岩手県立総合教育センター研究集録(2001)


総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する研究

−情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の設定をとおして−

遠野市立遠野北小学校 教諭 菅 原 智 章


T 研究目的

 今日の急激な情報化社会の進展に伴い、児童が社会の情報化に対応できるような資質や能力を身に付けることが重要視されている。そのためには、情報教育を充実させ、情報活用能力を育てることが大切である。この能力を育成するため小学校では、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実させることが求められている。
 しかし、これまで本校ではインターネットに接続する環境が整っていなかったため、各教科等で情報通信ネットワークを活用した学習ができなかった。そのため、児童は情報通信ネットワーク以外の情報手段の活用に留まっており、情報手段の活用能力が十分に育っているとはいえない。
 このような状況を改善するためには、総合的な学習の時間に、各教科の学習をとおして見付けた児童の興味・関心に基づく課題のなかから、情報通信ネットワークの活用が有効と考えられるものを選択して課題解決に取り組める単元を設定することが必要である。
 そこで、この研究では、総合的な学習の時間において、情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の設定をとおして、情報手段の活用能力を育てる指導の在り方を明らかにし、小学校情報教育の充実に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 総合的な学習の時間において、児童一人一人が、各教科の学習をとおして見付けた課題のなかから、児童自身が情報通信ネットワークの活用が有効だと判断して選択した課題について、情報通信ネットワークを活用して情報の収集・処理・交流する活動ができる単元を設定すれば、情報手段の活用能力が育つであろう。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する基本構想の立案
 (2) 基本構想に基づく指導試案の作成
 (3) 授業実践及び実践結果の分析と考察
 (4) 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する研究のまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法   (2) 質問紙法   (3) 授業実践

3 授業実践の対象
 遠野市立遠野北小学校  第6学年 2学級(男子23名 女子36名 計59名)

W 研究結果の分析と考察

1 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する基本構想

(1) 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の基本的な考え方

ア 総合的な学習の時間と情報教育について
 総合的な学習の時間のねらいについては、学習指導要領の「第1章第3の2」で、次のように示されている。

2 総合的な学習の時間においては、次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1) 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2) 学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること。

 このことから、総合的な学習の時間は、児童が自ら課題を見付けることから始まり、解決しようとする過程での様々な活動をとおして、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることがねらいであり、これは「生きる力」を育てることにつながると考えられる。
 総合的な学習の時間の学習内容としては、学習指導要領「第1章第3の3」で、次のように示されている。

3 各学校においては、2に示すねらいを踏まえ、例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。

 こうした活動を計画する際、児童が主体的に課題を見付けて活動できるようにする必要がある。また、学習指導要領「第1章第3の5(1)」では、

(1) 自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動などの体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。

 と示されていることから、教師は児童が体験的な学習や問題解決的な学習をできるような学習指導過程を考えていくことが必要である。
 情報教育については、「体系的な情報教育の実践に向けて(情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進などに関する研究協力者会議 第1次報告)」(平成9年10月3日)において、初等中等教育段階で育成すべき「情報活用能力」を次に示す三つの力に整理している。

(ア)  情報活用の実践力
課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力。
(イ)  情報の科学的理解
 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解。
(ウ)  情報社会に参画する態度
 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度。
 (ここでいう情報手段は、コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を示す)

 これらの情報教育の目標のうち、主として知識・理解を中心とする内容は、中学校「技術家庭科」や高等学校の教科「情報」の内容となる。しかし、「必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力(情報活用の実践力)」や「情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度(情報社会に参画する態度)」については、小学校の段階から育成することが必要である。なお、育成する際には、必要最小限の基本操作の習得をさせながら、情報手段を具体的に活用する体験をさせることが大切である。
 さらに答申では、学習指導要領に向けて以下のような提言が行われた。

「総合的な学習の時間」(仮称)を積極的に活用して、小学校段階における「情報活用能力」を育成するため、情報機器の基本操作を集中的に指導したり、情報手段を活用した表現・コミュニケーション活動や課題解決活動を取り入れるなど、主として「情報活用の実践力」を育成するその場合、何らかの形で学年段階に応じた指導内容や指導時間を例示することが望ましい。

 また、「情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて(情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進などに関する研究協力者会議 最終報告)」(平成10年8月)では、教育課程の改善の方向と具体的展開として

 (小学校段階)
 小学校については、「総合的な学習の時間」をはじめ各教科等の様々な時間でコンピュータ等を適切に活用することとしている。

 「総合的な学習の時間」は、各学校が地域や学校の実態に応じて創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する時間であり、具体的な学習活動として、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などが例示されている。情報教育の視点から考えた場合、例に示された各学習活動において、コンピュータや情報通信ネットワークの活用をうまく組み合わせて「情報活用の実践力」を養うよう計画されることが望ましい。
 例えば、環境に関する学習活動で、課題を追究するために必要な予備知識、実際に調査したい場所などの情報をインターネットで収集する、あるいは課題に対応した情報がデータベース化されている場合はソフトウェアを使って分析したり考えたりする、調査の結果から得られたデータを入力してグラフ化したり、描画ソフトウェアやワードプロセッサーを使って調査結果をまとめ、発表したりするなどの一連の学習活動が考えられる。

 と述べられている。
 以上のことから、よりよく問題を解決する資質や能力、学び方やものの考え方、問題の解決や追究活動に主体的、創造的に取り組む態度の育成がねらいとなる「総合的な学習の時間」は、情報教育のねらい、特にも小学校段階では情報活用の実践力や望ましい情報社会へ参画する態度の育成というねらいを具体的に反映できる時間と考える。

イ 情報手段の活用能力の意味
 情報手段については、先の協力者会議の答申において「コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等」を意味するとされている。
 学習指導要領「第1章第5の2(8)」で、次のように示されている。

(8) 各教科等の指導にあたっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実するとともに、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。

 本研究においては、情報手段を学習指導要領にある「コンピュータや情報通信ネットワークなど」ととらえることにする。
 この情報手段は、今日、急激に進歩しており、なくてはならないものになってきており、各学校でも整備が進み、課題を解決する道具として活用され始めている。こうしたことから、児童がコンピュータや情報通信ネットワーク等を活用して、自らの課題を解決していく力がますます必要となってきている。この力を情報手段の活用能力ととらえることにした。
 本研究における情報手段の活用能力は次に示すような要素から構成されていると考えるものとする。

 情報を収集する力
 ホームページ(以下HP)で、多くの情報、最新の情報、映像や音声の情報を探したり、電子メールで、具体的に質問して情報を得たりし、見付けた情報が必要かどうか判断しながら情報を収集する力とする。
 情報を処理する力
 著作権について理解し、課題に沿って発表する資料を作成する過程で、収集した情報を見直し、その情報のなかの必要な部分だけを取り出して加工したり、自分の感想等を付け加えたりして、情報を処理する力とする。
 情報を交流する力
 ネチケット(ネットワークのエチケット)を理解し、情報を収集したり処理したりする過程で、校外の様々な人たちと情報交換をする力、まとめた情報をもとに校内の友達と情報交換をする力とする。

 これら三つの力が育つと、児童は課題解決に向けてコンピュータや情報通信ネットワーク等を活用して情報を探し、見付けた情報が必要かどうか判断しながら情報を収集し処理できるようになり、校外の様々な人たちや校内の友達と、情報を交流できるようになると考える。本研究では、このような児童の状態を情報手段の活用能力が育った姿と考える。

ウ 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる単元を設定することの意義
 本校の児童は、コンピュータや情報通信ネットワーク等以外の情報手段、例えば新聞や事典、インタビュー等をとおして情報を収集し処理してまとめ、学級内や学年内で交流してきた。今年度、コンピュータや情報通信ネットワークの環境が整い、情報通信ネットワークを活用する能力の育成が急務となっている。このことから、総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる単元を設定し、情報の収集・処理・交流する学習活動を行うこと自体、大きな意義があると考える。また、育成される情報手段の活用能力である情報を収集する力、情報を処理する力、情報を交流する力は、総合的な学習の時間で行われる次の単元や各教科等の学習に生かされるものと考える。さらに最高学年である6年生においては、中学校進学の前に情報通信ネットワークを活用した学習活動をなるべく早く設定し、情報通信ネットワークを活用した課題解決学習や学校外との交流を体験させ、「生きる力」を育成したいと考える。
 このような学習活動は総合的な学習の時間や各教科の時間で計画しなければならないが、本研究では、答申や学習指導要領をふまえ、以下の理由から、総合的な学習の時間において情報手段の活用能力の育成を目指し、計画・実践することとする。

 各教科における調べ学習では、情報を収集・処理・交流する学習活動のそれぞれの場面で、情報教育のねらいを達成させることは可能である。しかし、こうした教科のなかでの展開は、どうしても学習内容の理解の徹底に多くの時間が割かれてしまい時間に余裕がないこと
 コンピュータや情報通信ネットワーク等の基本的な操作の仕方を指導する時間の確保は、初めて触れる本校の児童にとっては難しいこと

(2) 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる単元の展開
 本研究では、情報通信ネットワークを活用して課題解決に取り組む単元の学習指導過程を、各教科との関わりを考えて課題解決学習の指導過程と同じように「導入(つかむ段階)、展開(調べる段階)、まとめ(整理する段階、広める段階)」とする。なお、児童の見付ける課題は、児童一人一人が主体的に課題を見付けコンピュータや情報通信ネットワーク等を活用して解決できるもの、さらに本研究実践以後、各教科等において児童が課題解決に向けて応用的に活用できるものにしたいと考えた。そこで、各教科において解決する時間がとれなかった課題や新たに見付けた課題など、各教科をとおして児童が見付けた興味・関心に基づく課題を集め、情報通信ネットワークの活用が有効と考えられるものを児童が選択することとする。

(3) 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する基本構想図
 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する基本構想図を、【図−1】のように考えた。

2 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する指導試案

(1) 指導試案
 基本構想をもとに、総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する指導試案を【表−1】のように作成した。

(2) 検証計画

ア 検証計画の概要
 検証計画の概要は【表−2】のとおりである。

イ 情報手段の活用能力の育成状況をみるための検証
 情報手段の活用能力の構成要素である「情報を収集する力」「情報を処理する力」「情報を交流する力」の育成状況をみるため、評価規準に照らして分析する。また、三つの構成要素について事前・事後に同一の質問で調査を実施して比較し、分析の参考にする。
 情報手段の活用能力の育成状況をみるための評価規準は、【表−3】のとおりである。

ウ 情報手段の活用に関する意識の状況をみるための検証
 情報手段の活用に関する意識の状況をみるために、「情報の収集に関する意識」「情報の処理に関する意識」「情報の交流に関する意識」の三つの観点について事前・事後に同一の質問で調査を実施し、その結果を比較する。

エ 学習後の意識の状況をみるための検証
 学習後の意識の状況をみるために、「各教科で見付けた自分の課題を解決できる単元を設定したことに関する意識」「情報通信ネットワークを活用した単元を設定したことに関する意識」「情報教育の必要性に関する意識」について事後に調査を行い、この単元が児童にどう受け止められたかを確かめる。

3 指導実践及び実践結果の分析と考察

(1) 指導試案に基づく指導計画
 ア 授業実践期間  平成13年9月6日〜10月9日
 イ 単元「ネットワークの世界へ飛び出そう!!」の授業展開案(12時間扱い)

(2) 実践結果の分析と考察

ア 情報手段の活用能力の育成状況
 情報手段の活用能力の育成状況をみるため、情報手段の活用能力の構成要素である「情報を収集する力」「情報を処理する力」「情報を交流する力」について、事前・事後のアンケートを参考にし、評価規準に照らした教師の評価をもとに、分析と考察をした。

(ア) 情報を収集する力
 【表−4】は、情報を収集する力の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。サイン検定の結果、有意差がみられた。このことから、自分の課題に対して、リンク集や検索サイトを活用しながら必要と判断したHPを登録する体験をさせることと、方法を選択して調べられる時間を設定することは、情報を収集する力を育成するうえで、効果があったと言える。

 【図−2】は、お気に入り登録数の一人平均を時間ごと示したものである。お気に入りに登録させながら調べた時間は4時間であり、1時間あたりの登録数の平均は1.3である。このことから、お気に入りの登録は、やみくもに行ったのではなく、HPの内容と自分の課題をよく照らし合わせて行っていたと言える。

 【図−3】は、第6,7時(90分授業)で、ネチケットの指導を行った後、情報収集のために送信した電子メールの数と、その返事の数である。今後の学習での活用を考え、ネチケットについてしっかり時間をとって指導した。その後、質問が必要と判断し、電子メールを送信できた児童は24名、出した電子メール数は33通という結果である。これは、見付けたHPの内容を読んで自分の課題と照らし合わせ、深く追究するために質問が必要かどうか考える時間を十分にとれなかったためと思われる。

(イ) 情報を処理する力
 【表−5】は、情報を処理する力の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。サイン検定の結果、有意差がみられた。このことから、発表する資料を作ることを意識させ、著作権を尊重した手順で各自の資料づくりを体験させることは、情報を処理する力を育成するうえで、効果があったと言える。

 【図−4】は、第9,10時で、見付けたHPから必要な部分を使用するために送信した電子メールの数と、返事の数である。59名全員が送信を行った。HPによっては、承諾をもらえないところもあったが、電子メールで承諾願いを出したことで、児童の著作権に関わる理解が深まった。

 【図−5】は、第11時で、児童がどんなことを工夫したか情報の処理の様子である。児童の多くは、資料のイメージを変えることのできる「文字の色や形」、全体のバランスを考えた「文字・画像の位置」を工夫していた。

(ウ) 情報を交流する力
 【表−6】は、情報を交流する力の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。サイン検定の結果、有意差がみられた。このことから、それぞれの段階において、目的をもたせて電子メールの送受信を体験させることは、情報を交流する力を育成するうえで、効果があったと言える。
 質問の電子メールでは、質問にそのまま答えて返信された電子メール以外に【資料−1】のような「質問の返事に参考となることが含まれて返信された電子メール」「承諾の他にアドバイスが含まれて返信された電子メール」もあった。
 これらの返信された電子メールを児童に紹介したことにより、情報通信ネットワークを活用してできる交流についての理解の幅が広がった。また、資料作りの際、いい刺激となった。
 質問と承諾のお願い以外に、感想やお礼を含めると、児童は校外に112通の電子メールを出した。児童59名のうち、1回のみの送受信ではなく、数回の電子メールのやりとりを行った児童は17名いた。外部から返事を1通ももらえなかった児童は12名で、全体の約20%いたが、友達同士での電子メールの交換をとおして、児童は情報の交流を十分に体験していたと思われる。

イ 情報手段の活用に関する意識の状況
 情報手段の活用に関する意識の変容状況をみるために、「情報の収集に関する意識」「情報の処理に関する意識」「情報の交流に関する意識」の三つの観点について事前・事後にアンケートを行い、分析と考察をした。

(ア) 情報を収集することに関する意識
 【表−7】は、情報の収集に関する意識の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。χ2検定の結果、有意差がみられた。
 事後の調査で「+」から「−」に変容した児童が1名いた。この児童のお気に入りの登録数は3→5→6と平均を上回っており、事後の感想では、「星座のことが分かったからよかった。次は調べていない星座を調べてみたい。」と「+」面について2つ書いている。
 「−」の中で変容がみられなかった8名のお気に入りの登録数の平均をみると、3.8個であった。授業中も意欲的に活動することが少なかった児童たちである。これらの児童たちに対して、HPの内容の読み取りについての個別指導が十分でなかったと思われる。このことが、意識を高められなかった理由と考えられる。

(イ) 情報を処理することに関する意識
 【表−8】は、情報の処理に関する意識の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。χ2検定の結果、有意差はみられなかった。
 事後の調査で「+」から「−」に変容した児童が5名いた。これらの児童は事後の感想で「+」面の感想ばかりを書いていたが、発表した資料を見ると、収集の時間が十分ではなかったと思われる。このことが、「−」に変容した理由と考えられる。
 「−」の中で変容がみられなかった児童は7名いた。これらの児童も発表した資料を見ると、収集の時間が十分ではなかったと思われる。また、画像を貼り付けるとき、うまくいかず苦労しており、このときの個別指導が十分ではなかったと思われる。これらのことが、意識を高められなかった理由と考えられる。

(ウ) 情報を交流することに関する意識
 【表−9】は、校内での情報の交流に関する意識の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。χ2検定の結果、有意差がみられた。
 事後の調査で「+」から「−」に変容した児童が2名いた。1名は、「広める段階」の時間に電子メールで感想を出すのに苦労していた。もう1名は、「広める段階」の時間に「発表を見るだけではつまらなかった」と感想を書いていた。この児童は自由閲覧ではなく、一人一人に発表機会があった方がよいと考えていると思われる。このことが、「−」に変容した理由と考えられる。
 「−」の中で変容がみられなかった児童は9名いる。これらの児童は、電子メールの送受信で自信のない児童、文字を入力するのに苦労した児童である。電子メールに関する指導時間の工夫が十分ではなかったと思われる。このことが、意識を高められなかった理由と考えられる。

 【表−10】は、校外との情報の交流に関する意識の事前・事後の状況について、児童の人数を示したものである。χ2検定の結果、有意差はみられなかった。
 事後の調査で「+」から「−」に変容した児童が8名いた。これらの児童の電子メールの送受信状況をみると、返事がきていない、あるいは期待した返事がきていない児童が5名いた。他の3名は、1通の送受信があった。「+」に変容した児童は7名おり、電子メールの送受信状況をみると、7名とも期待した返事がきた児童であった。「−」の中で変容のみられなかった8名も、返事がきていない、あるいは期待した返事がきていない、1通のみの送受信であった。校外との情報の交流に関する意識は、返事の有無が大きく関わっており、このことが、意識を高められなかった理由と考えられる。

ウ 学習後の意識の状況
 学習後の意識の状況をみるために、「各教科で見付けた自分の課題を解決できる単元を学習したことに関する意識」「情報通信ネットワークを活用した単元を設定したことに関する意識」「情報教育の必要性に関する意識」について、事後にアンケートを行い、分析と考察をした。
 【図−6】は、3つの項目についてのアンケート結果を、それぞれ4段階に分けて割合を示したものである。この図から、3つの意識すべてにおいて、学年全体の80〜90%の児童が肯定的な回答をしていることがわかる。このことから、総合的な学習の時間に、情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元を設定したことは、児童に好意的に受け止められたものと考える。

 【表−11】は、児童の自由記述の感想を項目毎に分け、それぞれの数を調べ、全児童数(59)に対する割合を出し、示したものである。
 3つの項目それぞれに関連しては、「知りたいことがわかった」という内容が半数近くみられ、「使い方がわかった」「コンピュータはすごい・便利だ」という内容も多く見られた。
 また、3つの項目全体に関連しては、「また、コンピュータを使った学習をしたい」が60%以上、「楽しかった」が20%みられた。
 このように多くの児童が、肯定的な感想をあげていることから、今回の学習は、情報活用に関して「+」の意識に働いたと考えられる。
 しかし、「−」の意識をもった児童もいる。これは、コンピュータの操作でつまずき、課題追究で十分深めることができなかったことや、2人で1台という環境のために思うように学習を進めることができなかったことが、意識の高まらなかった理由と考えられる。

4 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関するまとめ
 総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関して、「成果として考えられること」と「課題として考えられること」の二点についてまとめる。

(1) 成果として考えられること

 情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の学習において、情報の収集、情報の処理を指導過程に順序立てて組み入れたことにより、児童が自分の課題に関連した情報を探し、必要かどうか判断しながら収集・処理することができるようになったこと
 情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の学習において、電子メールを組み入れたことにより、電子メールを使って校外、校内の人たちと交流することができるようになったこと
 情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の学習において、著作権やネチケットについて指導し活動させたことにより、児童のこれらに関する理解を深めることができたこと
 情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の学習をとおして、情報通信ネットワークを、情報手段として活用することができたこと

(2) 課題として考えられること
 それぞれの段階でつまずいた児童への個別指導の時間、ネチケットと一緒にあつかった電子メールの指導の時間等、十分な指導を行うには時間が足りなかったことから、指導過程の配当時間をよりゆとりある計画にすること

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、総合的な学習の時間において、情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の設定をとおして、情報手段の活用能力を育てる指導の在り方を明らかにし、小学校情報教育の充実に役立てようとするものである。そのため、総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方に関する基本構想に基づき、授業実践を行った。その授業実践の結果に基づき、「情報手段の活用能力の育成状況」「情報手段の活用に関する意識の変容状況」「学習後の意識の状況」の三点について分析と考察を行い、仮説の有効性を検討してきた。その結果、成果として得られたことは、次のことである。

(1)  総合的な学習の時間において、情報通信ネットワークの活用を中心とした課題解決学習の単元を設定し、収集・処理・交流の方法を体験的に理解させ児童に主体的に活動する時間を設定することは、情報手段の活用能力を育てる上で有効であること
(2)  総合的な学習の時間において、情報通信ネットワークを活用した単元を設定することは、情報の活用に関する児童の意識を高める上で有効であること

2 今後の課題
 この研究においては、総合的な学習の時間における情報手段の活用能力を育てる指導の在り方について、情報通信ネットワークを活用した課題解決に取り組む単元の設定をとおして、実践的に明らかにすることができた。
 しかし、児童の情報手段の活用能力をより高めるためには、学年をとおした指導計画を立て、実践・検討を続けていく必要があると考える。


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