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認知の変容を目指したアセスメントの事例(高校3年生男子A)
 「友人からどう思われるかが気になり、登校回避傾向を示した事例」
キーワード
アセスメントの視点(PDF) 受容・共感 認知の変容(PDF) 具体的行動レベルでの援助

この事例解説では、どのような視点でアセスメントをしたのかに焦点をあててまとめました。
問題の概要
  Aは、教師や友人たちから明るく思いやりがあり、まじめなやさしい人物と思われてきた。部活動にも熱心であった。これまで特に問題行動を示すこともなく生活してきた。しかし、内面的には、他人に嫌われるのではないかと思い、自分の率直な感情を出すことがなかなかうまくできずに生活してきた。こうした中、10月になると、Aは担任に、Bとの人間関係のために傷つけられていると訴え始めた。Bは自分の言いたいことを遠慮なく言うのに対し、AはBからの傷つく言葉にも我慢して笑顔を作っているような関係になっているのだという。
  Bは物事をはっきり言うタイプだが、周囲の目には、悪意は感じられなかった。しかしAはこうした関係に疲れてしまい、それを避けるために欠席がちになっていった。11月になると、Aは体調不良を訴え、登校しようと思う気持ちはあるが行けない。行けないと焦るし、自分がイヤになって腹が立つと訴え、欠席も増えていった。

対応の概要
1 チームとしての対応

 本人には、学級担任、Aと信頼関係のある数学担任及び相談係、養護教諭、学年長をメンバーにしてチームでの指導・援助を始めた。

2 チームによるアセスメントの実施

  チームでの会議において、本人との面談、両親からの情報提供、教師による観察、心理検査からアセスメントを行った。と くにAの言動にそったアセスメントを中心とした。


3 主な指導・援助方針と対応

(1)  自己嫌悪感や、焦りを強めたAに対して、学級担任、数学担任を窓口に、一貫して受容・共感的に関わった。 
(2)  Bとの関係をどのように調整していくか現実検討しながら、「本音をいうと相手を傷つける」「登校しなければならない」という考え(認知)に対 して、もっと自分が楽になるような認知がもてるように働きかけていった。

   

アセスメントの特徴(情報の理解・判断・方針の検討)
チームによるアセスメントの視点と、その内容について、まとめてみます。
◆◇アセスメントの視点1◆◇
 Aは、なぜこの時期に、Bとの人間関係について苦しさを訴えたのでしょうか?
 −文脈からこうした状況に至った経緯を考える−

 Aは、これまで、周囲の人たちが受ける印象とは別に、内心では自分が他人に嫌われるのではないか、自分の言うことが他人を傷つけるのではないかという不安を抱き、率直な思いや感情を出すことができず、苦しんできました。そうした中、Aは、3年生の受験期という、自分を抑えながらでも順応できていた今までの生活範囲を越える環境におかれ、ストレスを高めていきました。
 そこで心理的に不安や過敏さを強めたAは、Bとの関係で自由にふるまえないことからくる自己嫌悪感やイライラに耐え難くなってきたのだと考えました。

◆◇アセスメントの視点2◆◇
 Aは、どのような場面で、どのように困っているのでしょうか?
 
−苦戦している場面や人間関係を具体的に考える−

 Bの前では、Aが一方的にがまんする(とAが感じる)関係になってしまい、Bと話したり、一緒に行動したりする場面をAは苦しく感じています。さらに、級友たちが、欠席がちな自分のことを非難しているように思えて強い緊張を覚えるようになり、クラスで生活することもつらくなりました。こうした中で、Aは次第に人と会うことを避けるようになり、登校しないことで苦戦する場面を回避しようしていると考えました。
 かといって、家にいても「登校しなければならない」という思いが強いため、家庭が気持ちの休まる場所になっていないという苦しさがあると考えました。

◆◇アセスメントの視点3◆◇
 Aはなぜそうしたことに苦戦しているのでしょうか?
  
−苦戦をもたらしている原因や背景を考える−

 周囲の目には、AがBの言うことに一方的にがまんしているという関係には見えません。しかしAは確かに「思うようにものが言えない」「苦しい」と感じているのです(心理的事実)。それは、「本音を言って相手を傷つけてはいけない」「相手を傷つけることを言えば嫌われる」「嫌われることは耐えられないこと」といった考え方(認知)が強いためではないかと判断しました。さらに、Bとの関係が苦しくなると、その解決のためには「すぐにBと絶交しなければなければならない」とか、家にいても「登校しないわけにはいかない」「登校できない自分はダメだ」というように、0か100か的に考えてしまいます。このような認知的特徴も、Bとの人間関係をすぐに、しっかりと解決して登校しなくてはならない→うまくいかない→不安・自己嫌悪感が増すという悪循環をもたらしていると考えました。

◆◇アセスメントの視点4◆◇
 Aはどうなればいい、どうなりたいと思っているのでしょうか?
 −本人のニーズや本人にとって必要と思われるニーズを考える−

  Aは、苦戦する場面を改善するために、Bとの関わりをなくしたいと考えていました。しかしそれを満たせば問題が解決するとは思えませんでした。根本的には、「嫌われるのではないか」という対人不安感を和らげ、自分の思いを率直に表現したいというニーズがあると判断しました。

◆◇アセスメントの視点5◆◇
 どのような資源を使い、どのような方法で対応すればいいのでしょうか?
 −対応の方針と役立ちそうなものを考える− 

  苦戦を改善し、ニーズを満たすための資源として考えられるのは、担任との信頼関係です。この関係を維持・強化しながら、Aの気持ちを安定させるために、受容・共感的な関わりを基本とすることにしました。その上で、絶交だけでなく、上手に断る方法など、Bとの関係を具体的にどう調整していくかを一緒に考えることにしました。また登校についても、もっと楽な考え方(認知)を伝えていくことが有効だと考えました。
  Aが、年齢相応に自分を見つめる目(自己洞察力)をもっていると思われたことも、こうした対応を可能にする資源と考えました。

こんなところにも注目
■時間的制約、教師の専門性、Aの発達面から考えてAの性格の変容や、両親の育て方の問題に焦点をあてず、受容・共感的なかかわりを基本としたこと。
■受容・共感的なかかわりを重視し、その上で具体的な行動の仕方を検討したり、自分を追いつめないような考え方を示して認知の変容につなげようとしたこと。

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