第4学年 社会科学習指導案
期 間 |
平成9年9月9日(火)〜10月2日(木) |
場 所 |
紫波町立赤沢小学校 |
児 童 |
第4学年 男10名,女6名,計16名 |
授業者 |
菊 池 京 子 (長期研修生) |
1 単元名 「くらしを高めるねがい」
2 単元について
本単元は,学習指導要領の第4学年の内容 (4)「地域の文化や開発などに尽くした先人の具体的な事例を調べて,先人の働きや苦心を当時の人々の生活の様子や考え方,技術や道具などの面から理解できるようにするとともに,現在にあっても地域の人々の生活の向上と安定のためにいろいろな努力がなされていることに気付くようにする。」に基づいて設定されたものである。
ここでは,地域の具体的な事例として児童の住んでいる赤沢地区の果樹生産の開発を取り上げ,
・赤沢の果樹生産が盛んになってきた要因としての自然や社会的条件
・地域の人々の開発に対する願いや工夫と努力
についてとらえさせることをねらいとした。
児童は,第3学年に初めて「社会科」と出会い,地域学習として地域社会の社会的事象を取り上げ学習してきている。公共施設として“公民館や保育園”“赤沢地区や紫波町の絵地図作り”消費生活としての“商店の働き”,生産活動としての“りんご農家の仕事”“工場の仕事”,過去100年にさかのぼった “学校や地域のうつりかわり”,そして,第4学年では,健康や安全を守る活動として“上下水道・ごみ処理・火事や交通事故を防ぐ仕事”を学習してきている。このような地域学習において,児童は,観察や見学・調査などの体験的な活動をし,それを表現する活動を意欲的におこなった。しかし,それは単なる事実認識や感想にとどまり,社会的事象に対する見方・考え方が児童一人一人に十分に育っているとはいえない状況である。
そこで,児童にとって身近な地域の社会的事象を学習材として発掘し,自分で複数の予想や解決の見通しを立て,自分の足で実際に複数の調査活動を行うことによって情報を集め,比較・関連させながら社会的事象の特色や要因を考えさせることができる「とんぼカード」を活用させることによって,社会的事象に対する多面的な見方・考え方を育てたいと考えた。本単元の地域教材として設定したのは,児童の住んでいる赤沢地区の特産物である果樹生産の開発である。実際に自分の目と耳と足で調査し,どのような経緯で開発され,普及し,今日のように地域の産業として定着してきたかを,いろいろな視点からとらえる活動をすることによって,児童一人一人が自分なりに事象の生起の要因を考えることができるようにしていく。また,りんごというように一種類に限らずに数種を児童自身で選択し追究していけるように設定し,追究の視点を広げ,できるだけ社会的事象を広い視野でとらえるようにさせたいと考える。更に,発展として岩手県内の他の開発にも触れ,どの地域でも‘くらしを高めたい’という当時の人々の願いは共通するものであり,その後も苦労や改善を重ねてきていることに気づかせたい。
3 単元の目標(赤沢の果樹開発にかかわる)
(1) 単元のねらい
地域の開発に尽くした先人の具体的な事例として赤沢地区の果樹生産の開発について調べ,当時の人々の生活の様子や考え方,普及の様子などから先人の働きや苦労・願いに気づき,時代は変わってきても生活向上は人々の共通の願いであることを理解し,地域を愛し発展を願う気持ちを育てる。
(2) 単元の評価規準
社会的事象への関心・意欲・態度 |
・自分たちの住んでいる地域の果樹生産について,なぜ開発しようとしたか,どんな工夫を続けてきたかなどの問題意識をもち,いろいろな視点をもって進んで調べようとする。
・地域の果樹生産の開発に尽くした人々に共感し,地域の発展を願う気持ちをもつ。 |
社会的思考・判断 |
・なぜ開発しようとしたのか,今現在もどのような工夫や努力をしているのか,調べたことを比較・関連させながら,地域の人々の願いや地域とかかわらせて考えることができる。 |
観察・資料活用の技能・表現 |
・開発にかかわった人々や果樹農家の人々に直接聞き取り調査を複数行い,自分なりにその果樹作りがさかんになってきた要因をまとめることができる。
・自分たちで資料を作り,学級全体で発表し情報を交換し合うことができる。 |
社会的事象についての知識・理解 |
・開発される前の当時の人々の生活の様子や願いがわかる。
・赤沢の自然的条件や当時の社会的条件を生かしながら,果樹生産の開発に尽くした人々の考えや苦労,努力がわかる。
・今なお品種改良などを重ねながら生産を高めたりしている農家の人々の工夫や努力がわかる。 |
4 単元の学習指導計画(14時間)〔詳細は,本時の指導の後を参照〕
(1) 赤沢の果樹生産の特徴から学習問題を設定する・・・・・・・・・・・・・・・1時間
(2) 学習問題に対して予想を立て,自分の学習課題を設定する・・・・・・・・・・1時間
(3) 課題の解決の見通しを立てる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間
(4) 見通しにそって,自分の課題を追究する・・・・・・・・・・・・・・・・・・4時間
(5) 学習課題についてグループで整理する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間
(6) 学習問題について自分なりに整理する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間
(7) 他の地域の開発の様子について調べる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間
5 本時の指導
(1)「とんぼカードA」の活用場面
「学習問題に対して予想を立て,自分の学習課題を設定する」(第2時)
ア 目 標
社会的事象への関心・意欲・態度 |
・赤沢のくだもの作りがさかんになった要因を自分なりに予想を複数立てようとする。
・学級全体で話し合った予想の中から,自分が追究しようとする学習課題を設定することができる。 |
社会的思考・判断 |
・ 他の地域の土地利用を表した資料と比較することで,赤沢地域の地形の特徴をとらえ,くだもの作りがさかんになった要因を自分なりに考えることができる |
観察・資料活用の技能・表現 |
・いくつかの資料を比較し相違点に着目しながら,自分なりに考えた要因を「とんぼカードA」に表現することができる。 |
イ 展 開
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子 ど も の 学 習 活 |
教 師 の か か わ り ◎評価 |
資 料 |
つ
か
む
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1 前時に立てた学習問題を確認する。
学習問題
赤沢でくだもの作りがさかんになってきたひみつをさぐろう。 |
2 本時のめあてを設定する。
どんなひみつがあるか自分で予想を2つ以上立て,自分の学習課題を決めよう。 |
3 自分で複数の予想を立て,「とんぼカードA」に記入する。
4 自分で立てた予想を全体で話し合い,いろいろな考え方があることに気づく。
5 予想のなかから追究したいことを自分の学習課題として設定する。
6 今日のめあてが達成されたか自己評価をする。
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○ 前時の資料と立てた学習問題を提示して,想起できるようにする。
「とんぼカードA」
☆ 学習問題に対する自分なりの予想を複数立てさせる。 |
○ 自分の生活経験や既習事項とかかわらせて考えるようにする。
○ 「とんぼカードA」の活用によっていろいろな視点で考えるという意識をもつことができるようにする。
○ いくつかの資料を提示し,比較しながら複数の予想を立てることができるようにする。
○ 話し合いによって同じ予想ごとに分類し,それぞれの予想の根拠を交流し合い,考える視点を広げることができるようにする。
○ 自分が立てた予想以外のことも含め自分が一番追究したいと思う予想を自分の課題として設定することができるように,個々に声掛けする。
◎ 予想を複数立てることができたかを「とんぼカードA」でみる。 〔関心・意欲・態度〕
◎ 赤沢地区の地形の特徴をとらえて要因を考えることができたか。 〔思考・判断〕
◎ いくつかの資料を比較し相違点・に着目しながら,自分の考えを表現することができたか。〔技能・表現〕
◎ 自分の学習課題を設定することができたか。〔関心・意欲・態度〕 |
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・50年前の赤沢の山林の拡大写真
・現在のぶどうを収穫している拡大写真
・収穫高の変移グラフ(りんご,ぶどう)
・「とんぼカードA」
・傾斜地を利用してぶどうを栽培している農家の拡大写真
・他地域の水田地
帯の拡大写真(近くに川がある)
・課題を記入する用紙
・ふりかえりカード(自己評価)
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(2)「とんぼカードB」の活用場面
「課題の解決の見通しを立てる」(第3〜4時)
ア 目 標
社会的事象への関心・意欲・態度 | ・自分が追究しようとする学習課題に対する解決の見通しを複数立てようとする。 | 社会的思考・判断
| ・自分が考えた要因をどのようにして調べたらよいか,生活経験や既知の事実を想起したり資料を鑑みたりしながら,自分なりに考えることができる。 | 観察・資料活用の技能・表現 | ・自分なりに考えた解決の見通しを「とんぼカードB」に記述することができる。 |
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イ 展 開
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子 ど も の 学 習 活動 |
教 師 の か か わ り ◎評価 |
資 料 |
つ
か
む
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1 自分の学習課題を確認し,本時のめあてを設定する。
自分の課題を解決するために,調べる計画を立てよう。
(2つ以上) |
2 個々で,調べる計画を立てる。
3 同じ学習課題を立てた児童でグループを構成し互いの計画を提示し合い調べる視点を再検討する
4 聞き取り調査の順序と
日程を確認し合う。
5 めあてが達成できたか
を自己評価する。
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「とんぼカードB」
☆ かかわった人々に視点を当てた解決の見通しを複数立てさせる。 |
○「とんぼカードB」(ピンク)を提示し,一人に2枚ずつ渡して,複眼的に追究するという意識づけをする。
○ 個々で立てている計画の内容を把握し,必要に応じて果樹生産にかかわる地域の施設や人物を紹介し,調べる視点をできるだけ広げるようにする。
(例)ぶどう農家,りんご農家,
赤沢果樹生産組合,赤沢産直
センター,元営農指導員 等
◎ 解決の見通しを複数立てようとしているかを個別にみて把握する
〔関心・意欲・態度〕 |
○「とんぼカードB」(水色)を渡し、グループのなかで計画の情報を交換し合うことで,学習課題を解決する視点をより多く設定できるようにする。
◎ 解決の見通しを複数立てることができたかを「とんぼカードB」でみる。
〔思考・判断〕
〔技能・表現〕 |
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・「とんぼカードB」(ピンク)
=
個々で立てた計画
・果樹生産にかかわる施設や人物の資料
「とんぼカード・B」(水色)
=
新たに加えた計画
・ふりかえりカード(自己評価)
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《 課外に 》
聞き取り調査を依頼する方々に事前に連絡を取り,日程と内容の確認をする。
(3)「とんぼカードC」の活用場面
「学習問題について自分なりに整理する」(第11・12時)
ア 目 標
社会的事象への関心・意欲・態度
| ・グループでまとめた学習課題について聞き手にわかるように発表しようとする。
・地域の果樹生産の開発に尽くした人々に共感し,地域の発展を願う気持ちをもつ。 | 社会的思考・判断
| ・なぜ開発しようとしたのか,今現在もどのような工夫や努力をしているのか,調べたことを比較・関連させながら,地域の人々の願いや地域とかかわらせて考えることができる。 | 観察・資料活用の技能・表現
| ・自分なりに赤沢でくだもの作りがさかんになってきた要因を,いくつかの視点をもってまとめることができる。
・自分たちで作成した資料をもとに,学級全体で発表し情報を交換し合うことができる。 | 社会的事象についての知識・理解
| ・開発される前の当時の人々の生活の様子や願いがわかる。
・赤沢の自然的条件や当時の社会的条件を生かしながら,果樹生産の開発に尽くした人々の考えや苦労,努力がわかる。
・今なお品種改良などを重ねながら生産を高めたりしている農家の人々の工夫や努力がわかる。 |
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イ 展 開
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子 ど も の 学 習 活 動 |
教 師 の か か わ り ◎評価 |
資 料 |
ま
と
め
る
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1 本時のめあてを設定する。
学習問題「赤沢でくだもの作りがさかんになったひみつ」について,自分なりにまとめよう。 |
2 「とんぼカードC」をもとにして,グループごとに発表し合う。
3 「くだもの作りがさかんになってきたひみつ」についてそれぞれのグループの発表内容や自分で聞き取り調査をして得たことをもとにみんなで話し合う。
4 学習問題について自分なりに内容を関連づけながら,まとめる。
5 めあてが達成できたかを自己評価する。
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学習問題について,それぞれのグループの発表を取り入れて自分でまとめる,という意識づけを明確にする。
「とんぼカードC」
☆ 各グループの情報や考えを全体で交換し合い,それをもとに自分なりに学習問題について考え,まとめさせる。 |
○ 互いの発表を聞く観点を確認する。
・どんな人がかかわっていたのか
・どんなひみつがあったのか
・どんな苦労や工夫があったのか
・自分で初めに立てた他の予想は合っていたか
◎ 聞き手にわかるように発表しようとしているか。 〔関心・意欲・態度〕
◎ 自分たちで作成した資料をもとに学級全体で発表し情報を交換し合うことができたか
〔技能・表現〕 |
○ 「くらしを高めたい。」という当時の人々の共通の願いであったことに気づかせるようにする
○ 赤沢の自然条件をうまく利用した果樹生産の開発であったことに気づかせるようにする。
○ 聞き取った内容をもとにした考えを発言するように促す。
◎ 地域の人々の願いや地域とかかわらせて考えることができたか。
〔思考・判断〕
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○ 「とんぼカードB・C」の内容や話し合ったことを取り入れながら,できるだけ多くの視点で記述するように助言する。
◎ 地域の果樹生産の開発に尽くした人々に共感し,地域の発展を願う気持ちをもつことができたか。〔関心・意欲・態度〕
◎ 自分なりに赤沢でくだもの作りがさかんになってきた要因を,いくつかの視点をもってまとめることができたか。 〔思考・判断〕
◎ 開発に尽くした人々の考えや苦労,努力がわかったか。 〔知識・理解〕
・◎ 今なお品種改良などを重ねながら生産を高めたりしている農家の人々の工夫や努力がわかったか。〔知識・理解〕 |
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学習問題を記述した紙板書
・学習課題を表示した紙板書
・「とんぼカードB」
・「とんぼカードC」
・考えを記述する補助カード
・ふりかえりカード(自己評価)
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単元の指導計画(14時間)
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ね ら い | 学 習 活 動 と 内 容 ◎評価 |
資 料 等 |
つ
か
む
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1 赤沢地区の果樹生産の盛んな様子を資料からとらえ,「なぜ果樹生産がさかんになったか」という全体の学習問題を設定することができる。
2 学習問題に対して,自分なりに複数の予想を立て,個々の学習課題を設定することができる。
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・赤沢地区の果樹生産の盛んな様子を資料からとらえ,50年前との比較によって,学級共通の学習問題を設定する。
学習問題
赤沢でくだもの作りがさかんになってきたひみつをさぐろう。 |
◎ 資料に対しての事実把握や疑問を表記させ,自分の学習問題を立てる
ことができたかを学習カードでみる。 |
・学習問題に対して,自分の予想を立て,「とんぼカードA」に記入し発表し合う。
・予想を共通した内容で精選し,そこから個々の学習課題を設定する。
◎ 予想を立てることができたかを,「とんぼカードA」でみる。 |
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・新聞に掲載された記事の拡大写真
・赤沢地区のりんご、ぶどうの出荷数量の変移のグラフ
・50年前と同様の状態の山林の拡大写真
・他の土地利用を表す拡大写真
(水田地帯)・ぶどう畑の傾斜した様子を表す拡大写真
「とんぼカードA」
|
調
べ
る
ま
と
め
る
|
3 個々の学習課題に対して,予想を確かめるための解決の見通しを複数立てることができる。
4 赤沢地区の果樹生産がさかんになったひみつを個々の見通しにそって聞き取り調査活動を行い情報を収集する。
5 得た情報を比較しながら,自分なりに学習課題についてまとめることができる。
6 同じ課題ごとのグループで情報を出し合い,課題についてより多くの視点でまとめることができる。
7 できるだけ多くの視点で学習問題について自分なりに整理し,地域の人々は,自然や社会条件を生かしながらくらしを高める努力と工夫をしていることに気づくことができる。
8 岩手県の他の開発について調べ,人々は常にくらしを高める努力と工夫をしていることに気づくことができる。
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・赤沢地区の果樹に携わっている人々に視点を当て,様々な立場に立った聞き取り調査の計画を個々で複数立て「とんぼカードB」に記入する。
・同じ課題ごとにグループを作り個々で立てた聞き取り調査の計画を出し合い,自分で気づかなかった視点を取り入れて聞き取りの計画を立て「とんぼカードB」に記入する。
◎ 解決の見通しを複数立てることができたかを「とんぼカードB」でみる。 |
・自分の課題を追究するために,個々で立てた聞き取り調査の計画の記入してある「とんぼカードB」にそって聞き取りを実施し,確かめた内容を書き込む。
・「とんぼカードB」の記述内容を比較しながら自分なりに個々の学習課題についてまとめる。
◎自分で集めた情報を自分なりにまとめることができたかをの記述でみる。 |
・ 同じ課題のグループの中で,それぞれの得た情報を出し合い,聞き取りをしたすべての人々の視点から課題について「とんぼカードC」にまとめる。
◎グループ内の情報を比較・関連させながら,より確かな情報としてまとめることができたかをみる。 |
・「とんぼカードC」を用いて,各グループごとにそれぞれの課題についての情報を発表し合う。
・全体発表で得た情報をできるだけ取り入れながら,学習問題に対して自分なりに整理する。
◎ 他の情報をどれくらい取り入れて学習問題をまとめることができたかをみる。 |
・岩手県の他の開発の概略を知り,「鹿妻穴堰の開発」を例に,その開発の様子と人々のねがいを調べる。
◎ 「鹿妻穴堰の開発」について,興味を持って調べることができたかを学習態度や記述でみる。 |
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「とんぼカードB(個人用は,・ピンク,新たに取り入れたのは,水色)
・果樹生産にかかわった人々を必要に応じて提示
「とんぼカートB」゙
聞き取り調査活動
「とんぼカードB」
「とんぼカードB」
「とんぼカートC」゙
「とんぼカートC」゙
岩手県の開発を表示した絵地図
・鹿妻穴堰に関する資料TPシート
写真
拡大図
グラフ 等
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(注)囲みは,「とんぼカード」を活用した学習活動を表す。