生物の教材紹介

ヤヌスグリーンによるミトコンドリアの観察

 ミトコンドリアの語源は,糸を意味するmitと粒を意味するchondrionの合成語である。教科書などの細胞の構造によると,ミトコンドリアは,光学顕微鏡で観察できるオルガネラ(細胞小器官)として紹介されている。しかし,生徒は,教科書や各種資料に掲載された細胞の模式図のイメージにより,かなり大きな楕円体と認識している可能性がある。そこで,実際に観察する機会があると,理解が深まると思われる。
 ミコンドリアの光学顕微鏡による観察法としては,一部の高等学校の教科書にTTC試薬(トリフェニルテトラゾリウムクロライド)による染色法が紹介されているが,古くからヤヌスグリーンによる染色法が知られている。この方法は,ドイツのミカエリスが1900年に考案した。ヤヌスグリーンは,細胞膜を通過して細胞内の構造物を染色することができる。このような染色法は「超生体染色」supravital staining と呼ばれる。
 ヤヌスグリーンによる染色は,TTC試薬による染色よりやや不鮮明だが,非常に簡便な方法である。

(1) 準備

① 材料
  ヒト口腔上皮細胞(ほおの内側の粘膜細胞),オオカナダモの葉,またはタマネギ鱗片葉の表皮
  *オオカナダモの場合,葉緑体との比較ができる。

② 器具
  観察用:検鏡用具一式,つま楊枝,カミソリの刃,点眼瓶またはポリスポイト
  試薬調整用:天秤,メスシリンダー,ビーカー,メスフラスコ,駒込ピペット,ガラス棒,薬さじ

③ 試薬
  ヤヌスグリーンB(C30H31N6Cl),塩化ナトリウム(NaCl),スクロース(C12H22O11)

  ◆染色液の調整◆
   ・ヤヌスグリーンB 0.1gを10mLの水に溶かし,1%水溶液を調整する。これを原液とする。
    *後に希釈するので少量あれば良い。

A:口腔上皮用
  ① 生理食塩水(0.9%食塩水)を100mL調整する。
  ② ヤヌスグリーンBの原液(1%水溶液)1mLを,駒込ピペットで生理食塩水100mLに加えて良く撹拌する。
   *ヤヌスグリーンは,塩類溶液に溶けにくいので,水に溶かして1%の原液を作っておく。
   *0.9%食塩水にヤヌスグリーンB原液を加える操作は,使用時に行う。
  ③ 染色液を点眼瓶に入れる。または,小型のビーカーなどに入れ,ポリスポイトで滴下して使用する。

B:オオカナダモ,タマネギ用
  ① 0.3mol/L(約10.3%)のスクロース水溶液を100mL調整する。
  ② ヤヌスグリーンBの原液(1%水溶液)1mLを,駒込ピペットでス0.3mol/Lクロース水溶液100mLに加える。
  ③ 染色液を点眼瓶に入れる。または,小型のビーカーなどに入れ,ポリスポイトで滴下して使用する。

(2) 方法

① つま楊枝の頭の丸い部分で,ほおの内側から,口腔内粘膜を軽くこすり取りスライドグラスに付着させる。

② ①の試料が乾燥しないうちに,ヤヌスグリーン染色液(A)を滴下する。

③ オオカナダモの葉を1枚取り,スライドガラスに載せる。
   または,タマネギの鱗片葉の場合,カミソリの刃で表皮を切り取り,スライドガラスに載せる。

④ ③の試料にヤヌスグリーン染色液(B)を滴下する。

⑤ ②,④を10~15分間放置する。

⑥ ⑤それぞれにカバーグラスをのせた後,400倍以上で検鏡する。
  *口腔内上皮の場合,しばしば口内の細菌類が観察される。
   その場合,ピント調節を丁寧に行い,細胞の外側にあることを見極める。
  *タマネギの場合は,600倍以上で観察した方が良い。
 
ヤヌスグリーンで染色したヒト口腔上皮細胞
 
〇印内は,口内の細菌類
(ピントの位置から細胞の上にあることがわかる)
 
ヤヌスグリーンで染色したオオカナダモの葉
 
ヤヌスグリーンで染色したタマネギ鱗片用表皮細胞
 
《参考》TTC試薬で染色したオオカナダモの葉
 
《参考》TTC試薬で染色したタマネギ鱗片用表皮細胞



 岩手県立総合教育センター理科教育担当 2016