印刷用紙:B4縦 1ページの行数:73 1行の文字数(半角で):122                 学    習    指    導    案                                                岩手県立総合教育センター                                                 研修主事 工 藤 昌 雄 1 指導日時  平成7年2月16日(木)第6校時〔総合教育センター第1研修室〕 2 指導対象  岩手県立花巻南高等学校 第1学年6組 41名(男子11名,女子30名) 3 指導教科書 『高等学校 政治・経済』(第一学習社),『新編 政治・経済資料 1994』(第一学習社) 4 単 元 名 3 現代の経済と国民生活  第5章 国民経済と国際経済 5 教 材 名 国際経済のしくみと現状 6 指導目標   (1)国民経済と国際経済において,貿易の果たしている役割について考えることができる。 (2)ディベートを通して,世界経済におけるわが国の置かれた状況について考え,判断することができる。 (3)世界経済における国際通貨の意義とその体制がどのように推移してきたかを理解することができる。 (4)国民経済における諸問題について理解を深め,わが国の役割を考察することができる。   7 指導計画  第1時 ディベートについてのガイダンス―――――――――――――――1時間          第2時 国際分業と貿易―――――――――――――――――――――――1時間          第3時 国際収支の動向,ガットの役割――――――――――――――――1時間          第4時 ウルグアイ・ランドと日本の農業―――――――――――――――1時間          第5時 ディベートの準備(調べ活動)――――――――――――――――1時間          第6時 ディベートの実施「コメの完全自由化について」――――――――1時間(本時)         第7時 外国為替のしくみと国際資本移動,わが国の為替相場の動き―――1時間 8 本時の指導 (1)本時の目標 a コメの輸入完全自由化について関心を持ち,その課題を明らかにしようとし,国際経済におけるわが国の在り           方について追究することができる。〔関心・意欲・態度〕          b コメの輸入完全自由化についてのディベートを通して,世界経済におけるわが国の置かれた状況について考え,           判断することができる。〔思考・判断〕          c ディベートを通して,問題解決のために収集し分析した情報を用い,論理的に考えて討論することができる。                                                 〔資料活用の技能・表現〕          d コメの輸入自由化についての主な争点を知り,国際経済におけるコメの輸入自由化問題について理解すること           ができる。〔知識・理解〕 (2)本時の展開                                           +――+――+――――――――――――――+―――――――――――――――――+――――――+―――――――――+――+ |段階|時間| 主 な 学 習 活 動  | 指 導 上 の 留 意 点   | 資料等・・ | 評価の観点・・・・ |形態| +――+――+――――――――――――――+―――――――――――――――――+――――――+―――――――――+――+ |  |  |1 前時の学習内容と関連づけ|1 炊きたての御飯を試食させたり,|・御飯   | コメの輸入完全自|一斉| |と |  | ながら,本時のディベートの| 天丼を示して関心や意欲をそそる。|・天丼   |由化について関心を|| | |ら |10 | 論題が「日本はコメの輸入を|2 天丼の原材料から食料の輸入割合|・OHP  |持ち,その課題を明|| | |え |分 | 完全に自由化すべきである」| が多いことを把握させる。    | (資料1) |らかにし,追究しよ|| | |る |  | ということをとらえ,確認す|3 日本の国際収支を示し,大幅な黒|・OHP  |うとしている。 || | |  |  | る。           | 字であることを理解させる。   | (資料2) | 関心・意欲・態度 || | +――+――+――――――――――――――+―――――――――――――――――+――――――+―――――――――++―+ |   |   |2 次のようなフォーマットで|4 ディベートの準備段階でそれぞれ|・プリント | ディベートを通じ|| | |  |  | ディベートを行う。    | 生徒が調べたことを確認させる。 | (資料3) |て,問題解決のため|| | |  |  | o肯定側「立論」―――3分|5 ディベート採点表の正しい記入の|・ディベート|に収集し分析した情|| | |  |  | o否定側「立論」―――3分| 仕方を指示する。        | 採点表  |報を用い,論理的に|| | |ふ |  | o作戦タイム―――――1分|6 司会者1名,時計係(2名),デ| (資料4) |論理的に考えて討論|| | |  |  | o肯定側「反対尋問」―2分| ィベーター(肯定側・否定側各3名|      |することができる。|| | |  |  | o否定側「反対尋問」―2分| づつ)を紹介し,ディベートを行わ|   |〔資料活用の技能・|| | |か |  | o作戦タイム―――――1分| せる。             |      |表現〕 || | |  |35 | o肯定側「反対尋問」―2分|7 反対尋問で進行が停滞したときに|      |        || | |  |分 | o否定側「反対尋問」―2分| は,状況に応じて教師から発問をす|      |       || | |め |  | o作戦タイム―――――1分| る。              |      |       |↓ | |  |  | o肯定側「最終弁論」―3分|8 審判の時には,ディベート採点表|・ディベート| ディベートを通じ|個人| |  |  | o否定側「最終弁論」―3分| に基づいて行わせるとともに,コメ| 採点表  |て,世界経済におけ|| | |る |  | o審判――――――――5分| ント欄に記入させる。     |(資料4) |るわが国の置かれた|| | |  |  |         (計28分)|9 司会者,時計係,ディベーターに|      |状況について考え,|| | |  |  |◎ 時間については上記の時間| ついての良い点を認める評価を行い|     |判断することができ|| | |  |  | を越えないものとする。  | ディベートを終える。      |   |る。〔思考・判断〕|| | |  |  |3 論題に対してそれぞれが自|10 ディベーター以外の生徒の考えを|      |  || | |  |  | 分の考えを持ち,判断する。| 発表させる。          |      |       |↓ | +――+――+――――――――――――――+―――――――――――――――――+――――――+―――――――――+――+ |まひ|  |4 ディベートの論題に対する|11 コメの輸入自由化の主な論争点を|・プリント | コメの輸入自由化|一斉| |とろ|5 | 専門的な観点からの主張を理| 一覧表で示し,それぞれの考えを再|(資料5) |についての主な争点|| | |めげ|分 | 解し,自分の考えを見直す。| 考させる。           |    |を知り,自由化問題|| | |るる|  |5 新たな学習課題に関心や意|12 著書を紹介し,更に深い学習を |脚注参照 |を理解できる。 || | |  |  | 欲を持つ。        | 促す。             |     |〔知識・理解〕  |↓ | +――+――+――――――――――――――+―――――――――――――――――+――――――+―――――――――+――+  ※ 資料1〜5については,別添資料を参照のこと。   ※ 著書名…『コメ自由革命 これで生き返る日本』(屋山 太郎,新潮社),『21世紀 農の事件簿』(岡根 裕,        近代文藝社),『米、再考 コメは世界の主食です。』(満田 久輝,集英社) 【ディベートについて】                                                  (1) ディベートとは,単なるディスカッション(討論)ではない。                                 ディベートとは,「定められたルールに従い,対抗する2組の間で行われる議論または討論」であり,「検証を重ね,議論を    闘わせることにより,あるひとつの論題に対する論理的・理性的判断を下す思考過程」を意味する。                                                       (2) ディベートとは,一定のルールに基づいて行う討論ゲームであり,次のようなルールがある。                 +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+    | ・ルール1 論題を決める。                     |                      | ・ルール2 形式的に肯定側・否定側の2つの立場を決める。 |    | ・ルール3 立論・反対尋問・最終弁論の3つの要素が必要である。 |   | ・ルール4 勝ち負けの評価をする。 |    | ・ルール5 時間を決める。                       |                      +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+                    (3) ディベートは,次のような目的をもって行われる。                           +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+    | ・真理の探求                              |                      | ・意思決定                               |                      | ・問題解決                               |                      +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+                    (4) ディベートを行うことは,次のような効果がある。                           +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+    | ・客観的分析力が身につく。                       |                      | ・論理的思考力が身につく。                       |                      | ・発表能力が身につく。                         |                      | ・よりよい聞き手になれる。                       |                      | ・情報収集力が身につく。                        |                      +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+                   (5) 本時のディベートの進め方                                                  ディベートの進め方には,さまざまな形や時間設定があるが,本時は次のように設定した。 +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+    | ○肯定側「立論」…賛成の理由を述べる。(3分)             |                      | ○否定側「立論」…反対の理由を述べる。(3分)             |                      | ○作戦タイム(1分)                          |                      | ○肯定側「反対尋問」…反対した理由の間違った点や矛盾点を聞く。(2分) |                      | ○否定側「反対尋問」…賛成した理由の間違った点や矛盾点を聞く。(2分) |    | ○作戦タイム(1分)                          |    | ○肯定側「反対尋問」…答えた中で間違った点や矛盾点をさらに聞く。(2分)|    | ○否定側「反対尋問」…答えた中で間違った点や矛盾点をさらに聞く。(2分)|    | ○作戦タイム(1分)                          |    | ○否定側「最終弁論」…最終的な反対の理由や意見を述べる。(3分)    |    | ○肯定側「最終弁論」…最終的な賛成の理由や意見を述べる。(3分)    |    | ○ディベート終了                            | | |    | ○審判…肯定側と否定側のいずれが良いか採点し,勝敗を決める。      |    |                                 |    | ○個人としての意見を発表する。                     |    +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+  (6) ディベートのスタッフ          本時では,次のようなスタッフを決めて実施した。 +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+    | ・肯定側…3名         |    | ・否定側…3名         |    | ・司会者…1名         |    | ・時計係…2名      |    | ・審判者…肯定側、 否定側、 司会者、 時計係の人以外全員  | +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――+  【 資 料 1 】   (1)主 な 食 料 の 自 給 率(1992年)                            50%            100%   +――――+―――――――――――――――――――――――――――――――――+ え び 類 | 13% | | +――――+―――――――――――――――――――――――――――――――――+ +―――+――――――――――――――――――――――――――――――――――+ 小   麦 |12%|  | +―――+――――――――――――――――――――――――――――――――――+ +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― + コ   メ |        101% | +―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― +                                                    (農林水産省『食料需給表』,『漁業・養殖業生産統計年報』1994年より作成)  (2)各 国 の 穀 物 自 給 率           (3)食 料 の 自 給 率 の 推 移   (単位:%)      +―――――――――+―――+                        (単位:%)          | 日     本 | 29 | +―――――――――+―――+   | ア メ リ カ | 109 | +―――――――――+―――+   | フ ラ ン ス | 222 |         この資料の内容については +―――――――――+―――+ 総合教育センターにお問い合わせください。   | 旧西ドイツ・・・・ | 106 | +―――――――――+―――+   | オーストラリア | 297 | +―――――――――+―――+     〔注〕日本は1992年,他は1988年の数値。        (農林水産省『食料需給表』1994年より作成)     (農林水産省『食料需給表』1994年より作成)  【 資 料 2 】 貿 易 と 国 際 収 支 の 黒 字   (1) 貿 易 の 黒 字                (2) 国 際 収 支 の 黒 字 と 赤 字                  (単位:億ドル)      +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ | 黒 字 |  年  | 赤 字 |   |   | 輸出 |1,267.4 |              +―――― +――――+――――+       |1980年| 輸入 |1,246.1 |                  |  51.8 | 1983年 |   | |   | 黒字 |  21.3 |                  +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ |    | 1984年 | 152.0 | |   | 輸出 | 1,740.2|                  +―――― +――――+――――+ |1985年| 輸入 | 1,180.3|                 |     | 1985年 | 123.2 | |   | 黒字 |  559.9|                  +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ |    | 1986年 | 447.7 | |   | 輸出 | 2,803.7|                  +―――― +――――+――――+      |1990年| 輸入 | 2,168.5|                  |      | 1987年 | 295.5 | |   | 黒字 | 635.2|                 +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ |    | 1988年 | 289.8 | |   | 輸出 | 3,065.6|                 +―――― +――――+――――+ |1991年| 輸入 | 2,035.1|              |     | 1989年 | 332.9 | |   | 黒字 | 1,030.5|                  +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ |    | 1990年 | 72.3 | |   | 輸出 | 3,308.5|                 +―――― +――――+――――+ |1992年| 輸入 | 1,985.0|              | 763.7 | 1991年 | | |   | 黒字 | 1,323.5|                  +―――― +――――+――――+ +―――+―――+――――+ | 716.0 | 1992年 |  | |   | 輸出 | 3,512.8|                  +―――― +――――+――――+ |1993年| 輸入 | 2,098.5|             | 384.3 | 1993年 | |   |   | 黒字 | 1,414.3|                  +―――― +――――+――――+   +―――+―――+――――+                                   (朝日新聞『1995 ジュニア朝日年鑑』より作成)    〔注〕国際収支は総合収支の額である。 ※ 資料3と資料4については、総合教育センターにお問い合わせください。  【 資 料 5 】 コメの輸入自由化をめぐる主な論争点                  +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |  項   目 |  自由化賛成(一部,全面) |  自 由 化 反 対    |  備      考  | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |        |o安いコメ(国際分業論),お |o品質を考慮すれば,輸入米は |oコメの国際市場性(貿易 |      |1 価格面・質面| いしいコメが入るなら,それ | それほど安いわけではない。 | 比率はわずかで,価格変 |      | (消費者利益)| でもよい。         |o日本が輸入自由化すれば,や | 動が大きい)。     |      |        |o消費者は,バラエティーに富 | がて国際米価は上昇する。  |o食味テスト結果。    |      |        | む選択を求めている。    |               |   | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |2 輸入農産物の|o外国産が汚染され,国産は安 |o輸入農産物の安全性に対する |o残留農薬やくん蒸剤の混 | | 安全性    | 全とは必ずしも言い切れない。| 疑問や不安がある。     | 入をどうチェックするか |      +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |        |o貿易摩擦解消に大きく貢献す |o農産物の輸入自由化をしても,|oコメ,牛肉,オレンジを |      |3 貿易摩擦面 | る。            | 貿易摩擦はほとんど解消しな | 仮にすべて全面自由化し | |        |oコメはわが国の市場閉鎖性の | い。            | ても,貿易黒字は1割し | |        | 象徴である。        |               | か削減しない。   | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |4 日本農業(稲|o競争原理が作用し,日本農業 |o農家の意欲減退により,食糧 | | | 作)への影響 | の体質強化・改善につながる。| 供給力はさらに低下する。 | | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |5 地域経済への| (特になし)        |o(米価の大幅下落による)地 |o農業生産額の減少は農業 | | 影響     |               | 域経済へのマイナスの影響は | 依存度の高い地域の経済 | |        |               | 大きい。          | や関連産業に深刻な影響 | |        |               |               | をもたらす。 | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |6 水田の公益機| (特になし)        |o水田の果たす国土保全,防災 | | | 能      |               | 機能ははかりしれない。 | | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |7 食糧安全保障| (特になし)        |o食糧安全保障上,せめて主食 |oわが国穀物自給率(約30 | |        |〔注〕原油をほぼ100 %海外依 | のコメだけは100 %自給すべ | %)はすでに先進国中で | |        |  存しているのに,食糧自給 | きである。         | 最低水準である。 | |        |  はナンセンスである。 | | | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― + |8 文化・伝統面| (特になし)        |o米食や稲作の文化・伝統は国 |o各国とも主食はすべて国 | |        |               | 家の基礎であり,民族の自立 | 内自給が原則。 | |        |               | にとって不可欠である。 | | +――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――――――+―――――――――――― +