この指導案は、算数科における創造的に考える力を育てる学習指導試案(「創造的に考える力を育てる算数・数学科の学習指導に関する研究」 平成11〜12年度岩手県立総合教育センター)に基づいて作成したものです。
1 単元の目標
平均の意味について理解するとともに、異種の2つの量の割合としてとらえられる数量について、その比べ方や表し方を理解し、それらを用いることができる。
[関心・意欲・態度] | 単位量あたりの考え方のよさを認め、異種の2つの量を組み合わせて表された量を比較するとき、進んでそれを用いようとする。 |
[数学的な考え方] | 異種の2つの量を比較するとき、単位量あたりの考えを用いて一方の量をそろえたり単位量の大きさにしたりして比べればよいことに気付く。 |
[表 現 ・ 処 理] | 平均を計算で求めることができる。 単位量あたりの考えを用いて混み具合や速さを比較することができる。 |
[知 識 ・ 理 解] | 平均や人口密度の意味とその求め方が分かる。 速さの意味や速さの公式の意味が分かる。 |
2 単元について
この単元では、異なった二つの量の組み合わせによらなければとらえることができない量があることを知らせ、それらの量は、一つの量に着目しただけでは比べることができないし、単位がいくつ分あるかを数えるという測定の考えでも数値化することはできないことを理解させる。このような量を比べたり数値化したりするには、かかわっている二つの量の一方を固定して他方の量で比較したり、数値化したりする方法を用いる。これらのことを理解させ、用いることができるようにすることがねらいである。
3 指導にあたって
指導にあたっては、公式を提示しそれに数値をあてはめて答えを求めるといった指導にならないように、複数の問題の解決をとおして、一般化を図るようにする。
かかわっている二つの量の一方を固定して考える方法は、固定する量を2つのうちのどちらにするかによって、式や求める数値が異なる2通りの回答が得られる。児童には、2通りの解き方の理解と問題への適用が必要であるが、実態に応じて一つの方法を理解した後、もう一つの方法で取り組むように指導したい。
単位時間の学習では、複数の問題を比較しながら、内容をとらえたり解決の方法を考えたりするような進め方としたい。これは、単位量あたりの考えを使って解く問題にいろいろ触れることにより、表現・処理、数学的な考え方の力をつけたいと考えたためである。
小単元「単位量あたりの大きさ」の指導では、学習内容の指導順を次のようにする。混み具合を調べる学習では一人あたりの面積を求めて比較する方法を中心に行う。それに続いて人口密度の学習を行うが、はじめは、一人あたりの面積を求める方法で解き、求めた数値の大きさがとらえにくいことを実感させ、別の比べ方である人口密度の考えに結び付けていくようにしたい。
4 自らの課題を追究する活動の進め方
自らの課題をもち学習の見通しをもつ活動は、小単元「平均」で1回(第1時)、小単元「単位量 あたりの大きさ」「速さ」で1回(第5時)行う。提示する問題は次のとおりとする。
第1時 シチューの箱に表示されている材料 じゃがいも 中4こ 600g
どのじゃがいもを選びましょうか。選ぶときに、どんなことを考えますか。第5時 AとBの車があります。ガソリンがなくなるまで走らせました。
A車は225km、B車は120km走りました。だから、A車が性能のいい車です。
この話は正しいと思いますか。
提示する問題学習の終末で行う自らの課題についてまとめる活動においては、次のとおりとする。
問 題
1 平均を求めよう
・単元の学習で使ったシチューの材料 分量表示を提示
・小学校高学年の1日のエネルギーは、男2250 kcal(キロカロリー)女2050 kcal、食品群別摂取量のめやすの資料を提示
2 コピー機の速さ 1時間に4500枚コピーします。
3 1リットルのガソリンで12km走ることができます。タンクは40リットルです。
どの問題も出だしの部分だけの提示とし、それに続けて児童が問題を作りあげていくようにする。また、問題すべてを自作することも取り入れる。
自らの課題の解決状況をつかむ活動における述べ合う活動の形態は、はじめは隣同士の2人、その後席を離れて自由に紹介し合い意見や感想を話すようにさせる。これは、算数の学習を苦手と感じていて自分の考えを大勢の前で話す自信がない児童がみられることから、その負担を軽減したいためである。
単元の学習の最後に行う発表は、学級の児童を半数ずつに分けて2グループを作り、授業の前半は1つのグループが発表し後半は残りのグループが発表する形態とする。これは、児童がポスターセッション的な発表になれていないことと、指導者が児童全員の取り組みの様子を把握できるようにしたいと考えたためである。
5 学習指導計画
自らの課題を追究する活動を取り入れた単元の学習指導は16時間とし、研究の手だてにかかわる指導は、第1、5、14、15、16時に行うこととした。それぞれの活動の時間配分は、次のとおりで ある。
時 時 間 活 動 第 1時
第 5時
第 5時
第14時
第15時
第16時45分間
15分間
30分間
30分間
45分間
45分間課題をつかみ学習の見通しをもつ活動(1)
課題の解決状況をつかむ活動(1)
課題をつかみ学習の見通しをもつ活動(2)
課題の解決状況をつかむ活動(2)
自らの課題についてまとめる活動
発表
自らの課題を追究する活動を取り入れた単元の学習指導計画
6 学習指導展開案
学習指導展開案は、創造的に考える力を育てる学習指導試案の中の「自らの課題を追究する活動の指導過程試案」に基づいて作成したものです。
第1時 | 小単元「平均」の導入における、自らの課題をもち学習の見通しをもつ活動 |
目 標 | 問題の内容をつかみ、疑問をもつことができる。 考えを述べ合うことをとおして、自分の課題をもつことができる。 |
展 開
学 習 活 動 | 留 意 事 項 | |
1 問題内容を把握する | ・問題について質問がないかを問い、全体で問題内容を確認する | |
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2 問題の解決に取り組む(10分) | ・問題の解決は、疑問に思ったことや気付いたことなどを挙げることを主とするため、必ずしも解決しなくてよいことを確認する | |
3 互いの考えを述べ合う(15分) | ・二人組で考えを述べ合う。多くの友達と紹介し述べ合うために、二人組は固定しない。実態に応じて、少人数のグループでも取り組めるようにしたい。 | |
4 自分の課題をノートに記録する (10分) | ・課題を決められずにいる児童には、個別に支援する | |
5 みんなの課題を知り、学習の見通しと課題解決の見通しをもつ (10分) | ・課題を全体の場で発表させる。だれとだれの課題が似ているのか、どういう内容かとらえさせる ・教師が単元で学習する内容とのつながりを示し、各自の課題が単元の学習のどのあたりで解決できそうなのか見通しがもてるようにする |
第5時 | 平均から全体量を求める学習 小単元「平均」における、自らの課題の解決状況をつかむ活動 |
目 標 | 平均の問題を計算によって解決できる。 学習を振り返り、自分の課題が解決できたかどうかを確かめることができる。 |
展開
学 習 活 動 | 留 意 事 項 | |
1 問題内容を把握する(5分) | ||
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2 自力解決する(10分) | ||
3 解決の仕方を話し合う(5分) | ||
4 適用問題を解く(10分) | ||
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5 小単元「平均」で学習したことを振り返り確かめる | ・小単元の学習で用いた問題や提示資料等を示して、学習したことを確認する | |
6 自らの課題と照らし合わせ解決できたかどうかを確かめノートに書く | ・自分の課題がどの学習で解決できたのかを確かめさせる ・解決できないときは、なぜなのかを考えさせる |
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7 確かめたことについて述べ合う | ・二人組やグループで述べ合う。一人では気付けなかったことなどに気付いたときはノートに記録させるようにする |
第15、16時 | 自らの課題についてまとめる活動 |
目 標 | 問題を選び、解くことができる。 互いの発表を聞き合うことをとおして、自分の考えをもつことができる。 |
展開
学 習 活 動 | 留 意 事 項 | |
1 単元の学習内容と自らの課題を振り返る(5分) | ・これまでの学習について掲示資料等を使いながら確認したのち、各自、ノートをみて課題や解決状況、学習した内容などを想起させる | |
2 問題を選び解決に取り組む(25分) | ・この活動における問題解決は、これまでの学習のまとめであることを意識させ、問題の選択においては、自らの課題の解決と結びついた問題を持って選ぶようにさせる ・複数の問題に取り組むようにさせたい |
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3 発表の準備をする(15分) | ・発表は全員の前で一人一人発表することとする仕方を考えさせるようにする | |
4 発表し、互いに意見を述べ合う (35分) | ・友達の取り組みに対する意見や感想を発言させる | |
5 活動すべてを振り返り、学習のまとめをする(10分) | ・発表の感想をノートに記述させる ・児童生徒個々の取り組みのよさを認め、次の学習への意欲となるように、助言する |
7 創造的に考える力を育てる算数・数学科の学習指導試案
@学習の導入で提示する問題
A学習の終末で提示する問題
B述べ合う活動の仕方
C自らの課題を解決する活動の記録の仕方
D発表の仕方について
以下のように考える。
@ 学習の導入で提示する問題
学習の導入で提示する問題は、単元で学習する内容を含んだオープンな問題を検討し設定する。形式は、文章によるもののほか、情景図、統計資料などの表やグラフなどが考えられる。問題の内容は、条件過剰または不足のものとしたり、文末表現は「〜を求めましょう」ではなく「〜を調べましょう」とするなど、児童生徒によっていろいろに考え課題が設定できるように工夫した問題とする。
A 学習の終末で提示する問題
学習の終末で提示する問題は、学習したことを使って解決できる問題を複数用意する。教科書のまとめの問題を活用するほか、オープンな問題も設定する。
B 述べ合う活動の仕方
述べ合う活動では、自分の考えを気軽に話すことができるようにしたい。そこで、活動形態を児童生徒の実態に応じて、二人組やグループなど工夫する。二人組は隣同士のほか、ある一定時間内に相手を変える方法もとる。グループによる場合は、グループ編成に工夫が必要である。考えが似ている者同士や全く違う者同士など意図的に編成したり、制限を加えないようにしたりすることが考えられる。
一つの述べ合う活動が、一つの形態で行われるばかりでなく、二人組からグループへと述べ合う人数を拡大させていくような工夫も必要と考える。
C 自らの課題を解決する活動の記録の仕方
自らの課題を解決する活動の記録は、算数・数学の授業で使っているノートを利用する。導入と終末段階の学習ではノート全面を使うが、展開段階の学習では、この活動を記録する特定のスペースを例えば、ノートの下段5行とするなどのように決める。記録する内容は、導入と終末段階では、問題への取り組みが中心となり、展開段階では、自らの課題とそれが解決できたかどうかや解決できたと考えたわけなどとする。
D 発表の仕方
終末段階で取り組む発表は、主にポスターセッション的な形態とする。授業時間を前後半に分け、前半に発表する者は後半は聴く側となる。発表者は、自分の取り組みについて時間内に複数回説明を行い、より多くの友達に聴いてもらうようにする。聴く側は、一人の発表だけでなく複数の発表を聴き、質問したり意見を述べたりする。
8 自らの課題を追究する活動の指導過程試案
単元の学習の第1時 自らの課題をつかみ学習の見通しをもつ活動 |
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学 習 活 動 | 留 意 事 項 |
1 学習内容を把握し取り組む | ・学習問題は単元の学習内容を含むオープンな問題とし、内容、出題形式を検討し提示する ・問題への取り組みは、気付いたことや疑問に思ったことなどを挙げることを主とするため、必ずしも解決しなくてもよい |
2 抱いた疑問などを述べ合う | ・自らの課題を決める手がかりを得るために、気付いたことや疑問に思ったことなどを紹介し合い、自分では気付けなかったことに気付くことができるような活動とする ・述べ合う形態は、児童生徒が気軽に意見を話せるように実態をふまえた形態とする |
3 自分の課題をきめて記録する | ・明らかに解決不可能な課題をもった児童生徒、課題を決められずにいる児童生徒には、個別に支援する ・友達の様子を知りたいときは、たずねてよいこととする ・自らの課題をノートの特定の場所や掲示用の紙に書かせる |
4 みんなの課題を知る | ・各自の課題を全体の場で分類するなどの方法により、児童生徒が学習したいと考えた事柄を全員で大まかにとらえる |
5 学習の見通しと課題解決の見通しをもつ | ・教師が単元で学習する内容とのつながりを示し、自分の課題が単元の学習のどこで解決できそうなのかなどの見通しがもてるようにする |
小単元の終末 自らの課題の解決状況をつかむ活動 |
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学 習 活 動 | 留 意 事 項 |
・この活動にかける時間は15〜20分程度とする | |
1 小単元で学習したことを振り返り確かめる | ・小単元の学習で用いた問題や提示資料等を使いながら学習したことを確認する |
2 自らの課題と照らし合わせ解決できたかどうかを確かめる | ・ノートの記録をみながら、学習したことを振り返らせ、自らの課題が解決できたかどうかを各自に判断させる なぜ、そう判断したのかを明らかにさせる。また、解決できていないときは何が分かれば解決となるかを考えさせる。 |
3 確かめたことについて述べ合う | ・各自が照らし合わせて確かめたことについて、思ったことを話し合い、一人では気付けなかったことなどに気付けるようにする ・述べ合う形態は、児童生徒が気軽に意見を話せるように工夫する |
4 自らの課題の解決状況を記録する | ・自分の考えと述べ合ったことを踏まえて、自らの課題の解決状況をノートの特定の場所に記録させる ・課題が解決した児童生徒には新たな課題を見いだせるように助言するなど、児童生徒個々に応じた助言を行う |
単元の学習の最終時 自らの課題についてまとめる活動 |
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学 習 活 動 | 留 意 事 項 |
1 単元の学習内容と自らの課題を振り返る | ・これまでの学習について掲示資料等を使いながら一斉の場で確認する ・学習を記録した各自のノートをもとにして、個々に学習したことを想起させる |
2 問題を選び解決に取り組む | ・取り組む問題は、単元の学習で使った問題、学習したことを使って解決できる問題、自作の問題など複数提示する ・この活動における問題解決は、これまでの学習のまとめであることを意識させ、問題の選択においては、自らの課題の解決と結びついた問題など意図を持って選ぶようにさせる |
3 取り組んだ結果を発表する準備をする | ・発表が効果的になされるように時間の配分や補助資料など工夫させる ・自らの課題とその解決についての話も交えて発表できるようにノートを用いて学習を再度振り返らせる |
4 発表し、意見を述べ合う | ・聴く側のときは、疑問や意見を述べることをめあてに取り組ませる ・児童生徒の発言内容やつぶやきをとらえ、新たな疑問がもてるようにする |
5 活動すべてを振り返り、学習のまとめをする | ・児童生徒個々の取り組みのよさを認め、次の学習への意欲となるようにする |