岩手県立総合教育センター研究集録(2000)
論理的に考える力を高める算数科の学習指導に関する研究
−自分の考え方を他と比較して分析する活動をとおして−
金ヶ崎町立三ヶ尻小学校 教諭 菅原 好子
T 研究目的
算数科の学習指導においては、数量や図形についての知識や技能を身に付けていく過程で論理的に考える力を高めていくことが大切である。このことは、生活で生じる課題に対して、自分で考え判断し、よりよく行動していくためにも必要なことである。
しかし、本校児童の実態は、途中の解き方を吟味せず答えだけを求めたり、ある一つの考え方で解くことができたりすると問題をやり終えたととらえる傾向にある。これは問題を解決する際に、皆に複数の解き方を比べさせ、それらの考え方の特徴をとらえさせることが中心となり、児童個々に自分の考え方を見直させる指導が不足していたためと考えられる。
このような状況を改善するためには、学習をまとめる段階で、自他の解き方を比べることにより自分の考え方の特徴をとらえ、学習課題と照らし合わせながら、自分の考え方をよりよくしていく活動が必要である。
そこで、この研究は、算数科の学習をまとめる段階に、自分の考え方を他と比較して分析する活動を取り入れた授業実践をとおして、論理的に考える力を高める学習指導の在り方を明らかにし、算数科の指導の改善に役立てようとするものである。
U 研究仮説
算数科の学習指導において、学習をまとめる段階で、自分の考え方を他と比較して分析する活動を以下のように行うならば、論理的に考える力を高めることができるであろう。
(1) 他の解き方で解き、その考え方を理解する。
(2) 自他の考え方の類似点、相違点を見つけ、自分の考え方の特徴をつかむ。
(3) 学習課題と照らし合わせ、自分の考え方を組み立て直したり、新しい考え方を取り入れたりする。
V 研究の内容と方法
1 研究の内容
(1) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての基本構想の立案
(2) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての指導試案の作成
(3) 単元「三角形と四角形」(第2学年)、単元「四角形と三角形の面積」(第5学年)の学習指導案の作成
(4) 単元「三角形と四角形」(第2学年)、単元「四角形と三角形の面積」(第5学年)の授業実践
(5) 実践結果の分析と考察
(6) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導の在り方のまとめ
2 研究の方法
(1) 文献法 (2) 質問紙法 (3) テスト法
(4) 授業実践
3 授業実践の対象
金ヶ崎町立三ヶ尻小学校 第2学年(男子9名 女子6名 計15名)
第5学年(男子7名 女子10名
計17名)
W 研究結果の分析と考察
1 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての基本構想
(1) 論理的に考える力を高めることについての基本的な考え方
ア 論理的に考える力の意味
論理とは、「いつもそういう方向で始末していくというような形式」(和田義信著作・講演集4)であり、考えるとは、自分とのかかわりで生じた問題を解決するために思いをめぐらす活動である。このことから、論理的に考えるとは、ある方向性をもつ形式をつくり、その形式で問題を解決しようとする活動ととらえる。そして、この活動を進めることができる力を論理的に考える力とする。算数の問題を解決する方向性は簡潔さと明瞭さで決められる。簡潔さとはより短いことであり、明瞭さとは「AならばBである」とはっきりした前後の繋がりがあることである。これらのことより、算数科における論理的に考える力を、「簡潔で明瞭な方法で問題を解決することを目指し、考えを繋げ続ける力」ととらえる。
簡潔で明瞭な方法を見出すためには、広く柔軟な見方や考え方でより多くの条件をつかみ、さらには、その条件のなかから必要なものだけに絞り込んでいかなくてはならない。そこに必要な力が「解決の方向を決める力」である。そして、この力は、広く柔軟な見方や考え方でより多くの条件をつかむ「きまりを見つけること」と「もしも〜ならば」と自分で考え加え、条件のなかから必要なものだけに絞り込む「きまりをつくり出すこと」を部分要素にもつ。考えを繋げ続けるとは、条件を調節し構成して問題の解決に近付いていく活動を続けることである。そこに必要な力が「解決の形式をつくり出す力」である。この力は、条件を順序よく繋げる「構成すること」と、条件を必要な程度用いて繋げる「調整すること」を部分要素にもつ。
そして、「解決の形式をつくり出す力」の高まりにより解決の方法が広がる。すると、次の新たな問題を解決するときには、より容易に解決の方向が決められ、「解決の方向を決める力」が高まり、更に高次な解決の形式をつくり出す。このように二つの構成要素は、相互に関連し総合されながら高まっていくものと考える。よって、問題を与えられたときに、問題を広く柔軟な見方や考え方で見つめ、多くの条件をつかんだなかから、必要な条件を絞り込み、これをもとに自分の考えを繋げ続けて簡潔で明瞭な解決をしていることが、論理的に考える力が高まった姿ととらえる。
イ 論理的に考える力を高めることの意義
現代の急激に変化する社会では、学習によってある知識を獲得しても、それを単純に当てはめたり習慣化したりするだけでは、児童が社会に対応していくことは難しい。大切なのは身に付けた知識や技能を活用することである。そのとき必要なのは、見通しをもって筋道立てて考えていくことである。これは、算数科の学習で問題を解決する考え方と同様に、論理的に考える力に支えられている。このことから、算数科の学習において「論理的に考える力」を高めることが重要である。
(2) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導の在り方
ア 論理的に考える力を高める学習指導と学習指導過程
論理的に考える力は、問題を自分なりの考え方で解決していく積み重ねにより高められるものであるため、本研究では、問題解決的な学習を取り入れる。一つの学習指導過程を一つの問題を解決するまでとして「つかむ」「みとおす」「たしかめる」「ふかめる・ひろげる」の4過程で指導する。そのなかに特に、自分の考え方を他と比較して分析する活動を「たしかめる」過程に取り入れる。
イ 自分の考え方を他と比較して分析する活動の考え方
(ア) 自分の考え方を他と比較して分析する活動の意義
算数科の学習では、多様な考えを交流し、それらのよさを理解する学習に重点がおかれることが多かったたため、児童は、自分の解き方や考え方を自ら評価して高めることが少なかった。そこで、本研究では、児童の考える力を高めるために、児童の自力解決の取り組みを今まで以上に生かし、自分の考え方を理解し判断する場として、自分の考え方を他と比較して分析する活動を行う。
(イ) 自分の考え方を他と比較して分析する活動の意味
@ 自分の考え方を他と比較すること
自分の考え方を他と比較するとは、自分の考え方をより客観的に理解するための活動で、考え方を高めていく方向性を定めるものである。この活動で、他者の様々な考え方にふれることで「きまりを見つけること」が、さらに、他との比較で考え方の組み立て方の違いにふれることで「構成すること」が形成されていくと考える。
A 自分の考え方を分析すること
自分の考え方を分析するとは、自分の考え方を主体的に判断する活動である。この活動で、自分の考え方をまとめる工夫をすることで「きまりをつくり出すこと」が、自分の考え方の修正の仕方を考える中で「調整すること」が形成されていくと考える。
(ウ) 自分の考え方を他と比較して分析する活動の内容
@ 比較する活動
はじめに、尺度とする他の解き方を選ぶ。次に、他の考え方を理解するために、その選んだ解き方で問題を解く。最後に、自他の考え方の類似点、相違点を見つけるために、自他の解き方を比べる。
A 分析する活動
はじめに、自分の考え方の特徴をつかむために、他の考え方との類似点、相違点から自他のよさを見つける。次に、自分の考え方をまとめあげるために、他の考え方のよさを加え修正する。
(3) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての基本構想図
【図−1】は論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての基本構想図である。
2 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての指導試案
(1) 指導試案作成のための実態調査
論理的に考える力を高める学習指導試案の作成の資料として、問題解決的な学習に対する意識及び単元の学習内容のレディネスの実態調査を行った。【表−2】は実態調査の結果をまとめたものである。
(2) 論理的に考える力を高める算数科の学習指導についての指導試案
ア 比較する活動
(ア) 比較する他の解き方を選ぶ
自分と似ている解き方の相手、又は、自分がつまずいている箇所ができている相手を探す。
(イ) 他の解き方で解く
他の解き方で実際に問題を解く、又は、他の解き方を図や文章にまとめる。
(ウ) 自他の解き方を比べる
はじめに、文章や図に表した自他の解き方の類似点と相違点を見つけ、アンダーライン等の印付けをする。次に、類似点と相違点を抜き出し、メモする。
イ 分析する活動
(ア) 自他のよさを見つける
比較する活動(ウ)で抜き出した類似点と相違点のなかから、簡潔さと明瞭さをもつ考え方を更に書き出したり印を付けたりして抜き出す。
(イ) 自分の解き方を修正したり、新しい解き方を取り入れたりする
イの(ア)で抜き出したことを用いて同内容の問題を解く、又は、解き方を文章や図でまとめる。 【表−3】は、自分の考え方を他と比較して分析する活動の学年毎の留意点である。
(3) 自分の考え方を他と比較して分析する活動を取り入れた学習指導過程試案
基本構想と実態調査の結果をうけ、自分の考え方を比較して分析する活動を取り入れた学習指導過程試案を【表−4】のように作成した。学習指導試案に示した活動は、「一人学びのまとめ」及び「学び合いのまとめ」の両方の段階で行うか、どちらか一方の段階でのみ行うかを学習の内容とねらいに合わせ設定する。
(4) 検証計画
授業実践をとおして指導試案の妥当性をみるための検証を【表−5】の検証計画の概要のとおり進めることにする。
3 単元「三角形と四角形」(第2学年)、単元「四角形と三角形の面積」(第5学年)の授業実践
(1) 実践1 一人学びのまとめの段階での試案に基づく活動
@ 本時の指導
本時は、面積を求めるための図形の変形のさせ方や式の共通点から、平行四辺形の面積を求める公式を帰納
的に導かせることをねらいとし、重点とする論理的な考え方は、次のとおりである。
「きまりを見つけること」・・それぞれの解き方のなかから同じ意味をもつ式や言葉を見つけまとめること
「構成すること」・・・・・・・・平行四辺形の面積を求める問題を順序よく解くこと
本時は、試案に基づく活動を一人学びのまとめの段階で行う。問題を解き終えた児童や困難な点がある児童が随時ペアを組み、解き方を説明したり質問したりして、平行四辺形の面積を求める問題を順序立てて解いているかを比べさせる。その中で、同じ問題を解いても途中の解き方や考え方が違うことに気付かせる。また、解き方の似ている箇所をもとに面積の求め方を一般化させ公式を導き出させる。
A 考察
児童C、Dの会話では、式と答えや解き方の言い表し方の類似点、相違点を挙げるばかりでなく、「
C3:意味が同じだから、この部分は違ってもいい〜」という発言から、解き方の比較と分析を同時に行っている。「同じだから〜よい」とは長方形に変形することが同じという意味で、互いの考え方を一般化していく話し合いである。これは比較する活動で、論理的に考える力の部分要素の「きまりを見つけること」が行われている姿と考える。また、児童Cのノートからは「解き方の手順」にアンダーラインや書き込みがあり、解き方を吟味していることが分かる。これは、解き方に筋道があることを理解し論理的に考える力の部分要素の「構成すること」が高まっている姿と考える。
(2) 実践2 学び合いのまとめの段階での試案に基づく活動(第2学年)
@ 本時の指導
本時は四角形が作図できるようになることをねらいとし、重点とする論理的な考え方は、次のとおりである。
「きまりをつくり出すこと」・・・・・四角形の特徴と作図の手順を繋げる言葉を見つけること
「調整すること」・・・・・・・・・・・・四角形の特徴により近い表現へと文章を修正していくこと
本時は、作図の正しさは「直線であることと、角が閉じていることであると」と全員で確認した後、試案に基づく活動を学び合いのまとめの段階で行う。作図の仕方が似ている児童がペアを組み、相手の指示で作図をしながら他の考え方を理解させ比べさせる。そして、同じ図形の作図でも言い方が違う点があることに気付かせる。その後、自分なりの作図の仕方を再度工夫させ、四角形への理解を深めさせる。
A 考察
児童A,Bの会話から、作図の仕方として直線を表す「B2:ひきますと書きます」、角が閉じていることを表す「A2:つなげます」に注目している。これをうけた作図の手順の修正では、児童Aは「ひきます」を残し、児童Bは「書きます」から「ひきます」に直している。これは、「図形をかく」具体的な操作と「文章に表す」念頭での操作を組み合わせたことにより、自他の解き方の把握と修正が容易になり、四角形の特徴をより的確にとらえることができたためと考える。このような児童の様子は、論理的に考える力の部分要素の「きまりを見つけること」が高まっている姿と考える。
しかし、なかには角を閉じるかき方を「つなげます」から「かきます」へ修正した児童もみられた。これは、作図の手順とそれを表す言葉を正しくとられえていないことによると考える。その改善のためには、一斉の指導で、作図に用いた言葉の意味を確かめる必要がある。そのことで、論理的に考える力の部分要素の「調整すること」を更に高められると考える。
(3) 実践3 一人学びのまとめと学び合いのまとめの段階での試案に基づく活動(第5学年)
@ 本時の指導
本時は、既習の長方形や平行四辺形に変形させて三角形の面積の求めることができることをねらいし、重点とする論理的な考え方は、次のとおりである。
「きまりを見つけること」・・・様々な三角形の面積の求め方の共通点を見つけだすこと
「調整すること」・・・・・・・・・面積の求め方が既習の図形とその図形への変形方法を様々に組み合わせること
試案に基づく活動を一人学びのまとめの段階と学び合いのまとめの段階で行う。一人学びのまとめの段階では、三角形の変形のさせ方が同じ児童でグループをつくらせ、互いの考え方の類似点、相違点から、図形の変形のさせ方をグループで一つの考え方にまとめさせる。まとめていくなかで、児童は自他の考え方が基本的に同じでも細部では違いがあることに気付かせ、自分なりの変形方法を確かなものにさせる。学び合いの段階では、各グループの三角形の変形のさせ方について比較検討する。このとき、平行四辺形と長方形のどちらへの変形のさせ方でも三角形の面積が求められることを理解させる。学び合いのまとめの段階では、同内容の問題を解かせるなかで、更に簡潔で明瞭な考え方に修正させていく。最後にこの2問題の解き方から帰納的に三角形の面積の求め方の公式を導き出させる。
A 考察
児童EFGHは、一人学びの段階で平行四辺形への倍積変形を考えた。このうち児童Eは、一人学びの段階で平行四辺形への倍積変形を行い、学び合いのまとめの段階で、長方形への倍積変形と比較した。そして、
「どちらの解き方でも変わらない」と考えた。また、児童Hは、自分で考えた平行四辺形への倍積変形と、他の考えの長方形への等積変形とを比べ、「平行四辺形の倍積変形の方がどんな三角形にもつかえる」と考えた。このように他の解き方にふれたことで、児童は自分の考えた図形の変形のさせ方がどのような意味をもつものかをとらえることができた。これは、面積を求めるために既習の図形の用い方(どの図形をどのように変形するか)を多様に考え組み合わせているためであり、論理的に考える力の部分要素の「きまりを見つけること」と「調整すること」の表れであると考える。
4 実践結果の分析と考察
(1) 論理的に考える力の高まりの状況
ア 解決の方向を決める力の形成状況
【表−6】は、「解決の方向を決める力」の形成状況をサイン検定を用いてあらわしたものである。構成要素の「解決の方向を決める力」全体と部分要素の「きまりを見つけること」に、第2、5学年ともに有意差が認められた。「きまりを見つけること」は、比較する活動で視点の違う見方を交流し合ったことで形成されてきたと考える。「きまりをつくり出すこと」は、分析する活動で、自分と違う解き方にふれ多様な仮定の仕方を身に付けたことで形成されてきたと考える。しかし、第2学年は、児童個々の解き方の違いが明白でなくその形成が低かったと考える。これらのことより、「きまりを見つけること」が育ち、それに「きまりをつくり出すこと」が積み重なるような関係で育っていると思われる。
イ 解決の形式をつくり出す力の形成状況
【表−7】は、「解決の形式をつくり出す力」の形成状況をt検定を用いてあらわしたものである。構成要素の「解決の形式をつくり出す力」全体と部分要素の「構成すること」及び「調整すること」に、第2、5学年ともに有意差が認められた。「構成すること」は、比較する活動で、互いの解き方を文章や図に表し考え方の筋道の把握と修正が容易になり形成されたと考える。「調整すること」は、分析する活動で、実際に文や図で表現した自分の修正した解き方から考え方の変容を認識するなかで形成されたと考える。これらから、「構成すること」と「調整すること」が合い進むように育ってきていると思われる。
ウ 論理的に考える力
上記、ア、イで、「解決の方向を決める力」と「解決の形式をつくり出す力」の形成がみられることから、試案に基づく活動を取り入れた指導により「論理的に考える力」が高まってきていると考える。
(2) 論理的に考えることについての意識の変容状況
論理的に考えることについての意識の変容状況について、「条件を抽出する
・見通しをもつ・順序立てて解く ・既習を活用する
・根拠をもつ ・確かめる・明瞭さを求める・簡潔さを求める」の8観点で調査を行った。
χ2検定を用いた検証の結果、第2学年は、「順序立てて解く」、第5学年は、「根拠をもつ」に有意差が認められた。これらの変容は、第2学年は自分の解き方を吟味検討する態度が身に付いてきたこと、第5学年は、互いの解き方の特徴に対する関心が高まり、解き方の意味を追究しようとする態度が育ってきたことによると考える。一方で、第5学年では、構成要素「解決の方向を決める力」の高まりがみられるが、それとかかわる「見通しをもつ」に対する意識の低下がみられ、認知面での高まりが態度の変容として表れていないことが分かる。このことは、他の考え方をそのまま取り入れる傾向があったためと考える。
今後は、児童個々に応じた解決の到達目標をもたせたり自己評価させたりする工夫が必要である。
第2、5学年とも7観点で意識の向上がみられ、論理的に考えようとする方向に意識が向いていると考える。
(3) 自分の考え方を他と比較して分析する活動についての意識
【図−2】は、自分の考え方を他と比較して分析する活動についての意識の状況についてまとめたものである。第2学年は全設問で3〜8人のマイナス反応があり、第5学年は、設問3を除く各設問でマイナス反応が0〜2人である。感想では、活動方法やねらいを理解し学習した内容の記述が最も多い。
これらから、第2学年は新しい活動方法であったため多少戸惑いを示したが、第2、5学年ともに、おおむね好意的に受け止め自分の解き方の向上に役立つと考えていると思われる。
7つの設問中、プラス反応が多いのは設問5「友達のとき方のよいところがわかりましたか」と設問6「友達のとき方でも解くことができるようになりましたか」である。反対に、マイナス反応が多いのは設問3「自分のとき方のよいところがわかりましたか」である。これらから、児童は、他者の考え方は高く評価しているが、自分の考え方を価値付けする意識や考え方の変容に関心を向けることが弱いことが分かる。その要因は、他の解き方で問題を解くことからこの活動が始まり、他の考え方を受け入れる意識が高くなるためと思われる。 そのため、今後は、児童が自分の考え方の変容を感じ取ることができる自己評価のさせ方や児童の解決の進度にあった他との交流のさせ方等の工夫が必要と考える。
(4) 単元の学習内容の習得状況
【表−8】は、学習全体及び観点別の事前、事後の単元テストの結果を有効度指数を用いて表したものである。単元全体の有効度指数は、第2学年が72、第5学年が74で、学習内容の習得がおおむね図られたと考える。第2、5学年ともに自分の考え方を他と比較して分析する活動を行った本単元の指導は、学習内容の習得に望ましい結果をえたと考える。
(5) 算数の学習についての意識の変容状況
算数の学習についての意識の変容状況について「算数の学習への関心・意欲・態度」の3観点で調査を行い、χ2検定を用いた検証の結果、第2、5学年ともに有意差が認められず、各観点とも事前から意識が高い傾向にあった。しかし、「算数の学習が大切だと思う理由」の自由記述の内容では、第2、5学年とも事前調査では「無回答」や「なんとなく大切」と消極的な態度の記述が多かった、事後調査では「将来的につかうから」、「日常的につかうから」と積極的な態度の記述へ変容している。
これらのことより、自分の考え方を他と比較して分析する活動を取り入れた学習においても、算数の学習についての意識はおおむね望ましい状況にあるといえる。
5 論理的に考える力を高める算数科の学習指導の在り方のまとめ
(1) 成果として考えられること
ア 試案に基づく活動で自他の考え方を書いたり話し合ったりして比較したことで、児童は自分の考え方の道筋を把握し順序立て問題を解くようになった。
イ 試案に基づく活動で、他の解き方で解くこと、自他の考え方を比べることを行ったことで、児童が、視点の違う様々な見方で問題の構造をとらえられるようになってきた。
ウ 試案に基づく活動は、個の活動と他と交流する活動を組み合わせたことで、互いの解き方に対する関心が高まり、児童に、自分の解き方を吟味検討する態度が身に付いてきた。
(2) 課題として考えられること
ア 他との違いが強調され、児童が自分の考え方の変容に関心を向ける機会が少なかった。
イ 他の考え方を全て取り入れ、自力で解決した意識をもちにくい児童もあった。
ウ 解決の進度や内容の違いで 試案に基づく活動の内容と時間的な差が児童により大きかった。
(3) 学習指導の在り方の改善点
ア 自己評価として「自分の考え方を他に受け入れられていること」を確かめる等の活動を加え、自分の考え方の高まりを意識させる必要がある。
イ 児童個々の自力解決の進度や内容にあった他との考え方の交流のさせ方を工夫していく必要がある。
X 研究のまとめと今後の課題
この研究は、小学校算数科の学習指導過程において、 自分の考え方を他と比較して分析する活動を行うことにより、論理的に考える力を高める算数科の学習指導の在り方について明らかにし、その改善に役立てようとするものであった。そのために、小学校第2学年、第5学年で指導実践を行い、論理的に考える力の高まりの状況から分析と考察を加えることによって仮説の有効性を検討してきた。その結果、次の点について明らかにすることができた。
1 研究のまとめ
(1) 試案に基づく活動は、論理的に考える力を高めることに有効である。
(2) 試案に基づく活動は、自分の考え方の筋道の把握や修正を容易にし、解決の形式をつくり出す力を形成する上で有効である。
(3) 試案に基づく活動は、視点を違えた見方や多様な仮定の仕方をさせる働きがあり、「解決の方向を決める力」の形成に有効である。
(4) 試案に基づく活動で、算数科の学習を自分とかかわり大切なものと考えるようになり、学習に主体的に取り組んでいこうとする意識を高めるのに有効であった。
2 今後の課題
(1) 第2、5学年の他単元、及び、第1、3、4、6学年の各単元において、試案に基づく活動を取り入れた指導を行うことにより、論理的に考える力を高めることができるか検討する必要がある。
(2) 各構成要素の関係や学年による形成の違いを吟味し、論理的に考える力を高めるより確かな指導を工夫していく必要がある。
<引用文献・主な参考文献>
和田義信著作・講演刊行会編著 「和田義信著作・講演集4『講演集2 考えることの教育』」 東洋館出版 1997年
古藤怜 新潟算数教育研究会編著 「算数科 多様な考えの生かし方まとめ方」
東洋館出版 1992年