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 「地球温暖化」「ダイオキシン」「環境ホルモン」などの言葉が象徴するように今、地球規模から生活周辺に至るまで、さまざまな環境問題が取りざたされている。教育現場でも、平成十四(二〇〇二)年導入の新教育課程の目玉である「総合的な学習」のテーマの一つに「環境」が盛り込まれる見込みで、今後、「環境教育」の一層の充実が図られることになる。本県では平成四年度から始まった「ふるさと教育」を基盤として、小・中学校を中心に多様な「環境教育」が実践されている。地域の自然や環境問題を通して、地球を学ぼうという試みだ。その中からいくつかの取り組みをクローズアップする。(毎週月曜日掲載)

NASAにデータを送信
天王南中
休日も交代で観測 

 放課後のパソコン室。科学部の三年生部員たちが一台のパソコンに向かって、キーをたたいている。数字を打ち込むだけの作業だが、みんなの目つきは真剣そのもの。それもそのはず、このデータはインターネットを通じて、米国の首都・ワシントンDCにあるNASA(米航空宇宙局)本部に送信されているのだ。

インターネットで発信

 この活動は、GLOBE計画(環境のための地球学習観測プログラム)という、国際的な環境教育の試みの一つ。天王南中(武石正夫校長、生徒三百三十九人)は平成七年、日本の第一期モデル校(全国二十一中学校)に指定され、世界同時進行の同プログラムに参加することになった。

 観測するのは、気温の変化、降水・降雪量、雨の酸性度(ph)、雲の種類などの気象関連データのほか、学校裏手にある長沼の水中イオン濃度、化学的酸素要求量(COD)など水質に関する数値も含み多岐にわたる。休日や長期休業の期間も、科学部や生徒会環境整美委員会の生徒が交代で観測し、週に一度データを送信。これらのデータは、GLOBEのホームページで発信されている。

 天王南中ではGLOBEの活動と並行して、学校全体の環境教育を推進している。理科で観測データを使った授業を行うなど、各教科で単元に応じて、”環境色”を出す工夫をしている。特に社会、理科、技術・家庭、保健体育を「中核的な教科」と位置付けている。二年時から始まる選択授業で「環境」の科目を設けているのも目玉の一つ。「自分たちで得たデータを活用することは学習への意欲づけになる。環境は間口が広いのでいろんな所から入っていける」と研究主任の佐藤忠之教諭。

学年ごとに課題設定

 教科以外も「環境」とは無縁ではない。特別活動では学年ごとに課題を設定し、環境研究を実践。生徒会活動でも「私たちにできるAct Locally」をテーマに掲げ、地域の人たちをアドバイザーに招いて環境学習全校集会を開いたり、アルミ缶回収、プルタブ集めなどに取り組んだりしている。

 県内では環境教育の「最先進校」との評価を得ているが、生徒たちの環境に対する意識も高い。科学部の工藤惟志部長(三年)は「中学に入るまでは環境のことはあまりよく知らなかったが、今は酸性雨やごみの問題に興味を持っている。一人一人がちゃんと考えていかなくては」と話し、佐藤教諭は「三年生ぐらいになると自分たちの問題としてとらえられるようになっている。環境という言葉そのものに敏感になっている」と評価する。

「たより」を町内配布

 今夏から「環境だより」の町内全戸配布が始まった。これまで生徒会が不定期に出していた「環境だより」を月刊化し、町の広報に挟み込んでもらって、町の人たちに読んでもらおうというものだ。武石校長は「子どもたちのために環境を守っていかなければならないことは確かだが、子どもたち自身が考えていくことが大切だ」と生徒の主体的取り組みの重要性を強調していた。

(写真説明)科学部員は週に1回のペ−スで、学校周辺の気象や水質のデ−タをイン−ネットを通じて、米国のNASA本部に送る=天王南中

 【GLOBE計画(環境のための地球学習観測プログラム)】 全世界の子どもと教師および科学者が相互に協力しながら、全世界の個々人の環境に関する意識の啓発、理数教育のレベルアップなどを目的に、環境観測や情報交換を行う国際的な環境教育のプログラム。一九九四(平成六)年のアースデー(四月二十二日)に米国のゴア副大統領によって提唱された。

(8月24日付夕刊)


交代で環境マップ作製
金足西小
地域の自然を調査 

 玄関を入ってすぐの廊下の壁の前に子どもたちが集まってきた。手にははがき大ほどの紙が一枚。一人一人がその紙を壁掛けの大きな地図にマグネットで張り付けていく。

 秋田市の北部、郊外にある金足西小学校(佐藤善昭校長、児童二百三十人)には、地域の豊かな自然環境が一目で分かる「かなにしかんきょうマップ」がある。子どもたちが地域で見つけた季節の草花や生き物を絵と文章で書き表した紙をマグネットで張り付けるものだ。紙は学年ごとに順番を決めて一週間から十日ぐらいの間隔で張り替える。大野真稔君(六年)は「学校の周りには緑がたくさんある。環境についていろいろ調べて、自然が大切だと分かった」と話す。

アルミ缶回収も発案

 かんきょうマップ作りは児童会活動の一環。昨年からは、子どもたち自身の発案でアルミ缶回収とプルタブ集めも始めた。また、国連が「環境月間」と定める六月を、児童会の活動強化月間とし、児童全員がごみ袋を手に登下校時に空き缶拾いを実践している。

 学校側では、月一回の学校だよりの裏面を利用し、「環境教育だより」を発行している。児童の協力を得て地域全体の約千三百六十戸に配布し、学校の活動を広く紹介している。「イベント的に派手なものはないが、地道な活動の積み重ねを心掛けている」と研究主任の佐々木扶佐子教諭。

 金足西小の環境教育は秋田市教委の研究指定校となった平成五年度にスタートした。県内における本格的な環境教育の「草分け」であり、同校を手本としている学校もある。当初は「生活科・社会科・理科」を教科の中心に据え、「道徳」「特別活動」を組み込む形で進めたが、七年度以降は教科間の垣根を低くし、総合学習的な取り組みに変わった。

 本年度はさらに一歩踏み込み、体験的学習の時間「まつかぜ学習」(年七、八時間程度)を新設し、学年ごとの環境単元に横断的・総合的に取り組むことになった。「体験を多く積ませたいと考えた場合、教科にとらわれない時間が必要だった」と佐々木教諭は説明する。

発達段階に応じ学習

 低学年は「自然に親しむ」、中学年は「地域の自然や社会を知る」、高学年は「問題意識を持って自然との共生を考える」と、発達段階に応じた学習範囲を設定している。三年以上は調べ学習が多くなる。高学年では学習のまとめとして討論会を行うが、子どもたちの口からは「温室効果」「砂漠化」「酸性雨」などの言葉がごく自然に飛び出す。鎌田結来さん(六年)は「今、興味があるのはダイオキシン問題。このごろ地球が汚れてきていることがよく分かった」ときっぱり。教務主任の三浦敏教諭は「子どもたちが問題を深く理解することは難しいだろうが、今、大変な状況だということは十分感じていると思う」と実感を語る。

 豊かな自然環境の中で取り組み続けて六年目。柴田明子教頭は環境教育のポイントとして「繰り返し」と「継続」を挙げる。「頭の中のものだけになってはいけない」とも。「かなにしの環境教育」イコール、「地道に体験を通して学ぶこと」だ。

(写真説明)季節の草花や生き物の情報がたくさん貼り付けられている「かなにしかんきょうマップ」=秋田市の金足西小

(8月31日付夕刊)


教室内に鉢植え、水槽
大曲中
自発的に世話や飼育

 机に向かう生徒の傍らにずらりと並ぶ花の鉢植え。黒板のわきに置かれた水槽の中では、小さな熱帯魚が泳いでいる―県内で二番目の生徒数を誇る大曲市の大曲中学校(鈴木儁校長、生徒九百一人)の校舎内には、”豊かな自然”がある。

 花の鉢植えは、各教室をはじめ、水飲み場などの共用スペースにも並び、水槽のあるクラスも珍しくない。しかし、これは学校の取り組みでもなければ、生徒会活動でもない。同校がかつて、「環境教育」に関する研究指定校になったこともない。いつの間にか出来上がった自然発生的な「校内環境」なのだ。理科教科主任の高階勝巳教諭は「学校側から『やりましょう』と言って始まったものではなく、『やりたい』というクラスで始まったもので、『うちでも飼いたい』というクラスが増えていったのだと思う」と推測する。

先輩から引き継ぐ

 教室内の鉢植えや水槽の維持費は、学級費やクラスで出し合ったお金でまかない、世話や飼育は各学級の係(生き物係など)が担当している。クラスによっては、十個以上の多種多様な鉢植えが並んだり、大型の観葉植物があったり。二つの水槽で熱帯魚と金魚の両方を飼育している学級もある。「水槽や植物があるだけでクラスが明るく感じる。ないと寂しい」。一年の誉田麻衣子さんは「校内環境」を気に入っているという。

 このほかにも、雄物川のクリーンアップや、科学部による水生生物調査など、ごく普通に自然とかかわりの深い活動を行っている。昨年からは生徒会活動の一環として、アルミ缶回収とプルタブ集めを始めた。これも生徒の自発的な取り組み。「いい活動だと思って先輩の代から引き継いだ。リサイクルに対する意識はみんなに広まっていると思う」と高橋健生徒会長。「人数が多いために学年間のつながりがあまりなかったが、この活動が新しいつながりを作っている」とも。

身近な体験が重要

 大曲中のケースは平均的な取り組みの域を出ていないが、高階教諭は「酸性雨やオゾン層の破壊など大きな問題だけを論じるだけでは、環境の大切さを生徒に伝えることは難しい」と前置きした上で、身近な環境や体験を通して、感じることの重要性を挙げた。

 キーワードは「無理のない環境教育」。「教科でも角度を少し変えれば環境教育になる。いかに意識を持つことが大事であり、肩ひじを張らない、無理のない取り組みでも環境の心は養われていく」と渡辺義実教頭。大曲中では「生徒が自分たちに何ができるかを考えること」こそ大切だととらえている。

(写真説明)上は大半の教室に草花の鉢植えがある。下は水槽で熱帯魚や金魚を飼育しているクラスも=大曲中

(9月7日付夕刊)


川で昆虫探しに挑戦
八塩小
自然の大切さを体感

 「あ、いたいた」「こんなにいっぱいつかまえたよ」―毎年夏になると東由利町田代の石沢川に小学生の元気な声が響き渡る。ひざまで水に浸かりながら、川底の石をひっくり返す子どもたちのお目当ては、清流に生きるカゲロウやカワゲラなどの水生昆虫。ビニール袋片手に浅瀬を探る子どもたちの顔は、実に楽しそうだ。

年1回「水辺の教室」

 東由利町館合地区にある八塩小学校(大久保敬一校長、児童百五人)の「水辺の教室」は今年で三回目を迎えた。町が平成七、八年度に文部省の環境教育研究の地域指定を受け、同小でも七年度から本格的に環境教育に取り組み始めた。「水辺の教室」はその一環として、四年から六年の児童を対象に八年度にスタートした。大久保校長は「地域の自然に触れ、環境への意識を育てるためのもの。子どもたちも年一回のこの日を楽しみにしている」と語る。

 今回は夏休み前の七月十四日に行われた。講師を務めるのは県水産振興センター環境部主任の水谷寿さんと、町教育委員長の小松順之助さん。初回からの同じ顔ぶれで、五、六年生にはおなじみの「先生」だ。

 学校から四キロほど離れた沖田橋付近の石沢川が「教室」となる。六十人の児童は喜々として、川の中に足を踏み入れ、昆虫探しに挑戦した。「先生、これ何ていう虫ですか?」「わたしのも見てください」。水谷さんと小松さんは、子どもたちの質問責めに大忙し。

 六年生の男子は「今年はヘビトンボの数が少ないし、小さい」ことに気づいた。アユのコケの食(は)み跡を見ることができたし、ナマズの一種でなかなか見ることができないアカザもつかまえることができた。収穫はたくさんあった。最後に虫を川に返した後、長谷山俊幸君(六年)は「川の中に入るのは気持ちいいし、虫や魚を探すのは楽しい」、小野桃枝さん(四年)は「すごい虫がいっぱいいて、びっくりした」と声を弾ませた。

 講師の水谷さんは「楽しそうなのが一番うれしい。川に入って遊ぶことが楽しいんだということが分かってくれればいい」と話し、小松さんは「将来、川を守る後継者を育てる意味もある。年一回でも現実を体感することで自然の大切さを知ってほしい」と期待する。

心の教育を継続へ

 研究指定期間の二年間に比べれば、同小の環境教育の実践は縮小しているが、「水辺の教室」は継続していく方針だ。「年に一回の試みだが、心の教育には最高の道具であり、なくすことはできない。体験を通して、環境や自然、自分たちの身の回りのことに目の行く子どもに育ってほしい」と大久保校長。「水辺の教室」は、八塩小にとって、大切な”財産”となっている。

(写真説明)毎夏の恒例行事となった八塩小の「水辺の教室」。水生昆虫を探す子どもたちの表情には、発見の喜びがあふれている=東由利町田代の石沢川

(9月14日付夕刊)


洗濯水の行方を学習
稲庭小
排水への関心高まる

 カセイソーダ(水酸化ナトリウム)と水と使用済みの食用油。これを混ぜ合わせて攪拌(かくはん)し、一定期間、乾燥させると「廃油せっけん」が出来上がる。

廃油せっけんを作る

 稲川町の稲庭小学校(伊藤守校長、児童百三十五人)の六年生二十八人は夏休み前に廃油せっけん作りに取り組んだ。授業は家庭科の「洗濯と後片付け」を学ぶ単元の一時間。この日は校庭が教室となった。両手に軍手をはめ、廃油せっけん作りに挑戦する子どもたちにその作業の意味を尋ねてみると、「洗剤よりも環境に優しいから」「リサイクル」「生活排水を少なくするため」などの明快な答えが返ってきた。

 稲庭小は本年度から「環境教育」を学校の研究課題に位置付けた。研究指定という受動的な動機によるものではなく、学校独自の主体的な取り組みとして、三年計画の環境教育をスタートした。伊藤校長は「使い捨ての時代は終わった。子どもたちには、自分たちさえ良ければいいというのではなくて、自然に配慮する気持ちを持ってもらいたい」と狙いを語る。

 研究主任の小川好信教諭は「年間指導計画は本年度一年間かけて作成する予定。同じ授業でも子どもの目線を変えてやるだけで意識づけができる。できることからやっていきたい」と無理のない指導を強調する。

水の大切さを知る

 一学期に取り組み始めたのは、四年生と六年生のクラス。四年生は理科の授業で、樹木や草花、その周辺で見られる昆虫を継続的に観察した。

 六年生は廃油せっけん作りを体験する前に、捨てられた洗濯水の行き先などについて学習した。すぐに子どもたちに変化が表れた。それまでは、昼食後の歯みがきで水を出しっぱなしにしていた子どもたちが、水を大切にするようになり、せっけんも必要以上に使わなくなったという。

 廃油せっけん作りには、六年の担任の佐々木直美教諭の呼び掛けで、四人の母親も”飛び入り”参加した。そのうちの一人、佐藤さなえさんは「コメのとぎ汁を捨てて娘に注意され、ためるようになった。ほかにもいろいろ指摘されることが多く、反省させられる」と苦笑した。

 佐々木教諭は、子どもたちが五年生の時の調理実習で、洗剤や水を大量に使って食器を洗う姿を目にしたことがあった。しかし、今やもうそのイメージはなく、「子どもたちが少しずつ変わってきているな」と感じている。稲庭小の「環境教育」は緒に就いたばかりだが、子どもたちの環境意識は着実に膨らみ始めている。

(写真説明)「洗剤より環境に優しいから」−廃油せっけん作りに取り組む稲庭小の6年生たち=稲川町の稲庭小

(9月21日付夕刊)


大木の根っこが教材
豊岩中
地域の自然を見直す

 夏休み前のある日、秋田市の豊岩中(藤本豊隆校長、生徒七十二人)の玄関前に目を見張るほど大きな杉の根っこがお目見えした。土地改良工事が行われていた学校近くの田んぼから掘り出された埋もれ木で、一番太い所の周りは五メートルほどもあった。藤本校長が譲り受け、地域の人たちに学校まで運び込んでもらったものだが、女子バレーボール部の二年生五人組は「初めて見た時、何のために置いたんだろうと不思議に思った」と口をそろえた。

 杉の根っこの狙いは「学習の題材にすること」だった。藤本校長は「恐らく地中でずっと眠っていたもの。環境を含めた豊岩の地域全体に触れることができる題材になり得ると思った」と説明する。五人組の一人、高橋夏美さんは「こんな大きな木が出てくるということは、昔から豊岩は自然が豊かだったんだろうと感じた」と言う。

全校から題名募集

 学校ではすぐに、この杉の根っこを作品(オブジェ)に見立てた題名を全校生徒から募集した。「自然いっぱいの豊岩」「過去からの贈り物」「目覚めた木」「象の休日」「豊岩を知る巨木」―など、想像力豊かな子どもならではの題名が数多く寄せられた。「森の神様」という題名で応募した池田舞子さん(二年)は「自然を守ってくれている神様かなと感じたから」と命名理由を説明した。

 豊岩中では平成七年度、秋田市教委の指定を受けて、一年間にわたって本格的な「環境教育」に取り組んだ。リサイクル運動、グリーンマーク回収、地域清掃といった”定番”の活動はもとより、地域の自然をフィールドにした学習も取り入れた。

 例えば、理科では裏山で四季の草花や落ち葉の変化、微小な生物を観察をしたり、周辺の田んぼの用水路でメダカなどを採取したりした。「地域には多様な生態系があり、目の前にいい素材がたくさんある」と佐々木康二教務主任。七年度の取り組みすべてを継続しているわけではないが、「地道な活動は続いており、生徒にも意識として根付いている」とも。

 藤本校長は「これからは人間環境の教育を」と強調する。「環境教育は道徳につながり、人と人との和が環境問題を考えていく上での基本となる」との考えから、隣接する豊岩小学校の児童や、地域の大人との触れ合いに力を入れ始めた。特に生徒が地域社会で活動する人、働く人たちと手紙をやり取りする交流は、校内外で反響を呼んでいる。

ビッグフットに決定

 杉の根っこの題名は「ビッグフット―過去からのメッセージ」に決まり、先月二十日の文化祭で全校生徒に発表された。「大きな足跡など、いろんな意味を持っている名前。生徒たちには環境や地域のことを考える上での象徴的な素材として胸に入れておいてもらいたい」と藤本校長は語る。人間環境の教育を目指す豊岩中にとって「ビッグフット」は、そのサイズ同様、大きな土台となるはずだ。

(写真説明)環境を含めた地域について学ぶ題材として、玄関前に置かれている杉の根っこ=秋田市の豊岩中

(10月5日付夕刊)


「白神」の偉大さ実感
藤里の3小学校
学校の枠超え自然体験

 険しい砂利の山道をバスで走ること約三十分。急斜面の小道を五分ほど下りていくと、ブナ林の先から水が流れ落ちる大きな音が聞こえてきた。ここは、藤里町の白神山地内の太良峡谷近くにある「一通(いっとおり)の滝」。前日までの雨が影響して水量がかなり増していた。「すごい水しぶきだ」「水がきれい」―渓流にひざまでつかりながら、目的の滝にたどりついた子どもたちから、歓声が上がった。

 夏休み明けの八月三十一日。藤里町では、町内の三つの小学校の四年生を対象にした恒例の滝見学が行われた。今年は、藤里小から三十五人、米田小から五人、坊中小から二人の計四十二人の児童が参加し、町内に点在する五つの滝を見て回った。地元とはいえ、あまり目にする機会のない滝もいくつかあった。藤里小の菊地悠希さんは「こんなにたくさんの滝を見たのは初めて」、米田小の加藤祐也君は「初めて行った所ばかりで、水もきれいだった」と声を弾ませた。

三つの小テーマ設定

 藤里町では平成五年度から「白神山地とともに生きる藤里の子供」をテーマに、町を挙げて「ふるさと教育」を推進している。世界遺産に登録されている白神山地について学ぶことを柱とし、「豊かな森(自然・自然保護)」「うるおいの水(環境保全)」「人々のくらし(福祉・文化)」の三つの小テーマを設定している。「環境教育」という看板こそ掲げていないものの、そのカラーが前面に出た取り組みだ。

 中でも年一回、三小学校の三年生以上の児童が学校の枠を超え、学年ごとに共通の体験を通して学ぶ「総合共通体験学習」は目玉事業となっている。四年生の「滝見学」のほか、三年生が「特産品の見学」、五年生が「森林教室」、六年生は「小岳登山」を一緒に体験する。

 「六年生ぐらいになると、白神の自然と自分たちの生活とを結びつけて考えられるようになる。小岳登山では、植物や生物など各自が事前に学習テーマを設定するが、みんな自分なりの白神をイメージして臨んでいる」。藤里小の研究主任を務める武田真紀夫教諭は、体験学習の意義をこう説明する。

官学一体で学習推進

 藤里町の「ふるさと教育」の特徴は、行政と学校が一体となって取り組んでいる点だ。町では「ふるさと教育」事業を予算化し、総合共通体験学習のほか、中学校を含めた各学校単位の活動にも費用を拠出している。「ふるさと教育重視は町の方針。地元の人たちも理解があって、森林教室の講師や登山のガイドを務めてくれる。世界遺産登録によって、町全体の環境意識も高まっている」と町教委の担当者は語る。

 「藤里の子どもたちは、生きた教材の中で育っているようなもの」(武田教諭)。平成五年度から二年間、県の「ふるさと教育推進モデル市町村」の指定を受けたことがきっかけで始まった藤里町のふるさと教育だが、その後もトーンダウンすることなく続いている理由のすべては「白神」の存在だ。滝見学に参加した坊中小の石田和樹君と米田小の斉藤勝君は「藤里の自然、白神の自然はすごいんだ」と声をそろえて胸を張った。

(写真説明)藤里町内の小学4年生を対象に行われた「滝見学」。共通体験を通して白神山地の自然などについて学んだ=藤里町・太良峡谷近くの一通の滝

(10月19日付夕刊)


サンショウウオを研究
塙川小
自然の大切さを実感

 峰浜村の塙川小学校(原田ヒロ校長、児童百二十人)の五年生二十七人は昨年から二年越しで、ある研究に取り組んでいる。遊ぶ時間を削ってまで子どもたちが熱中しているのは、地域に生息するサンショウウオについての研究。今やみんながみんな「サンショウウオ博士」だ。

 子どもたちとサンショウウオとの出合いは昨年四月、四年生になってすぐのころだった。地元新聞に載った正体不明の卵の特定を依頼された教務主任の秋元裕子教諭がその実物を持ってきて、児童にクロサンショウウオの卵だと教えると、子どもたちから「卵を育ててサンショウウオについて調べてみたい」という声が一斉に上がった。

 サンショウウオはヤモリに似た両生動物で日本全域に分布しているが、生態はまだよく分かっていない。渓流やわき水がある湿った森の中をすみかとし、きれいな自然環境を示す指標生物でもある。以前、サンショウウオの飼育、観察をしたことがあった秋元教諭は、研究を始めるに当たり、児童自身が計画を立て、足を使って調べることを原則とした。「子どもたちは、きれいな環境だからサンショウウオがいることが分かっていなかった。自分たちが地域の自然を守らなきゃいけないという心構えを身に着けさせたいと感じた」のがその理由だ。 

班を編成して活動

 研究がスタートしたその日のうちに、児童が同じ種類の卵を発見し、身の回りにも生息していることが分かった。早速、役割に応じて「そっくりスケッチ隊」「共食い観察隊」「長生きお世話隊」「サンショウウオ情報集め隊」「サンショウウオ探し隊」「生息地調査隊」の六班をつくり、三―五人のグループを編成し本格的な活動が始まった。

 活動するのは授業の合間の休み時間や放課後、それに休日。それまでの遊びの時間が研究の時間に変わった。「遊びたいという気持ちはあったけど、世話をするのが楽しくなった」と今井理愛さん。本多庸介君は北海道に行った際、エゾサンショウウオを捕まえて持ち帰り、佐々木祐実さんは夏休み中、気温が三七度まで上昇した日にサンショウウオが心配で学校に様子を見にやって来た。クラスの関心はサンショウウオ一色になった。

 サンショウウオに関する知識は日に日に増えていった。山沿いの百八十三戸の民家を対象に行ったアンケートでは、ほとんどの人がサンショウウオの存在を知らないことが分かった。さらにそれがきっかけで地域の情報も集まるようになり、隣の八森町を含め、十カ所の生息地を確認。クロ、トウホク、ハコネの三種類が生息していることも突き止めた。

自然環境にも関心

 飼育の方でも卵をふ化させ、成体に育てることに成功した。初めはショックを受けた共食いの習性も、今では自然界の法則と理解できている。「森に空き缶を捨てたりする人がいて、サンショウウオの住む場所がなくなってきている。自然を大事にしなくては」(金平麻美さん)、「私たちが大人になってもサンショウウオが生きていけるために、もっと環境を大切にしたい」(八代あゆ子さん)。研究をきっかけに、児童の目が自然環境へと向くようにもなった。

 昨年の取り組みは斎藤憲三顕彰会の銅賞に選ばれ、村の峰っ子農学士「自然観察賞」も受賞した。「育て上げることができればいいと思っていたが、子どもたちの意欲はどんどん広がっていった。私は研究の方向付けをするだけで、共同研究者の一員。子どもたちのお陰で貴重な情報もたくさん得られた」。秋元教諭は、取り組みの予想外の広がりと収穫に驚いている。

 五年生になった今年も研究は続いている。スポ少の活動で時間的な制約はあるが、「まだ調べていない沼地がある」「卵を産んだ親は死ぬのか」「種類の違いをもっと知りたい」―など興味は尽きない。「子どもたちはサンショウウオを通して、地域の良さを自覚し、誇りを感じ始めている」と秋元教諭。二十七人にとって、「サンショウウオ」は「ふるさと」の代名詞になっている。

(写真説明)飼育しているサンショウウオを観察する子どもたち。左は秋元教諭=峰浜村の塙川小学校

(10月26日付夕刊)


地域の酸性雨を調査
高校の化学部
部員に充実感と喜び

 大館鳳鳴高の化学部では、特に活動日を決めていないが、雨の日に限っては必ず活動がある。学校の中庭で取水した雨の成分分析を行う酸性雨調査のためだ。「大館市の降水化学成分」と題したこの研究は、部員の提案により平成五年に始まり、以来、部全体の研究テーマと位置付けて、通年観測を続けている。

 調べるのはph(水素イオン濃度)、導電率、総酸量、硫酸イオン、硝酸イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオンの八項目。現在は二年生の三人が分析を担当している。年に一度、研究成果をリポートにまとめているが、野村正幸顧問は「自分たちで文章を書いたり、数字をグラフ化したり、予想以上によくやっている」と評価。前の担当者の一人、吹谷創君(三年)は「途中では全体のイメージがつかめないが、データをまとめた時に充実感を感じる」と研究の面白みを語る。

新聞記事に目が向く

 六年目を迎えたこの研究は、部員の環境意識にも影響を与えている。辻正博部長(二年)は「環境問題に関する記事に自然と目が向くようになった」、佐藤隆志前部長(三年)は「半ば強制的な調査だったが、やった後に酸性雨問題に興味を持てるようになった」と口々に話した。

 「ふるさと教育」を基盤とした多様な環境教育の実践がなされている小・中学校とは対照的に、高校の教育現場における取り組みは、通常の授業の域を出ないのが実情だ。小・中学校に比べて自由に使える時間が少ないことや、現場の教師に環境教育を念頭に置いて他教科との関連づけを図る時間的余裕がないことなどが、その理由とみられる。そんな中で、環境学習を体験できる場となっているのが化学部である。県内の高校の化(科)学部で、環境に関する研究に取り組んでいるところは少なくない。

 本荘高化学部も酸性雨調査を始めて三年目に入った。研究テーマは「本荘由利地区の大気中の二酸化窒素と酸性雨について」。本荘市内の四カ所に観測地点を設置、交通量の多い地点と少ない地点での降水成分の比較に主眼を置いて研究している。作業は四人の一、二年生部員で分担して行っているが、「発見の喜びがあって面白い」と岡田和紀君(二年)。菅原修平君(同)は「酸性雨を調べ始めてから、自分なりに環境問題について考えるようになった」と言う。

 もともとは伊藤広美顧問が二年半前まで勤務していた由利高化学部で行っていた研究だ。伊藤顧問は由利高に赴任した平成三年から、化学部で環境に関する研究に取り組んだ。「化学室の蛇口から赤水が出てきたのがきっかけで、貯水池の水や子吉川の水質調査を始めたら、部員たちが興味を持ってくれた。酸性雨調査も反応がよかったので本荘高でもやらせてみたいと思った」

授業にも取り入れる

 伊藤顧問は部活動だけでなく、化学の授業にも酸性雨調査を取り入れている。生徒に自宅から持参させた雨水の成分を分析させるものだが、これも由利高時代に実践していたことだ。

 「最初は環境教育という意識はなかったが、生徒と一緒にやっていく中から自分自身が環境の大切さを考えるようになった。体験によって、生徒に環境問題や自分の地域というものを見つめる意識が身に着くと考えた」と伊藤顧問。「わたしのやっていることはすぐにできる内容。他校でもぜひやってほしいし、学校の先生たちにも伝えていきたい」と輪の広がりを願っている。

(写真説明)上は平成5年から酸性雨調査に取り組んでいる大館鳳鳴高化学部。下は本荘高化学部の「本荘由利地区の大気中の二酸化窒素と酸性雨について」をテーマにした研究は3年目に入った

(11月9日付夕刊)


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