岩手県立総合教育センター研究集録(2001)


中学校社会科公民的分野「企業と生産」における課題解決に対する意欲を高める指導の在り方に関する研究

−教室内LANを活用したシミュレーション教材の開発をとおして−

陸前高田市立小友中学校 教諭 齊 藤   貴


T 研究目的

 「企業と生産」の学習では、現代の生産の仕組みのあらましや市場経済の基本的な考え方について理解させ、社会における企業の役割と社会的責任について考えさせることが大切である。そのためには、家計と企業との関連など身近で具体的な事例を取り上げて、今日の経済活動における諸問題に着目させ、自ら考えようとする態度を育成することが求められている。
 しかし、本校の生徒の実態をみると、株式会社の特徴や組織と運営について、資料を読み取って内容を深めたり、学習したことを相互に関連付けて全体をとらえたりして自ら積極的に課題を解決しようとするまでには至っていない。これは、経済的な事象の基本的な見方や考え方を学習する際に理論や概念の学習が中心となるため、生徒の生活経験と結びつけた指導が十分でなかったことが要因と思われる。
 このような状況を改善するためには、生活経験と結びつけた具体的な事例を取り上げ、生徒に条件判断や意思決定を迫るような問題場面を設定して、課題解決に対する意欲を高めていくことが必要である。そのためには、生徒の学習情報を共有して、画面をとおして情報交流することができる教室内LANの機能を生かして会社の経営を疑似体験できるシミュレーション教材を開発し、授業で用いることが有効であると考えられる。
 そこで、この研究は、中学校社会科公民的分野「企業と生産」の指導において、コンピュータのネットワークの機能を生かした経済活動のシミュレーション教材を開発し、授業実践をとおして課題解決に対する意欲を高める指導の在り方を明らかにし、中学校社会科公民的分野「企業と生産」の指導の改善に役立てようとするものである。

U 研究仮説

 中学校社会科公民的分野「企業と生産」の指導において、課題の追究段階で生徒に条件判断や意思決定を迫るような問題場面を設定することができる教室内LANの機能を活用したシミュレーション教材を開発し授業で用いれば、生徒の課題解決に対する意欲が高まるであろう。

V 研究の内容と方法

1 研究の内容
 (1) 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方に関する基本構想の立案
 (2) 基本構想に基づく指導プログラムの作成
 (3) 基本構想に基づくコンピュータ教材の開発  
 (4) 授業実践と実践結果の分析と考察  
 (5) 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方に関する研究のまとめ

2 研究の方法
 (1) 文献法   (2) 質問紙法   (3) テスト法   (4) 授業実践

3 授業実践の対象
 陸前高田市立小友中学校  第3学年(男子11名 女子8名 計19名)

W 研究結果の分析と考察

1 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方に関する基本構想

(1) 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方の基本的な考え方

ア 課題解決に対する意欲の意味
 
本研究における課題解決に対する意欲とは、主体的な課題の解決に向けて、知りたい、学びたいという欲求を持続している状態であり、積極的に課題の解決に立ち向かおうとする心のはたらきととらえた。またこの単元でいう課題とは、経済的な事象が内包する諸問題であり、この問題を解決するために設定された学習課題のことである。
 この研究では先行研究などから、課題解決に対する意欲は【表−1】に示した「興味」「知的好奇心」「学習価値観」「目的意識」の四つの要素で構成されるものとする。また、課題解決に対する意欲が高まった生徒像を「経済的な事象に興味・関心をもち、学習価値観、目的意識を抱きながら進んで学習に取り組むことができる」ととらえた。

イ 課題解決に対する意欲を育てることの意義
 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について(平成10年7月29日教育課程審議会答申)」のなかで教育課程の基準の改善のねらいの一つとして「自ら学び、自ら考える力を育成すること」を挙げている。これまでの社会科の学習は、学習の過程よりも結果を重視し、事実認識の結果に重点を置いた学習になる傾向がみられた。しかし、社会の変化の激しい時代にあっては、常に社会の変化に関心をもち、変化する社会をとらえる事実認識を繰り返し行っていくことが重要となってくる。そのためには、社会的事象に興味・関心をもち、社会が抱える諸問題に対して自ら課題を見つけ、進んで課題を解決しようとする意欲を育てることが大切であると考える。

(2) 課題解決に対する意欲を高める指導においてコンピュータを用いたシミュレーション教材を用いる意義
 経済活動は日々、生徒の身近な社会で行われているが、「企業と生産」の学習においては経済的な事象の基本的な見方や考え方を学習する際に理論や概念の学習が中心となるため、生徒の生活経験と結びついた指導が十分ではなかった。そのため、会社の仕組みや経営について積極的に課題を解決しようとする意識が十分に高まっているとはいえなかった。
 社会科教育におけるシミュレーションを用いた教育的意義について山口幸男は『新・シミュレーション教材の開発と実践』のなかで「@生徒の主体的な活動・思考を促進することができる。A学習内容について、より実感的に理解させることができる。B社会的事象を構成している諸条件の関連を総合的に把握させやすい。C意思決定力の育成にある程度関与できる。D社会科学習に対する興味・関心を喚起することができる。」と述べている。しかし、同書では「シミュレーションを用いた場合、多くは時間がかかりすぎることが問題点として指摘される。それは、シミュレーションのやり方そのものが複雑であったり、多くの前提条件や資料を説明し、理解させる必要があることに手間取り、本来の学習目標に到達できないことがあるからである。」として、シミュレーションを用いる際の留意点についても述べている。
 そこで、コンピュータを用いて株式会社の設立、経営をシミュレーションすることにより、ふだん体験することが難しい会社の設立、経営について経済的事象を身近に感じさせたいと考えた。そのなかから経済的事象に興味を抱き、疑問に思ったことを調査し、課題解決に対する意欲を抱きながら学習を進めることができると考えた。
 また、シミュレーションで設定した社会的事象の模擬的な体験のなかで、生徒のおかれた状況に対してもっとも適切な選択肢を選択させ、条件判断する場面を設定することにより、生徒は思考を巡らしながら課題意識を高め、自らの意思決定によって自己決定感を抱き、学習への方向付けがはかられるのではないかと考える。なお、本研究における条件判断とは、選択のためのルール(条件)にあてはめるための判断とし、意思決定とは、問題場面で複数の選択肢のなかから一つないし複数の選択肢を選ぶ行動とする。
 さらに、教室内LANを用いたシミュレーション教材は、生徒用コンピュータのデータをサーバーに集中させて管理することができ、学習進度を調整したり、情報の共有を行うことによって他のグループのシミュレーション活動と比較し、競争しながら学習を進めることができる。競争は単にゲーム的要素としての勝ち負けの外発的動機づけだけではなく、シミュレーションとしての市場競争の要素が含まれており、企業の利益を増やすための方策について検討するなど、学習の方向性を明確化し、さらに生徒の追究意欲を刺激することができると思われる。
 以上のような特色をもつコンピュータを用いたシミュレーション教材は、課題解決に対する意欲を高めることに有効であると考える。

(3) 課題解決に対する意欲を高める指導におけるシミュレーション教材の在り方
 本研究において、シミュレーション教材を用いて課題解決に対する意欲を高めるのは単元の追究段階であり、次のような教材が有効であると考える。

 社会的事象を身近で具体的に感じられる教材
 既知の知識にゆさぶりをかける教材
 新たな課題を設定できる教材
 課題解決への道筋をはっきりともてる教材
 生徒が協同して学習し、ネットワークを活用して他のグループと結果を比較しながら意欲を高められる教材

 なお、教材は、生徒のコンピュータリテラシーや発達段階を考慮して、グループ単位で用いて生徒自身が操作するものとする。また、教材は学習の動機づけとして授業のなかの一部分で活用するため、コンピュータの操作に時間がかかりすぎないような配慮のもとに教材の開発を進めていくものとする。

(4) 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方についての基本構想図
 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方についての基本構想図を【図−1】に示す。

2 基本構想に基づくコンピュータ教材の開発
 基本構想をもとに、課題解決に対する意欲を高める学習活動を支援するコンピュータを用いたシミュレーション教材(以下、シミュレーション教材)の開発を以下のように行った。

(1) シミュレーション教材の概要
 シミュレーション教材の概要を【図−2】に示す。なお、本教材は、Microsoft Visual Basic6.0で開発したものである。

(2) シミュレーション教材の内容
 本研究で開発したシミュレーション教材「会社づくりシミュレーション」の内容の説明を二つの場面に分けて示す。初期画面のメニューから、「会社をつくろう」「会社の経営に挑戦」をボタンで選択することができ、二つのコースはそれぞれ独立させて使用することができる。

ア 「会社をつくろう」の場面
 【図−3】は「会社づくりシミュレーション」の初期画面である。この画面で「会社をつくろう」を選択すると、あらかじめ指定した31店舗の起業例のホームページのみを閲覧できるブラウザが起動する。この画面から生徒が関心をもっている業種を選択し、資金調達や店舗物件の相場について知ることができる。会社づくりへの関心をもたせるために、起業の実例から具体的な金額なども知ることができる。
 【図−4】は「会社をつくろう」の画面2である。グループで考えた「商号」「目的」「本店」をテキストボックスに入力していく。商号には必ず「株式会社」という言葉を含める決まりがあり、入力中にヒントが画面に表示される。
 【図−5】は「会社をつくろう」の画面3である。ここでは発起人会を開いて、グループに所属する生徒で発起人の名簿を作成し、資本金を決定する。自分の名前を入力することで、会社づくりを模擬体験しているという気持ちを高めさせる。
 【図−6】は「会社をつくろう」の画面5である。株式引受人を決める画面が表示され、生徒各々の出資金を決定する。次に取締役と監査役を選任し、代表取締役を一人選出する。株式会社の場合は取締役は三人以上、監査役は一人以上必要であり、定数に足りないときには、再検討を促すメッセージが表示される。試行錯誤を繰り返しながら、生徒自身に「なぜ」「どうして」という意識を芽生えさせるきっかけをつくる。
 すべての項目が決定したら、株式会社設立登記の準備として登記及び諸手続きをどこで行うことができるかをビデオ画面で確認して初期画面に戻る。

イ 「会社の経営に挑戦」の場面
 生徒はグループで株式会社の取締役会を構成し、従業員の雇用、市場の選択を行ったときにどのくらいの売上高が期待できるかをシミュレーションすることができる。
 【図−7】は、「会社の経営に挑戦」の画面2である。ここでは、会社の経営を「待ち行列」の方法を用いてシミュレーションした。「待ち行列」とは、スーパー等の商店において客の流れを予測し、レジの台数を決めたりするのに有効な方法である。
 経営者は、一月に一度、「部下の決定」「市場の選択」「意思決定(条件の継続)」のどれかを選択して経営を行い、毎年3月に決算を行うこととする。ここでは「知的好奇心」を喚起するために、どのような経営方針を打ち出すか、具体的な組み合わせを検討させる。また、会社の売り上げを伸ばすためにどのような方法があるのかという課題意識を抱かせるための画面である。
 次ページ【図−8】は、「会社の経営に挑戦」の画面4である。ここでは、株主総会を開いて当期の決算について報告をする。純利益がプラスになったときは、純利益の90%まで配当することができ、一株あたりの配当額を決定することができる。
 【図−8】の画面から会社の経営活動について振り返り「業績を改善するにはどうするか」「倒産した場合株主の責任はどうなるのか」等、新たな課題を見つけるきっかけを与え、「学習価値観」「目的意識」を高められる構成とする。
 【図−8】の画面をもって一年間の経済活動は終わるが、会社経営の方針についての反省を行い、市場の決定、部下の選択が適当であったかを検討してさらに継続してシミュレーションをすることができる。

3 授業実践と実践結果の分析と考察
 検証計画に基づいて実施した調査及びテストの結果を分析し、成果と問題点について考察する。

(1) 授業の計画
 授業の計画は、次の【表−2】のとおりである。

(2) 検証計画
 検証計画の概要は、次の【表−3】のとおりである。

(3) 結果の分析と考察

ア 課題解決に対する意欲の変容の状況
 課題解決に対する意欲の変容を課題の追究過程の事前・事後に実施した調査結果の分析と考察について以下の4点から検討した。

(ア) 興味の意識の変容状況
 次ページ【表−4】は会社の仕組みや経営に興味をもっている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。サイン検定の結果、人数の変化に有意差が認められた。事前・事後における興味の変容を示した【図−9】によると、「興味がある」と答えた生徒が授業前に11%であったが、1日目の授業後には半数を超える61%であった。
 これは、コンピュータを用いたシミュレーション教材により株式会社の存在を身近に感じることができ、仮想の会社をつくることに面白さを感じたものと考えられる。また、学習環境が変化し、生徒はこれからの学習の進め方に大きな期待を抱いたためと考えられる。
 自由記述からは「会社づくりが面白かった」「パソコンをつかって楽しく学べた」という記述が多く、会社の仕組みや経営に強い興味を抱いたものと考えられる。

(イ) 知的好奇心の変容状況
 【表−5】は会社の仕組みや経営について「ふしぎだな」「なぜだろう」と感じている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。サイン検定の結果、人数の変化に有意差が認められた。事前・事後における知的好奇心の変容を示した【図−10】によると、会社の仕組みや経営に知的好奇心を抱いている生徒は、事前は45%であったが、実践の第3時後55%、第4時後78%と増加している。
 これは、シミュレーション教材を操作し、会社を作るために必要な要素を知ることや経営者として会社を成長させるための適切な手段を考えることによって、具体的な課題に気づき、徐々に知的好奇心が高まったものと思われる。

(ウ) 学習価値観の変容状況
 【表−6】は会社の仕組みや経営について「もっと知りたい」「調べてみたい」と感じている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。サイン検定の結果、人数の変化に有意差が認められた。
 【表−7】は「さらに詳しく学習や調査したい」と感じている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。サイン検定の結果、人数の変化に有意差が認められた。
 次ページ【図−11】によると会社の仕組みや経営について「もっと知りたい」「調べてみたい」と感じている人は事前は56%であったが、事後には83%に高まっている。
 【表−6】の設問の自由記述のなかには、「パソコンで会社を経営してみて、赤字を出さず、利益を得られるにはどうしたらよいのか」「もっと会社のことを詳しく調べたい」等の記述がある。これは「もっと売り上げを伸ばすにはどうしたらよいか」という目標に向かってシミュレーション教材で試行錯誤を繰り返すうちに多くの疑問が浮かんできているためと思われる。また、生徒自身がつくった会社であるという思い入れから、より真剣に物事を考えようとする気持ちが高まったと思われる。
 これらのことから、シミュレーション教材を操作しながら、自ら抱いた疑問を解決させるために、「もっと詳しく調べてみたい」「もう少し知りたい」とする意識が高まり、自分なりに課題を設定して学習に取り組もうとする気持ちが高まってきたと考えられる。

(エ) 目的意識の変容状況
 【表−8】は会社の仕組みや経営について知ることは大切なことだと感じている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。事前から意識が高く全員プラス傾向の意識を抱いており、事後に大きな変化はみられなかった。
 【表−9】は今日の授業に自分から進んで参加できたかと感じている生徒の事前・事後における変容を人数で示したものである。サイン検定の結果、人数の変化に有意差が認められた。
 【図−12】によると授業に進んで参加できたと感じている生徒は、事前は72%であったが、事後には89%に高まっている。特に強く意識している生徒が事後に50%を超えている。
 【表−9】の設問の自由記述のなかには、「会社経営の難しさを知った」「経営の仕組みについてよくわかった」等の記述がみられた。
 これは、会社経営を疑似体験することにより利潤の追求という課題解決に向けての目的がはっきりとしており、どのようにすれば課題が解決できるか見通しをもつことができたためと思われる。また、生徒は、会社の仕組みを知ることの大切さについて、事前から高い意識を抱いており、より具体的な場面を想定して課題の追究をしたためと思われる。
 このことから、会社の仕組みや経営について自らの課題に対して積極的に調査活動を進め、課題を解決させようとする意識が高まったためと考えられる。
 なお、以上の4点については、単元の前後においても意欲の変容状況を調査してみたが授業の事前・事後ほど大きな変容は認められなかった。これは、授業で高まった課題解決に対する意欲が必ずしも単元の終了まで持続しないことを示唆していると思われる。

イ 単元で学習する内容の習得状況
 「企業と生産の仕組み」の学習内容についてテスト問題を作成し、事前と事後に実施した。【表−10】は、単元で学習する内容の習得状況について学級全体の事前及び事後テストの結果を正答率と有効度指数を用いて表したものである。【表−10】から有効度指数は44である。これは、事前テストの正答率が高いこと、株券や配当、公正取引委員会の働きに関する問題の正答率が低かったことによるものと思われる。【図−13】は、事前及び事後テストの正答率を度数分布に表したものである。【図−13】から授業の前後で正答率の分布を比較すると、授業前に比べて授業後は度数分布曲線が右傾型分布を示しており、習得状況は高い値に推移している。
 以上のことから、単元の指導においては、習得すべき基本的な用語や社会的な考え方について繰り返し確認する場を設定して指導していく必要があると思われる。また、事前テストの正答率が比較的高かったことから、単元テストの作成にあたっては、この単元で学習した基礎的・基本的な内容の設問の構成と出題の難易度を吟味する必要があると思われる。

ウ コンピュータ教材の有効性

(ア) コンピュータ教材の操作性
 【図−14】はコンピュータ教材の操作性についての意識の状況を示したものである。
 設問2では、教材の操作について情報の入力や読み取りが90%以上の生徒ができたと答えている。また、操作がわからないときには、グループで解決しながら学習を進めることができたと答えている。
 設問5では、コンピュータを利用した学習の取り組み時間について、半数以上の生徒は時間が足りなかったと答えている。これは、授業中に十分な活動ができなかったというよりは、「もっとコンピュータを使って学習したい」「インターネットで調べたい」という意欲の現れであると思われる。
 以上のことからコンピュータ教材の操作については、不慣れな生徒でも周りの生徒と協力して取り組むことにより、十分に対応できたものであると思われる。

(イ) コンピュータ教材への関心
 【図−15】はコンピュータ教材への関心についての状況を示したものである。設問6では、95%の生徒が会社づくりのシミュレーションソフトが会社の仕組みを知るために役立ったと感じていると答えている。また、生徒全員がコンピュータを用いた学習の有用性を感じ、社会科におけるコンピュータを用いたシミュレーションによる学習についても強い関心を示している。
 ネットワークを用いて、シミュレーション活動の様子を他のグループと比較することについては、95%の生徒が教材に魅力を感じており、学習への取り組みに抵抗を感じる生徒は少なかった。
 ネットワークを用いたグループ活動の様子を【図−16】に示す。手前の3グループと奥の4グループは各々一台のコンピュータを用いてグループでまとまって活動している。
 以上のように調査結果や場面観察の結果から、コンピュータ教材に対する関心は高く、シミュレーションソフトは学習に有用であったと感じており、学習に向けての動機づけとして有効にはたらいたと考えられる。しかし、「グループでの作業よりも個人で作業した方がよかった」とする記述もみられることから、生徒がコンピュータ操作に対する経験を重ね、操作に不安を感じなくなった場合には、一人で一台のコンピュータを用いて学習することも十分に考慮していきたいと考える。

4 課題解決に対する意欲を高める指導の在り方に関する研究のまとめ
 本研究では、課題解決に対する意欲を高める指導の在り方を明らかにするため、コンピュータのネットワークの機能も生かした経済活動のシミュレーション教材を開発し、授業実践をとおしてその有効性を検証した。その結果、成果及び課題として考えられることは次のとおりである。

(1) 成果として考えられること

 単元「企業と生産」において、追究段階で会社の設立を疑似体験するシミュレーション教材を用いた指導をすることにより、身近な経済的事象として実感的にとらえさせることができ、課題解決に対する意欲を高めることができた。
 単元「企業と生産」において、教室内LANを活用したシミュレーション教材を用いてグループ間で結果を比較しながら学習を進めることにより、市場競争を実感的にとらえ学習の方向性が明確になり、経済的事象への学習の動機づけが図られ課題解決に対する意欲を高めることができた。
 単元「企業と生産」において、追究段階で会社の設立を疑似体験するシミュレーション教材を用いて条件判断、意思決定する場面を設定することにより、生徒は会社の設立、経営の困難な局面を乗り越えようと課題意識を高めることができ、自ら課題を解決しようとする意欲を高めることができた。

(2) 課題として考えられること
 
シミュレーション教材を用いて授業した前後を比較すると課題解決に対する意欲は高まっていたが、単元の前後で比較すると課題解決に対する意欲が十分に高まっているとはいえない。生徒の学習意欲を持続させるために、資料の収集、処理や発表などにあたっては、コンピュータや情報通信ネットワーク等を活用して行うことなど、課題を追究する活動の仕方を工夫する必要がある。

X 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ
 本研究は、コンピュータを用いたシミュレーション教材を開発し授業で活用することをとおして、課題解決に対する意欲を高める指導の在り方を明らかにし、中学校社会科公民的分野「企業と生産」の指導の改善に役立てようとするものである。
 本研究において、実践結果の分析と考察を加え仮説の妥当性を検討した結果、中学校社会科公民的分野「企業と生産」の指導において、コンピュータのネットワークの機能を生かした経済活動のシミュレーション教材を活用することは、課題解決に対する意欲を高めるうえで有効な手段の一つであるという見通しをもつことができた。

2 今後の課題

(1)  本研究のシミュレーション教材は、コンピュータ室の生徒用コンピュータに必要台数分インストールして使用するが、どのコンピュータからも利用可能にするためにブラウザを使用してネットワーク上から簡単に利用できる教材を開発することにより汎用性の高い教材の開発を目指したい。
(2)  他の分野、単元におけるコンピュータ教材を開発し、課題の発見、情報の収集、調査結果の発表などにコンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等の活用を取り入れた学習の在り方について検討していくことが必要である。

<参考文献>
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渋谷憲一編著 「指導と評価の間 学習意欲を育てる教育指導」 ぎょうせい 1990年
下山 剛著 「学習意欲の見方・導き方」 教育出版 2000年
印南一路著 「すぐれた意思決定 判断と選択の心理学」 中央公論社 1997年
文部省 「中学校学習指導要領(平成10年12月)解説−社会編−」 大阪書籍 2000年
澁澤文隆・佐伯眞人・大杉昭英編著 「中学校学習指導要領の展開社会科編」 明治図書 2000年
授業技法研究会編 「指導プログラムの理論と作成(T)」 才能開発教育研究財団 2000年
授業技法研究会編 「指導プログラムの理論と作成(U)」 才能開発教育研究財団 2000年
飯島正樹他著 「意思決定のための経営情報シミュレーション」 同文舘 2000年
コンサルティングファーム監修 「小さな会社のつくり方と運営がわかる本」 成美堂出版 1999年
二木紘三著 「株式会社のしくみ」 日本文芸社 2000年
川口輝久・河野 勉著 「かんたんプログラミングVisualBasic6基礎編」 技術評論社 2000年
谷尻かおり 「VisualBasic6による実践データベースプログラミング」 技術評論社 2000年


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