岩手県立総合教育センター研究集録(2000)


社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導に関する研究

−「新聞」を活用した追究活動をとおして−

胆沢町立南都田中学校 教諭 皆川 英香


T 研究目的

 社会科の学習においては、社会的事象を自分自身や自分の生活とのかかわりで考え、正しい判断ができる力を育てることが求められている。そのためには、資料を適切に収集・選択・活用しながら社会的事象を多角的に観察・調査し、それを表現する活動をとおして、社会的な思考力を深めることが大切である。
 しかし、本校の生徒の実態をみると、社会科の学習に意欲をもって取り組み、具体的な事実や出来事をとらえることはできるようになってきているものの、一面的な理解にとどまり、その意味を幅広く考えるところまでには至っていない。これは、学習課題を追究する過程において、社会的事象を多角的にみて自分の考えをまとめさせるような指導が不十分だったことによるものと思われる。
 このような状況を改善するためには、社会的事象をより広い視野からみつめることのできる資料として「新聞」を活用し、異なった立場から課題を調査して、その主張を述べ合い、相互に交流しながら、自分の考えをまとめる学習活動を行わせる必要がある。
 そこでこの研究は、中学校社会科において、「新聞」を活用した追究活動をとおして、社会的な思考力を深める学習指導の在り方を明らかにし、中学校社会科の学習指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 中学校社会科の学習指導において、「新聞」を活用した追究活動を次のように行えば、生徒の社会的な思考力が深まるであろう。
 (1) 異なった立場から学習課題を調査し、各グループごとに主張を検討する。
 (2) 学習課題に対して、各グループごとに主張を述べ合い、それぞれの意見を交流する。
 (3) 意見交流を踏まえて、学習課題に対する自分の考えをまとめて、発表する。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導についての基本構想の立案
 (2) 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導についての指導試案の作成
 (3) 単元「選挙・政党・世論」の学習指導案の作成
 (4) 単元「選挙・政党・世論」の授業実践
 (5) 実践結果の分析と考察
 (6) 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導の在り方のまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法  (2) 質問紙法  (3) テスト法  (4) 授業実践

3 授業実践の対象
 胆沢町立南都田中学校 第3学年 1学級 (男子13名 女子14名 計27名)

W 研究結果の分析と考察

1 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導についての基本構想

(1) 社会的な思考力を深めることについての基本的な考え方

ア 社会的な思考力を深めることの意味
 社会的な思考力とは、広い視野から社会的事象間の関連を見きわめ、社会的事象を成り立たせている諸条件を分析しながら、その意味を考える力のことである。そして、この力の育成の先にあるのが、いわゆる正しい社会的判断なのである。このことから、中学校社会科における社会的な思考力を深めることとは、社会的事象の多様な側面をみつめながら、自らの考えをもち、その時々の状況を踏まえつつ正しい判断ができる力ととらえることができる。これは、社会的事象を観察・調査するなかで事実を正確に認識し、社会的事象を多角的にみて、その多面性を理解しながら、社会的事象を自分自身や自分の生活とのかかわりで考えることによって育つものと考える。
 そこで、本研究では、中学校社会科における社会的な思考力の深まりは、次の三つの要素から構成され、それぞれ次のような意味をもつものとする。
 

イ 社会的な思考力を深めることの意義
 これからの社会科の授業では、知識を一方的に教え込むことになりがちであった学習指導を改め、生徒たちが自ら学び、自ら考える学習指導への転換が求められている。
 コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用して、大量の情報を入手することが可能な現代社会においては、生徒自身が自らの判断で主体的に情報をよりわけながら、これまでの生活経験や学習をとおして、それぞれが自分の『見方や考え方』を培っていかなければならない。
 このように、情報が氾濫し、国内的にも国際的にも解決が難しい問題が山積みされている変化の激しい現代社会にあって、社会的な思考力を深めることは、民主的な共同社会の一員としての自覚をもち、よりよく生きる力の基礎となるものとして重要であると考える。

(2) 社会的な思考力を深める中学校社会科における学習指導の在り方

ア 「新聞」を活用した追究活動を行うことの意味
 「新聞」を活用した追究活動とは、生徒がもつ興味・関心に従って学習課題を設定し、その課題の解決に向け複数の新聞を読み比べたり、価値判断の異なる新聞記事を利用して、グループに分かれて記事を根拠資料とした討論などを行いながら、考える力を育てていく活動のことをいう。そのほかにも、テーマ別にノートをつくり関係のある記事や写真を貼っていき、それに対する感想を書きながら、課題の追究を行っていくかたちなどもある。本研究では、「新聞」を活用した追究活動を、一つの学習課題について、異なる立場のグループに分かれ、それぞれの立場からの視点で、複数の新聞を使い学習課題を多角的に追究しながら、記事を根拠資料として自分たちの立場からの主張を述べ、互いの意見を交流させていく活動のかたちをとる。
 「世の中はどうなっているのだろう。」「世界では何が起きているのだろう。」という生徒たち自身の社会への興味・関心を大切に育てていく教材としての「新聞」が、今、起こっている社会の様々な問題に関しての考えを深め、また、他者の考えも聞き、それを自分の中に受け入れながら、よりよい判断力を培い、21世紀をたくましく生きる力の糧となっていくものと考える。

イ 社会的な思考力を深めるために、「新聞」を活用した追究活動を行うことの意義
 今、教育に新聞を取り入れる『NIE』(Newspaper in Education)が注目されている。それは、その実践が知識を単に暗記させるだけのものではなく、自ら考え、自分の意見をもち行動できる力を育成する幅広い人間教育を重視したものとなっているからである。
 社会科の学習において、このような「新聞」を活用した追究活動を行うことには、次の点で意義があると考える。

(ア)  複数の新聞を活用することにより、社会的事象の様々な側面がみえ、多角的な視点からの追究活動が可能なこと
(イ)  情報の集め方、調べ方、まとめ方などを学べること
(ウ)  最新の情報やデータが得られ、国内外の現実の社会を知ることができること
(エ)  生き方や社会の在り方を考えさせる問題まで記事として提供されるようになってきていることが社会への関心を高め、自ら考え、自分の意見をもち行動する力の育成に有効となっていること

 そこで本研究では、社会的な思考力を深める手だてとして、「新聞」を活用した追究活動を学習指導過程のなかに取り入れることとした。

ウ 社会的な思考力を深めるために、「新聞」を活用した追究活動を行う指導の展開
 「新聞」を活用した追究活動を行い、社会的な思考力を深めていく学習指導過程を、「つかむ段階」、「調べる段階」、「まとめる段階」の三段階とし、それぞれの段階の指導内容やねらいを次のように考える。

(ア) つかむ段階
 社会的事象に着目させ、学習課題を設定させるとともに、「新聞」を活用した追究活動の意義や手順及び内容について確認し、見通しをもたせる。
(イ) 調べる段階
 「新聞」の情報収集の仕方、調べ方、まとめ方を事前によく確認する。各グループごとに、複数の「新聞」を読み比べて必要な情報を収集し、自分たちの立場からの視点を明確にしながら、学習課題を調査させる。さらに、各グループごとに、収集した「新聞」の調査内容を根拠資料となるようにまとめ、学習課題に対する自分たちの立場からの主張を検討し発表の準備をさせる。その際、情報を適切に取捨選択しながら、収集した情報から、社会的事象の特色をつかみ、事実を正確に認識できるようにする。
 意見交流の場面では、互いの主張を聞き、それをもとに、自分たちの立場から、他者(異なる立場の者)に対して、質問・意見を述べさせる。その際、社会的事象の相互の関係に着目しながら各グループの主張を聞くことにより、社会的事象の多面性を理解し、その意味を考えることができるようにする。
(ウ) まとめる段階
 意見交流を踏まえて、学習課題に対する自分の考えをまとめ、その内容を発表させる。その際、社会的事象を自分自身や自分の生活とのかかわりで考え、自分の判断をくだすことができるようにする。

(3) 社会的な思考力を深める中学校社会科における学習指導についての基本構想図
 これまで述べてきたことをもとに、社会的な思考力を深める中学校社会科における学習指導についての基本構想図を【図−1】のように作成した。

2 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導についての指導試案

(1) 「新聞」を活用した追究活動を行う指導上の手順と留意点

ア つかむ段階

@  生徒自らが進んで時事的な問題と向き合い、情報収集に意欲をもてるような学習課題を設定する。

イ 調べる段階

A  資料を適切に収集・選択できるように、調べ方、集め方を確認する。
B  資料の要点をおさえ調査内容を適切に分類し整理できるようにブレストシート(学習課題に対して予想したことを自由に書くシート)、調査活動シート等を活用する。
C  グループ内での話し合いの仕方、互いに調べたことのまとめ方等を確認する。
D  グループ内での個々の生徒の役割を明確にする。
E  調べた資料を根拠として発表ができるように、資料の適切な読みとり方について確認をする。
F  資料を読みとるための補助的な資料として、国語辞典や百科事典などを準備させ、より深い読みとりが可能となるようにする。

ウ まとめる段階

G  自分の考えを適切にまとめ発表ができるように、異なる立場の主張をメモするシートを活用する。

(2) 「新聞」を活用した追究活動を取り入れた学習指導過程試案
 実態調査から明らかになったことを考慮して、学習指導過程試案を【表−1】のように作成した。

(3) 検証計画
 授業実践をとおして指導試案の妥当性をみるために、【表−2】のように検証計画を作成し、事前と事後にテスト及び調査を実施し、検証を進める。

3 単元「選挙・政党・世論」の学習指導案(省略)

4 単元「選挙・政党・世論」の授業実践

(1) 授業実践の計画
ア 対象
 胆沢町立南都田中学校 第3学年 1学級

イ 能力群の編成
 指導試案に基づく授業実践前後の生徒の変容を詳しくみるために、能力群を編成した。能力群の編成にあたっては、1学期に実施した中間テストと期末テストの結果を偏差値に換算し、その相加平均をもとに上位13名、下位12名の二群に分けた。

ウ 授業実践期間
 平成12年9月4日〜9月30日

エ 単元「選挙・政党・世論」の指導計画(15時間扱い)

@ 単元のオリエンテーション (1時間) 「調べる段階」(7)
A 選挙のしくみ(1時間)  ・学習課題についての調査活動
B 政党の意義とはたらきと政党政治の実際(1時間)  ・主張文の作成
C 国民の声−世論と政治−(2時間)  ・発表の準備
D 少年法の改正と世論(10時間)  ・主張文の発表、意見交流
 「つかむ段階」(2) 「まとめる段階」(1)
  ・学習課題の設定・新聞活用の意義  ・学習課題に対する自分の考えのまとめ
  ・グループ編成・課題に対する初発の考え  ・まとめた内容の発表

(2) 授業実践の概要
 【資料−1】は、指導試案に基づく授業実践の「調べる段階」を示したものである。国民の声−世論と政治−の授業での「世論が政治に及ぼした出来事や、今、社会で話題となっている時事的な課題を具体的にあげてみよう」という話し合いのなかで、学級の多くの意見として、最も関心が高い課題として提示されたものを追究活動での学習課題として設定し、四つの立場にわかれて、「新聞」を活用した追究活動を進めていった。

《 授業の考察 》 【資料−1】で提示した生徒がグループで作成した主張文(一部抜粋)をみると、生徒は新聞をもとに社会的事象をみつめ、調査内容を手順にそって順序よくまとめながら、根拠を明らかにし主張文を作成することができるようになってきていることがわかる。これは、各グループごとに、複数の「新聞」を読み比べて必要な情報を収集しながらそれぞれの立場から学習課題を調査し、理由別主張文シートを活用し、グループとしての主張を組み立てていったことによるものと考える。また、【資料−1】で提示した意見交流の場面での生徒の発言(一部抜粋)をみると、生徒は調査した自分の立場を踏まえながら、その内容と他者の立場の発表を比較して考えることができるようになってきていることがわかる。これは、それぞれの立場から調査しまとめた主張文を、互いに聞き合い、それをもとに自分たちの立場から他者の立場に対して質問・意見を述べたためと考える。

5 実践結果の分析と考察

(1) 社会的な思考力の深まりの状況

ア 社会的な思考力の深まりの状況についてのテスト結果
 【表−3】から、社会的な思考力の深まりの状況については、t検定(平均の差の検定)の結果、学級全体と上位群に有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、各グループごとに、自分たちの立場からの視点を明確にしながら学習課題を調査し、それぞれの立場からの意見を交 流させ、それを踏まえて学習課題に対する自分の考え をまとめる活動を取り入れたことによるものと思われる。
 しかし、下位群の生徒においては、有意差が認められなかった。これについての詳細は、構成要素別の分析と考察で述べる。

イ 社会的な思考力の深まりの状況についての構成要素別のテスト結果
 次に、社会的な思考力の深まりの状況について、「社会的事象を的確にとらえる力」「社会的事象を多角的にみる力」「社会的事象を正しく判断する力」の各構成要素別に分析と考察を行った。

(ア) 社会的事象を的確にとらえる力の形成状況
 【表−4】から、社会的事象を的確にとらえる力の形成状況については、t検定の結果、学級全体と上位群に有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、各グループごとに、複数の「新聞」を読み比べて必要な情報を収集しながら、それぞれの立場から学習課題を調査し、主張文を作成していく活動を取り入れたことによるものと思われる。このような学習活動により、生徒は明らかな根拠資料をもとに社会的事象をみつめ、調査内容を手順にそって順序よくまとめることができるようになり、社会的事象を的確にとらえる力が形成されていったものと考える。
 しかし、下位群の生徒においては、有意差が認められなかった。これは、調査活動を行う際に、「新聞」を読む視点、記事を探す視点を明確にしてから内容を読みとらせる指導が、十分ではなかったことによるものと思われる。今後は、調査活動を行う段階で、資料の見方や着目の仕方をより正しくするための支援を工夫し、正確な読みとりのもとに調査内容を整理できるようにすることが必要であると思われる。併せて、日常的に「新聞」を読む習慣が身に付くよう、「新聞」の記事内容を学習課題と関連づけて社会的事象を追究していく活動を継続できるようにすることも、必要になってくると思われる。

(イ) 社会的事象を多角的にみる力の形成状況
 【表−5】から、社会的事象を多角的にみる力の形成状況については、t検定の結果、学級全体と上位群に有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、意見交流の場面で互いの立場からの主張を聞き合い、それをもとに自分たちの立場から異なる立場の者に対して質問・意見を述べる活動を取り入れたことによるものと思われる。このような学習活動により、生徒は調査した自分の立場を踏まえながら、その内容と異なる立場の発表を比較し考えることができるようになり、社会的事象を多角的にみる力が形成されていったものと考える。
 しかし、下位群の生徒においては、有意差が認められなかった。これは、互いの立場からの主張を聞く際にそれぞれの主張の要点をシートにメモする活動を取り入れてはみたものの、主張文のどの部分に着目して整理したらよいのかという指導が、十分ではなかったことによるものと思われる。今後は、主張文を述べる場面で、互いの発表を聞く視点を明確にし、聞いた内容のまとめ方等を工夫しながら要点を整理して、それらを比較・検討できるようにすることが必要であると思われる。

(ウ) 社会的事象を正しく判断する力の形成状況
 【表−6】から、社会的事象を正しく判断する力の形成状況については、t検定の結果、学級全体と上位群に有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、意見交流を踏まえて、学習課題に対する多様な見方や考え方を受け入れながら、自分の考えをまとめる活動を取り入れたことによるものと思われる。このような学習活動により、生徒は社会的事象を自分自身や自分の生活とのかかわりで考えることができるようになり、社会的事象を正しく判断する力が形成されていったものと考える。
 しかし、下位群の生徒においては、有意差が認められなかった。これは、多様な見方や考え方を、どのように自分の考えと絡めていったらよいのかという指導が、十分ではなかったことによるものと思われる。今後は、様々な立場からの多様な考えの、どの部分を自分の考えの土台としまとめていくのかという視点を明確にしながら、見方や考え方を取捨選択し判断ができるようにすることが必要であると思われる。

(2) 単元で学習する内容の習得状況
 【表−7】から単元全体の有効度指数は、学級全体で40、上位群56、下位群28という値を示していることがわかる。観点別にみても、単元全体の有効度指数とほぼ同じ傾向にあり、上位群に比べ下位群が全体的に低い値を示している。このことから単元の指導においては、習得すべき基本的な用語や事柄等を、学習課題と関連づけながら繰り返し確認をしていくことが必要であるといえる。

(3) 学習に関する意識の変容状況

ア 社会科の学習に関する意識の変容状況
 【表−8】から、社会科の学習に関する意識の変容状況については、χ2 検定(変化の検定)の結果、設問3で有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、自分たちにとってより身近で切実な問題としてとらえることのできる課題を、多様な立場に立ち追究したことにより、社会的事象への興味・関心が高まり、自分の考えをもつことの大切さを認識できるようになってきたことによるものと思われる。設問2でも肯定的な回答をしている生徒が多かった。これは、グループでの活動の際に、一人一人の役割を明確にしながら調べ学習を進めたことにより、意欲的に調べようとする意識が高まってきたことによるものと思われる。

イ 社会的な思考力を深める学習に関する意識の変容状況
 【表−9】から、社会的な思考力を深める学習に関する意識の変容状況についてはχ2 検定の結果、設問4で有意差が認められたことがわかる。これは、指導試案に基づく授業実践で、異なる立場から学習課題を調査し、それを交流し合ったことにより、多角的な視点から社会的事象を追究できるようになり、より深い考えへとつなげていく手がかりをみつけられたことによるものと思われる。
 しかし、設問7では事前・事後とも否定的な回答をしている生徒が8人いた。これは、指導試案に基づく授業実践では手だてにそって自分の考えを深めることができるようになってきたものの、それを自分自身とのかかわりで、継続して日常的に意識させていくための指導が、十分ではなかったことによるものと思われる。

ウ 「新聞」を活用した追究活動を取り入れた学習に関する意識の状況
 【図−2】から、「新聞」を活用した追究活動を取り入れた学習について、設問8で生徒全員が「時事的な課題を追究していくうえで役に立った。」という肯定的な回答をしていることがわかる。その他、四つの設問についても、学級全体の85%以上の生徒が肯定的な回答をしていることから、「新聞」を活用した追究活動を取り入れた指導試案に基づく授業は、生徒に好意的に受け止められ、一人一人の考えを深めるのに役に立ったと考える。

6 社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導の在り方のまとめ
 これまで、指導試案に基づき単元「選挙・政党・世論」の授業実践を行い、実践結果の分析と考察をとおして、その妥当性を検討してきた。そこで、社会的な思考力を深める中学校社会科の学習指導の在り方について、「成果として考えられること」「課題として考えられること」の二点についてまとめるとともに、「学習指導の在り方の改善点」を示すことにする。

(1) 成果として考えられること

 各グループごとに、複数の「新聞」を読み比べて必要な情報を収集しながら、それぞれの立場から学習課題を調査し、主張文を作成していく活動を取り入れたことにより、生徒は社会的事象の特徴をつかみながら事実を正確に認識できるようになってきた。
 意見交流の場面で互いの立場からの主張を聞き合い、それをもとに自分たちの立場から異なる立場の者に対して質問・意見を述べる活動を取り入れたことにより、生徒は社会的事象を多様な側面からとらえながらその意味を考えることができるようになってきた。
 意見交流を踏まえて、学習課題に対する多様な見方や考え方を受け入れながら、自分の考えをまとめる活動を取り入れたことにより、生徒は社会的事象を自分自身や自分の生活とのかかわりで考えながら、より深い考えをもてるようになってきた。
 「新聞」を活用した追究活動を取り入れた指導を行うことにより、生徒は一層意欲的に調査活動に取り組むようになり、進んで時事的な課題と向き合っていこうという態度がみられるようになってきた。

(2) 課題として考えられること

 「新聞」を活用した追究活動は、下位群の生徒の社会的な思考力を深めるうえで、十分ではなかった。
 単元で学習する基本的な用語や事柄等の習得状況について、上位群の生徒に比べ下位群の生徒の習得状況が、十分ではなかった。

(3) 学習指導の在り方の改善点

 調査活動を行う段階において、「新聞」を読む視点や記事を探す視点を、より明確にしてから内容を読みとらせていく必要がある。
 意見交流を行う段階において、互いの立場からの主張を聞く際に、主張文のどの部分に着目して内容を整理し、それを討論につなげていけばよいのかという視点を明確にする必要がある。
 考えをまとめる段階において、多様な見方や考え方を、どのように自分の考えと絡めていけば、より深い考えを導きだしていけるのかという視点を明確する必要がある。
 単元で習得すべき基本的な用語や事柄等を常に意識させながら、学習課題と関連づけて繰り返し確認をしていく必要がある。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、中学校社会科の学習指導過程において、「新聞」を活用した追究活動を行うことにより、社会的な思考力を深める学習指導の在り方を明らかにし、中学校社会科の学習指導の改善に役立てようとするものであった。その実践結果を、社会的な思考力の深まりの状況、単元で学習する内容の習得状況、学習に関する意識の変容状況の三点から分析し考察することによって、仮説の有効性を検証してきた。その結果、次の点について明らかにすることができた。

(1) 中学校社会科の学習指導において、「新聞」を活用した追究活動を行うことは、社会的な思考力を深めていくうえで有効であった。
(2) 中学校社会科の学習指導において、「新聞」を活用した追究活動を行うことは、生徒自身に時事的な課題と進んで向き合い自分の考えをもつことの大切さを実感させ、学習に対する意欲を高めることに有効であった。

2 今後の課題

(1) 公民的分野の学習のみならず地理的分野や歴史的分野の学習においても、本指導試案を有効に活用できるように、検討・改善を加えていく。
(2) 生徒一人一人が進んで時事的な課題と向き合いながら、自分の考えをしっかりともてるように、他教科との連携も図りながら、「新聞」を活用した追究活動の形態を多様化する。


<主な参考文献>
・ 香川県社会科教育研究会編 「社会科における思考の構造」 明治図書 1964年
・ 北  俊夫著 「『生きる力』を育てる社会科授業」 明治図書 1996年
・ 妹尾  彰編著 「NIE実践事例集 中学校編」 あゆみ出版 2000年



岩手県立総合教育センター
〒025-0301 岩手県花巻市北湯口第2地割82番1
TEL:0198-27-2711(代)
FAX:0198-27-3562(代)
Copyright(C) The Comprehensive Educational Center of Iwate