第 1 学 年 道 徳 指 導 案
期 日 | 平成12年2月17日(木) |
対 象 | 花巻市立花巻中学校 第1学年1組 |
男 21名 女 19名 計 40名 | |
授業者 | 岩手県立総合教育センター |
T 主題名「 真 の 友 情 」 2−(3)
(資料名『吾一と京造』、出典「かけがえのないきみだから
中学生の道徳 1年」学研1997年)
U 主題について
1 ねらいとする価値について
中学校の指導項目2−(3)は、「友情の尊さを理解して心から信頼できる友達をもち、互いに励まし合い、高め合う」となっている。
「友情の尊さ」とは、平等な人間関係を基盤として相手に対する尊敬と愛情を深めつつ、信頼で結ばれながら、切磋琢磨し合い、共に向上を図ることであるといえる。真の友情とは、互いを思いやる心から生まれるものであり、望ましい人間関係や社会生活を成立させるうえで欠かすことのできない、いわゆる「人間尊重の精神」をもとにして生まれてきた道徳的価値であるととらえられる。また、真の友情を育てるためには、具体的には次のような段階をふまえてその関係を深めていく必要があると考える。
第一は、「理解し合い、認め合うこと」である。相手のよさや努力を理解し認め合うことは、よりよい友情関係をはぐくむ出発点である。第二は、「信頼し合うこと」である。信頼し合うとは、互いに任せたり、任されたりする関係になるということである。約束事を守ることや活動に対する共同での取り組みなどをとおして、互いの信頼関係が確立されてくると考える。第三は、「励まし合い、高め合うこと」である。人は、それぞれによさや克服すべき弱さをもっている。そして、よさを積極的に伸ばしたり、弱さの克服をともに行ったりする過程において、友達に追従することなく率直に忠告し合うなど、お互いを高め合う関係になることが真の友情をはぐくむ要因であるといえる。
敬愛と信頼に支えられながらともに語り、悩み、共感し、励まし合い高め合うことによってよりよい友情関係が築き上げられ、楽しく充実した学校生活を営むことができると考える。
中学生にとって、友達は親や教師よりも重要な存在となることがある。したがって友情の在り方を深くみつめさせ、共によりよく生きることの意味を考えさせることは、生涯にわたる敬愛と信頼に支えられた友情関係をはぐくむうえで意義深いことであるといえる。
本主題のもとに、心から信頼できる友達をもち、互いに助け合い、励まし忠告し合って、共に向上を目指す真の友情を育てていきたいと考える。
2 ねらいにかかわる生徒の実態について
学級の生徒の多くは、学級や部活動を中心としながら仲のよい友達をもっており、学校での生活はもとより校外での生活においても、ともに行動しながら親交を深めている。しかし心を許し合っているとはいいながらも、ときには自己中心的なとらわれや感情の行き違いなどから相手の気持ちを傷つけてしまうようなトラブルもみられ、築き上げてきた友情関係が台無しになることもある。
そこでこのような子どもたちの価値意識を高めるためには、真の友情の在り方や友情の尊さについて深く理解させ、友情を今よりもいっそう確かなものにしていこうとする意欲を高めていくことが必要であると考える。相手の言動だけにとらわれず内面的なよさに目を向けながら、相手の成長を願って互いに励まし合い高め合っていくことが真の友情の姿であることを自覚させ、生涯をとおしてよい友を得ようとする心情を育てていきたいと考える。
3 資料について
資料「吾一と京造」には、遅刻した秋太郎によって仲間全員が遅刻してしまう危機にのぞんだときの、秋太郎をおいて学校に駆けつけようとする吾一とあくまでも秋太郎と行動をともにしようとする京造との相反する行動が描かれている。
遅刻することを恐れ、秋太郎の家に寄らずに学校へ走り出した吾一の心情は、誰にでもある心の弱さとしてとらえさせていきたい。また、そんな吾一とは対照的に、遅刻したことについて何の言い訳もしない強さをもった京造がいる。何も悪いことはしていないのに京造に対して後ろめたさを感じ、心を「草の葉のように揺らす」吾一の心情を深く掘り下げながら、真の友情の意味を考えさせていきたい。
ねらいとする友達を敬愛し、信頼し合うことによって友としてなすべきことを自覚し、真の友情の姿を追求することの大切さを感得できる適切な資料であると考える。
V 豊かな人間性をはぐくむ道徳教育の在り方にかかわる指導の構想
1 単元的な構想にもとづく学級における指導計画推進試案
2 『吾一と京造』資料分析図
3 体験活動の生かし方を工夫した道徳の時間の指導の構想
(1) 体験活動を生かす
生徒の「友達」についての考えを把握するために、次のようなアンケート調査を実施し、その結果について授業の導入段階で提示し、感想を発表させながら、本時ねらいとする価値への導入を図る。
(2) 追体験をとおして共感を深める
吾一が秋太郎の家に迎えに行かず、一人学校へ向かう場面では、吾一の行動を批判的にとらえる生徒が多いと思われるので補助発問等で吾一のよさを引き出すようにする。
さらに、吾一の行動の根拠を明らかにしたうえで「そんな吾一の行動をみんなはどう思うか」と問うことにより、吾一の行動を弁護する立場と批判する立場とに分け、生徒一人一人の価値意識を明確にしていきたい。また、それぞれの考えの根拠を明確にした話し合いをとおして吾一のような心の弱さは誰にでもあるということを確かめながら、やむにやまれず先に行った吾一の心情を共感的に受け止めることができるようにする。
(3) 実感できた道徳的価値の大切さを体験活動に生かす
自己の生活を振り返り、道徳的価値の自覚を深める場面では、授業で学んだことを振り返りながら『本当の友情とは』という題でワークシートに考えを書かせる。友情の在り方について学んだことや考えが深まったことなどを発表させながら、実践に向かおうとする意欲を高めていきたい。
W 本時のねらい
友達を敬愛し、信頼し合うことによって友としてなすべきことを自覚し、真の友情の姿を追求しようとする心情を育てる。
X 指導過程 ( ◎中心発問、 ○基本発問、 ・補助発問、 ※指示 )
学習活動と主な発問 | 期待される生徒の考え | 指導上の留意点 | ||||||||||
導 入 五 分 |
1 事前のアンケート結果を提示する。
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・何でも話せるのが友達ではないか。 ・友達に悩みをうち明けると一緒に考えてくれるのでありがたい。 |
・アンケート結果について話し合いながら本時ねらいとする価値への方向付けを図る。 | |||||||||
展 開 四 十 分 |
2 資料についての感想を発表し、話し合いの方向をつかむ。
3 一人っきりで学校へ向かう吾一の心情について話し合う。
3 一人秋ちゃんを迎えに行った京造のことを知った吾一の心情について話し合う。
4 心を草の葉のように揺らす吾一の心情について話し合う。
5 授業をとおして感じたことや学んだことを書く。
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・京造は、友達のことを思って自分を犠牲にしたのがえらい。 ・吾一の気持ちも分かるが、自分のことだけ考えて友達に対する思いやりの心が欠けている気がする。 ・自分が遅刻したくないから。 ・今走ればまだ間に合うかもしれないと思ったから。 ・あったと思うがこのときは遅刻してはいけないという考えだった。 ・一瞬迷ったが、秋ちゃんを迎えに行くよりも遅刻をしないことがえらいんだと自分に言い聞かせた。 ・しょうがないと思う。遅刻するのはいいことではない。 ・よくないと思う。もっと友達のことを考えてもいい。 ・友達との約束を必ず守ろうとする京造の姿勢に心を強く揺り動かされたから。 ・京造だけが迎えに行ったことを聞いて京造に対してひけ目を感じたから。 ・遅刻しないということで頭がいっぱいだったが、よく考えると自分のことしか考えていなかった。 ・遅刻しないのが正しいと考えて自分だけ一生懸命学校に来たが、友達が遅刻しないようにすることを今まで考えたことがなかった。 ・自分のことだけを考えるのではなく、お互いの向上を考えて行動できるよう努力するのが友情の基本であるということ。 ・京造の取った行動から友達に対する自分の考えや行動について悩んだり、反省したりしているところ。 ・自分のことだけでなく、相手の立場に立って考え、お互いの高まりを考えて努力するのが本当の友情だと感じた。 |
・場面状況を把握しやすいように紙板書等であらすじを確かめながら、臨場感を高めていく。 ・自分のとった行動は間違ってはいないと思いながらも心を揺らし思い悩む吾一の心情を追いながら話し合いを進めていくことを確かめる。 ・吾一と京造たちは「一緒に登校する仲間であること」吾一は「火に当たるどころではなかった」「遅刻のことを思うと気が気でない」などの場面状況をしっかりと把握させるながら、やむにやまれず学校へ向かう吾一の心情を理解させる。 ・吾一の行動を批判的にとらえる生徒が多いと思われるので補助発問等で吾一のよさを引き出すようにする。 ・吾一の行動を弁護する立場と批判する立場に分けそれぞれの考えの根拠を明確にしながら話し合う。 ・やむにやまれず先に行った吾一の心情を共感的に受け止めさせるようにする。 ・吾一が、京造の取った信義を守ろうとする行動について強く心を揺り動かされていること、さらに自分の取った行動について、ひけ目を感じていることをとらえさせる。 ・中心発問における話し合いをとおして自分だけ正しいことをすればよいのではなく、友達の立場に立って友達も正しくあるようにと考えるべきだということをとらえさせながら本時ねらいとする価値を把握させる。 ・京造の取った行動はすべて肯定されるものではないが友達に対する思いやりの深さや信義を守った行動は本当の友情の在り方として、一つの理想であることを押さえる。 ・吾一のよさとは、自分は正しいことをしたのだと平然とせずに京造の取った思いやりの行動から自分の行いを振り返り、友達としての在り方を深くみつめ悩んでいるところである。そこを押さえる。 ・今日の授業を振り返りながら、学んだことや考えが深まったことなどを書かせ、友情の在り方に対する道徳的価値の自覚を深めていきたい。 |
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終 末 五 分 |
6 本時のまとめをする。 | ・書いたものの発表をとおして、友情の在り方に対する生徒の意識の変容を確かめながら実践に向かおうとする意欲を高めていきたい。 |
Y 板書計画
Z ワークシート
[ 研究授業の様子
授業の様子 1 授業の様子 2 研究協議の様子 1 研究協議の様子 2