岩手県立総合教育センター研究集録(2000)


小学校図画工作科の木版画における見通しをもった制作の指導の在り方に関する研究

−でき上がりを視覚的にイメージできるコンピュータ教材の開発をとおして−

大東町立渋民小学校 教諭 小野寺 茂


T 研究目的

 図画工作科では、児童が自らものをつくりだす喜びを味わわせることが重視されている。特に高学年における木版画の指導においては、見通しをもって進め、自分で表現を工夫しながら制作を行い、主題に迫る能力を高めることが大切である。このことは児童が表現することの喜びにつながるものである。
 しかし、児童の実態をみると、必ずしも見通しをもった制作をしているとは言えず、思い通りの作品ができないため、苦労した割には版画への意欲が薄れてしまうことが多い。これは、児童が彫ることを意識し過ぎて、十分な構想を練らないまま彫りに入ったり、刀の選択による効果を考えずに制作をしたりしがちなためである。また、構想の段階、刀を選択する彫りの段階、仕上げの段階で、でき上がりを視覚的にイメージさせるような指導が十分でなかったことがあげられる。
 このような状況を改善するためには、白と黒のバランスの判定やトリミング、描画などの処理、画像提示が容易にできるコンピュータの機能を生かし、構想の段階、刀を選択する彫りの段階、仕上げの段階で、でき上がりを視覚的にイメージできる教材を開発し、授業で用いることが有効であると考えられる。
 そこで、この研究では、でき上がりを視覚的にイメージできるコンピュータ教材の開発をし、授業実践をとおして見通しをもった制作の指導の在り方を明らかにすることによって、高学年の木版画における指導の改善に役立てることを目的とするものである。

U 研究仮説

 図画工作科の高学年の木版画の指導において、でき上がりを視覚的にイメージできるコンピュータ教材を開発し授業で用いれば、児童は見通しをもった制作ができるであろう。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方に関する基本構想の立案
 (2) 基本構想に基づく指導試案の作成
 (3) 基本構想に基づくコンピュータ教材の開発
 (4) 授業実践と実践結果の分析と考察
 (5) 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方についてのまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法  (2) 質問紙法  (3) 授業実践

3 授業実践の対象
 大東町立渋民小学校  第5学年 1学級 8名(男子2名、女子6名)

W 研究結果の分析と考察

1 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方に関する基本構想

(1) 木版画における見通しをもった制作の指導の基本的な考え方
 作品を制作する上で、見通しをもって制作することは、目的とするものに的確に迫るために大変重要な要素である。この研究テーマでの「見通しをもつ」とは、どの段階でどんな方法をとれば、自分の思いどおりの表現になるかを考えながら制作に取り組むこととおさえる。
 木版画に取り組む高学年の子どもたちは、発達段階から見ても、「見通しを立てて計画的に学習を進める」ことができる年齢であり、見通しをもって木版画に取り組むことにより、主題に迫った作品を仕上げることができると考える。
 「見通しをもって木版画を制作する」には、「構想の段階」「彫りの段階」「仕上げの段階」の3つの段階ででき上がりをイメージし、そのなかからより良いものを選択することが最も重要になる。特に、「構想の段階」では、作品の主題が明確になるように絵柄を配置したり、白黒の配置やバランスを考えて画面構成することが大切である。構想をしっかり練ることで、表現の可能性も広がり、思いを生かした作品へとつなげることができる。また、「彫りの段階」では、単純な作業に陥ってしまうことがあるが、刀の効果を十分生かすとともに、彫り残しの効果を考えながら制作すると更に充実した作品になる。最後の「仕上げの段階」では、黒のインクだけでなく主題にあった色刷りをしたり、刷り上がったものに淡彩でどのように色をつけたら良いかを工夫したりすると、また違った味わいの作品へと発展ができる。

(2) 木版画における見通しをもった制作の指導においてコンピュータ教材を用いる意義
 「見通しをもった」木版画の制作を行えるようになるには、木版画の経験を積み重ねることが必要であるが、実際には年に一度の機会しかない。また、制作の仕方のなかで参考作品例を挙げたり、教師の演示等も行うが、児童は自分の作品の中で試してみないとイメージが分からず、理屈でしか理解していないことが多い。そのうえ、版画は、一度彫り出すと途中で構図の変更はできないのはもちろん、彫ってしまった所は修正ができず、最後に刷り上がってから作品のできが分かるという難しさもある。
 そこで、コンピュータを用いれば、画面上で簡単に画像を加工できるうえ、やり直しや繰り返しが何度でも可能なため、どの方法をとれば自分の思いに近い表現になるかを視覚的にイメージすることができる。また、音声や動画で用具の使い方や効果をより分かり易く提示することができる。そのため、木版画の制作において見通しをもちながら制作を進めることができ、児童は自分の思いに迫ることができると考える。
 さらに、コンピュータによる様々な試みのなかで、多様な表現が自分の作品で可能なことに気付き表現の幅が大きく広がってくると思われる。
 このように、コンピュータの画像処理や画像提示機能を生かした教材を用いる意義があると考える。

(3) 木版画における見通しをもった制作の指導におけるコンピュータ教材の在り方
 本研究においてコンピュータ教材を用いて見通しをもたせるのは3段階であり、コンピュータ教材の在り方を以下のようにとらえた。

ア (構想の段階)  取り込んだ絵を画面上で加工して、十分に練った下絵のイメージがもてること。
イ (彫りの段階)  刀の効果やその刀の使い方をいつでも調べ、彫りの工夫やバックのつけ方のイメージがもてること。
ウ 仕上げの段階  インクや淡彩で色をつけることで、仕上げのイメージがもてること。

 コンピュータ教材は、児童が自分で手軽に操作できることが第一であり、見通しをもつための道具であるため、コンピュータの操作では時間がかかり過ぎないように配慮して教材を開発するとともに、効果的に活用できるように留意したい。

(4) 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方に関する基本構想図
 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方に関する基本構想図を【図−1】に示す。

3 木版画における見通しをもった制作を支援するコンピュータ教材の開発

(1) コンピュータ教材開発の目標

ア 構想の段階
 アイディアスケッチをコンピュータに取り込んだ後、白黒の配置を決めたり、白い部分と黒い部分の比率が適切かどうかを数値で判定し、その結果に応じて構想を練るアドバイスを表示できるようにする。その後、画面上でトリミングや絵柄の追加等ができ、下絵を練ることができるようにする。
イ 彫りの段階
 彫刻刀の使い方や刀の効果をコンピュータのビデオ画面や作例をとおして、作業を進めながら必要に応じていつでも見ることができるようにする。また、バックのイメージができるようにする。
ウ 仕上げの段階
 インクの色や淡彩の色を何度でもつけ替えることができるようにする。
エ 保存と呼び出し
 保存と呼び出しが自由にでき、自分の多様な表現に気付かせることができるようにする。
オ 印刷
 印刷したものを見ながら、制作ができるようにする。

(2) コンピュータ教材の概要
 基本構想に基づき、コンピュータ教材開発の目標に従って作成したコンピュータ教材の概要を【図―2】に示す。本コンピュータ教材は、Visual Basic6.0(Windows98対応)で開発したものである。

(3) コンピュータ教材の内容
 本教材で開発したコンピュータ教材「版画イメージくん」の内容の説明を制作の3つの段階に沿って示す。メニュー画面は、図としてあげていないが、呼び出し、保存、印刷、終了、8つの機能画面へのリンクという役目がある。なお、ボタンの数を押さえるため、8つの機能画面どうしはリンクができない設定にした。

ア 構想の段階
 構想の段階では、下絵を完成し、板に絵を転写する直前までのところをコンピュータでイメージできるようにした。コンピュータに取り込んだ絵は、【図−3】「1インクつけ画面」でペンや消しゴムの機能で線を修正しながら黒くする(インクをつける)所を塗りつぶし、白黒の配置を決められる。このとき、間違ったら何度でもやり直すことができるようにした。一度保存した後、次の【図−4】「2白の割合の判定画面」で白い所をクリックするとコンピュータによる読み込みが始まり画面が徐々に分析されていく。判定では、白の割合、下絵修正のアドバイス、予想される彫りの作業時間が表示される。白の割合が25〜40%の場合、下絵のイメージは完成となるが、そうでない場合表示されたアドバイスを参考にして下絵を練り直し、もう一度判定をかけることになる。下絵を練り直す場合、【図−5】「3トリミング画面」で大事な所を切り取ってそこだけトリミングすることができるようにした。まず、切り取りのたてと横を選択し、素材になる画面上でクリックとドラッグをすることにより範囲を指定できる。もし、間違ったら右クリックで範囲を解除できるようにした。範囲を決定したら、トリミングボタンですぐにトリミングが実行される。トリミングした絵は、4箇所に並べて表示することができ、気に入ったものを選んで保存ができるようになっている。絵柄の追加は【図−3】「1インクつけ画面」でできる。こうして、できた下絵を【図−6】「4反対画面」で左右反対にして、刷り上がりの反対の絵を見ることができる。下絵が決まったら、「メニュー画面」にもどって印刷をすることができるようにした。

イ 彫りの段階
 彫りの段階では、まず、具体的にバックをどのようにして良いか決まっていない場合、【図―6】「5バックつけ画面」で7種類のサンプルのなかからバックを選び下絵と合成することができるようにした。保存後「メニュー画面」で印刷し、彫るときの参考にすることができる。これで、彫りまでのイメージができ上がったことになる。彫りの制作での彫刻刀の扱い方や彫りの効果については、【図―7】「6刀の効果画面」で調べることができる。ここでは、彫刻刀の持ち方、丸刀、小丸刀、三角刀、平刀、切り出し刀の6種類についてビデオ画面を通して調べることができる。刀の名前のボタンを押すと、参考例でその刀の彫りの効果が出ている所に線と囲みが表示される。その後ビデオ画面が自動的に起動し、再生が始まるように設定してある。ビデオ画面上で一度クリックすると一時停止し、もう一度クリックすると再生にもどるので動きの細かい所まで調べられる。しかも、何度でも繰り返して見ることができる。児童が、コンピュータを見ながら、実際に彫刻刀の持ち方を確認したり、版の裏に彫る練習をすることができるようにした。

ウ 仕上げの段階
 仕上げの段階では、インクの色を選んだり、インクをつけた後に淡彩を施すことができる。まず、インクの色を決めるには下絵を呼び出し、【図―3】「1インクつけ画面」で色を替えるボタンを押し、替えたい色をマウスで吸い取り、それをどの色に替えたいのか、色のはこから選択して実行する。インクの色は7種類選択できる。色が替わった直後は、前の絵に簡単に戻すことができるようにした。【図―8】「7仕上げ(淡彩)画面」では、更に、淡彩を施すことができる。まず、筆の太さを選択して色を決める。濃さを変えるバーを動かすと同じ色でも濃さの違う色を塗ることができる。インク部分に上書きしてしまっても、なじませるボタンを押すと白い所だけに淡彩が施されるようにした。

エ 絵を見る
 コンピュータの最後の操作段階が終わると、「8絵を見る画面」で、今まで加工し、保存されている画像を順に並べて、自分の多様な発想や多様な表現について鑑賞できるようにした。

4 授業実践と実践結果の分析と考察
 検証計画に基づいて実施した調査及びテストの結果と考察について以下に述べる。

(1) 木版画の制作におけるつまずきについての意識の変容

ア 構想の段階における調査
 構想の段階の事前調査では、つまずきの自由記述は特になかったので、「下絵で思い通りにできたか」という質問に対する結果である【表―1】を掲げる。
 この表から、8名中4名の意識が上がっており、児童の意識としては、思いどおりの下絵ができたと判断して良いと思われる。

イ 彫りの段階における調査
 彫りにおいての事前調査の記述では、彫るときの苦労を「彫るときの力加減が大変だった」「細かい所の彫り」と述べているものが多く、「刀の使い分け」については1名だけ記述していた。「彫りの工夫」というよりは彫りの作業としての意識が強く残っているように思われる。
 彫りの段階における調査【表―2】「彫刻刀の彫りの工夫」では、8名中5名が、事後の意識が高くなっており、彫りに対する「作業」から「彫りの工夫」に児童の意識は変わったと考えられる。

ウ 仕上げの段階における調査
 「版画のインクをどんな色にしたいか」という質問から、「青」「赤」「明るい色」「虹色」等事前でも既に黒以外の刷りのイメージをもっていた児童が多かった。さらに、淡彩による仕上げについては今回が初めての挑戦であるが、でき上がった作品を見て驚きと喜びの反応を示していた。この段階では初めての取り組みのため、児童はつまずきというより、版画の表現の幅が広がったという意識が高くなったと考えられる。

(2) 見通しをもった制作の実際と意識
 これから、見通しをイメージするソフトの活用結果と児童の意識をそれぞれの段階で述べていくことにする。

 【表―3】は最初の下絵の白の割合と版画の完成作品の白の割合である。これを見るとどの児童も白の割合を大きく減らし、画面を充実させたことが分かる。【図―9】は、トリミングにより中心になるものをクローズアップし迫力をもたせたものである。また、【図―10】は、絵柄の追加により画面を充実させた例である。
 【表―3】の修正方法を見て分かるとおり白を減らすためには、画面上の絵柄を増やすことで処理をしているケースが多い。実際に、トリミングの機能を役立てているのは1名だけであり、この児童については【図―9】に示すとおり有効な方法といえる。
 絵柄の追加の手段を取る児童が多かったのは、第一に絵柄と絵柄の間に空間がある場合はトリミングをしても白の割合が変わらなかったためであり、第二に最初からあまり無駄のない下絵ができていたためと考えられる。これらのことから、絵柄と絵柄を切り取ってそれぞれトリミングして画面を再構成できる機能があれば、更に有効であると考えられる。
 一方、意識面については、【表―4】が構想の段階における調査の結果を示している。白黒の配置は「−」評価が多くなっているが、これはコンピュータで黒く塗りつぶす際、下絵の線がとぎれていたので、塗り色がもれないようにするために、何度もやり直しをしなければならなかったためと考えられる。また、児童cAの「−」評価は、マウス操作になれていないため、手間取った所があったためである。
 白黒バランスと反対(左右反対)の機能については、下絵の構想を練るうえで有効であるといえる。
 構想の段階では、結果的には無駄な白の面積を減らし、どの作品もより充実した画面に練り直せたので全体として有効であったと考える。

イ 彫りの段階における調査
 彫りの段階では、まず、実際に彫りに入る前に、ソフトのビデオ画面を参考に彫刻刀の持ち方や5種類の彫刻刀の使い方や効果を視聴しながら、それぞれ練習をした。その実際の彫りの結果が【表―5】である。項目「使った彫刻刀の数」と項目「効果」を見ると、彫りを工夫しようと十分意識したことが分かる。実際の彫りのなかで、三角刀では、魚のひれや細かい所の模様や柔らかい草等に使われている。平刀では、魚の頭や体育館の壁等の硬くゴツゴツした感じを出している。しかし、切り出し刀は平刀を使ったときの境目に使われたにすぎない。
 ソフトのビデオを視聴したときの意識は【表―6】の左側の表である。項目「彫刻刀の持ち方」項目「彫刻刀の効果」を見ると、ソフトで提示された彫りの説明のビデオが児童によく理解されたと考えることができる。
 【表―7】は、バックのつけ方をソフトでイメージしたときの結果である。バックに具体的なものを考えていない場合、どのようにバックを表して良いのか分からないことが多い。しかし、ソフトでイメージした結果の項目「バックのつけ方」や項目「どんなバック」の結果を見ると、「円の流れ」や「かべ」等一人一人がバックに対する自分のイメージをコンピュータの画面に視覚化され、彫りの見通しをもつことができたと考えられる。 このように、ソフトを利用することで、彫りの効果が、実際の作品に生かされたということができる。

ウ 仕上げの段階における調査
 仕上げの段階では、自分の版画のイメージに合わせ、ソフトの操作でインクの色を替えて試した結果が【表―8】であり、更に淡彩を加えて試した結果が【表―9】である。
 【表―8】の結果の項目の「どんな感じ」からは、cMの児童はお祭りの踊りの作品なので、「赤は迫力があると思ったから」という理由で赤を選んでおり、青の場合は「魚を青くしたかったから」と記述している。インクの色に自分のイメージを意味付けていることが分かる。項目「インクを試す」を見て分かるとおり、どの児童も思い通りのインクの色を試すことができている。項目「インクの色」からは、児童の選んだ色は青や緑が多いが、赤や黄色のインクはあまりにも強烈すぎて使う気になれなかったのだと考えられる。これらから、インクの色を試す機能については有効であったと考えられるが、サンプルの色に渋めの黄色や渋めの緑等も入れておけばさらに、有効であったと考える。
 淡彩の試しの結果の記述からは、全員がプラス傾向の評価になっている。淡彩の試しの機能の部分でも良い結果が出ており、仕上げの段階で全体でも有効であると考えられる。

(3) 木版画の制作に対する意欲の変容
【表―10】は図工について、また、【表―11】は木版画についての興味・関心を質問したものである。この二つの表から、興味・関心が幾分高まったものといえる。【表―12】は、授業毎に、「おもしろかったですか」と満足度を質問したものである。下絵の段階や刷り、淡彩での色つけの所では、「++」評価が多く満足度が高い。それに対し、彫りの段階が進むと徐々に評価が下がっている。

彫りの段階では彫りの初めの時間を除いては、コンピュータをほとんど使うことはなく連日彫る作業が続いたので、イメージ通りに彫れてはいるものの、児童の興味が一時的に薄れたといえる。そのため、「楽しかった」「うまくいった」とプラス面の記述が多いが、「指が痛かった」「大変だった」と記述している児童もいた。時間的な制約の中での実践であったことを考慮して判断すると、コンピュータの使用は児童の意欲面でも損なうことはなく、興味・関心を高めるものであると考えられる。

(4) コンピュータ教材の操作性
 【表―13】は、コンピュータの操作性についての調査結果である。これを見ると全てプラス傾向の評価であるが、「下絵」では、前述した通り下絵を練り直すために、多少戸惑いがあったのは事実である。ソフト全体としては、調査結果から、操作性が優れているといえる。

(5)作品からの評価
 評価規準は次の【表―14】「作品からの評価規準」として示す。

 作品からの評価規準に基づいて8人の児童の作品を評価したものが【表―15】、また児童の作品例が【図―11】である。ABCの3段階で、どの児童の作品もどの制作段階でもAまたはBであり、それぞれの良さが出ている作品である。

5 木版画における見通しをもった制作の指導の在り方についてのまとめ
 本研究では、見通しをもった制作の指導の在り方を明らかにするため、でき上がりを視覚的にイメージできるコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおしてその有効性を検証した。その結果、成果及び課題として次のことが考えられる。

(1) 成果として考えられること

ア 自分のイメージを、コンピュータ画面において視覚化した画像として加工をすることで、様々に試すことができたので、それをもとに失敗することなく制作を進め、彫りや色の効果を生かしたより豊かな表現をすることができたこと
イ 構想の段階では、特に、白の割合について意識をもたせることで彫り過ぎを意識させ、より充実した下絵を作ることができたこと
ウ 彫りの段階では、ビデオ画面で彫刻刀の種類とその効果について、児童が納得いくまで何度でも調べその効果を実際の彫りに生かすことができたこと
エ 仕上げの段階では、インクの色や淡彩の色を自由に試し、主題の雰囲気を高めるのに役立てることができたこと

(2) 課題として考えられること
 画像を取り込み加工できる状態にする際の操作と拡大印刷のスムーズ化や、彫りの効果の内容を更に充実させること

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、でき上がりを視覚的にイメージできるコンピュータ教材の開発をし、授業実践をとおして見通しをもった制作の指導の在り方を明らかにすることによって、高学年の木版画における指導の改善に役立てようとするものである。
 これまでの研究や授業実践をとおして、本研究で開発したコンピュータ教材を用いることは有効であり、高学年の木版画において見通しをもった制作の指導の在り方を明らかにすることができた。
 また、見通しをもって制作し自分の思いに迫れることは、つくりだす喜びを大きく引き出し、自ずと造形的な創造活動の基礎的な能力も育むことが検証された。
 今回の授業実践では、コンピュータ教材の全ての機能ページを活用したが、学級の実態等に合わせて必要な機能だけを使うことも有効であると考える。

2 今後の課題
 操作のスムーズ化とコンピュータ教材の提示内容の充実を図るため、更なるソフトの改良が必要である。また、コンピュータを使う効果的なタイミングも検討していく必要がある。


【主な参考文献】
文部省 「小学校学習指導要領解説、図画工作編」 1999年
東山明著 「美術教育の基軸と課題」明治図書 1998年
菊池俊治・山高登・木村義治・大内香峰著 「木版画ノート」視覚デザイン研究所 1997年
授業技法研究会編 「授業研究双書1指導プログラムの理論と作成(T)」才能開発教育財団 1986年
授業技法研究会編 「授業研究双書2指導プログラムの理論と作成(U)」才能開発教育財団 1986年
互野恭治著 「Visual Basic6でエンジョイプログラミング」CQ出版社 1999年
谷尻かおり著 「Visual Basic6レベル2プログラミング」技術評論社 1999年



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