岩手県立総合教育センター研究集録(2001)


自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方についての研究

−「For my school活動」の企画・実践をとおして−

北上市立北上中学校 教諭 菅 原 浩 樹


T 研究目的

 学級活動では、生徒が学級や学校生活における様々な諸問題を協力し、解決していこうとする活動をとおして、集団の一員としての自覚を深めながら、自主的・実践的な態度を育成することが求められている。そのためには、生徒の身近な問題を題材として取り上げ、生徒自らの発案・創意を生かしながら、その問題を自主的に解決し処理していくことが大切である。
 しかし、生徒の実態をみると、日常生活の問題を自分にかかわる問題として考えようとする意識が弱く、自主的に問題解決に取り組めない生徒がみられる。これは、生徒自らが活動の目標を設定し、協力して目標達成に向けて取り組む活動を十分に取り上げてこなかったことが要因として考えられる。
 このような状況を改善するためには、日常生活における問題を取り上げ、学級という枠を越えて学校全体の向上のために、生徒個々のよさを生かせる活動を取り入れた「For my school活動」を企画・実践することによって、自主的に活動しようとする意識を高めていくことが必要であると考える。
 そこで、本研究は、中学校の学級活動において、学校全体の向上のための「For my school活動」を企画・実践することにより、自主的に活動しようとする意識を高める指導の在り方を明らかにし、学級活動の充実に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 中学校の学級活動において、学校全体の向上のための「For my school活動」を以下のように企画・実践するならば、自主的に活動しようとする意識が高まるであろう。
  (1) 生徒が学校生活の状況についてのアンケートを実施・集約し、現状をとらえる。
  (2) 集約結果のなかから学校生活に役立つ活動を考える。
  (3) 活動内容を考え、計画を立て、実践する。
  (4) 自己評価及び相互評価を行い、活動を振り返り、認め合う。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容

(1)  自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する基本構想の立案
 「For my school活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の基本的な考え方や、意義及びねらいを明らかにし、自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する基本構想を立案する。
(2)  自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する実態調査及び調査結果の分析と考察
 基本構想に基づき、自主的に活動しようとする意識を高める学級活動にかかわる行動や意識に関する実態を調査し、その分析と考察を行い、問題点と課題を把握する。
(3)  「For my school活動」の企画・実践を取り入れた指導試案の作成
 基本構想及び自主的に活動しようとする意識を高める学級活動にかかわる課題に基づき、「For my school活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導試案を作成する。
(4)  指導実践及び実践結果の分析と考察
 指導試案に基づいて「For my school活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導実践を行い、その結果について分析することにより、指導試案の妥当性を考察する。
(5)  自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関するまとめ
 指導試案に基づいた指導実践の分析結果をもとに、仮説に基づいた自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方をまとめる。

2 研究の方法
 (1) 文献法   (2) 質問紙法   (3) 指導実践

3 授業実践の対象
 北上市立北上中学校 第2学年 1学級(男子22名 女子19名 計41名)

W 研究結果の分析と考察

1 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する基本構想

(1) 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する基本的な考え方

ア 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の意義
 学級活動では、生徒が学級や学校生活における様々な諸問題を、協力して解決していこうとする活動をとおして、集団の一員としての自覚を深めながら、自主的・実践的な態度を育成することが求められている。
 生徒に自主的・実践的態度をもたせるためには、生徒の身近な問題を題材として取りあげ、生徒自らの発案・創意を生かしながら、問題を自主的に解決していくことができるように、教師が指導・援助していくことが大切である。そのような活動をやりとげた充実感が自主的に活動しようとする意識を高め、次の活動の意欲につながっていくと考える。そしてこのような活動を積み重ねていくことにより、自主的に活動しようとする態度が育つものと考える。
 そこで、本研究では第2学年の学級活動において、自主的に活動しようとする意識を高める指導に焦点を当てて、研究を進めていくものとする。

イ 自主的に活動しようとする意識のとらえ方
 自主的とは、自己の正しい考え方によって判断することであるが、学級活動における正しい考え方をするためには、相手の立場で物事を考えるということが不可欠な条件となる。また意識とは「気づき」「考え」「それらについての価値判断」をすることによってもたらされる心のはたらきである。また、本研究における「自主的に活動しようとする意識」を「相手の立場に立って考えることに気づき、行動しようとする心のはたらき」ととらえた。この意識が高まることによって、実際に行動しようとする意欲に結びつくものと考える。
 本研究は、中学校の学級活動における「自主的に活動しようとする意識が高まった生徒像」を「他の立場に立って物事を考え、クラスの仲間とともに課題に取り組もうとする生徒」ととらえた。そし
て、学級活動における自主的に活動しようとする意識の構成要素を【表−1】のように「興味・関心」「課題意識」「方法理解」「達成感」「向社会的意識」と考えた。
 構成要素のうち「向社会的意識」は他の立場に立って考えようとする心のはたらきであり、他の四つの構成要素の根底にあるものととらえた。一般に「社会的」とは人とのつながりを意味するが、「向社会的」とは積極的につながりを求めていくことを意味している。教育心理学においてこの意識の現れを「向社会的行動」とよぶ。本研究においては「向社会的意識」が構成要素全体において生徒の思考の根幹として作用し、活動後にはその意識自体もさらに強まるものと考えた。
 生徒は、新しい問題にぶつかり「興味・関心」を抱き、自分の問題として感じとる「課題意識」をもつ。次に解決のための手だての見通しを立てる「方法理解」がなされ、個々のよさを生かした活動を行う。活動後、互いに評価し合うことで、生徒はやりとげた「達成感」を自分の役割を果たした充実感をもつことによって体感し、活動が人のためになることに気づく。この活動をとおして、他の立場に立って考えようとする「向社会的意識」が育ち、自主的に活動しようとする意識が高まっていく。

ウ 「For my school活動」の意義
 学級活動は、学級内における諸問題を自らの手で解決していくことが中心的な目標となっている。「For my school活動」は学級という一つの集団が、「向社会的な視点」で学級の外に目を向けながら行う活動をとおして、学級全体が他のために何かをしたという共通の経験をもつことができる活動である。そして、それをやりとげることにより、他の人のために何かをやろうという意識を学級全体で共有し、自主的に活動しようとする意識を高めることができるものと考えられる。

(2) 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する基本構想図
 これまで述べてきた基本構想についてまとめたものが【図−1】の基本構想図である。

2 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関する実態調査及び調査結果の分析と 考察
 (1) 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動にかかわる実態調査の目的とその内容
 (2) 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動にかかわる実態
 (3) 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動にかかわる問題点と課題(以上省略)

3 「For my school 活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導試案

(1) 「For my school 活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導試案作成の観点
 実態調査の分析から明らかになった課題を解決していくためには、次の観点から指導試案を作成していくことにする。

 気づく段階の活動では、生徒が行うアンケートの内容について教師が前例を示し、それをもとに生徒が作成できるようにする。
 行動する段階の活動では、次の三点について工夫する。
(ア)  活動や話し合いの際、出された意見や発表に対する賛否、その理由を書き込む用紙を使用し記入するための時間を確保する。また、班毎に記入したことについての意見交換を行う。
(イ)  活動や話し合いが終わる毎に、その時間の取り組みについてお互い評価する「いいとこカード」を生徒に記入させ、「活動の記録」に掲示させる。
(ウ)  自分の考えで仕事を選択できるように、自分の適性を理解し、自分に自信をもてるような評価の積み重ねを工夫する。
 「まとめる」段階の活動では、自分や他の人のよさが明確になるような記入用紙の作成を工夫する。

(2) 「For my school活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導試案
 【図−2】は基本構想及び自主的に活動しようとする意識を高める指導にかかわる課題を解決するために作成した指導試案である。

4 指導実践及び実践結果の分析と考察 

(1) 指導試案に基づく指導計画(省略)

(2) 指導試案に基づく「For my school活動」の企画・実践を取り入れた学級活動の指導実践

(3) 実践結果の分析と考察

ア 指導の各段階における自主的に活動しようとする意識にかかわる状況
 生徒の感想の記述は、各時間の最後に自由記述で行った。分析については各時間の記述のなかで要素にかかわると考えられるものを分類し、考察した。Nは各時間の出席者数である。

(ア) 「興味・関心」にかかわる意識の状況
 【表−2】は全校アンケート集約後の「興味・関心」についての記述を分類したものである。10名の生徒が自分たちの学校の課題に対する認識を深める記述をしている。また18名の生徒は学校の課題に気づくだけではなく今後の活動を意識し、さらに行動に移していこうと関心を高めている記述をしている。
 【表−3】は集約結果に基づく話し合いの後の記述である。28名の生徒が、「学校のため」という目的で、実践への意欲をもった記述をしている。
 以上のことから、全校アンケートを集約し、学校生活に役立つ活動を考えることは、物事に気づき、「興味・関心」を高めるうえで効果があったと考えられる。

(イ) 「課題意識」にかかわる意識の状況
 【表−4】は、集約結果に基づく話し合いの後の「課題意識」についての記述をまとめたものである。28名の生徒に「今後の実践への意欲」がみられ、自らが行動しようとする意識が高まっている。生徒は、「自らが行動しよう」という意識で、課題意識を高めていったものと考えられる。
 以上のことから、集約結果に基づく話し合いをすることは「課題意識」を高めるうえで効果があったと考えられる。

(ウ) 「方法理解」にかかわる意識の状況
 【表−5】は解決の見通しをもったと思われる記述である。7名の生徒が課題解決のために何をすればよいかについて見通しをもった記述をしている。
 以上のことから、「個々のよさ」や希望を生かして計画を立案することは、「方法理解」を高めるうえで効果があるという見通しをもつことができたと考えられる。

(エ)「達成感」にかかわる意識の状況
 【表−6】は活動後の記述をまとめたものである。30名の生徒が実際の活動をやりとげたとき、達成感をあげた記述をしている。しかし、半数近い生徒が活動の大変さをあげており、生徒にとってかなりの負担であったことがうかがえる。また学級としての達成感を感じている生徒もみられる。
 次頁【表−7】は相互に評価した後の記述をまとめたものである。多くの生徒は、上級生や教師から評価をされたことに喜びを感じていたようである。また、自分の学級が評価されたという感想をもった生徒もみられた。そのほかにも途中経過や成果が目で確認できたこと、活動の途中で評価されたことが達成感や活動の意欲に結びついたものと思われる。
 以上のことから、計画を実践し、やりとおすこと、他学年・教師からの評価を受け、生徒で相互評価することは生徒の「達成感」を高めるうえで効果があったものと考えられる。

(オ) 「向社会的意識」にかかわる意識の状況
 【表−8】は活動後の感想のなかの「手伝い」についての記述をまとめたものである。実際の活動の場面では、男子・女子問わず手伝う様子がみられ、7名の生徒が、他の人のために行動する意識を感じとった記述をしている。
 次頁【表−9】はまとめの段階での記述を分類したものである。半数近い生徒が学級の団結を成果として感じた記述をしている。
 以上のことから、「For my school活動」の企画・実践は「向社会的意識」を高めるうえで効果があったと考えられる。

イ 自主的に活動しようとする意識にかかわる変容状況
 次頁【表−10】は「For my school活動」の企画・実践を取り入れた指導によって、自主的に活動しようとする意識が、事前と事後においてどのように変容したかを設問によって調べ、サイン検定(変化の検定)でまとめたものである。この結果、有意差がみられた設問は1、3、4、11、15であった。
 「興味・関心」にかかわる設問では、設問1と3に有意差がみられた。これは、実際の活動をとおして「学級の団結」を体感した生徒が、今まで考えてこなかった学級の課題に対しても目を向けようとするようになったことによるものと考えられる。
 「課題意識」にかかわる設問では問4のみに有意差がみられた。これは、生徒が学級の問題へ目を向けようとする意識をもったことによるものと考えられる。しかし、実際の活動は、時間的・体力的に負担の大きいものととらえたと考えられる。
 「方法理解」にかかわる設問では、すべての設問に有意差が出なかった。これは、大きな活動内容は自分たちで設定できたが、具体的な活動内容や準備物については、教師から提案されたものを中心に選択したため、活動に対する「方法理解」の意識が育たなかったことによるものと考えられる。活動を自らの取り組みとするためには、具体的な活動内容まで実態をとらえながら思考させる必要があるものと考えられる。
 「達成感」にかかわる設問では、設問11のみに有意差がみられた。これは、活動をやりとげたことが「達成感」に結びつく要因となったことが考えられる。生徒にとって実際の活動は多様な思考をもつうえで重要な要素になることがわかる。
 「向社会的意識」についての設問では、設問15のみに有意差がみられた。これは、学級という観点での設問であることから、学級という自分の身近な社会に対する「向社会的意識」が高まったことが考えられる。しかし、今回は「まわりの人の立場に立つこと」ということが「何か活動をすること」と理解され、活動の大変さから、生徒は消極的な回答をしたのではないかと考えられる。
 これらのことから、活動が一部の意識の変容には不十分だったという反省は残るものの、全体をとおして、本研究の指導実践は、自主的に活動しようとする意識を高めるうえで、効果があるという見通しをもつことができたと考える。

5 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方に関するまとめ
 自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方について、仮説に基づき、指導実践したことによって明らかになったのは、次のことである。

(1)  生徒が集団生活や個々にかかわる問題について全校アンケートを実施・集約し、現状をとらえることは、物事に気づき、「興味・関心」を高めるうえで効果があった。
(2)  自分たちが学校のためにできる活動を考えることは「課題意識」を高めるうえで効果的な方策であること。
(3)  「個々のよさ」や希望を生かして計画を立案することは、「方法理解」を高めるうえで効果があるという見通しをもつことができたこと。
(4)  計画を実践し、やりとおすことや他学年、他学級・教師からの評価を受け、生徒同志で相互評価することは生徒の「達成感」を高めるうえで役立つこと。
(5)  「For my school活動」の企画・実践は「向社会的意識」を高めるうえで効果のある手段の一つであること。

 以上のことから、中学校学級活動において、日常生活における問題を取り上げ、学級という枠を越えて学校全体の向上のために、生徒個々のよさを生かせる活動を取り入れた「For my school活動」を企画・実践することは、自主的に活動しようとする意識を高めていくうえで有効であるという見通しをもつことができたと考える。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 この研究は、自主的に活動しようとする意識を高める指導の在り方を明らかにし、学級活動の充実に役立てようとするものである。そのために、基本構想に基づき指導試案を作成し、指導実践を行った。この指導実践の結果に基づき、指導試案の有効性を検討し、自主的に活動しようとする意識を高める学級活動の在り方についてまとめることができた。

2 今後の課題
 本研究に、今後より高い有効性をもたせるためにも、実際の結果をもとにした課題の設定のしかたや、実践の内容についての検討、指導、支援の工夫を行っていく必要があると考える。また、生徒自らの発案・創意を生かすために、モジュール型学習の形態をとり、時間の弾力的運用を行うなど、計画段階にゆとりをもたせる工夫が必要であると思われる。

【主な参考文献】
坂本昇一著 「生徒指導と学級活動・体験活動」 文教書院 1995年
【資料(映像)提供】
「ボランティア21」 テレビ大阪製作 2001年


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