体験学習をもとにした練り合い活動を取り入れた学習指導案

(1) 授業対象 遠野市立遠野中学校 第1学年 1学級(男子21名 女子15名 計36名)
 指導者 小向 敏夫

(2) 単元名   『やさしさ ふれあい 福祉体験』

(3) 単元の目標

生徒一人一人が地域で高齢者や障害をもった方々とのふれあいをとおして、人の心のあたたかさや優しさにふれ、他者へのいたわりの気持ちをもつ。
共に生きる社会の一員として自分を生かしながら、自分にできることを実践していこうとする態度を身につける。
福祉の問題を自らの問題として受け止め、これからも積極的にかかわろうとする気持ちをもつ。

(4) 単元について

 福祉の課題は、高齢社会が進展する中で、今日ならびに未来社会の重要な問題であるだけに、積極的かつ計画的に取り組まなければならない学習テーマである。
 福祉活動は、具体的な実践活動を中心にしながら、思いやりの心、感動する心などの豊かな人間性や自分なりの生き方を主体的に考える態度を育てることにもなり総合的な学習として構成することに意義がある。福祉にかかわる内容は知識・理解・技能を養う学習として取り上げるとともに、実践的、体験的でなければならない。福祉活動によって、さまざまな人にふれ、共に生きることの意味を深く考えさせ、行動力につなげることができる。
 中学1年生は、生涯にわたってかかわる福祉の問題に対する動機づけの段階であり、身の周りの人とかかわることに関心をもつことに重点を置いて取り込む。そこで、本単元では自分たちの身近にいる方々との交流をはかり、、社会の一員であることを自覚し、実際の活動を通じて自己実現を図っていくことをねらいとしている。

(5) 生徒、学校、地域について

 本校の生徒は、明るく、協力的で、前向きに学習や生徒会、地域活動、クラブ活動等に取り組んでいる。福祉活動については、生徒会が中心となってユニセフ募金やフォスタープラン(発展途上国の子ども達に学費を支援する活動)、夏休み・冬休みを利用しての自主的な福祉ボランティアなどに取り組んでいる。ただし、1年生にとっては、ほとんどの生徒が人とかかわる体験的な福祉活動は未経験である。また、核家族化がすすみ、祖父母と同居している生徒が少なく、高齢者とふれあう機会があまりない。
 遠野市は、現在すでに人口の4分の1以上を65歳以上の高齢者が占めている。(平成11年4月1日現在25.3%)それに対応して、福祉に関しては、在宅の寝たきり老人等の要介護老人に対する訪問診療、訪問看護、訪問リハビリなどを県内の中でも早くから実施している。学校の近くには身体障害者施設やふれあいホーム(在宅の要介護老人の介護支援施設)などがあるが、交流する機会があまりもてなかった。

(6) 単元の展開

ア 指導の手だて

(ア)生徒がつくる学習活動をめざす(体験の前の練り合い)

 実際に高齢者とふれあう体験活動をとおして、興味・関心を掘り起こし、生徒自身が自らに問いかけ、自分なりの問題をもつことを重視する。次に、同じ問題をもつ生徒同士が自分たちで活動計画をつくり、相手とふれあう体験的な活動をとおして追求していく。

(イ)生徒が学び合う場を設ける(体験の後の練り合い)

 問題の追求のために調べたこと、体験して感じたことや考えたことをまとめ、発表し合い、友達の価値観に目を向け自己の考えを深める。これまでの学習を振り返り、福祉やこれからの自分の生き方について考える。

イ 展開の概要(15時間)       7月〜9月

問題把握 「身近な福祉体験をしよう」(6時間)
○福祉に関心をもつ(1時間)
 ・体験談を引き出したり、資料から福祉体験をしようという意欲を高める
○交流体験の内容を考える(1時間)
 ・内容や進め方、役割分担などを生徒が主体的に決められるようにする
○交流体験のための準備をする(1時間)
 ・学級の力を生かして、合唱の練習などの交流の準備をする
○特別養護老人ホーム「清松園」でふれあい体験をする(3時間)
 ・交流会、奉仕体験を生徒が中心となって進める(ふれあいを大切に)
問題追求 「新たな思いを生かした福祉体験をしよう」(6時間)
○体験を振り返り、一人一人が問題をもつ(2時間)
 ・体験により感じたことや考えたことを整理し、自分なりの問題意識をもつ
○同じ問題をもつ生徒同士でグループをつくり、計画を立てる(1時間)
 ・活動計画、内容、方法をグループで話し合う
○グループ毎に活動する(3時間)
 [活動例]老人ホーム、ふれあいホームでの介護体験
       保育園での保育体験、目の不自由な方との交流など
まとめ 「活動を振り返り、これからの福祉活動を考えよう」(3時間)
○体験して感じたこと、考えたこと、学んだことをまとめる(2時間)
 ・わかったことを新聞等にまとめ、報告しあい、体験の共有をはかる
○福祉にかかわってこれからどのように行動したら良いかを考える(1時間)
 ・中学校生活において、地域においてできる福祉活動を考え合う
 ・これからどのようにかかわってゆくか意見を交流し合う
 ・活動の反省(成果と課題)をして、次の学年に伝えたいことをまとめる

(7) 学習活動過程

学習活動・内容 指導・支援活動 資料・活動場所
第1・2・3時
福祉について考える
○福祉・ボランティアの大切さについて考えさせるために、資料 「笑顔の心で」やフォスター・チャイルドの手紙を用いる ☆教室
フォスター・チャイルドの手紙
福祉体験として身近な活動(特別養老人ホーム『清松園』での交 流体験)に取り組むことを決める
○生徒自身から身近な福祉体験をしてみたいという関心を高めるために、ボランティアの経験のある生徒の体験談を取り上げる 読み物資料 「笑顔の心で」
 交流体験の内容について考える
(交流会の内容・役割分担、奉仕体験の内容・仕事分担、礼儀やマナーについて話し合う)
○生徒が計画を立てるときに助言できるように、施設との連絡調整を十分に取っておく(何を施設では望んでいるのか、時期や人数、活動内容などの把握)  
 体験学習のための準備をする
(交流会での出し物の練習、思いを伝えられる物の制作など)
○役割分担や内容・進め方、お年寄りの方との接し方などの体験の心構えについて話し合いを行う
○お年寄りと交流するときの、自己紹介の言葉や話すことをあらかじめ考えておくようにさせる
第4・5・6時
特別養護老人ホーム『清松園』へ行き、挨拶をする
○校外の活動であるため、特に行き帰りの安全に注意させる(自転車の安全指導を徹底させる) ☆特別養護老人ホーム 『清松園』
 園長さんからお話をいただく
(施設の説明やお年寄りの気持ちなど)
○礼儀やマナーの重要性を一人一人に認識させる
○聞く態度を大切にし、必要に応じてメモを取るように助言する
お年寄りの方々との交流会を行う
(生徒の司会進行で)
○なかなか話ができない生徒には教師も一緒に会話に入る
園で奉仕作業を行う
○お年寄りの方とかかわりながら作業をするように助言する
お礼を述べて学校に帰る
○園長さん、施設の職員の方から気づいたことを話してもらう
第7・8時・9時
交流体験を振り返り、活動の感想(感じたこと、考えたこと、疑問点など)をまとめる
○自由感想文と観点を設けた振り返り用紙『清松園でのふれあい交流をおえて』を記すことで活動を振り返らせる
○活動中に疑問に思ったこと、強く感じたことを思い出させる
☆教室
・交流体験のVTR
・振り返り用紙
体験の感想を交流しあい、問題(新たな思いや願い、疑問)を確かめ合う
○友達の考えを知り、自分の考えを深めさせるために、学級全員の感想をまとめたプリントを話し合いの時に配布する ・感想をまとめたプリント
共通する問題をもった生徒同士でグループをつくる
 
グループ毎に問題を追求する活動(体験や取材)の計画を立て見通しをもつ
○活動計画、内容、方法を話し合わせ、役割分担をさせる(話し合いが進まないグループに体験の場や人材などの助言をする) ・活動計画書
第10・11・12時
グループ毎に活動をする
[予想される活動]
・高齢者福祉施設での介護体験
・身体障害者施設での体験、取材
・保育園での保育体験、取材
・ボランティアに携わる方への聞き取り など
○施設等への依頼も生徒自身で行うことができるように、依頼の仕方や心構えを十分に指導する
○挨拶などの礼儀、マナーについての心構えを確認しておく
○探求や体験に必要な資料や情報等についての助言をする
☆各活動場所
・各施設の資料
・ビデオ(遠野健康福祉の里と在宅ケアサービス)
第13・14時・15時
グループ毎に追求活動のまとめをする
○わかったこと、感じたこと、考えたことをグループで話し合わせ、まとめさせる ☆教室
・関連した新聞記事
活動の交流と体験の共有をはかるための報告を行う
○グループ毎に新聞などにまとめて発表させ、疑問点を質問しあって話し合いを深めさせる  
活動全体を振り返り、福祉活動にどのようにかかわっていったらよいかを考え、話し合う
○中学生活において、地域において何ができるか、何をしなければならないのかを話し合わせる
○これからどう活動を継続させるか、これからの行動に生かす視点で話し合えるようにする
☆教室