中学校 理科(第2分野)指導プログラム

学校名 盛岡市立下小路中学校
対象学級 3年7組(男子21名女子19名)
指導年月日 平成8年10月2日 3校時
指導者 谷 木  啓 恭
作成者 谷 木  啓 恭

T 単元名  「変動する大地」

U 単元設定の理由

1 教材観

 不動のように見える大地も、刻々とその姿を変えている。地層や大地の変動の学習では、「大地は不動である。」という概念を変えさせることが重要であると考える。つまり、現在みられる大地は長い時間の経過の中で複雑に変動が絡み合うことでつくられた歴史的産物であることや今後も変化し続けるものであることを考えさせることが大切である。本単元は、大地が長大な時間や広大な空間の中で変化してきたことをとらえさせながら、過去の大地の変動をとらえようとするという見方や考え方を身につけさせるために設定した。
 生徒はこの項目に関連して、小学校4年生の地球に関する単元では、地表を流れる水が土地を侵食させたり運搬したりたい積させるはたらきがあることを学習してきている。また、そのはたらきは、水の速さや水の量と密接に関係していることも学習してきている。さらに小学校6年生では、地層や岩石を観察し、土地をつくっているものの特徴や土地のでき方を調べた上で、土地はれきや砂、粘土、火山灰、岩石などからなり層をつくって広がっていること、そしてそれらの地層は、流れる水のはたらきでできることや火山の噴火などのはたらきによってできることを小学校4年生の学習と関連づけながら学習している。そして、前の中単元までの学習で、火山や地震という比較的短時間におこる大地の変化について学習している。さらに地層のでき方について、岩石が風化し、流水の作用で侵食・運搬され、海底などにたい積されてできたこと、たい積作用によりできるたい積岩や化石を含んでおり、化石の種類や特徴から過去の年代や環境を推定できることを学習してきた。
 この単元では、これらの学習経験に基づいて、露頭にみられる地層や地形の観察などをおこない、海岸段丘・河岸段丘・リアス式海岸の地形、断層・しゅう曲・不整合などの地層は大地の変動がおこった証拠としてとらえさせ、その成因を大地の変動と結びつけて理解させることを学習のねらいとしている。よって前時までの学習を総合的に生かす単元でもある。
 なお、本単元のねらいとその学習内容は文部省「学習指導要領」(理科第2分野)に掲げられている目標の(3)及び内容(6)イ(イ)に基づいて設定した。

2 生徒観

 生徒の80%以上は理科の学習内容に得意単元をもっており、授業にも意欲的に取り組んでいる。大地の変動に関する未知の学習に対しても高い興味を示している。しかし、大地が動くというイメージは、地震や火山の爆発のような短時間でおこるものが圧倒的に多く、長時間かけてゆっくりおこる変動はほとんどの生徒にイメージされていない。
 前提テストの結果をみると、小学校4年生および前小単元で学習した流水の3作用はほぼ理解しているもののそれらが流水の速さや角度に影響されることについては30%程度しか理解されていない。また、小学校6年生および前小単元で学習した大地のでき方については、海などで地層ができることはほぼ理解されているが、火山活動によるものについては90%以上の生徒が理解していなかった。地層の下にあるものほど古い年代に堆積したことはほぼ理解されている。小学校6年生および前単元で学習した大地の変動をさぐる要素となる火成岩の知識や分類はほぼ定着しているが、たい積岩に関する知識や分類、化石に関する知識や分類は補充の余地がみられる。

3 指導観

 大地の変動についての学習は、都市部になればなるほど観察の対象や教材に苦労することが多い。また、現在見られる地形や不整合のような複雑な地層を大地の変動と結びつけて生徒に理解させることはたいへんむずかしい。従来は、海岸段丘・河岸段丘・リアス式海岸の地形の成因をモデル図を用いながら流水のはたらきとあわせて解説することにより理解させたり、不整合の成因を色粘土やVTR教材を用いながら解説することによりそこにみられる大地の変動を理解させてきた。
 これまで学習してきた火成岩やたい積岩の成因や特徴、化石などから過去の年代や環境を推定できること、地層のでき方やそこにみられる規則性などの既習事項をもとに、過去の自然環境の変化を地形や地層にみられるさまざまな事実から考察させることにより、過去に起こった大地の変動を理解させていきたい。
 そこでまず、生徒がイメージしやすい地震による変動をVTR視聴させたり、本来生息するはずのない場所でみつかった化石の資料を提示することにより、大地の変動に対する生徒の学習意欲を喚起したい。そして、変動によって現れた特徴的な地形や地層と特徴が現れていない地形や地層を対比させてその違いに気付かせ、その違いがなぜできたのか考察させた上で、地形や地層に加わる力を理解させ、基本的な大地の変動について知識として習得させたい。
 次に、火成岩やたい積岩、化石などの資料を提示し、過去の環境を大まかに推定させ、それらの化石や岩石がわれわれの目に触れるためには、どのような変動がいつごろどこでおこったのか考察させることにより、大地の変動が広い空間で長い時間をかけておこったことを認識させながら、大地の変動について深く理解させたい。
 最後に、整合地層と不整合地層を対比させることにより違いを気付かせ、既習事項をもとに不整合の成因に関する仮説を立てさせて検証させていく。このことにより、長い年月をかけて地層ができてきたことや変動の順序性について理解させたいと考える。そして、身に付けた知識をほかの場面でも活用できる力を育てるために、いくつかの複雑な地層についても仮説を立てさせ、その成因について検証させたい。
 広大な空間や長大な時間の中で変動がおこっていることを理解させる工夫として、コンピュータを活用し、大地の変動をさぐる要素として必要な化石、岩石、年代を資料として提示したり、生徒が仮説として立てた地層の成因を検証させていきたい。

V 単元の指導目標

1 地形の特徴や地層のつくりから大地の変動が推定できることに関心をもたせ、資料の収集や仮説の検証をとおして探究する意欲を高めるとともに、身近な地形や地層の成因について調べようとする態度を育てる。(自然現象への関心・意欲・態度)

2 化石や岩石の資料の比較検討をもとに、現在見られる地形を大地の変動の証拠としてとらえさせ、その地形の成因を推定できるようにさせる。また、不整合などの複雑な地層を、大地の変動の証拠としてとらえさせ、その地層の成因を推定できるようにさせる。(科学的思考力)

3 化石や岩石の特徴や地層のつくり、地形の特徴などを調べることにより、大地の変動をさぐる方法を身につけさせる。(観察・実験の技能・表現)

4 地層のつくりや地形の特徴によって、過去におこった地域・地層・大地の変動を歴史的に説明させる。(知識・理解)

W 単元の教材構造(略)

X 単元の指導計画

第1時 大地の動きをさぐる
第2時 地形に残された大地の変動
第3時 地層に残された大地の変動(本時)
第4時 単元のまとめと形成的評価

Y 本時の学習指導

1 主題 「地層に残された大地の変動」

2 指導目標

さまざまな地層が大地の変動によってできることに興味をもたせるとともに、不整合地層などの地層について、そこにみられる大地の変動の証拠を見いださせ、過去にどのようなことがおこったか推論・検証させることによって、大地の変動についての理解を深めさせる。

3 目標行動

G不整合をふくむ地層やさまざまな地層ができるまでの大地の変動(形成過程)を歴史的に説明することができる。

4 下位目標行動(Rはレディネス)

 @ さまざまな地層ができるまでの大地の変動(形成過程)を歴史的に説明できる。
 A 不整合をふくむ地層ができるまでの大地の変動(形成過程)を歴史的に説明できる。
 B 自分で立てた仮説を検証することができる。
 C 不整合をふくむ地層ができるまでの大地の変動を歴史的に仮説を立てることができる。
 G 新しい年代におきた変動のこん跡は、古い年代におきた変動のこん跡をかくすようにできることに気づく。
 D 不整合ができるためには、隆起→侵食→沈降の順で変動がおこることに気づく。
RF 流水には、侵食作用があることを説明できる。
 G たい積が中断するためには、変動がおこったことが言える。
   H たい積が一度中断した地層の重なり方を不整合と言える。
 I さまざまな地層を見たとき、整合だけで重なっている地層との違いを説明できる。
RJ 火山活動により、地層にマグマが貫入することを説明できる。
RK 隆起・沈降の大地の変動や海水面変動の意味を説明できる。
RL 地層に力が加わることによって、断層やしゅう曲、傾斜の地層ができることを説明できる。
RM 下にある地層ほど、古い年代にたい積したものであることを説明できる。
RN 水平に重なる地層の重なり方を整合と言える。
RO 地層は海などに土砂がたい積したり、火山活動によって火山灰などがたい積してできることを説明できる。

5 形成関係図とグルーピング

6 本時の展開

時間 主 な 学 習 内 容 展  開  の  流  れ 教材・教具、教育機器と留意事項

<導入>
1 ・問題提示
・さまざまな地層
・学習プリント
・VTR一斉送信
・岩手県などに見られる様々な地層のVTRを視聴させ、大地の変動によって複雑な地層ができることに興味をもたせるようにする。
2 ・学習課題の設定
「不整合などの複雑な地層はどのようにしてできたのだろう」
・VTRをもとに、学習課題について話し合い確認する。


<展開>
3 ・不整合の用語の意味を把握 する。
  ・不整合の重なりができるまでの大地の変動を、その上下の地層の堆積とあわせて考える。
・不整合を含む地層の画像と整合のみの地層の画像を比較させ、重なり方の違いに気づかせる。
・この重なり方の違いが、大地の変動によるものであることを明確にさせ、個人課題を設定させる。
・コンピュータを使って、復習できることを知らせる。
4 ・仮説を立てる。
・不整合のでき方
・不整合ができるおおよその年数
・学習プリント
・不整合の重なり方がどんな大地の変動により形成されたか考えさせ、自分の仮説とさせる。また、形成されるに必要な年数も考えさせる。
・変動のイメージがもてない生徒には、復習画面に戻り、前時までの学習をふりかえるように助言する。
5 ・仮説を検証する。
・自分の仮説に基づいて変動をシミュレーションさせ、順序性や形成時間を調べる
・コンピュータ教材
・自分の仮説にもとづいてコンピュータ教材を操作し、できあがった画像にみられる地層と提示された地層が同じ重なり方をしているかどうか確かめることにより検証させる。
・形成に必要な年数についても確かめさせる。

・仮説が正しくなかった場合には、仮説・検証を繰りかえさせる。
6 ・問題提起
「そのほかの複雑な地層がどのような変動によって形成されたか確かめよう」
・机間巡視や画像送信によりアドバイスする。
7 ・大地の変動によって形成された複雑な地層の形成過程について、仮説・検証を行うことにより確かめる。 ・学習プリント
・3つの地層を提示しそこから1つ以上選択させ仮説を立てた後でコンピュータ教材を用いさせて確かめさせるようにする。
・確かめた結果は記録させる。
8 ・検証した結果を発表する。 学習して得た知識がまわりから高く評価される雰囲気をつくる。

<終結>
9 ・学習した内容と地球内部のエネルギーについて