岩手県立総合教育センター研究集録(2000)


技術・家庭科において自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する研究

−生徒一人一人が課題を設定する活動をとおして−

矢巾町立矢巾北中学校 教諭 眞島 繁明


T 研究目的

 技術・家庭科における学習指導では、実践的・体験的な学習活動をとおして知識と技術を習得できるようにするとともに、日常生活や社会生活で生じた課題に自力で対処できる能力と意欲を育てることが大切である。
 しかし、生徒の実態を見ると、指示されたことには素直に取り組むが、自ら進んで問題を見つけ考えて行動しようとする意欲が乏しいように見受けられる。これは、学習課題を教師主導で設定する場面が多く、一方的に設定された課題を中心に授業をおこなってきたためではないかと考える。
 このような状況を改善するためには、課題設定の見通しがもてる条件や方向性を教師が提示して、その要素を満たしながら、授業の中で取り組むべき課題を生徒一人一人が発見・発表・修正する必要がある。そのことにより、生徒は活動内容をより明確に把握することができ、自ら課題の解決に取り組む意欲が育つと考える。
 そこで、本研究では、技術・家庭科において、生徒一人一人が課題を設定する活動をとおして、自ら課題の解決に取り組む意欲を育てる学習指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 技術・家庭科において、課題設定の見通しをつけるために必要な条件や方向性を教師が提示し、その要素を満たす課題を生徒一人一人が発見・発表・修正する活動を行えば、取り組むべき内容がより明確に把握でき、自ら課題の解決に取り組む意欲が育つであろう。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導についての基本構想の立案
 (2) 生徒一人一人が課題を設定する活動を取り入れた指導試案の作成
 (3) 生徒一人一人が課題を設定する活動を取り入れた授業実践
 (4) 実践結果の分析と考察
 (5) 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導についてのまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法     (2) 質問紙法     (3) 授業実践

3 授業実践の対象
 矢巾町立矢巾北中学校  第3学年1学級 (男子14名 女子21名 計35名)

W 研究結果の分析と考察

1 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する基本構想

(1) 自ら課題解決に取り組む意欲を育てることの基本的な考え方

ア 自ら課題解決に取り組むことの必要性
 実践的・体験的な学習活動を重視する技術・家庭科では、生徒が興味・関心を示している体験的活動やものづくりをとおして、仕事の楽しさや完成の喜びを大切にしている。
 本校の生徒は指示されたことには対応するが、自らぶつかる課題に対抗する意欲が少なく、短絡的に解決しようと援助を求めたり、次の指示が出るまで活動を停滞させてしまう受動的な面がみられる。また、現在及び将来において、生徒が指示を受けずに自分で判断し、解決しなければならない場面に出会ったとき、適切に対応できないことも懸念される。このことは、平成14年度から完全実施される新学習指導要領の技術・家庭科においても、「生きる力」を育成するために、授業や実習を含めた生活の中で生じる課題に対して、解決できる能力や対処していこうとする意欲を育てる必要性があることを述べている。
 本研究では、実践的・体験的な学習活動を大切にしながら、技術・家庭科における問題解決的な学習を基本におき、生徒自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導の改善に努めるものである。

イ 本研究と問題解決的な学習のかかわりについて
 技術・家庭科では、生活を営むうえで生じる課題に対して、自分なりの判断をして課題を解決することができる能力、すなわち問題解決能力の育成を重視している。
 本研究では、問題解決的な学習活動をとおして、生徒自ら課題解決に取り組む意欲が育てば、生活を営む上で生じる課題に対して、自分なりの判断をして課題を解決することができる能力が育成されると考える。そこで、課題設定→課題追求→課題解決の各段階を踏む、問題解決的な学習場面の導入段階である課題設定に注目した。ここでは、生徒自らがものごとに疑問をもって課題を見つけだしたり、その課題について様々な角度から思考する能力を培うことによって、自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導の改善に役立てることができると考える。そのためには、

(ア)  授業者の学習意図を保持しながらも、生徒の発想で何通りにも課題設定が考えられ、授業に対する目的意識が高まるような学習テーマを提示する課題把握の場面を設ける。
(イ)  生徒一人一人が具体的な課題を見つけだす発見場面、生徒一人一人が課題を相互理解し、吟味する発表場面、生徒一人一人が課題の方向性をより明確にする修正場面を一連の活動として位置づける。

 これらの活動を課題設定の段階で行えば、生徒は活動内容や活動方法の見通しがより鮮明になり、自ら課題解決に取り組む意欲が育つものと考える。

(2) 生徒一人一人が課題を設定するための視点
 生徒は、自分の考えに基づいて自ら学習を進めるとき、学習に意欲的に取り組むものである。つまり、生徒一人一人が疑問に思う課題や解決したいと思う課題を見つけ、自ら学ぶことの喜びを実感できる学習指導の展開が必要である。同時に、技術・家庭科で最低限学ばなければならない基礎・基本を学習し、既習事項や今までの経験に基づいて設定する課題が、授業者の意図する課題にとどまらず、複数の課題を融合して新たな課題発見につながるような環境を整えなければならない。
 そこで、まず、最初に生徒の授業に対する目的意識を高めるため、内発的動機づけを工夫した教材を導入段階で提示し、本時の活動内容の見通しを方向づける課題把握や課題発見の場面を設定する必要である。次に、より具体的な課題に迫るために課題発表、課題修正の場面をつくり、技術・家庭科の授業に消極的な生徒にも自己の課題を振り返れる授業展開につなげる必要がある。
 本研究では、「力の伝達の仕組み」「機械要素について」を基礎・基本ととらえ事前に学習した後、「機械的な部品の組み立て・調整」「異常の原因の追求」を行い、生徒自らが考えて解決できるようにする。

(3) 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する基本構想図
 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する基本構想図を【図−1】のように作成した。

2 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する指導試案

(1) 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導に関する指導試案
 自ら課題解決に取り組む意欲を育てるために、生徒一人一人が課題を設定する活動を取り入れた指導試案の2単位時間(2時間)の授業展開を表したものを、【表−1】に示す。

(2) 課題設定の観点
 本研究では、指導試案の導入段階で、技術・家庭科の基礎・基本ととらえている指導事項を課題設定の観点として分類し、授業者が本時の授業実践で発見してほしい課題の一つとした。

<第1回目の実践>
(ア) 回転数やトルク変化に注目した課題 「A(5)−力の伝達の仕組み」
(イ) 機能に注目した課題 「A(2)−製作品の機能と構造」
<第2回目の実践>
(ア) てこクランク機構に注目した課題 「A(5)−力の伝達の仕組み」
(イ) 平行クランク機構に注目した課題 「A(5)−力の伝達の仕組み」
<第3回目の実践>
(ア) 構造に注目した課題 「A(2)−製作品の機能と構造」
(イ) 部品の形状に注目した課題 「A(2)−製作品の機能と構造」

(3) 検証計画の概要
 生徒一人一人が課題を設定する活動を とおして、自ら課題解決に取り組む意欲 を育てる学習指導の妥当性について、 【表−2】に示した検証計画に基づいて 検証する。

3 授業実践の展開

(1) 授業の計画
 実施期間 平成12年8月28日〜9月25日
 指導計画 全18時間(本研究6時間)

(2) 第1回目の授業実践における課題設定の観点
 第1回目の授業実践は、同一電源からより大きな力を出すことができるロボットの製作を学習テーマとして設けた。課題設定の観点は事前に学習した回転数とトルクの関係や摩擦とし、生徒が具体的な課題を発見できるように、【資料−1】【資料−2】の機構・機能が異なるロボットの対戦を教師実験として提示した。また、本校の生徒のものづくり経験の不足している点や自ら課題を見つけて解決しようとする意欲が低いことを考慮して、授業者 が準備した4種類のロボットを生徒が選択して対戦できるようにし、課題修正を行いながら試行を繰り返す機会を設けた。

(3) 授業実践の内容
 自ら課題解決に取り組む意欲を育てるために、生徒一人一人が課題を設定する活動を取り入れた授業実践の内容を【資料−3】に示す。

4 実践結果の分析と考察

(1) 自ら課題解決に取り組む意識の変容状況
 【表−3】は、指導試案に基づく授業実践によって生徒の課題解決に取り組む意識がどのように変容したか、事前・事後調査結果をサイン検定によってまとめたものである。調査対象は、3学年1クラス35名中、欠席で休んだ生徒2名を除いた男子14名、女子19名の計33名の生徒である。
 なお、事前・事後調査の質問項目1、8は授業実践をとおして、技術科の授業に対する生徒の意識がどのように変容したかを知るための項目内容であり、研究の手だてには直接的に関わっていないため、分析・考察による記載は行わなかった。
 【図−2】は、事前・事後調査から、課題解決に取り組む下位群(授業に消極的であると考えられる11名の生徒)の意識の変容状況をグラフにまとめたものである。

 【表−3】において、事前・事後調査によるサイン検定から、質問項目3、5、7については有意差が認められたが、質問項目4は有意差が認められなかった。質問項目3「授業のとき、作業のやり方がわかる」については、事後調査で18名の生徒がプラス反応の変容を示した。これは、課題設定する場面を設けることにより、生徒が活動内容をより具体化して作業に取り組むことができたためではないかと考えられる。質問項目5「学習の課題を意識して取り組みたい」については、課題を設定する活動をとおして、14名の生徒がプラス反応の変容を示しており、課題設定の必要性を実感したのではないかと考えられる。質問項目7「学習の課題を自分で見つけて解決したい」については、「二番以降にいけなかったのが残念。ギアの力が弱かったようだ。車重は中くらい・・」という感想がみられた。授業実践の中で喜びや悔しさを繰り返しながら原因を追求する体験が、自分で解決したいという意識の高まりになってきたのではないかと考えられる。質問項目4「作業がうまくいかなくても、最後まで頑張ろうと思う」については33名中7名がマイナス反応の変容を示した。1回目の実践で8名、2回目の実践で6名、3回目の実践で4名と完成、試行まで到達できなかった生徒がおり、「未完成だから、頑張れなかった」と自己評価の感想に記述した生徒もいたことから、十分な満足感を得ることができず、マイナス反応に変容したと考えらる。
 【図−2】下位群の意識の変容状況において、質問項目3「授業のとき、作業の仕方がわかる」については、事後調査で「A はい」に変容した生徒が3名みられた。事前調査で5名の生徒がマイナス反応を示していたが、事後調査では2名に減った。学習プリントから、抽出した下位群の生徒全員が毎回の授業で課題を設定していたことから具体的な作業内容が明確になったこと、グループ学習から個人学習に変わり主体的に取り組む意識が高められたことがプラス反応に変容した理由ではないかと考えられる。質問項目4「うまくいかなくても、最後まで頑張ろうと思う」については、マイナス反応の変容が2名みられ、「アイディアはけっこう良かったと思ったんだけど時間がちょっと足りなかった。でも、すごく楽しくできた。2.9kgは不満だけど。」(3回目・M子)という感想などがみられた。これは、課題を解決するための作業時間と製作内容の吟味が十分なされていなかったため、納得のできる完成まで到達できず、生徒の満足感が得られなかったと考えられる。しかし、プラス反応の変容も4名みられ、自分で課題を設定することによって、解決への意欲が高まったと考えられる。質問項目5「課題を意識して取り組みたい」については、6名の生徒が事後調査で「A はい」と答え、プラス反応の変容を見せている。これは「今日の授業は自分で課題を見つけて改良できたので、良い授業でした。」(1回目・S子)という感想などから、課題を意識して取り組む導入段階の活動をとおして、課題設定の必要性を実感したためであると考えられる。質問項目7「自分で課題を見つけて解決したい」については、9名の生徒がプラスの反応を示し、下位群の生徒たちの課題解決への意欲に大きな変容がみられた。「今日、はじめて自分でロボットをつくった。はじめてつくったからさいしょはとまどったけど、楽しくつくれたのでよかった。」(1回目・Y子)という感想から、ロボット製作ははじめての女子生徒が数名いたが、不安の中にも製作に対する喜びを感じていた。

(2) 生徒一人一人が課題を設定する活動に対する意識の変容状況
 【図−3】は、課題把握の場面をとおした学習に対する興味・関心の変容状況を、【図−4】【図−5】は、課題発見・課題発表・課題修正に対する意識の変容状況を、【図−6】は、課題の明確化が意識の中でどのように変容したかを自己評価の共通質問項目に対するA、B、C、Dの反応をグラフに表したものである。
 【図−3】「今日の授業の実験に興味・関心をもちましたか」については、「A はい」が3回の授業実践で9割をこえた。提示内容は、1回目の授業実践は相撲ロボットの対戦を行った。2回目の授業実践では自作模型として様々なリンク機構を見せ、日常生活に深く関わってきていることを知らせた。また、伸び上がるリンク装置でミニバスケットゴールにシュートするロボットを提示した。3回目の授業実践は、丈夫な構造としてバルサ材でつくったアーム部分が何kgまで耐えることができるか強度実験を行なった。これら学習テーマに関わる内容を、課題把握の場面で提示したことによって、生徒の実験に対する高い興味・関心の意識が維持できたと考える。【図−4】「今日の授業で、納得のいく課題を発見できましたか」については、提示する実験教具の違いや勝敗の原因を発見し、考えることにより、生徒の経験や観察力の違いはあるものの、自分なりの課題を発見することができたのではないかと考える。課題発見の状況をみると、1回目の実践では33名中1名、2回目の実践では33名中7名、3回目の実践では33名中1名が課題を学習プリントに記入することができなかった。7名が記入できなかったのは、テーマが難しかったこと、1グループ(女子4名)が課題を発見しないまま意見の交流活動に移り、そのまま作業に入ったことが考えられる。しかし、難しい学習テーマを克服し、試行を行った生徒が多かったため、マイナスの自己評価が減少したと考える。【図−5】「今日の授業で、自分の課題をしっかり発表できましたか」については、実践を重ねるたびに課題を発表する活動ができるようになり生徒自身が発表に満足する結果になった。課題の発表はグループ毎に行い、リーダーが進行を行った。
 グループ内の発表や意見交流で相互に評価するために、学習プリントに記入させて学級全体で評価し、次の学習への意欲づけにしたことが、意識の高まりにつながったと考える。課題の修正は、実践を重ねる毎に少なくなり課題発見で満足してしまい、意見交流後の修正を吟味せずに製作に取り組んだ生徒がみられた。
 結果として、【図−6】「今日の授業で、課題が明確になりましたか」については、授業実践を重ねるたびに、「B どちらかというと、はい」から「A はい」に変容した生徒が増えたことがわかる。
 このことによって、生徒一人一人の意識の中で本時の授業でやるべき内容が課題としてより明確化され、実際に取り組むことができたと考えられる。よって、生徒一人一人が課題を設定する活動は自ら課題解決に取り組む意欲をプラス方向に変容または維持させるために有効な手だてであったのではないかと考える。

エ 学習プリントからみた、課題設定に関する記述
 【表−4】は授業実践の導入段階に行った学習テーマの提示をうけて生徒一人一人が課題を発見し、学習プリントに記述したものをまとめたものである。指導項目に記入されている観点は授業者の意図した課題設 定であり、記入されていない観点は生徒から考え出された課題である。
 【表−4】において、第1回目の授業実践では、課題発見の観点「回転数やトルク」に注目した生徒は5名であった。生徒にはあらかじめ市販の三段変速ギヤボックスキットを中速ギヤに組み立てた状態で配布したため、中速ギヤを分解してトルクの大きい低速ギヤに作りかえる作業になった。そのため、課題発見の観点に「回転数やトルク」と記述した生徒は技能に優れた上位群の男子生徒だけであった。また、機能の工夫を課題とした生徒は16名と全体の半数を占めた。これは、生徒自らが課題を設定する授業に慣れてなく安易に授業者が提示した実験ロボットの機能だけに注目した生徒が多くみられたことが理由として考えられる。
 第2回目の授業実践では、授業者が意図した課題設定の観点に注目した生徒が少なく、具体性のない抽象的な願いを記述した課題発見が半数以上を占めてしまった。これは、リンク機構の基礎・基本を学習する時間の不足や日常的に利用されている機構であるにもかかわらず、実感できる場面が少ないことなどが考えられる。しかし、課題の追求段階で試行錯誤していくうちに、予想のつかない動きを発見し、リンク機能のすばらしさや楽しさを体験し、高い意欲を示した生徒が多くみられた。
 第3回目の授業実践では、三角構造を主とする「構造」に注目した生徒が17名で、多くの生徒が授業者の意図した課題発見になった。これは、1年生でおこなった「機能と構造を考えよう」の授業で学習した既習体験が課題発見の大きな要因になったと考えられる。
 1、3回目の授業実践では授業者が意図した課題の発見を多くの生徒ができ、自分の課題として設定したことから課題の把握場面で提示する教師実験を含めた課題設定は有効であったと考える。しかし、第2回目の授業実践で取り扱ったリンク機構は、知識が定着しないまま製作に入ったため、十分な課題発見になったとは言えなかった。リンク機構の学習に時間をかけ、基礎・基本を定着させることができれば、「楽しかった授業」だけにとどまらず、生徒一人一人が授業者の意図した課題設定に迫れることができ、3回行った授業実践がより意欲的に課題解決に取り組むことができたと考えられる。

(3) 抽出生徒の意識の変容状況
 技術の授業に対して、事前・事後調査で収集した情意面の反応を点数化して平均点を計算し、得点の高い生徒(A男)と低い(B子)を抽出して、本研究の手だてが意識の違う生徒にも有効であるか、分析・考察を行った。
 【図−7】は、A男とB子の事前・事後調査、授業の自己評価、感想などから意識の変容状況をまとめたものである。
 抽出生徒A男は、試行錯誤しながら物事にじっくりと取り組む、ものづくりに対して非常に意欲的な生徒であるが、課題設定に対する意識は消極的で、とくに課題発表の自己評価はマイナス反応を示していた。しかし、授業実践を重ねるたびに、ゆとりのある製作時間の確保を望みながらも、グループ内の発表の中で他生徒の課題を聞き、意見交流に参加しようという意識の変容がA男の感想からみられ、事前・事後調査や自己評価にプラス反応の変容が確認された。これらのことから、課題設定を意識させることは、課題解決への高い意欲を維持するための手だてとして有効であったと考える。
 抽出生徒B子は、おとなしく、意欲的に作業に参加することの少ない生徒である。事前調査では、 技術の授業で、課題を意識したり実際に課題設定をして自分自身が進めていく授業にはマイナス反応を示したが、事後調査では、質問内容8項目中6項目がマイナス反応からプラス反応へ変容した。これは、自分のアイディアが自分の力で形になっていくものづくりの喜びを体験したこと、課題把握の場面で授業に対する目的意識が高まり、肯定的に授業に参加したことなどが理由として考えられる。これらによって、B子自身が課題設定を行い、自ら課題解決していく意識を高めることができたと考えられる。しかし、事前・事後調査での質問項目3「作業の仕方がわかる」についてはマイナス反応を示している。これは、課題は設定できたが解決していくための技能が追いついてこなかったためではないかと推察される。
 これらのことから、本研究で実施した手だては、事前調査で学習への意識がプラス反応であったA男、同じく、マイナス反応であったB子どちらの生徒にとっても、高い実践意欲を維持する、または高めることができるものであったと考える。

5 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導のまとめ
 自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導について、仮説をふまえた指導試案に基づく授業実践を行い、授業の分析をとおして、その妥当性を検討してきた。そこで、以下に成果と課題を示す。

(1) 成果として考えられること

ア 課題把握の場面で提示する教師実験は、生徒一人一人の目的意識を高める上で、効果があった。
イ 生徒一人一人が課題発見する活動を行うことによって、作業内容を明確にする効果があった。
ウ 生徒一人一人が課題設定する活動を行うことによって、授業に消極的な生徒の課題解決に対する意欲を高めることができた。

(2) 課題として考えられること

ア 課題設定の段階で、課題の修正を行う生徒が少なかった。意見発表や意見交流の在り方をさらに工夫する必要がある。
イ 作業時間が十分でなく、完成、試行まで到達できない生徒がいた。課題把握の場面で提示する学習テーマの内容を焦点化して作業させる工夫が必要である。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 本研究は、実践的・体験的な学習活動を大切にしながら、技術・家庭科における問題解決的な学習を基本におき、生徒自ら課題解決に取り組む意欲を育てる学習指導の改善に役立てようとするものである。そのため、問題解決的な学習の導入段階である課題設定に重点を置き、(1) 課題把握場面の工夫、(2)課題の発見、発表、修正場面の充実、を手だてとして研究を進めてきた。
 本研究において、実践結果の分析と考察を加え仮説の妥当性を検討した結果、中学校技術・家庭科の学習指導において、生徒一人一人が課題を設定する活動を行うことは、自ら課題解決に取り組む意欲を育てることに有効であることが明らかになった。

2 今後の課題

(1) 課題解決の場面において、作業活動の支援方法を吟味する必要がある。
(2) 本研究の学習指導をふまえて、生徒一人一人の課題解決力を培うために、3年間を見通した一貫性のある指導計画を作成する必要がある。


≪主な参考文献≫
文部省 「中学校学習指導要領」 大蔵省印刷局 1998年
文部省 「中学校学習指導要領解説−技術・家庭編−」 東京書籍 1999年
文部省 「問題解決能力の育成を目指す学習指導の展開」 海文堂出版株式会社 1997年
稲見辰夫 著 「機械のしくみ」 日本実業出版社 1993年
北尾倫彦 編集 「思考力・判断力」 図書文化社 1995年
河野義顕 編集 「技術科の授業を創る」 学文社 1999年



岩手県立総合教育センター
〒025-0301 岩手県花巻市北湯口第2地割82番1
TEL:0198-27-2711(代)
FAX:0198-27-3562(代)
Copyright(C) The Comprehensive Educational Center of Iwate