岩手県立総合教育センター研究集録(2000)


高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導に関する研究

−地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動をとおして−

岩手県立宮古高等学校川井校 教諭 佐藤 香菜


T 研究目的

 情報化の進展に伴い、著しく変化している社会においては、他者と共生し主体的に生きるために、目的や場に応じて適切な表現方法を選択し、自ら進んで表現する態度が求められている。こうした状況から、高等学校「国語表現」の学習指導においては、言語表現の役割を認識し、言語感覚を磨いて、適切に表現する能力を高めることが必要である。
 しかし、本校の生徒の実態をみると、自分の気持ちを思いついたまま言葉にはするものの、目的や場に応じて話すことができるまでには至っていない。これは、円滑な社会生活を送るためには、聞き手が理解しやすいよう、表現方法を工夫して話す必要があるということを実感させる指導が不足していたためと思われる。
 このような状況を改善するためには、地域社会の人々が、どのような点に留意して実際の言語生活を営んでいるかを調査することによって、自身の言語生活を見つめ直し、調査結果を交流し、実践的行動に生かすよう相互評価するという学習活動を行うことが有効であると考える。
 そこで、この研究は、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動をとおして、適切に表現する能力を高める学習指導の在り方を明らかにし、高等学校「国語表現」の学習指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 高等学校「国語表現」の学習指導において、地域社会の言語生活調査に基づいた次のような学習活動を行えば、適切に表現する能力を高めることができるであろう。
 (1) 地域社会における言語生活の特徴や工夫について、グループ毎に聞き取り及び観察調査を行う。
 (2) 調査結果をまとめる過程をとおして、自身の言語生活を振り返り、問題点を明らかにする。
 (3) まとめた調査結果を交流し、発表内容及び方法について実践的行動に生かすよう相互評価する。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導についての基本構想の立案
 (2) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導についての指導試案の作成
 (3) 単元「聞くこと話すこと」の学習指導案の作成
 (4) 単元「聞くこと話すこと」の授業実践
 (5) 実践結果の分析と考察
 (6) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導の在り方のまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法 (2) 質問紙法 (3) テスト法 (4) 授業実践

3 授業実践の対象
 岩手県立宮古高等学校川井校 第3学年 就職コース (男子8名 女子7名 計15名)

W 研究結果の分析と考察

1 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導についての基本構想

(1) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高めることについての基本的な考え方

ア 適切に表現する能力を高めることの意味
 「表現」とは、感覚的に捉えられる方法で自分の意思を外面に表すことをいう。日常生活においては多種多様な表現方法を用いて意思の伝達を図っているが、本研究では、円滑な社会生活を送るためには話すことが必要不可欠な表現方法であると考え、話す能力を高めることを中心に研究を進めていくものとする。
 よって「適切に表現する」とは、話す「相手」「目的」「場所」を的確に把握し、自分の意思を話すことで正確に伝えることを意味し、その過程において、構成要素として次の三つの力が働くものと考える。

 (ア) 選択する力・・・聞き手を意識して、目的や場に応じた話題を選択する力
 (イ) 構成する力・・・聞き手を意識して、目的や場に応じて選択した話題を配列する力
 (ウ) 発話する力・・・聞き手を意識して、目的や場に応じた表現方法を用いて話す力

 さらに(ウ)の発話する力には、技能面と態度面があると考え、その両面から高めていくものとする。
 構成要素の三つの力が高まると、聞き手が理解しやすいよう表現方法を工夫し、目的や場に応じた話し方で話すことができるようになる。この状態を「適切に表現する能力が高まった姿」と考える。

イ 適切に表現する能力を高めることの意義
 情報化の進展に伴い、不特定多数との交流が可能になっていく一方、身近な他者に対して直接意思を表現する機会が減少し、そのことが人間関係を希薄にする一因でもあると思われる。
 その結果、一人では解決し難い問題が生じても、それを他者に向けて表現し、共有することができず、短絡的な方法で自分の欲求を満たそうとする若年層の行動が大きな社会問題となっている。
 こういう社会状況の中で、精神的に成長し合えるような人間関係を築くためには、確実な意思伝達の方法を身に付けることが必要である。特にも、本研究の指導対象である高校3年生は、社会人としての生活を近い将来に控えていることから、適切に表現する能力を高めることは急務であると考え主題として掲げる。

(2) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導

ア 高等学校「国語表現」の目標
 現行の高等学校「国語表現」は、平成15年度から「国語表現T」「国語表現U」と改編され、「国語表現T」が選択必修科目となる。現行の「国語表現」並びに改訂された「国語表現T」の目標は次のとおりである。

現行 国語で適切にまた効果的に表現する能力を高めるとともに、思考力を伸ばし言語感覚を磨き、進んで表現することによって生活を充実させる態度を育てる。
改訂 国語で適切に表現する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力を伸ばし言語感 覚を磨き、進んで表現することによって社会生活を充実させる態度を育てる。

 これらの目標から、「国語表現」は社会生活に生かすことのできる言語能力や表現態度を育成するための実践的な指導が必要とされる科目であることがわかる。

イ 地域社会の言語生活調査の意味
 一般的に言語生活とは、様々な生活の場において、話し言葉と文字を用いた活動全般を意味する。  本研究では、円滑な社会生活を送るためには話すことが必要不可欠な表現方法であると考えることから、社会生活の場における話し言葉を中心とした言語生活と限定する。
 そこで「地域社会の言語生活調査」では、地域の職場を言語生活の場として取り上げる。その職場固有の言葉や言葉の遣い方、また職業上接する相手との言葉を介した接し方やその心構えについて、職業毎の特徴や工夫を調査する活動を意味する。

ウ 地域社会の言語生活調査を取り入れることの意義
 本研究は、卒業とともに社会人となることを前提とした、高校3年生の就職コースの生徒を対象としている。こうした状況と前述の「国語表現」の目標とを考え併せ、地域社会の職場毎の言語生活の特徴や工夫について、グループ毎に聞き取り及び観察調査する活動を、学習指導過程の中に取り入れる。
 このことは、適切に表現する能力を高めるうえで、次の点で意義があると考える。

 (ア) 職場で実際に調査活動を行うことで、職場毎の言語生活の特徴や工夫を実感できる。
 (イ) 調査結果と自分自身の言語生活を比較することで、話し方を中心とした問題点が明確になる。
 (ウ) 自分自身の言語生活の問題点を明確にすることで、話し方を中心とした言語生活の改善が図られる。
 (エ) 職場における言語生活の工夫や心構えを自分自身の表現活動に生かすことで、社会生活を充実さ せる態度が身に付く。

(3) 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導についての基本構想図
 これまで述べてきたことをもとに、高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導の基本構想図を下の【図−1】のように作成した。

2 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導についての指導試案

(1) 地域社会の言語生活調査を取り入れた学習指導過程試案
 指導試案作成にあたり、国語の学習に対する意識を把握するために実態調査を実施した。(本資料では調査問題は省略)
 その結果をふまえて、地域社会の言語生活調査を取り入れた学習指導過程試案を、下の【表−1】のように作成した。

(2) 検証計画の概要
 授業実践をとおして指導試案の妥当性をみるために、下の【表−2】の検証計画を作成し、事前と事後に自作のテスト及び調査を実施して検証を進めることにする。(本資料ではテスト問題及び調査問題は省略)

3 単元「聞くこと話すこと」の学習指導案 (本資料では省略)

4 単元「聞くこと話すこと」の授業実践

(1) 単元「聞くこと話すこと」の指導計画(11時間扱い)
 

(2) 地域社会の言語生活調査について
 本単元は、教材文をとおして学んだ話し方を、実践をとおして身に付けていくことを目標としている。そのための実践的学習活動として、地域社会の言語生活調査を位置付けるものとする。
 言語生活調査の対象となる職場は、生徒にとって身近な地域社会にあり、職業上接する相手との言葉を介した接し方や心構えについての特徴や工夫が顕著であるという観点に基づいて以下の5箇所を選定した。
 

(3) 地域社会の言語生活調査に関わる指導者と事業所間との交渉手順
 事業所との交渉の手順を次に示す。
 @ 電話での調査依頼
 A 調査の打ち合わせ
 B 依頼文書の発送
 C 調査の実施
 D 礼状の発送

(4) 地域社会の言語生活調査の方法
 @ 提示した5箇所の言語生活調査対象の中から、進路希望や興味・関心に応じて、生徒が各自で1箇所の職場を選択し、調査する職場毎のグループを構成する。
 A 構成したグループでもう1箇所の調査対象となる職場を選択し、2箇所の調査対象毎に調査項目を選択、構成して、調査活動の手順に従って役割分担を行う。
 B グループ毎に2日に分けて2回(授業各1時間ずつ)、1箇所ずつ職場に出向いて、聞き取り及び観察調査を行い、発表に向けて調査内容をまとめる。

(5) 授業実践の概要

ア 課題把握(1/11時間)
 教材文を通読して内容を把握し、学習プリントを用いて「話し方」についての問題点について考え、「話し方」を学ぶことの目的を明確にした。

(ア) 言語生活調査事前準備活動(2/11〜3/11時間)
 5箇所の調査対象について希望別にグループを構成し、下の【資料−1】と、学習資料「調査項目の例」を用いて、1回目の調査活動に向けてグループ毎に役割分担、調査目的の整理、調査項目の選択、構成を行った。
 この活動では、言語生活調査の目的を把握させることがねらいであったが、「言語生活」の認識が不十分であったため、業務内容に関する質問項目を挙げるグループが多くみられた。そこで、グループ毎に調査目的について再度説明し、質問項目の例を示した学習資料を参考にして、再考を促すよう指導した。こうすることによって、調査目的に応じた調査項目の選択、構成ができるようになったものと思われる。

(イ) 言語生活調査活動2回目(5/11時間)
 1回目の調査活動終了後、グループ毎にまとめた下の【資料−2】では、調査目的が理解されず、目的からそれた回答を得たことや、質問項目を要領よくまとめていかないと、手際よく質問することができないなど具体的な反省点を挙げていることがわかる。反省を踏まえて2回目では、調査目的の把握から、項目の選択、構成に至る事前準備の過程をさらに吟味した結果、相手の話を落ち着いて聞くことができ、その場でさらに掘り下げた質問をする生徒がみられるようになった。
 ただ、事前に決めた役割分担が固定され、活動が限定されてしまったため、調査活動をとおして「話す」「聞く」「書く」という一連の学習活動を行うことができない生徒もみられた。この点を改善するためには、2回の調査活動において役割を交代して、学習目的に応じた活動を一通りできるような配慮をすることが必要である。

(ウ) 言語生活調査事後交流活動(7/11〜8/11時間)

@ 言語生活調査のまとめ
 調査内容を整理し、自身の言語生活と比較して問題点を把握するために、下の【資料−3】を用いて、各項目に沿ってまとめる活動を行った。そして、問題点の改善を図る場として、調査活動の発表を位置付け、表現方法を工夫した発表となるよう指導した。
 発表用のまとめ用紙の作成は、色画用紙を用いて、2箇所の調査対象についてのまとめをそれぞれ1枚ずつ、2箇所を比較しての違いや共通点などについてのまとめを1枚、グループ毎に合計3枚を作成した。調査結果の中から、「職場における言語生活の工夫」という目的に応じたものを選択し、発表資料として聞き手の理解しやすさを考慮して作成するよう指導した。

A 発表・相互評価(9/11〜10/11時間)
 下の【資料−4】を発表方法の検討段階で配布し、評価の観点を説明し、発表の工夫や心構えについて意識させるよう指導した。
 その結果、【写真−2】のように、生徒2人が質問する側と答える側に分かれ、聞き手の理解しやすさを意識して会話調でやりとりするような工夫がみられた。
 話し方の技術面については、「発表評価シート」により発表の観点を意識したことが、話し方に表れ、改善の様子が顕著に表れる生徒が多くみられた。
 しかし、評価の観点は把握できても、実際に話し方の態度面に表すまでには至っていない生徒もみられた。この状態を改善するためには、評価の観点を示すだけではなく、実際に評価項目について、具体的な実例を挙げて体得させるような指導が必要であると思われる。
 相互評価の方法についても、シートに記入するだけではなく、その場で発表に対する感想を述べ合うことによって、改善への意欲が喚起され、同時に緊張感をもって聞く態度も身に付けることができるものと思われる。

ウ 課題整理(11/11時目)
 前時に記入した「発表評価シート」により、「話し方」についての問題点を把握させた。そして、調査活動で得た職場での話し方についての特徴や工夫について再度確認して、話し方を中心とした表現方法を日常生活の中で身に付けていくことの必要性を実感させ、日々の実践的な行動の中で生かしていこうとする意識付けを図った。

5 実践結果の分析と考察

(1) 適切に表現する能力の高まりの状況

ア 適切に表現する能力の高まりの状況についてのテスト結果
 下の【表−3】から、事前テストから事後テストにかけて、三つの構成要素すべてにプラスの変容がみられる生徒は15人中2人、二つにみられるのは6人、一つにみられるのは5人であることがわかる。つまり、プラスの変容が構成要素二つ以上にみられるのが15人中8人、一つ以上にみられるのが13人である。このことから、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた学習指導が、適切に表現する能力を高めるうえで、有効に作用したものと考えられる。

イ 適切に表現する能力の高まりの構成要素別の状況

(ア) 選択する力の形成状況
 下の【表−4】から、プラスの変容が15人中7人にみられたことがわかる。これは課題追求段階の調査活動の事前準備及び事後交流活動において、聞き手の立場を意識し、活動の目的を把握したうえで調査項目及び調査結果の選択を行ったことで、話題選択の観点が把握できるようになったことによるものと思われる。
 マイナスの変容がみられる生徒BIとC段階のまま変容のみられない生徒Mは、設問上の聞き手を意識した文章表現ができるまでには至らず、生徒Dについては、課題追求段階の調査活動の事前準備活動において、口頭では適切な調査項目を述べていたが、文章にすると読み手に意味が伝わりにくいものであった。このことから、今後は話す活動の事前準備段階に書く活動を位置付ける際に、自分の書いたものを聞き手の立場で推敲する活動を取り入れることで、聞き手に対する意識を高めていく指導が必要であると思われる。

(イ) 構成する力の形成状況
 下の【表−5】から、プラスの変容が15人中10人にみられたことがわかる。そのうち4人(ACMN)が文章表現から箇条書きへの変容をみせている。これは、課題追求段階の事前準備活動において、話すための原稿を作成するという目的を把握し、調査項目を箇条書きにし、聞き手の理解しやすさを考慮して配列したことにより、聞き手を意識した構成ができるようになったものと思われる。
 マイナスの変容がみられた生徒KとD段階のまま変容がみられなかった生徒Fは、課題追求段階の事後交流活動の調査内容の発表において、文章表現でまとめた原稿を早口に読み上げるだけで、聞き手を意識して原稿を構成することができなかった。これは、話すことへの抵抗感の強いことと聞き手に対する意識が低いためと考えられる。今後は、聞き手が理解しやすいよう話題を配列するためには、箇条書きが有効であることを、十分理解させる指導が必要である。

(ウ) 発話する力の形成状況
 下の【表−6】から、技能面の3項目すべてにプラスの変容がみられたのは、事前からA段階の生徒HJNを含め15人中7人であった。これは課題追求段階の調査活動において、聞き手の理解しやすさを意識して話したこと、事後交流活動において、相互評価の観点を把握し、発表方法を検討したうえで発表と相互評価を行い、話し方の問題点を把握したこと、課題整理の段階で、話し方の問題点を改善するための意識付けを図ったことによるものと考えられる。
 技能面において全く変容のみられなかった生徒@Iとマイナスの変容がみられる生徒Fは、話し方を改善しようとする意識付けは図られたものの、それが行動に表れるまでには至らなかった。これは、話す活動を行う中で、問題点を把握することはできても、改善方法を習得させる指導が不足していたためと思われる。今後は意識付けを図った後に、さらに継続して話す活動を取り入れ、実践的に改善方法を習得していく場を設けることが必要である。
 態度面の2項目においては、変容のみられないのが「視線・表情」において15人中8人、「身ぶり」において15人中9人と、どちらも過半数を超えている。これは、技能面と比較して、態度面は相互評価の観点がわかりにくく、自分では気付きにくい話し方の癖などについて的確に指摘させ合うことができず、問題点を把握させられなかったためと考えられる。
 話す活動は一過性のものであり、自分で問題点を把握し、改善することが困難だと思われる。そこで今後は、話す活動を撮影や録音したものを客観的に自己評価させることで、相互評価によって把握した問題点をさらに自覚させ、改善方法を具体的に習得させる学習活動を取り入れることが、発話する力の態度面を高めるためには効果的だと思われる。

(2) 単元で学習する内容の理解状況
 下の【表−7】から、有効度指数は、「総合」「表現の能力」「表現についての理解」のいずれにおいても低い数値を示していることがわかる。これは、単元テストの内容が表現についての応用力を問う発展的な設問であり、基本的な学習内容の把握が不十分な生徒にとっては難解であったためと考えられる。
 話す能力を記述形式に置き換えて評価しようとしたために、話す能力の高まりを適正に評価できなかったとも考えられる。
 また、話す能力は理解したことが即効性をもって表面化する性質のものではないことも要因として考えられる。
 以上のことから、単元テストの作成にあたっては、この単元で学習した基礎的・基本的な内容の理解状況を確認するという観点から設問を構成する必要があると思われる。

(3) 学習に関する意識の変容状況

ア 国語の学習に関する意識の変容状況
 下の【表−8】から、設問二について14人、設問三について13人に肯定的な反応がみられる。 しかし設問一については3人(生徒CDE)にマイナスの変容、7人に事前事後ともに否定的な反応がみられる。生徒Iは、設問一のみが否定的な反応で、それ以外は肯定的な反応がみられる。このことから、有用感や意識はもちながらも、話す活動に対しては強い抵抗感があることがわかる。これは、課題追求段階の調査活動事前準備・調査活動、事後交流活動において話す活動が不十分であり、抵抗感をなくすまでには至らなかったためと考えられる。今後は各単元の学習指導に話す活動を多く取り入れ、話し方を体得させ、抵抗感をなくしていくことが必要である。
 書く活動に対しては、設問五について4人(生徒BIJK)、設問六について6人(生徒@BIKFL)がプラスの変容をみせている。これは調査活動において話すための原稿を書いたり、事後交流活動において、調査内容をまとめたりする活動をとおして、書く活動のもつ意義を習得したことによるものと思われる。

イ 地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた学習に関する意識の状況
 下の【表−9】から、三つの設問すべてにおいて、3分の2以上の生徒が肯定的な反応を示し、設問八の有用感については、11人がアと反応している。このことから、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた指導試案に基づく授業実践は、適切に表現する能力を高めるための支えとなる意識付けを図ることに効果があったものと思われる。
 下の【表−10】は設問九の自由記述をまとめたものである。学習意欲に関して肯定的な記述のみられる生徒Jは、【表−8】から設問一、三、五についてプラスの変容がみられ、【表−9】ではすべてアと反応していることがわかる。前掲【表−3】からこの生徒の適切に表現する能力の高まりの状況みると、「選択する力」「構成する力」の2項目にプラスの変容がみられる。これは、地域社会の言語生活調査により、話し方の工夫の必要性を実感し、改善への意識付けが図られたことが、有効に作用したものと考えられる。

6 高等学校「国語表現」における適切に表現する能力を高める学習指導の在り方のまとめ

(1) 地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた学習指導の成果として考えられること
 ア 目的や場に応じた話題を選択し、聞き手を意識して話題を配列できるようになったこと
 イ 技能面においては、聞き手を意識して、目的や場にふさわしい話し方ができるようになったこと

(2) 地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた学習指導の課題として考えられること
 ア 聞き手を意識して話題を配列するためには、原稿を箇条書きにすることが効果的であるという指導が十分ではなかったこと
 イ 話し方の態度面においては、相互評価の観点がわかりにくく、自身の問題点を把握し改善することが困難だったこと

(3) 地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れた学習指導の在り方の改善点
 ア 話す活動の事前準備段階で書く活動を行う際に、話す内容を箇条書きにし、聞き手を意識して配列する活動を取り入れること
 イ 発表、相互評価において、生徒の理解しやすさを考慮した相互評価の観点を設定するとともに、客観的に自己評価できる方法を取り入れて、問題点を把握し、改善方法を習得できるようにすること

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、高等学校「国語表現」の学習指導過程において、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れることにより、適切に表現する能力を高める学習指導の在り方を明らかにし、高等学校「国語表現」の学習指導の改善に役立てようとするものであった。その実践結果を、適切に表現する能力の高まりの状況、単元で学習する内容の理解状況、学習に関する意識の変容状況の三点から分析と考察を加えることによって、仮説の有効性を検討してきた。
 その結果、次の点について明らかにすることができた。

(1) 高等学校「国語表現」の学習指導において、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れることは、適切に表現する能力を高めることに有効であること
(2) 高等学校「国語表現」の学習指導において、地域社会の言語生活調査に基づいた学習活動を取り入れることは、円滑な社会生活を送るためには表現方法を工夫して話す必要があるということを実感させ、話し方を学ぶことに対する意識付けを図ることに有効であること

2 今後の課題

(1) 総合的に表現する能力を高めていくために、「書くこと」「聞くこと」「話すこと」を関連させた体系的 な指導計画と評価方法を検討すること
(2)「社会生活を充実させる」という目標に沿って、実践的な学習の場をさらに検討し、拡充していくこと


〈主な参考文献〉
高橋俊三編著 「講座 音声言語の授業@ 話すことの指導」 明治図書 1994年
高橋俊三著 「対話能力を磨く−話し言葉の授業改革」 明治図書 1993年
本堂寛監修・深沢完興編 「国語科基本的能力の指導体系第2巻 発音・発声の指導」 明治図書 1988年
本堂寛監修・蛭田正朝編 「国語科基本的能力の指導体系第9巻 言葉遣いの指導」 明治図書 1988年



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