58号コラム(2011.10.31)
『12の贈り物』
 作家の高橋克彦さんが第15回日本ミステリー文学大賞(光文文化財団主催) を受賞しました。本県在住・出身作家の栄誉ある受賞は、子どもたちに夢と希 望を与えてくれる朗報です。  話は遡りますが、震災直後の三月、支援物資を積んだ車のラジオから高橋克 彦さんの対談が流れました。雑音混じりに、彼が1千万円を寄付したという内 容であることは聞き取れました。運転しながら目頭が熱くなったのを覚えてい ます。  その高橋克彦さんにお会いできる機会を得ました。8月末、震災からまもな く半年という時のことです。彼は、次のように語ってくれました。 「本屋さんや映画館が閉まっていても誰も何も言わなかった。作家は、すごく 大事なことをしていると思っていたけれど、戦時中や震災の渦中で、人間が真 っ先に求めるものは芸術ではなく、自分が不必要な人間だということを突きつ けられた気がした。小説家を続けて意味があるのだろうかとさえ思った。けれ ども、何日か過ぎてから、いやそうではない、平和な時にしか求められないも のであれば、自分たち芸術に携わっている人間が、誰よりも先に復興を先導し ていかなければならないと思うようになりました」。さらに「小さな小学校2、 3年生の子どもたちが、両親とか兄弟を失いながらも、『私よりももっとつら い人がいる…』というのを聞いて、そんな子どもよりつらい人がいるはずがな いのに、やはりこの子どもたちのためには何かしてあげなくてはいけないなと、 心底思いました」。と続けられ、最後に「ああいう子どもたちを育てたことは、 学校教育の賜物。ものすごく大きいことです。もっともっと教育者たちは、自 分のしてきたことを信じていいと思います」。と、温かいエールまで頂戴しま した。  高橋克彦さんは、震災後、県内在住の作家の方々に呼びかけて、岩手県在住 作家自薦短編集「12の贈り物」を刊行しています。印税を東日本大震災の義 捐金にすることが目的でしたが、編者の道又力氏は「思いがけず本書は六十年 代から現在にかけて登場した岩手の作家を俯瞰する短編集となった」と解説し ています。  短編集の各冒頭には、東日本大震災に対するそれぞれの作家の思いが綴られ ています。  文中の高橋克彦さんのお話しの内容は要旨です。(利)
コラム・バックナンバー
メルマガ・コラムTop
教育センターTop