岩手県立総合教育センター研究集録(2001)


自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する研究

−学習活動に見通しをもたせる評価をとおして−

西根町立平舘小学校 教諭 高 橋 邦 彦


T 研究目的

 総合的な学習の時間では、児童の興味・関心等に基づく学習などの過程を通じて、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、問題を解決する力などの生きる力を育てることが求められている。そこでは、児童が学習活動に見通しをもち、学習活動の改善を図ることにより、自ら課題を追究する意欲を高めることが重要である。
 しかし、本校児童の実態をみると、体験的な活動には進んで取り組むものの、自らの課題を解決するために最後まで追究しようとする意欲が十分であるとはいえない。これは、児童が自らの活動状況を把握し、修正や改善を図りながら、解決に向けた学習活動をしていくための指導が不足していたことによると考えられる。
 このような状況を改善していくためには、自ら学習活動を振り返り、自らの課題を明らかにし、その解決の方法や道筋を考えるという、学習活動に見通しをもたせる評価を行っていく必要がある。
 そこで、本研究は、学習活動に見通しをもたせる評価をとおして、自ら追究する意欲を高める指導の在り方を明らかにし、小学校における総合的な学習の時間の指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 小学校の総合的な学習の時間において、学習過程の各段階で次のような視点を設けて学習活動に見通しをもたせる評価を行えば、自ら追究する意欲が高まるだろう。
  (1) 課題把握の段階で課題の妥当性や解決の方向性
  (2) 課題追究の段階で方法の適切性や追究の方向性
  (3) 学習のまとめの段階で発信や発展の可能性

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する基本構想の立案
 (2) 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する実態調査及び調査結果の分析と考察
 (3) 学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導試案の作成
 (4) 指導実践及び実践結果の分析と考察
 (5) 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関するまとめ

2 研究の方法
(1) 文献法   
 基本構想の立案にあたって、先行研究及び文献などにより、自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導についての検討を行い、基本的な考えをおさえる。
(2) 質問紙法    
 研究者自作の質問紙により、自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する実態及び指導実践をとおしての児童の意欲の変容について調査する。
(3) 指導実践
 学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導実践を行い、指導試案の妥当性を確かめるための資料を得る。

3 授業実践の対象
 西根町立平舘小学校 第6学年 1学級 (男子18名 女子18名 計36名)

W 研究結果の分析と考察

1 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する基本構想

(1) 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する基本的な考え方

ア 総合的な学習の時間についての基本的な考え方
 総合的な学習の時間では、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる」など生きる力を育てることが求められている。特に、問題を解決する主体が児童自身であることから「自ら」が強調され、自らの方法で解決し、その取り組みを自ら振り返り、次の学習活動につなげていくことが大切であると考えられる。そして、具体的な活動や体験をとおして、「分かりたい」というような児童の欲求が、「やり遂げよう」という意志に高まり、自らの課題を解決するために、追究活動を始めると考えられる。さらに、追究活動を持続させるためには、課題を解決したいという意欲と結びつくことが大切であり、自ら追究する意欲を高めることが重要である。

イ 自ら追究する意欲とその高まりについてのとらえ方
 本研究における自ら追究する意欲とは、「学習活動をとおして自らの課題をもち、解決の方法を考え、自己の目的を達成するまでやり抜こうとする意志」ととらえた。そして、自ら追究する意欲の構成要素とそれにかかわる児童の姿を、【表−1】のように「目的意識」「方法理解」「到達意識」「自己理解」の四つと考え、研究を進めるものとする。「目的意識」は、自らの学習活動に価値を見いだし、活動内容を最後までやり遂げようとすることであり、「方法理解」は、課題を追究するための計画を立てたり、その修正・改善をしたりするなど課題追究の方法について分かることと考える。「到達意識」は、できたことや工夫したこと、努力したことなどを振り返り、課題解決を最後までやり抜いたという成就感をもつことと考える。「自己理解」は学習活動を振り返ることによって、自らの思いや考えを再認識し、現在の活動状況における自己を把握することと考える。
 自ら追究する意欲が高まるには、「どんな活動ができそうか、この活動はおもしろそうだな」など、現在の活動状況を知り、自己を把握する「自己理解」が基盤になると考える。児童は、学習活動をとおし様々な思いや考えをもち、それをもとに課題を設定し、課題を追究するなかで、「やり遂げよう」という「目的意識」が高められていくと考えられる。目的を達成するためには、自らを振り返り課題の解決方法を考えるという「方法理解」のもと、さらに追究方法の修正・改善をし、新たな方法で追究し続けることが必要である。そして追究し続けるなかで漠然とした自分の思いや考えが具体的に確かなものとなっていく。さらに、児童は自らの課題を追究し続けるなかで、一つ一つの問題解決の積み重ねから最後までやり抜いたという成就感をもち、「到達意識」が高まったことを実感し、新たな活動への意欲を生み出すと考えられる。
 そこで、本研究における追究する意欲が高まった姿を「自らの学習活動を振り返り、自ら課題解決の方法を考え、自己の目的を達成するまで追究しようとする児童」ととらえることとする。

(2) 学習活動に見通しをもたせる評価に関する基本的な考え方

ア 見通しをもたせる評価のとらえ方
 総合的な学習の時間では、自らの学習活動の状況に気づき、自らが学習活動を改善していくことが求められている。そこでは、自らが学習活動の状況を的確にとらえられる評価をすれば、改善すべき点が明らかになり、学習活動は一層充実すると考えられる。そのためには、自己評価や相互評価などを活用し、追究する意欲の向上に生かすことが必要であり、児童自身が学習活動を振り返り、内容や方法を吟味して、これからの学習活動の方向性を明らかにしていく、いわゆる児童に「見通しをもたせる評価」が大切である。 
 見通しをもたせる評価とは、自己の知識や思考の状態を意識し、解決の方法を明らかにしたり自己の目的とのズレを認知し修正したりするという、学習活動とともに変化する学びの過程における自己を評価させることである。課題の設定から解決や成果を得るまでの学習過程の各段階に見通しをもつことができれば、やり抜こうという持続性が保たれ、意欲的に学習活動を進めることができると考えられる。また、児童の評価と教師による評価を相互に活用することによって自己理解の深まりや自己を評価する力の高まりも期待できる。

イ 見通しをもたせる評価の工夫
 本研究では、課題発見のための体験活動をとおして自らが課題を設定し、追究計画を作成する課題把握の段階、自らが決めた追究計画にそって、修正・改善を加えながら自らの課題を解決するための追究活動を行う課題追究の段階、学習活動の成果をまとめ、成果の発表・発信をし、学習活動の可能性を広げる学習のまとめの段階、これら三つの段階の学習過程をとおして自ら追究する意欲を高めていく。

(3) 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する基本構想図
 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する基本構想図を次頁【図−1】のように作成した。

2 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関する実態調査及び調査結果の分析と考察(本資料においては、省略する)

3 学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導試案

(1) 学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導試案作成の観点(本資料においては、省略する)

(2) 学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導試案

ア 学習活動に見通しをもたせる評価の視点
 指導試案作成の四つの観点に基づき、自ら追究する意欲を高めるために、学習過程の各段階で次頁【図−3】のような視点を設けて、学習活動に見通しをもたせる評価をする。

イ 評価情報の活用
 学習活動に見通しをもたせるためには、学習活動を振り返り、評価をし、児童自らが評価情報を活用する必要があると考える。そのために教師は、児童が学習活動を振り返ったり学習結果を吟味したりできるようにすることが大切である。また、教師自身も評価情報を活用することにより、児童の学習活動を支援したり指導の修正・改善に役立てていくことが必要であると考える。そこで、学習活動に見通しをもたせるために評価情報の活用を【図−2】のように考え、進めるものとする。

ウ 学習活動に見通しをもたせる評価をするために使用する計画書及び記録表
 総合的な学習の時間では、自分で学習活動の計画を立て進めていく場面が多い。そして、自分で学習活動を能動的に進めるためには、自分の活動を振り返り、次の活動を見通すことが必要になる。そこで、次の活動を見通すための計画書及び記録表を次のように考える。計画書は、自分の「目的・内容・方法・準備するもの」等を書くことにより、次の学習活動を具体的に見通すことができるようにするものである。記録表は、学習活動を振り返って「思ったこと・やってみたいこと・発見したこと」などや、次の活動について書き、学習活動や自分の考えを整理できるようにするものである。また、記録表を補完するものとして各種カードを使っていく。これらの計画書及び記録表を使うことにより、児童は学習活動に見通しをもち、計画の修正・改善ができると考える。
 これまで述べてきたことをもとに、学習活動に見通しをもたせる評価を取り入れた総合的な学習の時間の指導試案を、【図−4】のように作成した。

4 指導試案及び実践結果の分析と考察
 (1) 指導試案に基づく指導計画(本資料においては、省略する)
 (2) 指導試案に基づく指導実践
 「草木染めをしよう」を活動テーマに20時間の指導実践を行った結果、見通しをもたせる評価を行 いながら、以下のような学習活動が展開された。

(3) 実践結果の分析と考察
 指導実践による自ら追究する意欲の状況をみるために、検証計画に基づいて欠席者1名を除いた35名について、実践結果の分析と考察を行った。

ア 学習活動の各段階における自ら追究する意欲の状況

(ア) 課題把握の段階における自ら追究する意欲の状況
 【表−2】は課題把握の段階における自ら追究する意欲の状況を評価規準に基づき分類したものと各検証内容にかかわる記述例や計画書例をまとめたものである。「もっと違う形をはっきり出せるようにします。自分で計画を作ることができたので色や形がちゃんとでるようにがんばりたいです」という記述など[A]の児童が7割以上いることから、活動を振り返り、計画で修正を加えて目的意識をもったと考えられる。
 さらに、「自分で工夫しながら計画を立てることができたのでよかった」などの記述から、計画書に自分なりの工夫をすることができ、そのことに成就感をもち、到達意識が高められたと考えられる。そして、「火曜日に染め物に使うヨモギを取りました。ぼくは、いい色を出したいのでたくさん取りました。そこで、ヨモギを簡単に取ることができる発見をしました」の記述などから、事前の準備で自分の願いを達成するために努力していることや、その過程で新たな発見をしていることが分かる。

(イ) 課題追究の段階における自ら追究する意欲の状況(本資料においては、省略する)

(ウ) 学習のまとめの段階における自ら追究する意欲の状況(本資料においては、省略する)

イ 自ら追究する意欲の変容状況
 【表−3】は、自ら追究する意欲の事前と事後における変容の状況をまとめたものである。本研究では、児童の自ら追究する意欲の変容状況を客観的にとらえるためにχ2 検定(変化の検定)を用いた。その結果、設問1、2、3、5については有意差が認められた。設問4は有意差が認められないものの全体的にプラス傾向に変容しており、マイナスに変容した児童も学習中の疑問に思ったことを学習記録表にまとめたり、作品の交流をして相互評価をする場面では質問をしたりする姿が見られ、現在の活動状況における自己を把握できていることが分かる。
 分析の結果、本研究の指導実践は、自ら追究する意欲の構成要素である「目的意識」「方法理解」「到達意識」「自己理解」を高めるうえで効果があると考えられる。

ウ 抽出児の意欲の変容状況
 【図−5】は、抽出児Yの学習活動の状況及び自ら追究する意欲の変容についての考察を感想・計画書・記録表・自己評価・相互評価の記述内容、学習活動の様子の記録からまとめたものである。Yは計画を立てたり記録をしたりしながら、進んで追究活動をする姿があまり見られない児童であるが、本指導実践においては、自ら進んで学習活動に取り組むことができた。ここでは、Yの自ら追究する意欲の高まりとそれにかかわったものを考えていくものとする。
 課題把握の段階においては、活動は「A−楽しかった」と2単位時間とも自己評価している。しかし、布をうまく染めることができたかについては「D−うまくできなかった」と自己評価していた。課題発見のための体験活動では、活動は楽しかったものの、染めることに対して成就感をもつことはできなかったと考えられる。課題設定では、板締めや絞り染めよりたたき染めに興味をもち、どの植物がたたき染めに適しているか質問をしてきた。自己評価では、「失敗したので今度はがんばる・早く染めたい」と記述していることから、追究活動への意欲の高まりがあったと考えられる。
 課題追究の段階においては、活動は「A−楽しかった」とほとんどの時間で自己評価している。追究活動@では、真剣な表情でもみじの葉によるたたき染めを行ったが、強くたたきすぎて模様がうまくでなく、感想では、「もう一回同じことをやりたいと思った」と書いている。追究活動Aでは、失敗しないために小さな布に練習をしてから、Tシャツにもみじの葉によるたたき染めを慎重に行っていた。これは、前回の経験を生かし、目的を達成するために考えて計画を立てたものと推察できる。
 学習のまとめの段階においては、活動は「A−楽しかった」等、自己評価はすべて「A」で自己評価をしている。これは、追究活動Aの計画を立てるときにまとめ方も考えて計画書を書いたためと考えられる。このことから、学習活動に見通しをもっていることや、学習活動を進めながら修正・改善を行っていることが考えられる。また、「染めた作品・まとめた掲示物」の学校や公民館への展示では、発信先からの自分へのメッセージを読んでの感想から、評価されたことを自分のこれからの学習活動に生かそうとしていると考えられる。
 以上のことから、Yは学習の各段階で自ら追究する意欲が停滞するときがあったが、自らの活動を振り返ったり、相互評価をしたりすることにより自らが決めた計画の修正・改善を加え、課題の設定から解決や成果を得るまで見通しをもって学習活動をすることができた。このことから、Yの自ら追究する意欲の高まりには、活動記録表・計画書・各種カード等が有効な方策であることと考えられる。

5 自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関するまとめ
 学習活動に見通しをもたせる評価をとおして、自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導について、仮説に基づく指導実践において明らかになったのは、以下のとおりである。

(1)  課題把握の段階において、児童が課題の妥当性や解決の方向性の視点で評価情報を活用することは、自らの興味・関心に基づいて課題を設定し、学習活動全体に見通しをもつことが可能になり、活動内容をやり遂げようという意識を高めるうえで役だつことが明らかになった。
(2)  課題追究の段階において、児童が方法の適切性や追究の方向性の視点で評価の結果情報を活用することは、計画書の作成や、自己の考えを把握し次の学習活動の具体的な計画を立て、学習内容や方法に修正・改善を加えることが可能になり、課題追究の方法が分かるうえで効果が認められた。
(3)  学習のまとめの段階において、児童が発信や発展の可能性の視点でこれまで集積してきた作品や計画書、学習活動に記録表、自己評価、相互評価を活用することは、発信をとおしての児童相互や発信先との交流、新たな課題の発見などが可能になり、最後までやり抜いたという成就感をもつことや、自らが発見した課題を追究しようとするうえで効果が認められた。
(4)  児童は学習活動を記録表に毎時間記録したが、自己評価や記述内容を振り返って次の活動に生かすために、記録表の形式や集積の仕方を工夫することが必要である。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、学習活動に見通しをもたせる評価をとおして、自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導の在り方について明らかにし、小学校における総合的な学習の時間の指導の改善に役立てようとするものであった。そのために指導実践の結果を、自ら追究する意欲の高まりの状況から分析と考察を加えることによって、仮説の有効性を検討してきた。その結果、次の点を明らかにすることができた。

(1)  評価情報の活用は、児童が学習活動に見通しをもつことや、教師が支援や学習活動の指導の修正・改善をするうえで有効である。
(2)  見通しをもたせる評価の視点が、自ら追究する意欲を高めるうえで有効である。

2 今後の課題
 この研究においては、自ら追究する意欲を高める総合的な学習の時間の指導に関して、学習活動に見通しをもたせる評価をすることにより、実践的に明らかにすることができた。今後は、児童・教師が評価情報をさらに有効に活用できるように評価活動がもつ可能性を探り、児童の自ら追究する意欲が向上するように工夫していきたい。

【参考文献】
小島宏・寺崎千秋 編集 「総合的な学習の評価計画と評価技法」 明治図書 2000
奈須正裕 編集 「総合的な学習 評価のテクニックとプラン」 教育開発研究所 2001


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