。

(ア) 幼児の姿
 一つのグループのから、無作為で抽出した3人の幼児を観察しました。a児はどの活動にも意欲的で、歌に興味をもって聴いたりすぐ覚えたり、また友達に教える様子がみられます。b児は歌の表情や口形などが豊かで、楽しんで歌っていましたが、リズム遊びや創造的な活動では、やや気持ちがのらない様子がみられました。c児は興味を示すときとあまり示さないときがあり、歌うことよりむしろ音楽を聴いておどったり、音を楽しむ傾向がみられます。
 3人の様子で共通するのは、音楽遊びや楽曲に慣れ親しむにつれ、第一日より第三日に表現の幅の広がりがみられます。いろいろな音楽経験をすることによって、幼児は音楽を聴く楽しさや表現する喜びを感じ、そのことが音楽活動の基礎となっていくものと考えます。

(イ) 児童の姿
 授業において、無作為で抽出した一つの班、4名の児童の行動を観察しました。A児は音楽への関心が高く、聴いて感じたことを音楽的な用語を用いて話すことができます。また表情も豊かで、曲のイメージをつかみ、歌い方や表現の仕方を自分で考え実際に表現できる力があると思われます。B児は歌ったり聴いたりする活動を楽しんで行っています。班での表現では、自分のイメージに合う物をつくって、気分を出して表現することができます。C児は表現を工夫する場面でも創造力を発揮し、いろいろな表現を考えていくことができます。D児は、音楽を聴いているときの表情がよく、楽しんでいる様子がみられます。表現する場面では、リズムを工夫して歌に合わせていました。
 この班は、全体的に音楽活動への意欲が高く、表現を工夫する場面ではA児とC児を中心に、アイデアを出し合いながら練習を進めているグループです。学級全体で表現を交流するときには、A児とB児とD児が歌をリードし、B児は自分がつくったトナカイの鼻を付け、冬の場面を表現していました。このような体験は、今後、楽曲を聴いたり表現したりする際に自分でイメージをつくることができる有効な音楽経験となると思われます。

 幼稚園及び小学校における実践過程の抽出児の様子をまとめると、幼児・児童は音楽遊びや、いろいろな楽曲に触れることによって、自分のイメージをもって聴いたり表現したりするようになりました。この表現力や意欲の発達状況には幼児・児童個々に違いがみられますが、それを個々の持ち味や個性として認め、伸ばしていくようにすることが、個々の音楽的発達に必要なことと考えます。

 以上の観点ごとの調査及び観察の結果から、研究の手だてである、音楽遊びを取り入れながら楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動が、幼児・児童に表現のよさや特徴などを気付かせ、音楽的な感受力とともに表現力、音楽に親しむ意欲を育て、音楽的発達を促すことに有効であるといえます。

(2) 音楽の学習に関する意識の変容状況
 音楽の学習に対する意識と、楽曲のもつよさや楽しさを感じ取る活動に関する意識について、小学校児童を対象にした質問紙による調査を実施し、その結果から分析します。

ア 音楽の学習に関する意識について
 音楽の学習に関する意識調査を事前事後に行いました。設問に対する回答は4者択一とし、アとイはプラス回答、ウとエはマイナス回答です。次頁【図5】は、選択人数と割合をまとめたものです。
 これをみると、設問1、設問2、設問3は、事前事後ともアが80%以上の高い割合を示しており、特に設問3についてはイも含めて100%がプラス回答です。
 また設問4、設問5、設問6、設問8については、それぞれアの回答の割合が事後に増えています。なかには、アのところに二重丸や花丸などの記号を付けて回答しているのが複数みられました。
 これは、歌や音に思いを寄せたり感じ方を深めたりして、音楽の楽しさを実感したことによるもので、自分から音楽にかかわっていこうとする意識の高まりとも考えます。
 一方設問5については、事後にアが増えたもののエが2名あります。また設問7は、事前が100%、事後も1名を除く全員がプラス回答していますが、全体的にやや意識が下がっています。
 これは、自分はまだ歌い方を考えて表現していないという反省の気持ちや、話をつくったり表現方法を工夫したりする活動が大変である、と感じたことによるものと思われます。
 しかし、創造的な活動は、経験を重ねることによって豊かに広がるものです。今後も学習に随時取り入れながら自分自身で楽しさをつくっていくことができるようにしていきたいと思います。

イ 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動について
 楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動について、次のような内容で事後のみ調査しました。
 回答の方法は前述の調査と同じで、アイがプラス回答、ウエがマイナス回答です。
 この結果をまとめたものが、次頁【図6】です。
 これをみると、児童の約90%は全ての設問にプラス回答をしています。これは絵の提示や歌詞の比較による導入、音楽遊びや声遊び、思いや工夫などの表現などが、児童の興味・関心を大いに喚起し、心地よさや、表現に対する意識を高めることにつながったものと考えます。
 設問13については25名がプラス回答ですが、4名にマイナス回答がみられます。
 プラス的な理由には、「とても楽しい・お話がおもしろい・みんなでやるのが楽しい・もっと歌いたい・新しい学習ができる・音楽が好き・本気を出し上手になった・きれいな曲だから・ミニコンサートが楽しい」という記述がみられます。
 一方マイナス的な理由には、「班で話がまとまらない・ちょっと大変だった・恥ずかしい」という記述もみられました。多くの児童は、グループ活動で表現が多様になり楽しいと感じていますが、自分のやりたいことが思うようにできないと感じる児童もいることから、個とグループの活動を柔軟に取り入れながら展開する工夫が必要と考えます。
 学習全体の感想をみると、「いろいろな歌や新しい歌を覚え、全部歌えるようになった。ミニコンサートやお話が楽しい。がんばった。アンコールされてうれしい。楽器が入ると楽しい。音の出し方を考えた。きれいな声で歌えるようになった。もっと聴きたい」というように、喜びや楽しさに関することが多くみられました。

 以上のことから、楽曲のもつよさや楽しさを感じ取らせる活動は、児童の音を感じ取ろうとする意識や、表現への思いや心情を高めることに有効に作用したと考えられます。音楽の楽しさを感じ、音楽を好きと思う気持ちが、音楽をより豊かに表現しようとする力の発達を促すことになり、それが児童自らの音楽的発達を引き上げることになるものと考えます。

4 幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方についてのまとめ
 これまで、保育実践及び授業実践をとおして、音楽的発達を促す指導試案の妥当性を検討してきました。その結果、以下のことが明らかになりました。

(1) 成果として考えられること

 楽曲とかかわる遊びを取り入れた活動により、幼児・児童は楽曲のもつよさや楽しさを感じ取って聴いたり表現したりするようになり、音楽的な感受力が高められたこと
 リズム遊びや歌遊び、音遊びは、音楽の楽しさを実感させ、自発的な音楽遊びを誘引することにつながり、幼児・児童の表現意欲が高められたこと
 ことばとリズム、感情などを歌と結びつけた表現遊びをすることにより、幼児・児童は声のもつ表現の幅に気付き、語感を感じた表現や歌い方などをするようになり、表現力を育てることに有効であること
 楽曲を組み合わせて使うことにより、いろいろな楽曲のもつよさや特徴を感じ取って聴いたり表現したりすることができたこと

(2) 課題として考えられること

音楽を創造的に表現する活動の時間が十分ではなかったこと
音楽遊びを日常的に無理なく取り入れることができるようにすること
グループ活動において一人一人が十分に思いを生かすための工夫が必要なこと

(3) 指導・援助の在り方の改善点

多様な音楽活動が経験できるよう、表現と鑑賞とが一体となる活動を工夫すること
一人一人によって発達の方向が異なるので、個に応じた適切な援助をすること

5 研究のまとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ
 この研究は、昨年度及び本年度の2年間にわたって、幼稚園と小学校低学年における音楽的発達を促す指導・援助の在り方を明らかにしようとするものです。本年度は、幼稚園と小学校低学年における保育実践・授業実践をとおして、指導試案の妥当性を確かめることができました。この研究から明らかになったことをまとめると、次のようになります。

 音楽活動に遊びを取り入れることは、幼児期・児童期の子どもの発達の特性を生かすことであり、子どもの音楽的発達を促すことに有効であること
 楽曲とかかわる音楽遊びは、楽曲のもつよさを楽しい体験をとおして実感させることに有効であること
 リズムや旋律、曲の感じなど音楽を「かたち」にあらわすことは、音楽の多面的な表現の可能性を経験させ、音楽を理解させることに役立つこと

(2) 今後の課題
 今後は、さらに幼児・児童の発達段階をふまえ、日常的な自己表現や心の教育につながる音楽活動や内容を検討する必要があると考えます。

おわりに

 この研究を進めるにあたりご協力をいただきました研究協力園のゆもと幼稚園瀬川理右エ門園長、研究協力校の花巻市立桜台小学校照井捷文校長をはじめ、諸先生方、幼児・児童の皆さんに対し、心から厚くお礼申し上げます。


【主な参考文献】

・文部省 「幼稚園教育指導書」増補版 フレーベル館 1999
・谷口 高士 編著 「音は心の中で音楽になる〜音楽心理学への招待」 北大路書房 2000
・D.J.ハーグリーブス 著 小林 芳郎 訳 「音楽の発達心理学」 田研出版 1993
・日本音楽教育学会編 音楽教育学研究2「音楽教育の実践研究」 音楽之友社 2000
・桶谷 弘美 吉良 武志 熊谷 新二郎 斉藤 正義 杉江 正美 高橋 悦枝 共著 「音楽表現の理論と実際」 音楽之友社 1997
・梅本 堯夫 著 シリーズ人間の発達U「子どもと音楽」 東京大学出版会 1999
・山田 淺蔵 著 「実践音楽教育学」 音楽之友社 1999



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