岩手県立総合教育センター研究集録(2001)


高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方に関する研究

−社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材の開発をとおして−

岩手県立花北商業高等学校 教諭 畠 山 敏 明


T 研究目的

 新学習指導要領によって新設される高等学校「数学基礎」では、社会生活において数学が果たしている役割を理解させ、数学に対する生徒の興味・関心を高めることをねらいとしている。このことは、数学教育がめざしている数学的な見方や考え方のよさを認識し、それらを積極的に活用する態度を育てることにもつながるものである。
 しかし、生徒の実態をみると、身近な生活のなかで数学を活用する場面を見出せないことから、高等学校で学習する数学の内容に対し、興味・関心をもてずに学習に取り組んでいることも少なくない。これは、知識や技能の習得に重点がおかれ、身近な事象を数理的に考察させる指導が不足していたためと思われる。
 このような状況を改善するためには、社会生活に現れる事象について、数列や関数などの考えを活用して数理的に考察させ、数学の有用性を実感させることが大切である。そのためには、課題の認識を容易にしたり直観や類推により結果を予想したりすることができるコンピュータ教材を開発し、授業に用いることが有効であると考える。
 そこで、この研究は、高等学校「数学基礎」において、社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして、数学への興味・関心を高める指導の在り方を明らかにし、高等学校における数学教育の指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 高等学校「数学基礎」の指導において、人口増加の様子や元利合計の仕組みなどの社会生活に現れる事象を、数列や関数の考えを活用しながら、視覚的に認識したり結果を予想したりすることができるコンピュータ教材を開発し、授業に用いれば、生徒は数学の有用性を実感し、数学への興味・関心を高めることができるであろう。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方に関する基本構想の立案
 (2) 基本構想に基づく指導プログラムの作成
 (3) 基本構想に基づくコンピュータ教材の開発
 (4) 授業実践及び実践結果の分析と考察
 (5) 高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方に関する研究のまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法   (2) 質問紙法   (3) テスト法   (4) 授業実践

3 授業実践の対象
 岩手県立花北商業高等学校 第1学年 1学級(男子24名 女子18名 計42名)

W 研究結果の分析と考察

1 高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方に関する基本構想

(1) 「数学基礎」において数学への興味・関心を高めることについての基本的な考え方

ア 数学への興味・関心のとらえ方
 数学への興味・関心とは、数学の学習内容や活動に対する快の感情や、知的欲求、好奇心などの知的なものを伴った心構えであり、行動を動機付ける誘発性をもつものである。
 数学への興味・関心を高めることとは、その対象である課題に新鮮さや驚きなどを感じさせたり、生徒の能力に応じ適当な抵抗をもたせ、課題解決の過程に楽しさや面白さを見出させたりすることと考える。また、数学的な見方や考え方のよさや、その考え方を活用することのよさに気付かせ、数学の有用性を実感させることと考える。
 また、「数学基礎」においては、数学的知識の意味を社会生活に反映させたり、社会生活において数学が果たしている役割について理解させたりすることにより、数学への興味・関心を高めることが大切である。そこで、本研究では、数学への興味・関心の高まった生徒の姿を、「社会生活に現れる事象の変化の様子に課題意識をもち、その解決の過程において数学の考え方を活用することのよさを認め、数学の有用性を実感して学習に取り組む生徒」ととらえる。さらに、このような生徒の姿を育成するうえで、重要な構成要素を次の三点でとらえて考えていくことにする。

 学習対象に対する意識
  社会生活に現れる事象の変化の様子に、新鮮さや驚き、面白さなどを感じながら、課題意識をもつこと
 数学の考え方を活用することのよさに対する意識
  社会生活に現れる事象の変化を数学的な課題としてとらえ、その解決の過程で数学の見方や考え方のよさや、数学の考え方を活用することのよさを認めること
 数学の有用性に対する意識
 社会生活に数学的な考え方が有効に活用されていることを実感すること

イ 数学への興味・関心を高めることの意義
 様々な事象が変化し、それに伴い新しい課題が発生し続ける現代社会においては、社会の変化に的確に対応し、豊かな創造性をもって対処する能力が求められている。今回の学習指導要領の改訂でも、数学の学習を単に内容の習得に留めるのではなく、数学的活動の楽しさを知り、その活動を通して創造性の基礎を培うことを目指している。この数学的活動とは、身近な事象を数学の課題として設定し、それを数学的に考察・処理する過程で見出した性質等を積極的に活用したり、数学的知識の意味を考察の対象となった当初の身近な事象に戻って考えたりするなどの活動である。
 高等学校の数学教育では、これらの活動に、生徒が主体的に取り組み、数学を学ぼうとする意欲を高めることが重要である。そのためには、生徒が社会生活に現れる事象に課題意識をもち、その解決の過程において、数学の考え方を活用することのよさを認め、数学の有用性を実感し、数学への興味・関心を高めて学習に取り組むことが大切であると考える。

(2) 数学への興味・関心を高める指導においてコンピュータ教材を用いる意義
 社会生活に現れる事象を数理的に考察する場面では、数値が複雑になりやすく、生徒が変化の様子をとらえたり数学的な性質を見出したりすることは容易ではない。例えば、人口増加の様子から指数関数の性質を見出すような場面では、煩雑な計算や、的確な端数の処理が必要である。そのため、増加率などの値を特定しにくいなどの問題が生じやすく、事象の変化の様子をとらえるまでには至らず、数学的な性質の存在を想起できないことが考えられる。
 一方、コンピュータは計算結果やグラフ・図などを、生徒の働きかけに対し瞬時に、正確に表示することが可能であり、必要に応じて、静止画、動画、文字などといった様々な情報を組み合わせて、生徒の直観に訴えるように利用できるという優れた特性をもっている。
 そこで、このコンピュータの特性を活かし、数値の羅列や計算ではとらえにくい変化の様子を単純化したモデルとして提示することにより、生徒は数学的な課題として認識することが容易になると思われる。また、変化の様子を、時系列順に表示することや繰り返し表示することにより、生徒は結果を予想することが容易にでき、変化の様子を見通して課題を考察することや、関数の性質やグラフの特徴を見出すことが可能になると思われる。さらに、異なる関数や数列の変化の様子を比較しやすいように表示することにより、生徒は基本的な性質の違いや、関数のグラフの特徴について理解を深めることができると考える。
 以上のような特色をもつコンピュータ教材を作成し、数学の指導に用いることは、現実の世界を数理的に考察することを可能とし、数学を身近なものに感じさせ、数学への興味・関心を高めることに有効であると思われる。

(3) 数学への興味・関心を高める指導におけるコンピュータ教材の在り方
 数学への興味・関心を高めるために、本研究では、「課題の把握」「結果の予想」「数学的性質の発見」「数学的性質の理解」「課題の解決」の五段階の学習過程に沿って指導する。その指導の手だてとして、社会生活を数理的に考察することができる次のようなコンピュータ教材を開発し、授業に用いることが必要であると考える。

ア 数量の変化の様子を、単純化・視覚化し、数学的な課題として認識できる教材
 はじめに、社会生活に現れる事象の変化の様子に着目させ、驚きや疑問、課題意識をもちながら、学習に取り組む意欲を喚起させることが必要であると考える。また、現実的な事象を数理的に考察する場合、煩雑な計算や端数の処理などを伴う場合が多く、生徒の抵抗を軽減することも必要である。そこで、変化の様子を、図やグラフを用いて単純化・視覚化し、直観的にとらえやすくするとともに、計算の軽減を図り、数学的な課題としての認識が容易にできる教材にする。

イ 結果を予想したり、数学的な性質を見出したりすることができる教材
 課題を解決する過程では、結果の予想により、知的好奇心を刺激しながら見通しをもって考察させることが有効であると考える。そこで、変化の様子を時系列順に表し、直観的に結果を予想できる教材にする。また、結果の予想の後には、思考の幅を広げ、数学的な性質を見出し、数学的な見方や考え方を豊かにすることが大切であると考える。そこで、条件を変え繰り返しグラフを表示することや、簡単なシミュレーションによって、関数や数列の性質を見出すことが容易にできる教材にする。

ウ 異なる関数や数列について、基本的な性質の違いに気付くことができる教材
 新しく学習する指数関数や等比数列などを理解するときに、既習の1次関数などと比較し、その違いを考察させることが有効であると考える。そこで、異なる関数のグラフや数量の変化の様子を、同じ条件のもとで同時に表示し、関数の性質やグラフの特徴の違いに気付くことができる教材にする。

(4) 「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方についての基本構想図
 「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方についての基本構想図を【図−1】に示す。

2 基本構想に基づく指導プログラム(本資料では割愛)

3 基本構想に基づくコンピュータ教材の開発
 基本構想をもとに、社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材の開発を以下のように行った。

(1) コンピュータ教材開発の目標と留意点

ア 数量の変化の様子から、数学的性質の存在を想起させる教材
 人口増加の様子を時系列順にグラフに表し、その増加の様子に驚きを感じさせるとともに、何らかの数学的性質が存在しているのではないかと思い起こさせるようにする。

イ シミュレーションの要素を取り入れた教材
 人口増加率や出生率、金利などの値を自分の考えで決め、人口や元利合計が変化していく様子を視覚的にとらえることができるようにする。また、結果を予想して出生率の値などを決め、その結果の確認が容易にできる教材にする。

ウ 関数の性質やグラフの特徴を見出したり、異なる関数のグラフを比較したりできる教材
 グラフを繰り返し表示することで、指数関数の性質やグラフの特徴を見出すことができるようにする。また、人口と穀物生産量の様子、単利法と複利法の元利合計の様子をそれぞれグラフに表示することによって、増加の様子を比較し、指数関数的な増加の特徴を印象付けることができるようにする。

エ 操作が簡単にできる教材
 誤操作を防ぎ、作業の効率化を図るため、ほとんどの操作をマウスのクリックで行うことができるようにする。特に数値入力を、スクロールバーで行うことで、値を少しずつ変えて繰り返しグラフを表示するなどの活動を容易にできるようにする。

(2) 開発したコンピュータ教材の概要
 基本構想に基づき、作成したコンピュータ教材のメニューツリーを【図−2】に示す。なお本コンピュータ教材は、Microsoft Visual Basic6.0で開発したものである。

(3) コンピュータ教材の内容

ア メニュー画面
 【図−3】は本研究で開発した教材のメインメニュー画面である。社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材は、「世界の人口問題」「日本の人口問題」「元利合計」の3つのメニュー構成とした。各項目をクリックすることで関連する次の画面が表示され、各画面からはすぐにメニュー画面に戻れるようにしてあり、操作性の簡易化を図った。

イ 世界の人口問題
 【図−4】は人口の推移を視覚的にとらえさせるためのものである。@の年度の幅を選択すると、1年、4年、10年、100年と変えたときの人口の推移をグラフ表示し、その特徴をとらえさせることができる。ここでは、増加の様子に驚きをもたせること、何らかの規則性をもって増加しているのではないかという予測をもたせることをねらいとしている。
 【図−5】は、人口が指数関数的に増加すると仮定したときの、増加率の値による人口の変化を視覚的にとらえさせるものである。Aに人口増加率を、Bに年数を入力すると、将来の予想人口を数値とグラフで表示することができる。入力をスクロールバーで行うことで、増加率や年数を少しずつ変えて繰り返しグラフを表示することを容易にしてある。ここでは、増加率の値が小さくても急激な人口の増加を引き起こすことや、指数関数的な単調増加の様子をとらえさせることをねらいとしている。

ウ 日本の人口問題
 【図−6】は、日本の将来の人口をシミュレーションし、その変化の様子をグラフに表示させるものである。出生率、平均寿命、年代別死亡率を設定することによって、200年後までの人口の予想を表示できる。また、より現実に近い状況を作り出すために、平均寿命や年代別死亡率を現在の値に設定でき、さらに、出生率の値を少しずつ変化させたときの人口の変化を、年代別の数値の変化とグラフによって確認できる。ここでは、出生率によって人口が指数関数的に変化することに気付かせるとともに、数学が事象の変化を予想することに役立つという意識を高めることをねらいとしている。
 【図−7】は、指数関数のグラフを表示させるためのものである。Cに底(増加率)の値を入力すると、座標平面上に、単調増加のときは青のグラフで、単調減少のときは赤のグラフで表示される。ここでは、底の値を変えてグラフを複数表示し、指数関数の性質を見出させたり、グラフの特徴に気付かせたりすることで、指数関数についての理解を深めることをねらいとしている。

エ 元利合計
 【図−8】は、単利法と複利法による元利合計の違いを、数値とグラフによって表示するものである。Dに元金、利率、期間を入力することによって、単利法、複利法それぞれの方法で算出し、元利合計の変化の様子をグラフによって比較することができる。ここでは期間による元利合計が、単利法の場合は1次関数のグラフに、複利法の場合は指数関数のグラフになることに気付かせる。さらに、借金の例などの課題解決に活用し、元利合計の違いや増加の様子に驚きをもたせるとともに、現実の世界に数学の考え方を活用することのよさを実感させることをねらいとしている。

4 授業実践及び実践結果の分析と考察
 開発したコンピュータ教材を用いて授業実践を行い、事前・事後の意識調査、学習内容に関するテストを実施した。調査結果の分析と考察について以下に述べる。

(1) 授業の計画
 授業の計画は【表−1】のとおりである

(2) 検証計画
 検証計画の概要は【表−2】のとおりである。

(3) 結果の分析と考察

ア 数学への興味・関心に関する意識の高まりの状況

(ア) 学習対象に対する意識の変容状況
 次ページの【表−3】は、学習対象に対する意識について、事前・事後における変容状況を示したものである。
 χ2検定の結果、どの設問においても有意差が見られなかった。
 マイナス反応からプラス反応へ転じた生徒の自由記述のなかには、「身近なことだと、気になり面白い」「実際に有り得る数量の変化を考えるのは他のものよりも興味がもてる」などの回答が見られ、数学を身近なものととらえ、面白さや楽しさを感じながら学習する意識が高まりつつあったものと思われる。しかし「数字が複雑だったりしてはっきりした答えが出ないところがすっきりしない」「コンピュータ教材はわかりやすいが、楽しくはない」などのマイナス傾向の回答も見られた。これは、コンピュータ教材を個々に活用する時間が十分に取れず、主体的な学習の場面が少なかったことや、指数関数などの考えを見出す過程で、支援が十分ではなかったことによるものと思われる。今回の実践においては生徒の意識を変容させるまでには至らなかったが、数学を学習するうえで大切な意識であり、継続的な指導が必要であると思われる。

(イ) 数学の考え方を活用することのよさに対する意識の変容状況
 【表−4】は、数学の考え方を活用することのよさに対する意識について、事前・事後における変容状況を示したものである。
 χ2検定の結果、有意差が認められたのは設問5であった。これは、社会生活に現れる事象を考察する過程で、結果を予想することで、見通しをもって考えることのよさを実感できたからであると考える。
 設問5以外の設問では、事前の段階でプラス反応を示した生徒が多く、有意差は見られなかった。しかし、設問6、設問7では、少数ではあるがプラス反応を示す生徒が増え、自由記述でも、今まで以上にグラフを用いて考えることのよさについて認識できていることがうかがえた。
 以上のことから、生徒の意識を大きく変容させるには至らなかったものの、数学の考え方を活用することのよさに対する意識は高まったものと考える。

(ウ) 数学の有用性に対する意識の変容状況
 【表−5】は、数学の有用性に対する意識について、事前・事後における変容状況を示したものである。
 χ2検定の結果、有意差が認められたのは設問10と設問11であった。設問9では、事前の段階でプラス反応を示した生徒が多く、有意差は見られなかった。
 設問10、設問11で有意差が認められたのは、社会生活に現れる数量の変化を考察する学習をとおし、数学が身近なものであることや、数学の考え方が活用されていることが認識でき、数学が有用であるという意識が高まったからであると考える。自由記述のなかでも、「数学と、身近な生活や社会生活が深くかかわっているのを知り、すごいと思った」「これからの社会はどうなるのかなどを予想するときに、数学はとても役に立つことがわかった」などの回答が多く、数学の有用性に対する意識が高まったものと考える。

イ 学習内容の習得状況
 【表−6】は、単元で学習する内容の習得状況について、事前・事後に実施したテストの結果を示したものである。
 有効度指数は学級全体で64であり、学習内容の習得がおおむね図られたと考える。
 また、「数学的な考え方」「表現・処理」「知識・理解」の三つの観点のなかでは、「表現・処理」の有効度指数が最も高く、73という数値を示した。これは、指数関数の考えを用いて将来の人口や元利合計を計算したり、コンピュータ教材によりグラフ表示を繰り返したりする学習活動が有効に働いたためと思われる。

ウ 数学の学習に対する意識の状況

(ア) 数学の学習に対する意識の変容状況
 【図−9】は、授業の様相にかかわる数学の学習に対する意識の変容について、事前とコンピュータ教材を用いた授業後に調査した結果を示したものである。
 設問1や設問2から、5時後には、数学の学習に対する「面白さ」や「有用感」などの意識が高まったことがわかる。これは、コンピュータ教材を用いることで、現実的な課題を解決することができたことや、数学の考え方を活用するよさを味わったことによると思われる。
 また、各設問において、2時後より5時後にプラス反応が多く見られた。これは、5時の方が、生徒が主体的にコンピュータ教材を活用する場面が多かったことによるものと思われる。生徒の自由記述でも、「自分で数を入力してグラフを見るのは楽しい」などの回答が見られ、生徒は、コンピュータ教材を利用した主体的な学習活動により、徐々に学習の楽しさを感じることができてきたものと考える。さらに、「指数関数なんて聞いたこともないし、あまりやりたくないと思ったが、内容がわかると身近なものだと思った」という感想に見られるように、学習内容の理解が進むにつれて数学を身近に感じることができ、数学の学習に対する意識が徐々に肯定的に変容してきたものと考える。

(イ) コンピュータ教材を用いた数学の授業に対する意識の状況
 開発したコンピュータ教材用いた数学の授業が生徒にどのように受け止められたか、質問紙を用いて事後に調査した。【図−10】は、評定尺度によるコンピュータ教材を用いた数学の授業に対する意識調査の結果を、【表−7】は、自由記述によるコンピュータ教材を用いた数学の授業に対する生徒の感想を示したものである。
 【図−10】の設問1や設問8では、コンピュータを用いた授業について、約80%の生徒が「楽しい」「数学の学習をしたい」と回答している。自由記述でも、「新鮮である」「グラフがすぐできて楽しい」などの肯定的な回答が多く見られた。これは、人口や元利合計をシミュレーションしたり、グラフを繰り返し表示したりする学習活動により、楽しさや驚きをもって課題の解決に取り組むことができたからと考える。
 設問2では、ほとんどの生徒がコンピュータ教材を用いた授業はわかりやすいと感じていることが認められ、自由記述でも学習内容の理解についての肯定的な回答が多く見られた。また、設問3〜7では、コンピュータ教材が、事象の変化の様子をとらえること、結果を予想すること、関数の性質やグラフの特徴を見出すことなどに有効であると感じていることが認められた。これは、変化の様子を単純化してグラフに表示することや、数値を変えてグラフを反復表示することで、数学的活動を効率的に行うことができたからと考える。
 以上のことから、社会生活に現れる事象を数理的に考察する授業において、生徒の数学への興味・関心を高めることや、関数などの理解を深めることに、開発したコンピュータ教材が有効に作用したと考える。
 否定的な意見としては、コンピュータを用いた授業の煩雑さや、視覚中心の学習の形態に疑問を感じている回答や、普段の授業の方が楽しいという回答が見られた。コンピュータを用いた授業において、思考する場面や、学習内容の理解を図る場面をどのように取り入れていくか、さらに工夫をする必要があると思われる。

5 高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方に関する研究のまとめ
 高等学校「数学基礎」における数学への興味・関心を高める指導の在り方について、社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして明らかになったことを、以下にまとめる。

(1) 成果として考えられること

 社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を用いた指導は、数学を身近なものととらえさせることができ、面白さや楽しさを感じながら学習させることに役立つという見通しをもった。
 社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を用いた指導は、事象の変化の様子を視覚的にとらえさせたり、結果を予想させたりすることができ、数学の考え方を活用することのよさに対する意識を高めることに効果があった。
 社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を用いた指導は、社会生活に関数や数列などの数学的な考え方が有効に活用されていることを実感させることができ、数学の有用性に対する意識を高めることに効果があった。

(2) 課題として考えられること

 社会生活や身近な生活における数理的な考察において、生徒の主体的な操作をより多く取り入れた教材に発展させ、楽しく充実感をもって学習が進められるようにする。
 コンピュータ教材を用いた授業において、作業する場面や思考する場面、学習内容を理解する場面などを明確にし、適切な時間配分を含めた授業の展開過程を工夫する必要がある。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、高等学校「数学基礎」において、社会生活を数理的に考察するコンピュータ教材を開発し、授業実践をとおして、数学への興味・関心を高める指導の在り方を明らかにし、高等学校における数学教育の指導の改善に役立てようとするものである。
 この研究や授業実践をとおして、本研究で開発したコンピュータ教材を用いることにより、次の点
を明らかにすることができた。

(1)  高等学校「数学基礎」の学習指導において、数学を身近なものととらえ、数学の考え方を活用することのよさに対する意識や数学の有用性に対する意識を高める効果が確認され、数学への興味・関心を高めることに有効な手段の一つという見通しをもった。
(2)  指数関数などの数学的な見方・考え方を育て、表現・処理技能の習得を図ることに有効であることが確かめられた。

2 今後の課題

(1)  新学習指導要領では、数学教育でコンピュータを積極的に活用することの重要性が述べられており、「数学基礎」以外の指導においても、本研究で用いた手法を生かし、有効に活用できるコンピュータ教材の開発を行っていく必要があると考える。
(2)  コンピュータやグラフ表示ができる関数電卓、情報通信ネットワークなどの活用により、実生活との関連を重視した学習が可能となってきており、それらを活用した指導の在り方についても検討が必要であると考える。

【主な参考文献】
文部省(現文部科学省) 「高等学校学習指導要領解説 数学編・理数編」 実教出版 1999年
授業技法研究会編  「授業研究双書1指導プログラムの理論と作成(T)」 才能開発教育研究財団 1986年
授業技法研究会編  「授業研究双書2指導プログラムの理論と作成(U)」 才能開発教育研究財団 1986年
石谷茂編 「数学教育事典」 明治図書 1966年
全国高等学校数学担当指導主事会編 「高等学校数学指導資料 数学U」 みずうみ書房 1996年
川口輝久・河野勉著 「かんたんプログラミングVisual Basic6 基礎編」 技術評論社 1999年
【参考URL】
愛知県総合教育センター研究部教科研究室 http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/kyouka/math/mokuji.htm
国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/


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